『友達100人できるかな』とよ田みのる先生の場合。【ブロスコミックアワードのその後、どんな感じ?インタビュー】

10月の間、「マンガ」をテーマにお届けするTV Bros.WEBの「マンガ大特集」。本日は漫画家・とよ田みのる先生のインタビューを公開!


 テレビブロスが年に一回、(その年に新刊が出た作品の中から)一番心にきたマンガ作品を選ぶ「ブロスコミックアワード」。2008年から始まったこのマンガ賞の歴代受賞者9名に改めて受賞当時の心境とその後を探るインタビュー企画「ブロスコミックアワードのその後、どんな感じ?」。

   

 今企画の第3弾にご登場いただくのは『友達100人できるかな』(講談社)で2010年に本賞を受賞していただいたとよ田みのる先生。受賞当時の心境や「このマンガがすごい!2019」オトコ編第二位にランクインし大ブレイクした『金剛寺さんは面倒臭い』のエピソード、来月11月12日に発売される「ゲッサン」で連載がスタートする最新作『これ描いて死ね』のおはなしまで、11年間を振り返っていただきました!

               

取材・文/TV Bros.編集部

【プロフィール】
とよ田みのる(とよだ みのる)
●2002年に『月刊アフタヌーン』(講談社)掲載の「ラブロマ」でデビュー。翌2003年に同誌で連載化した同作で連載デビューし、代表作となった。『ゲッサン』(小学館)誌上において連載されていた『金剛寺さんは面倒臭い』が「このマンガがすごい!2019」オトコ編第二位にランクインし、大ヒットした。

                               

友達100人できるかな』(C)とよ田みのる

友達100人できるかな
36歳の教師・直行の前に、ある日突然宇宙人が現れた。地球を侵略しに来たという彼らは、地球滅亡を防ぐには直行が人間が持つとされている「愛」の存在を立証しなければならない、と言う。宇宙人に指定された愛の立証方法とは、直行が子どものころ育った1980年代にタイムスリップし、友達を100人作ることだった…。

 

ブロスコミックアワードとは…2008年からスタートしたマンガ好きのテレビブロス関係者50人が選ぶマンガ賞。
●歴代受賞作
2008年:日本橋ヨヲコ『少女ファイト』
2009年:岩本ナオ『町でうわさの天狗の子』
2010年:とよ田みのる『友達100人できるかな』
2011年:日下直子『大正ガールズエクスプレス』
2012年:押切蓮介『ハイスコアガール』
2013年:びっけ『王国の子』
2014年:小池ノクト『蜜の島』
2015年:山本さほ『岡崎に捧ぐ』
2016年:オジロマコト『猫のお寺の知恩さん』
2017年:大童澄瞳『映像研には手を出すな!』
2018年:鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』
2019年:和山やま『夢中さ、きみに。』
2020年:平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』

                       

「子どもが産まれてきてくれたことは自分の中でとても大きいです」


──とよ田先生が『友達100人できるかな』でブロスコミックアワードを受賞していただいたのが2010年です。11年前の当時の心境を振り返っていただいてみて、いかがでしょうか?

とよ田 当時のインタビューで言えなかったんですけど、「ブロスコミックアワード大賞です!」と言われたあの時点で、あの作品は打ち切りが決まってたんですよ。だからあの時のインタビュー、本当にしんどくて(笑)。

──5巻のあとがきで「〜と思う所もありますが…」と書いていらしたので、納得されていないラストだったと思っていたのですが、あの時点で決まっていたんですね…。申し訳ありませんでした…! 

とよ田 でも打ち切りが決まって自信をなくしていたので、嬉しかったですよ。どこかで認めてくれる人はいるんだなって思いました。

あの作品は、本当に急な打ち切りで「あと1話で終わって」と言われたんです。「嘘!?  そんな急に言われてもあと友達68人作らなきゃいけないんだけど!」みたいな(笑)。さすがに1話で完結させるのは無理だから、残り2話にしてもらったんです。読後感を多少よくするために最終回はゆっくりしたものにして、その一つ前の話で残りの68人の友達作りを詰め込んで。「残りの68人を友達作らないと(宇宙人の道明寺さんは)死刑!」という物語の切羽詰まった感じは、急に打ち切りを宣告された自分の心境そのもの。僕は自分の心境をマンガに反映することはよくあるんですけど、あれはまさに最たる例でした(笑)。

   

受賞は2010年10月13日号で発表された。

──そんな経緯があったんですね。その数年後、2017年に「ゲッサン」で連載スタートした『金剛寺さんは面倒臭い』が「このマンガがすごい!2019」でオトコ編2位にランクインするなど、大ブレイクしましたよね。

とよ田 その『金剛寺さん』の前に始める予定だった連載があったんですけど、半年間しっかり準備して予告カットまで描いたんですけど、僕が「これはダメだな」と思っちゃって、ポシャっちゃったんですよね。自分が描きたいテーマではなくて、それを連載していくと自分が潰れそうな気がして「申し訳ありません、この連載やめさせてください」と自分から言ったんです。

その時に「もう漫画家やめるしかねぇかな」と思って、本当に、ほんっとうに死にそうになったんです。だからそんな気持ちで、もう最後に描きたいこと描こうと思って生まれたのが『金剛寺さん』で。あれで息吹きかえしたかなって感じで本当によかったです。

 

金剛寺さんは面倒臭い』全7巻発売中 ゲッサン
(C)とよ田みのる/小学館

──とよ田先生は小さい頃からマンガを読むのがお好きで、「マンガ家になろう」という想いではなく、「納得のできる1本を描こう」と思って25歳のころにマンガを描き始めたと11年前のインタビューで、おっしゃっていました。今のエピソードを聞くと、今でも「描きたいものを描いていく」というスタンスにお変わりないですか?

とよ田 そのポシャった連載の反動で『金剛寺さん』では好きな作品を描こうと思ったんですけど、ゲッサンの担当編集の板谷さんが何を描いてもOKを出すんですよ。マンガの中では悪ノリでも何でも許してくれて、それが世間に評価されたから僕の中でなんとなく憑き物が落ちたような感覚があって。だからこれからは我を通すだけではなく、今は読者に寄り添って、読者が喜ぶものも描いていきたい気持ちがありますね。

──この11年間で、印象的な出来事はどんなことでしょうか。

とよ田 漫画家としては、やっぱり『金剛寺さん』ですが、個人的な出来事は、やっぱり出産ですね。娘が産まれてきてくれたことは自分の中でとても大きいです。自分の作品の中にも、赤ちゃんが度々出てくるようにしました。

──とよ田先生のお部屋には大量のマンガがあるので、とても素晴らしい家庭環境だと思うのですが、娘さんもやはりマンガがお好きですか?

とよ田 最近、本当に拍車がかかってますね。まだ小学校低学年なんですけど、色んなマンガを読み始めるようになって…。最近では藤田和日郎先生の『双亡亭壊すべし』を読み終わって、『うしおととら』を読み始めました。そうそう、嬉しかったのが、僕が描いた育児マンガ(『最近の赤さん』)を娘が読んでゲラゲラ笑うんですよ。そんなに笑ってくれるなら描いてよかったなって思いましたね。

──娘さんとしては、家に大量のマンガがあって、父親であるとよ田先生が漫画家として世間で評価されていることから、将来の職業としてマンガ業界に興味をお持ちでは?

とよ田 そうなんですよね…。娘が飾った七夕の短冊に「将来の夢は漫画家」って書いているのを見つけて「やめろよ…」なんて思ってしまって。僕としては、マンガ家って本当に大変な仕事だからあんまりこっちにきてほしくないんですよね。僕は漫画家生活で死にそうにもなってるから。マンガに興味を持ってくれるのはすごく嬉しいけど、もっと普通に幸せになってほしい想いがあるので複雑ですね(笑)。

『最近の赤さん』

                      

                                                    

「今では描くだけなら10年後もなんとかいけるんじゃないかなって思えるんですよね」


──今、お気に入りのエンタメコンテンツはありますか?

とよ田 それはやっぱりマンガですよね。僕がマンガを描き始めたのは漫画家としては比較的遅い25歳ごろで、それまでずっと読んでるだけのマンガオタクで。今でも僕の感覚としては、マンガ家の自分よりも、マンガオタクの自分が本体だと思っていますから。

──最近では、どんな作品がおもしろかったですか?

とよ田 たくさんあるけど『ショートショートショートさん』の3巻が凄くよかったですね。仕事しながら趣味で小説を書いている女の子の話なんですけど、自分の小説をコミケに出す回がすごくリアルで、胸にキュンときちゃって。創作にまつわる話を僕もこれから描くので、刺激を受けました。

あと西森博之先生の新作『カナカナ』もすごくよかったですね。「西森先生、未だに面白いんですか…!」という恐怖すら感じます。あと僕は昔から藤田先生が大好きで世代的に『うしおととら』が大好きなんですけど、先日完結した『双亡亭壊すべし』も本当に素晴らしかったですね。あの作品、25巻通してワンエピソードを描いているんですよ! なんでそんな話を生み出せるのか…どうかしてますよ(笑)! まだこんなにパワフルなマンガを生み出すことができるなんて考えられないです。

──「ゲッサン」と「少年サンデー」の繋がりから、藤田先生との交流はあるんですか?

とよ田 ありますよ。藤田先生の娘さんが僕の作品がお好きでいらっしゃったことから、藤田先生も僕の作品を「読んだよ!」とお声がけいただくことがあって。そうそう、この前すごくびっくりしたのがコミティアで「とよ田くん」と後ろから声をかけられて振り返ったら藤田先生で! 「なんで殿様が市井に!?」って驚いて(笑)。

──それは驚きますね(笑)。サンデーでは今だにレジェンド漫画家が現役で面白い作品を描き続けていらっしゃいますね。とよ田先生は少年サンデーの作品も昔からよくお読みになられていたんですか?

とよ田 そうですね。僕はサンデーっ子で、初投稿したのもサンデーでした。僕にとって最高峰の藤子・F・不二雄先生がいて、その次に君臨するBIG3が藤田先生、西森先生、皆川亮二先生です。

昔から本当にマンガが大好きな僕にとって漫画家の方々は神様だったから、小学館の謝恩会なんかに行くと神様ばかりで「お、俺はなんて場所にいるんだ…!」なんて思うんです(笑)。忘年会で藤子不二雄Ⓐ先生と会えた時なんかすごく嬉しくて、握手させていただいた瞬間に「俺の人生第一部、完!」みたいな感じ(笑)。

                          

【とよ田みのる先生からのお知らせ】

『これ描いて死ね』 ゲッサン
(C)とよ田みのる/小学館

2021年11月12日発売のゲッサン12月号より新連載『これ描いて死ね』が掲載されます!
簡単に言えば、島にある学校の漫研で漫画を描く女の子たちのお話です。『ゆるキャン』を読んでて、女の子しか出てこない部活ものを描きたいと思っていたんですけど、ある時、ゲッサン編集長・星野さんから出身地を聞かれて。「伊豆大島です」と答えたら、「じゃあ物語の舞台は島にしたら面白いんじゃないですか?」ということになって。全然そんなこと考えていなかったんですけど、それを組み合わせてみたら、ちょっと面白いことになりました。僕が住んでたのは3歳までなんですけど、家がそこに残っているので中学生のころまで、毎年帰っていたので島の風景は馴染み深くて。『ラブロマ』や『友達100人できるかな』でも島が出てくることはあったんですけど、本格的に作品の舞台になるのは今作が初なのでそこもお楽しみに!

──このインタビュー企画ではブロスコミックアワード受賞時から現在までの年月を象徴するキーアイテムをご紹介してもらい、そのお写真を掲載させていただいておりまして。とよ田先生にとって、この11年間を象徴するキーアイテムはありますか?

とよ田 アイテムではないけど、やっぱり娘かな…。

──娘さんは我々も掲載しづらい部分もあるので、例えば仕事におけるキーアイテムですといかがでしょうか?

とよ田 仕事面では、液タブの導入は僕の漫画家活動をすごく変えてくれましたね。それに腰痛が酷かったから、初めてハーマンミラーのアーロンチェアを買ったんですけど、これに変えただけで腰痛がなくなりました。あとは、漫画家の方々からいただいたこのサインはどうですか?

    

左からモリタイシ先生、せきやてつじ先生、西森博之先生

左上二点:河合克敏先生/右上:片山ユキヲ先生
中央:藤田和日郎先生三点、西森博之先生二点
下段:福地翼先生三点、桜井亜都先生一点

──圧巻ですね…!西森先生の『お茶にごす。』や『柊様は自分を探している。』のイラストが羨ましいです。

とよ田 西森先生はたまに飲み会に誘ってくれるんですけど、僕がまず最初に色紙を送らせていただいたんです。そしたら西森先生もお返しにイラストをお贈りいただいたんです。「こっちが一方的に送ったのに、なんて律儀な人なんだ」と感激しましたね。

──藤田先生からはイラストだけでなく、直筆メッセージもありますね。

とよ田 藤田先生もちょっとおかしくて(笑)。僕が藤田先生のファンアートを描いたら、藤田先生も僕の作品のファンアートを描いて送ってくださったんです。

すごく嬉しかったので、もう一回違うイラストを送ったら、また藤田先生からお返しにイラストが送られてきて(笑)。僕としては「殿様がそんなことをしちゃダメじゃないですか!」という気持ちなんですけど、藤田先生はマンガで殴られたらマンガで殴り返すような人なんですよね(笑)。

──最後の質問になりますが、ブロスコミックアワードを受賞していただいたのが11年前です。今からまた11年後はどんな未来になっているか、具体的なイメージはありますか?

とよ田 マンガを描いていたいとしか(笑)。でも11年前には10年後もマンガを描き続けているなんて想像もできなかったけど、今では描くだけなら10年後もなんとかいけるんじゃないかなって思えるんですよね。25歳からマンガを描き始めて30歳ぐらいにデビューして、50歳になった今でも描き続けているけど、漫画家になって一番嬉しかったのは漫画家の方々に会えることですよね。

根がマンガオタクだから、僕にとって大好きな作品を作ってくれた神様たちに会えるというのは未だにワクワクするし幸せです(笑)。

 


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