『町でうわさの天狗の子』岩本ナオ先生の場合。【ブロスコミックアワードのその後、どんな感じ?インタビュー】

10月の間、「マンガ」をテーマにお届けするTV Bros.WEBの「マンガ大特集」。本日は漫画家・岩本ナオ先生のインタビューを公開!


テレビブロスが年に一回、その年に新刊が出た作品の中から一番心にきたマンガに贈る「ブロスコミックアワード」。2008年から始まったこのマンガ賞の歴代受賞者9名に改めて受賞当時の心境とその後を探るインタビュー企画「ブロスコミックアワードのその後、どんな感じ?」。

第7回にご登場いただくのは『町でうわさの天狗の子』で2009年に受賞していただいた岩本ナオ先生! 受賞当時の心境から現在連載中の『マロニエ王国の七人の騎士』の制作秘話までお話ししていただきました。

取材・文/門倉紫麻

【プロフィール】
岩本ナオ(いわもと・なお)
●岡山県生まれ。2004年「その彼女の存在」で「月刊flowers」にてデビュー。2010年『町でうわさの天狗の子』で小学館漫画賞少女向け部門を受賞。『金の国 水の国』で「このマンガがすごい!2017」オンナ編1位、『マロニエ王国の七人の騎士』で「このマンガがすごい!2018」オンナ編1位に。ほかの作品に『雨無村役場産業課兼観光係』など。

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町でうわさの天狗の子』全12巻発売中!

小学館eコミックストア他、各電子書店で11月10日まで1〜3巻が無料でまるごと試し読みできます!

https://csbs.shogakukan.co.jp/book?book_group_id=1535

町でうわさの天狗の子

町でうわさの天狗の子』…「月刊flowers」(小学館・2005年12月号~2013年12月号)にて連載。天狗の娘・秋姫は下界で学校生活を送っている。天狗になる修行中の幼なじみ・瞬ちゃんや同級生たちと楽しく過ごす中で、秋姫が自分の役割を果たす時がゆっくりと近づいていた──。

ブロスコミックアワードとは…2008年からスタートしたマンガ好きのテレビブロス関係者50人が選ぶマンガ賞。

●歴代受賞作
2008年:日本橋ヨヲコ『少女ファイト』
2009年:岩本ナオ『町でうわさの天狗の子』
2010年:とよ田みのる『友達100人できるかな』
2011年:日下直子『大正ガールズエクスプレス』
2012年:押切蓮介『ハイスコアガール』
2013年:びっけ『王国の子』
2014年:小池ノクト『蜜の島』
2015年:山本さほ『岡崎に捧ぐ』
2016年:オジロマコト『猫のお寺の知恩さん』
2017年:大童澄瞳『映像研には手を出すな!』
2018年:鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』
2019年:和山やま『夢中さ、きみに。』
2020年:平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』

賞をもらうことで、読者がいることを実感できる


──岩本先生に『町でうわさの天狗の子』で受賞していただいたのが2009年なので、もう12年前になりますね。ブロスコミックアワードは当時まだ第2回だったのですが、あらためて受賞された時の心境を振り返っていただけますか?

岩本:びっくりしましたし、嬉しかったです。TV Bros.はサブカル色の強い雑誌だと思うのですが、そういうところで私の描いているような普通っぽい少女マンガが評価してもらえるんだ!と。

 

TV Bros. 2009年11月14日号で発表

TV Bros.11月14日号。巻頭ページでは、矢沢永吉のドキュメンタリー映画「E.YAZAWA ROCK」公開を記念した特集「その男、YAZAWA ~俺はいいけど、YAZAWAは何て言うかな~」が組まれている。

 

──そこからはたくさんの賞を受賞されていきますね。翌年には同じく『天狗の子』で小学館漫画賞少女向け部門を受賞、次の連載『金の国 水の国』、連載中の『マロニエ王国の七人の騎士』で「このマンガがすごい!」オンナ編で2年連続(2017年度、2018年度)1位になっていらっしゃいます。賞を受賞することにどんな意味を感じていらっしゃいますか?

岩本:マンガって、描いていても読者の方の反応が全然わからないんですよ。お手紙をいただくこともほとんどないので。SNSに感想を上げてくださっているかもしれないのですが……。賞をもらうことで「読んでくれている人がいるんだ!」とやっと実感できるんですよね。

当人同士にしかわからない会話を


──ブロスコミックアワードを受賞していただいた時は『町でうわさの天狗の子』の5巻が出たばかりだったのですが、そこから完結までの道のりはいかがでしたか?

岩本:今よりも全然時間がない中で描いていたので、とにかく忙しくてしんどかったです。終盤で秋姫が異世界へ行ってしまうのでそれを描かなければいけなかったのですが、絵が下手なので頭の中にあるものがうまく描けなくて……それはすごくつらかったですね。

──終盤、日常的だった物語がバトル要素もある激しい展開になっていってワクワクしました。最初からそういった展開を考えていらしたのでしょうか。

岩本:そうなっていくだろうな、とは思っていました。読んでいる人に「急に話が異世界に行ったぞ」とか「ほのぼのが長すぎるぞ」とか思われるのではなくて、自然にどんどん不穏な空気になっていって、ラストにたどり着いたらいいなと。実際どうだったかは全然思い出せないんですが。

『町でうわさの天狗の子』12巻 (C)岩本ナオ/小学館

──まさに必然……という展開でした。同時に恋愛面が盛り上がっていくのもすごく素敵だったのですが、恋愛を描く時に特に大事にしているものは何かありますか。

岩本:細かい感情はなるべく拾わないといけないな、と思っています。あとほかの人には絶対に言わないセリフをお互いに言うとか、当人同士にしかわからない会話になったらいいなと思って描いています。

──瞬ちゃんが秋姫に「お前は心配しなくていい/お前の心配は俺がする」と言うなど、素敵なセリフがいくつもありますね。ご自身では何か思い浮かぶセリフや会話はありますか?

岩本:うーん。あ、少し話がずれてしまうというか逆の話なのですが……『天狗の子』で最後に瞬ちゃんが秋姫に「好きだぞ」という場面があるんですが、フランス語版では「Je t’aime(ジュテーム)」と言っていて。それはちょっと瞬ちゃんのセリフとしてはNGだなと思いました(笑)。

建物や特産品を、全部自分で考えられるのがうれしい


──『天狗の子』が完結した後、「ちょっと燃え尽きてしまった」とおっしゃっていましたね。

岩本:そうですね。これから先また2回も3回も学園ものを描くのは私には無理だなと思ったんですよね。学園ものでファンタジー要素が入っているものなら描きやすかったんですが、『天狗の子』でやり切ったので、これより面白いものは描けない。それなのに少女漫画家を続けるのは厳しいなと。それで1年ぐらい休んでいたんですが……まだ(漫画家を)やっていますね(笑)。

──そういうことだったのですね。休養のあとで『金の国 水の国』で連載に復帰されますが、『天狗の子』連載中の2012年にファンタジーの短編「赤い果実と花飾り」を描いていたことが大きかったそうですね。

岩本「赤い果実と花飾り」を描いた時に、日本の学園ものではない、違う国を舞台にしたファンタジーだとすごく描きやすいなと思いました。それでファンタジーの短編なら描けるかなと思って『金の国』を描いてみたら、なんとかなったという感じです。ただ短編のつもりだったんですが、結局単行本1冊分の連載になってしまいました(笑)。

──その1年9カ月後に『マロニエ王国の七人の騎士』が始まりますがファンタジーの長期連載をやりたいと思われたのでしょうか。

岩本:最初は、私から編集部に読み切りを描かせてくださいとお願いしました。その頃、2.5次元ミュージカルにはまりまして……観劇のためにもそろそろ仕事をしなければと(笑)。

『マロニエ王国の七人の騎士』最新5巻発売中

──最初は読み切りだったのですね。

岩本:はい。でも『金の国』と同じく、描いているうちに長くなりそうだと思ったので、「episode.1」と入れてもらって連載になりました。それでも2、3話ぐらいで終わるかなと思っていたんですが……長くなっていますね(笑)。長くなるのだったら、キャラクターにあんな名前をつけなかったのになと。

──七人の騎士には「眠くない」「博愛」「暑がりや」「寒がりや」「獣使い」「剣自慢」「ハラペコ 」とそれぞれの特性を表す名前がついています。

岩本:なんか……おかしい名前ですよね(笑)。

──わかりやすくてかわいらしい名前だと思います! ハードな展開もありますが読んでいて楽しい気持ちがずっと続く作品です。絵も楽しくて、ページがいつもキラキラしているような印象を受けます。ご自身でも今回の連載では描きたい絵が描けるようになってきた、とお話しされていましたね。

岩本:すごくうまい人に比べたら全然描けていないとは思うんですが、もう「下手の横好き」ぐらいの感じで描いています(笑)。湿気が多い場所だからこういう建物で、この国の特産品はこれでとか全部自分で考えられるのがうれしくて。大学が歴史学科だったのもあって、細かいところを想像するのは楽しいです。ストーリーに関しては「これで大丈夫かな?」と思うところはあるんですけど。

『マロニエ王国の七人の騎士』4巻 (C)岩本ナオ/小学館

──最新5巻では「食べ物が豊富な国」が舞台になりました。岩本先生の描かれる食べ物は本当においしそうなので、これからたくさん見られるかと思うととても楽しみです。

岩本:今月号(掲載誌「月刊flowers」12月号)の巻頭カラーでたくさん食べ物を描いたので、ぜひ見ていただけたらと思います!

https://www.amazon.co.jp/%E6%9C%88%E5%88%8Aflowers-2021%E5%B9%B412%E6%9C%88%E5%8F%B7-2021%E5%B9%B410%E6%9C%8828%E6%97%A5%E7%99%BA%E5%A3%B2-%E9%9B%91%E8%AA%8C-flowers%E7%B7%A8%E9%9B%86%E9%83%A8-ebook/dp/B09KC3ZFZP/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=3E5SQBQUG3ZEC&dchild=1&keywords=%E6%9C%88%E5%88%8Aflowers+2021%E5%B9%B412%E6%9C%88%E5%8F%B7&qid=1635401783&sprefix=%E6%9C%88%E5%88%8AFlowers%E3%80%80%2Caps%2C297&sr=8-1

漫画家生活が終わるまでには、うまい人になりたい


──お話をうかがっていると、キャリアを重ねてもご自分の仕事に満足せず、もっとこう描きたいという気持ちがずっと続いていらっしゃるのがわかります。なぜその気持ちを持ち続けられるのだと思いますか?

岩本:今って、めちゃくちゃうまい人の絵をネットでたくさん見られますよね。「今はこういう絵が人気なんだ」ということもはっきりわかる。『天狗の子』の時は、自分が下手なのはわかるけれど、何がだめなのかがわからなかったんです。少し成長したと思ってはいるのですが、最近やっと自分がどれぐらい下手なのか、何ができないのか、どうしたらうまくなるのかがわかってきました。それと「月刊flowers」でずっと第一線で描いている先生方にお話を聞くと、やっぱり今の絵を見てすごく勉強していらっしゃるんですよね。私もできれば毎号、前号よりちょっとでもうまくなっていたいと思いますし、そうしないとすごくうまい人たちのところまでは行けないなと。漫画家生活が終わるまでには、うまい人になりたいと思っています。

──今日は岩本先生がお仕事中に、お友達と話す時に使う「作業通話」用の音声アプリで取材させていただいているのですが、いつもどんなふうにやられているのですか?

岩本:作業をする人がいたりゲームをする人がいたり、みんな個人個人で好きなことをして、たまに喋ったりする感じですね。本当に1人だと遊んでしまうし、何か言った時に返事があるとうれしいんですよね。あと、夜にウォッチパーティーをしたりします。

──みんなで同じ映像を同時に観て話すのは楽しそうですね。どういうものをご覧になるんですか?

岩本:絶対ホラー映画です。1人では観られないからみんなで観よう、という話になります(笑)。

12年後は……魔法少女を描いてみたい!


──この12年を振り返ってみて、特にどんな出来事が印象に残っていますか?

岩本:今、一番に思い浮かんだのは「月刊flowers」の創刊15周年イベントです(2016年「flowersフェスティバル」)。元学校だった場所で原画の展示とかトークショー、サイン会をさせていただきました。萩尾(望都)先生の『トーマの心臓』の原画とか、子供の時からずっと読んできた先生たちの作品が飾られていて。お客さん気分ですごく楽しんだのを覚えています。

──12年間を象徴するキーアイテムのようなものはありますか?

岩本:浦沢直樹先生にいただいた「日本字ペン」ですかね。

 

──昨年、浦沢先生の『漫勉neo』(Eテレ)にご出演されていましたが、その時にプレゼントされたものでしょうか。

岩本:そうです。丸ペンよりは柔らかくてGペンよりは硬いペン先で。いただいてから練習はしていたんですがなかなかうまく使えなくて……。それにずっと丸ペン1本で描いてきて、細い線で描くのが私には向いていると思っていたんです。でも最近ちょっと意識の変化があって、今月から顔を大きく描く時に日本字ペンを使い始めてみました。今「これからペンタッチが良くなっていくかもしれない!」という気がすごくしています。12年間のキーアイテムと言いながら、今月から使っているものになって申し訳ないです(笑)。

──12年間ずっと絵を向上させることを考え続けてきた岩本先生ならではのアイテムだと思います。それと、今好きなエンタメ作品があればおうかがいしていいですか? 先ほど2.5次元ミュージカルのお話もされていましたが、その中で特にお好きなものはありますか?

岩本:『刀剣乱舞』のミュージカルが好きです。

──どういった部分に惹かれますか?

岩本:公演期間の始めのほうの公演を観てから、もう一度終盤の公演を観ると、みなさんすごくうまくなられていて。若い人の伸びしろのすごさを見ていると、私も頑張らなきゃいけないなあと思うんですよね。若い人から元気をもらうというか。特定の誰かを応援するというより「今日は誰のペンラを振ろうかな」と思いながら観て、「今日はこの子がすごかったな」と思ったりしています。最近、自分が「童顔でマッチョ」が好きなんだなと気づいて……行くたびに、新しい扉が開かれます(笑)。

──そうやってご自分が好きなものに気づくと、お描きになるものに関わってきたりもしますか?

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