細野晴臣&星野源 連載『地平線の相談』「どれだけ抵抗を試みようと両親の影響からは逃れられない!」(TV Bros.2024年12月号より再掲)

※この記事はTV Bros.2024年12月号龍が如く特集号で掲載されたものです。本稿をもって本誌での連載は最終回となります。

構成:文化デリック(川勝正幸+下井草秀)
イラスト:大原大次郎
編集:土館弘英

【最終回にあたって】
TVが元気だったころ、番組情報誌は必需品でした。そんな頃に出たTV Bros.は普通の情報誌ではなく、カルチャー感満載の面白い雑誌で、ファンになりました。その後、星野源くんと対談シリーズが連載され、最後まで続いたのは嬉しいことです。その面白い雑誌がついに終わるのか・・。時代が変わったことを実感します。今まで楽しませてくれてありがとう。是非また違う形で始めてください。
                                                        ーー細野晴臣
細野さんとの連載が始まった20年ほど前、TV Bros.に連載を持つということは、特殊なステータスだったように思います。テレビ情報誌なのに、テレビと関係ないことばかり載っている。そんな「面白ければいいじゃないか」という態度は、出版&芸能という固い業界の中で、緊迫しがちな心をいつも弛緩させてくれました。自由ではなくとも自由でした。細野さんと川勝さん、皆さんとテレビブロス終了までしっかり仕事を出来たこと、素敵な思い出にならないわけがありません。編集部の皆さん、毎号お疲れ様でした。楽しい日々でした。
                                      ーー星野源

どれだけ抵抗を試みようと
両親の影響からは逃れられない!

細野 しばらく前に、僕がレギュラーでやってるInterFMのラジオ番組「Daisy Holiday!」に、実の姉を呼んだんだよ。
星野 聴きました!
細野 通訳代わりに、僕の娘にも同席してもらったの。
星野 いやあ、細野さんの子どもの頃の思い出が、めちゃくちゃ面白かったです。
細野 じゃあ、あの番組で話し足りなかったエピソードを、ここでお蔵出ししてみようかな。
星野 いいですねえ。細野さんを音楽に導いた環境について聞かせていただきたいです。
細野 小さい頃は、毎日、蓄音機でSP盤を聴いてたなあ。
星野 具体的には、どんなレコードだったんですか。
細野 ハリウッド映画のサウンドトラックとか、ビッグバンドの奏でるブギウギとか。
星野 確実に、その後の細野さんの滋養になっていますね。
細野 一方では、広沢虎造の浪花節にも親しんでいたけど。
星野 ドメスティックな演芸にも触れていたわけですか。
細野 うん。そういや、横山エンタツ・花菱アチャコの漫才を収めた慰問袋も家にあったなあ。
星野 慰問袋って何ですか。
細野 戦時中、戦地に赴いた兵士に対し、日用品や嗜好品、それから手紙などを詰め合わせた袋を送る習わしがあったんだよ。
星野 へえ、初耳です。
細野 その中には、寄席演芸を録音したレコードが入っていることもあったんだ。
星野 これまで知らなかった昭和史を垣間見ました。細野さんとの対話は、勉強になります。
細野 ラジオでも話したけど、姉と僕の間には、いまだ謎に包まれている習慣があったんだ。
星野 はいはい。えーと、お父さんがお土産を買って帰ってきたとか、何かうれしいことがあった時に、二人が唱えた呪文みたいな言葉のことですね。
細野 そうそう、それが「アイロバイク」。ちょっとした喜びの時なんかじゃ使わない。相当な大喜びの時にしか口に出さない言葉だったんだよ。
星野 特別な言霊が秘められていそうです。
細野 しかも、ただ普通にこの言葉を発するんじゃなく、息を吸い込みながら、「アイロバイク」って言うんだよ(笑)。
星野 そもそも、どういう意味の言葉なんですか。
細野 まったく分からない。恐らく、僕が5、6歳だった頃から、この奇妙な儀式が始まったと記憶してるんだけど。
星野 じゃあ、お姉さんが考えたんじゃないですかね。
細野 いや、姉に聞いても、どこからこの言葉が出てきたのか、覚えていないと言うんだ。
星野 エアロバイクと関係があったりするのかなあ。
細野 僕も、ちょっとそう思ったんだけど、当時の子どもが、エアロバイクなんてものについて知ってるわけがない。
星野 そうか。何しろ、時代は昭和20年代ですからね。
細野 そもそも、姉弟が約束して始まったわけじゃなく、自然発生的に、気がつけば「アイロバイク」と言ってたんだよね。
星野 うーん、不思議な話があるもんですねえ。
細野 あと、父親が酔っ払ってストリップを行うシーンも、姉と僕の目にずーっと焼き付いてるんだ。
星野 さぞかし、鮮烈な記憶になったんでしょうね。
細野 公共の電波であるラジオだったから、具体的な描写は避けたけど、裸になった父親は、股間にあれを挟むんだよ(笑)。
星野 なるほど、あれを後ろの方に押し込んで、両脚をギュッと閉じちゃうわけですね。
細野 そうやって、女性になりきるっていう。そして、それをやる前に、父親が気合いを入れるのがおかしくってさあ。
星野 どんな風に?
細野 でっかい声で、「は!」って叫ぶんだよ。
星野 その場面、想像するだけで奇妙な光景ですね。
細野 大昔、僕の家に大滝詠一君と鈴木茂が訪ねてきた時も、父親が裸でぬっと現れて、その裸芸を披露し出したんだよ。
星野 はっぴいえんど史の知られざる一ページですね(笑)。
細野 二人とも、呆気に取られてポカーンとしてたなあ。
星野 そのユーモアの感覚って、細野さんご自身にも受け継がれてると思いますか。もちろん、ストリップかどうかはさて置いて……(笑)。
細野 いや、ストリップも、真似してやったことやるよ。
星野 ええーっ!(笑)
細野 ギャグに関する僕のセンスは、ほとんど、父親から受け継いだものだと思うんだ。
星野 影響が濃いんですね。
細野 ただ、大人になってから分かったけど、父親が僕らに見せてくれたギャグって、大方はローレル&ハーディという喜劇役者のコンビの芸をそのまんまやってたものだったんだ。
星野 例えば?

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