森山直太朗「“ギターと私”という関係があった」目と耳と心に優しい“歌う旅人”の現在地

教科書に掲載されるほどの国民的楽曲「さくら」でも知られる、シンガーソングライターの、森山直太朗。音楽家としてコンスタントにリリースとライブ活動を展開するなか、音楽と芝居を融合させた劇場公演を行うなど、稀有な表現者としての存在感を発揮し続けている。また、役者として2021年の夏ドラマ『うきわ ―友達以上、不倫未満―』(テレビ東京系)に出演し、話題を呼んだのも記憶に新しいところだ。そんな森山が、現在、力を入れているのが自身のYouTubeチャンネル「森山直太朗のにっぽん百歌」。どのような思いで活動しているのか、その心境を聞いた。

取材・文/かわむらあみり 写真提供/SETSUNA INTERNATIONAL

僕の持ち味は「ギター1本持ってどこへ行っても歌う」ところ

――今年はドラマ『うきわ ―友達以上、不倫未満―』での役者としての活動もありましたが、最終的に歌に還元されるものはありましたか。

今、まだ冷静に振り返れないんです。ドラマ出演は今回が初めてではないですが、あがってきたものを観ると「これがこうなるんだ!」と予想とは、全然違うんですよ。僕自身がいろいろなことを還元しているかというと、音楽活動に良い影響があるかはまだわからないですね、驚きのほうが多くて。

初めての環境に飛び込んで、初めて会う人たちと過ごして、現場にもほぼひとりで行っていたので、デビュー当時あるいはインディーズのときのような感覚。みんな僕のことを知ってくれているけれど、ドラマの世界では僕は新人なので、音楽活動とは違って甘酸っぱい経験がありました。僕のなかでドラマ出演は“夏休みの林間学校”みたいな感じ。まだ思い出にもならないし、とても楽しかった、という気持ちが残っています。

――音楽活動では、森山さんはSNSを活用していますね。2020年1月22日にInstagram、2021年1月1日にYouTubeチャンネル「森山直太朗のにっぽん百歌」、3月15日にTikTokを開設されました。

昨年1月にInstagramを始めてすぐ、3月にはコロナ禍に突入したんです。右も左もわからないまま、行き場のない思いをインスタライブに託して発信し、なんとなくですがソーシャルメディアでの自分のライブ活動、表現活動の基盤ができた感じがしました。並行して、YouTubeに関しても日頃から「自分にしかできないものを何かやれたらいいな」とスタッフのみんなと話しておりまして。

【森山直太朗のにっぽん百歌】

https://youtu.be/V128W0rQJZQ

だからYouTubeチャンネル「森山直太朗のにっぽん百歌」も、今年から始めているけれど、ポッと出てきた企画ではなく、かねてから話してきたなかでのひとつにあがった企画で「これは今やるべき」と決まったものなんです。自由に外出することがままならないなかで、この企画は、すごく自分のなかでしっくりいったもの。僕の持ち味は「ギター1本持ってどこへ行っても歌いますよ」というところがストロングポイントなので。大げさかもしれませんが、そういう意味では、今の自分にしかできない企画です。

もっと遡っていくと、「人間の森」コンサートツアー(2018年10月~2019年6月まで全51公演のロングツアー)が終わったときに、そのときは自分のなかにバンドサウンドの存在が大きかったけれど、やり切ってから「もう一度ひとりになりたい」と。弾き語りで、自分ひとりで何ができるんだろうという境地になりました。自分の生々しい部分をさらけだしていく感覚が芽生えて、良い意味でその季節、開き直って。

その心境の先には、「ギターと私」という関係があったんです。ひとりなら、どこにでも行けますよね。この時期の後、インスタライブや配信ライブをギター1本でやったり、YouTubeチャンネル「森山直太朗のにっぽん百歌」を始めて、全国の名所で弾き語りで歌ったり。いろいろな場所で歌を、歌い上げるのは、そこに強いメッセージがあるわけではないですが、今この時代に各地で歌い切った先に、何か感じてもらえるものがあるんじゃないかなと思っています。

これに関しては信頼できるキーマンとして、僕のCDのジャケットや映像まわりを大きく牽引してくれている、クリエイティブディレクターの瀧澤慎一くんという人がいて。彼が表現欲を掻き立てる企画を企ててくれるので、僕にとって刺激になっているし、音楽活動のひとつの支え、潤いになっていますね。

「にっぽん百歌」の主役は日本中にある素晴らしく面白い景色たち

――「森山直太朗のにっぽん百歌」はストリートライブを原点とする森山さんが、「ギター1本で、好きな曲を好きな場所で弾き語る」をテーマに一発録りで届けてくれるというコンセプトですが、デビュー翌年リリースのシングル「さくら」で「桜前線北上」と題して全国をまわっていたプロモーション活動を思い出しました。やはり“ギターと私”が原点なのかなと。

そうですね。20年前に僕はあのプロモーションをやっていましたが、20年前と違うのは、今はソーシャルメディアがかなり発達したこと。以前はアナログに駅前で歌っていましたが、今はソーシャルメディアを使って、プロアマ問わないさまざまな発信ができるというのは、ソーシャルメディアが駅前化、路上化している。これは時代の流れですが、僕がやっていること自体は何も変わっていない、ただアウトプットが変わっていくだけです。

ソーシャルメディアでの手軽さや合理的な表現方法があるけれど、それでもやっぱり「生がいいよね」という思いとのギャップや対比をどれだけ表現できるか。YouTubeでの発信もそうですが、その思いを繋ぎ止める活動にもなるし、自分のプラクティスにもなるし、このふたつをどう相対的にみんなに感じてもらったり観てもらったりするかですよね。「生の歌を聴きたい、聴いてみよう」と思ってもらえることが、「にっぽん百歌」のひとつの目的でもあります。

――「にっぽん百歌」では、1回目が今年の元旦に公開されて、富士山をバックに、「太陽」(2004年1月10日リリースのシングル)を歌うところからスタートしています。これまで都内ロケ場所も含め16回動画がアップされていますが、場所と歌のセレクトはいつもどのように決定しているのですか。

僕とクリエイティブチームといったみんなで、毎週、リモート会議をして「次どうする?」と打ち合わせています。もしもこんなところでこんな歌を歌ったら面白そう、というところから会議は始まっているかもしれない。このご時世だからその場所で歌うのはよくないかな、でもあまりそこに意味を持ちすぎると違うよね、とか。今が旬の場所や客観的にこの場所で森山直太朗が歌うと面白そう、という楽しいクリエイティブな会議をやって、考えすぎずに決めています。直感ですね、それが弾き語りの良さだと思うから。

そうするうちにコラボレーション企画の話も出てきて、「feat.ハナレグミ」の永積 崇くんとか(7回目:4月16日公開 巨大駐車場/2016年9月21日リリース アルバム『大傑作撰』の3曲目に収録「どこもかしこも駐車場」を歌唱)、「feat.安藤サクラ」(8回目:4月29日公開 田沢湖/9回目:4月30日公開 ロンドンバス 2021年3月17日リリース 配信シングル「最悪な春」を歌唱)でコラボした、安藤サクラちゃんとかとの出会いもあって、面白いです。

https://www.youtube.com/watch?v=9IoGOW4S7Fk

――これまで歌った場所で、撮影時に大変だったことはありますか。

基本的に僕はただ歌うだけなので、スタッフのみなさんの下準備ができたらすぐ歌うんです。そういう意味では、収録の際にマネージャーが全部音を録っているんですが、風の音や電車の音といった騒音が入ることが音響的にはデリケートな問題。でも、「にっぽん百歌」のすごく良いところは、「音が良い」と言われていて、総じてノイズ自体も音楽だったりするから、大きくはそれらも許容しています。

ただ、永積くんと巨大駐車場で歌ったときは、すごく朝が早い時間だったし、寒かったのが大変だったかな。風もキツかったから。都心のビルの屋上で歌ったときは、とにかく暑かった(笑)。苦労があるとしたら、暑いとか寒いとか、季節的なことかな。

これから冬になってくるので、いっそロシアのウラジオストクあたりに行って、極寒のなかで歌いたいですね(笑)。そう思うと、これからどんどん実験的な、罰ゲームみたいなものが入ってくるかもしれない。「にっぽん百歌」で世界を旅できたら……でも、海外へ行くともはや“にっぽん”じゃなくなるから、「世界百歌」ができたらいいかな(笑)。

あとは「我こそは森山直太朗の代打で歌ってみせる!」という『わたしだけのにっぽん百歌』と題した、僕の代わりに歌ってくれる歌い手を募集し始めたんですよ。楽器が弾けなくても、アカペラでも良いですし、ワンコーラスだけでも良いですし。「にっぽん百歌」はあなたが主役というよりも、“あなたが大好きな景色が主役”だから、みんなぜひ参加してもらいたいですね。

ゆくゆくはこの「にっぽん百歌」というコンテンツが、僕も出ますが、プロアマ問わず代打の方にも登場してもらって、お客様満足度100%の番組になって(笑)、憩いの場になったら楽しいなという話もあるんです。

【わたしだけのにっぽん百歌 参加方法】

――森山さんのYouTubeチャンネルにたくさんの人が登場するとなると、歌番組のような感じになりそうですね。

その点、テレビやラジオと違って、YouTubeチャンネルはすごく自由度が高いんですよ。だから多分、ある意味でテレビ番組よりも、フォロワーの人との距離が近いから、柔軟性や機動力も高い。つまり照明やカメラを何台か準備して、台本を書いてというスタイルではなく、引き算の演出、引き算のコンテンツがYouTubeです。

例えば、今後この「にっぽん百歌」に歌詞のテロップを入れたり寄った画角でも撮影したりと凝ったものにしていくよりは、フーテンの寅さんのような感じが今は良いんだと思っています、潔さが大事。

――ではこれまでに印象的だった場所はどこですか。

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