『少女ファイト』日本橋ヨヲコ先生の場合。【ブロスコミックアワードのその後、どんな感じ?インタビュー】

10月の間、「マンガ」をテーマにお届けするTV Bros.WEBの「マンガ大特集」。本日は漫画家・日本橋ヨヲコ先生のインタビューを公開!


テレビブロスが年に一回、その年に新刊が出た作品の中から一番心にきたマンガに贈る「ブロスコミックアワード」。2008年から始まったこのマンガ賞の歴代受賞者9名に改めて受賞当時の心境とその後を探るインタビュー企画「ブロスコミックアワードのその後、どんな感じ?」。

第8回にご登場いただくのは、ブロスコミックアワード第一回目の2008年に『少女ファイト』で受賞していただいた日本橋ヨヲコ先生! 昨年発売されたコミック特集号にもご登場いただき、2013年7月6日号ではTV Bros.note版でコラム「ダンスはうまく踊れない」を連載中の風間俊介さんと対談していただくなど、テレビブロスが長年お世話になっている日本橋先生に受賞から現在までの13年間のお話を聞かせていただきました!

                                 取材・文/門倉紫麻 

【プロフィール】
日本橋ヨヲコ(にほんばし・よをこ)
●1974年香川県生まれ。1996年「ノイズ・キャンセラー」で「ヤングマガジン」にてデビュー。2001年~2003年に連載された、魂を削りながらマンガの道を進む2人の高校生と周囲の人々を描いた『G戦場ヘヴンズドア』が大きな話題に。ほかの作品に『プラスチック解体高校』『極東学園天国』『バシズム』(短編集)など。2005年より『少女ファイト』を連載開始。

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『少女ファイト』最新第17巻発売中!

『少女ファイト』/日本橋ヨヲコ 講談社

少女ファイト』…「イブニング」(講談社・2006年2号~)にて連載中。バレーボール選手だった姉・真理を亡くし、“狂犬”と呼ばれるほど一人バレーにのめりこんだ練は、自分の身勝手さから仲間を失ったと感じ、人と関ることを避けていた。だがそれぞれに苦しみを抱えた新たな仲間たちと出会い、共にバレーをする喜びと人と深く交わる喜びを見つけていく。

ブロスコミックアワードとは…2008年からスタートしたマンガ好きのテレビブロス関係者50人が選ぶマンガ賞。

●歴代受賞作
2008年:日本橋ヨヲコ『少女ファイト』
2009年:岩本ナオ『町でうわさの天狗の子』
2010年:とよ田みのる『友達100人できるかな』
2011年:日下直子『大正ガールズエクスプレス』
2012年:押切蓮介『ハイスコアガール』
2013年:びっけ『王国の子』
2014年:小池ノクト『蜜の島』
2015年:山本さほ『岡崎に捧ぐ』
2016年:オジロマコト『猫のお寺の知恩さん』
2017年:大童澄瞳『映像研には手を出すな!』
2018年:鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』
2019年:和山やま『夢中さ、きみに。』
2020年:平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』

「この賞は信頼できる!」と思いました(笑)


──日本橋先生には、2008年から始まったブロスコミックアワードの第1回大賞を受賞いただきました。当時の心境を振り返っていただけますか?

日本橋:もともと賞レースにご縁がないうえに、大好きなブロスさんからいただいた賞というのが心の底からうれしかったですね! 『少女ファイト』は今が一番面白いと思っているのですが、最初から(※受賞時は4巻まで刊行)見つけてくださって本当にありがとうございます。あと「ガチなんだな!」という驚きがすごく大きかったです。

第一回が発表された2008年11月21日号。表紙は片桐仁さん。

──なぜ「ガチ」だと思われたのでしょう。

日本橋:「ちゃんと読んでいるんだ!」と(笑)。有名なマンガがあれだけある中で私のマンガに賞をくださったということは、めちゃくちゃたくさんのマンガを読んでいるということですよね。よく見つけてくれたなと……「この賞は信用できる!」と思いました(笑)。

──受賞からの13年で特に印象に残っている出来事は何ですか?

日本橋:秋田でやった個展(日本橋ヨヲコ画業20周年記念展)ですかね。すごく大きい会場で、理想的な形で展示していただいたので感動しました。読者さんと触れ合う機会もあって、楽しかったです。「これから先、これ以上のことはないな」と思った記憶があります(笑)。

──全体としては、どんな13年間でしたか?

日本橋:一言で言うと「いろいろあった」です。周りの方や読者さんから助けていただいて……今、療養中なのですが、どうにかやれているなというのが現状です。一番変わったのは、健康に気を使うようになったことですね。お酒も飲まなくなりましたし、無茶な描き方をしなくなりました。あと13年前は年数を重ねればマンガの描き方がわかっていくのかな?と想像していたんですが、描けば描くほど新人に戻った気分になることがわかりました。

──そうなのですか!

日本橋:今の方が描くのが難しいですね。昔はよくわかっていないからめちゃくちゃなことも描けたんですが、今は自分でダメ出しができるので描くのが遅くなったし、自分が驚くマンガが描けなくなりました。それと自分の価値観がアップデートされて、昔描いた自分のマンガを見て「これはないわ」と思ったり、「これを描いたら誰かが悲しむかもしれない」と考えたりすることが増えて。でもそこを乗り越えないと作家としてだめだとも思いますし……バランスを考えながら描いているので描くのがゆっくりになったのもあると思います。

                                                    

自分のことだからこそ、大事にしようと思った


──『少女ファイト』だけをとってみても、連載開始から15年続く長期連載ですよね。その間に我々読者一人ひとりの価値観や考え方も変わっているように思います。あらためて1巻から読むと違う感じ方ができて、長い連載ならではの楽しさ、良さがあると思いました。

日本橋:作者もそうなんです。歳を取ると変わってくる。前に「ここが大事」と思って描いたのとは違うところを大事に思ったりもして。読者の方たちと一緒に成長できて、うれしいです。

──どういう部分で特に変化を感じられましたか?

日本橋:うーん。隆子とか完蛇田、最近だったらあすか(3者とも主人公・練のライバル校の選手)のような、ひとクセあって初見では嫌われ役みたいなキャラクターを、嫌われたまま終わらせられなくなってきましたね。無責任な気がするというか親心というか(笑)。昔は……例えば『G戦場ヘヴンズドア』(鉄男と町蔵の2人がマンガの世界で奮闘する物語)で鉄男に「僕はいつかマンガで救われたいんだよ!!」と叫んだ伊岡(漫画家)さんみたいなダメダメな人は、ほったらかしにしたままでした。伊岡さんのような人は「こっちが自分じゃん」と思って描いているんですけど、自分だからほったらかしにできたんですよね。でも今は、自分のことだからこそ、もうちょっと大事にしようと思えるようになりました。

──「自分のことだからこそ大事に」ですか。とても素敵ですね。

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一瞬でも溶け合えたら、孤独ではないと思える


──『少女ファイト』に「試合中さ/極限までいくと/人との境目がなくなるの(中略)こんなに溶けあえるものほかにないわ」というセリフがありますが、『G戦場ヘヴンズドア』でもマンガを描いていくと「境目がなくなる」と同じ表現を使っていらっしゃいました。人間関係の難しさと美しさを描き続けてきた日本橋先生にとって、「境目がなくなる」というのは大事な言葉なのでしょうか。

日本橋:たぶん……私の性質としてあるものなんですよね。練や(姉の)真理の特性にちょっと重ねているのかもしれないのですが、人との境界線がなくなって相手に侵入しすぎてしまう部分と、「わかってしまう」部分があって。あまり良くないことだと思うのですが、その能力だけで作家をやっているところがあります。決してみんながみんな溶け合って一つになった方がいいよとは思っていないんですが、バレーでゾーンに入った時の、一瞬みんなでわかり合える感覚を味わえたらいいなあ、とは思うんです。孤独ではないなと思えるので……それが言いたかったんでしょうね。

──ずっとではなくバレーをすることで「一瞬」それを味わえるというのは、想像するだけでも恍惚感があります。

日本橋:ずっとだとちょっと気持ち悪いですよね。私はすぐ溶けちゃうんですが(笑)。(人は)常に孤独なので、一瞬ぐらいはみんなでそれを味わいたいなと。たぶん私は「文化祭を終わらせたくない」という気持ちが続いているんですよ。編集さんや漫画家じゃない友達はちゃんと「文化祭は今日で終わり!」ってできるんだ!と最近気づいたんですけど(笑)。

──先ほど「わかってしまう」とおっしゃっていましたが、それは人の気持ちがわかってしまう、ということでしょうか。

日本橋:そうですね。ただ「本当にわかっている」わけではなくて、「勝手に相手の感情を読んで、物語を作ってしまう」というのが正しくて。そのことで勝手に苦しんでしまうので……それをやめたい。だけどやめられないのでマンガにする。もちろんそのままその人のことを描くわけではないんですが。そうやって描いたものを、同じように苦しい人が見て「あるある」と思ってくれたり、必要としてくれたりはするんじゃないのかなあと。

──そういう人はたくさんいると思いますし、日本橋作品のキャラクターたちは、まさに人の気持ちがわかりすぎて苦しんでいる人たちのように見えます。

日本橋:なぜこんなにいっぱいキャラクターを描けるの?と聞かれることがあるんですが、私が傷ついた1つ1つの経験や私のゆがみから出現している人格だと思うんですよね。自分から乖離して生まれた人物というか。なので、1つ1つのゆがみを直してあげて1人に統合させたい、という気持ちがある。ちょっと変な話なんですけど。

──そうやってあのキャラクターたちが生まれたのですね。キャラクターたちの言動を見ていると、日本橋先生から読者へのエールのようなものを感じます。

日本橋:誰かを励ますために描くのはおこがましいなと思っているんですよ。自分のために描き残しておけば、同じような状態にいる人が何かをつかみ取ってくれるかもしれない、という感じが強い。結局、自分でしか自分のことを癒せないじゃないですか。「元気出せよ」と言われても、「そんなん言われても……」ってなりますよね(笑)。それより「なぜこういう状態になっているのか」という構造を提示されて、自分で「なるほど、自分はこれだったのか!」と思えた時に癒されるのだと思います。

──読者の方から、たくさんそういった声も届いているのでは?

日本橋:はい! 本当に「表現の鬼では?」みたいなすごい読者さんたちが多くて、ありとあらゆる表現で「読んでよかった」ということを伝えてくださるのでありがたいです。承認欲求は完全に満たされてしまいました(笑)。デビュー当時から、届いて欲しいところに確実に届いている体感はあったんですよね。だから成功したいとか売れたいという気持ちが薄かったんですが(笑)。読者さんには自分の実力以上のご感想と評価をいただけていると思っています。

                                                    

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2020年12月号ではlyrical school プロデューサー・キムヤスヒロ氏と日本橋先生の対談が掲載された。
現在も電子書籍版として購入可能です。

今のところ、妥協は一切していません


──以前、ご自身の初期作品に関して「その歪みから出る妙な色気があって」と話されていたのですが、今はどう思っていらっしゃいますか?

日本橋:今は……どうなんだろう。ものすごいお金と時間をかけてまったく儲からないものを作っている、という感じでしょうか(笑)。ただクオリティに関しては誇れるレベルで作っているので、満足はしてもらえるんじゃないかなと。『少女ファイト』は20巻で終わらせようと思っているんです。今コミックス18巻の分まで原稿が描けているんですが「素材が全部そろった」という感じです。

──素材ですか。

日本橋:はい。わがままを言って、自分の中にある「こういうマンガが読みたい。でもめちゃくちゃ面倒くさいからやりたくない。でも描きたい」というものをここまでやらせてもらって、素材が全部出揃った。なのであと2巻分おもしろくすれば、まあまあいいのができるんじゃないかと思います。いかんせん療養中なので、ゆっくりと描くことになってしまって……担当さんにも申し訳ないですし、何より読者さんにお待たせしてごめんなさいという気持ちです。ただ、今のところ一切妥協はしていないので、そこに関しては保証したいです。

──迷いなくそう言えるのは本当にすごいことですね。そのためにどれだけの努力をされてきたのだろうとも思います。

日本橋:いえいえ……体を壊してから『少女ファイト』を最終回まで描けるように「神さまお願い!」と祈るようにはなりました(笑)。これで終わってもいいというぐらいには、ここまでで全部入れられたと思いますし、最終回までに全部入れたいなと思いますね。

                                                     

読者さんに助けてもらっています、現実的に


──この13年を象徴するキーアイテムのようなものはありますか?

日本橋:13年間で一番お付き合いが長く、支えられてきたものといえばタイガーの魔法瓶ですね。冬は紅茶やお白湯、夏はお水を入れてちびちび飲みながら作画しています。

(画像提供:日本橋ヨヲコ先生)

                                                       

──ここからの13年後についてはどうお考えですか?

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