【最終回】片桐仁のおしえて!何故ならしりたがりだから「ありがとうテレビブロス、ありがとうサブカル!」

 2003年3月に『おしえて!何故なら知りたがりだから』(略して「おしり」)という、“取材形式の連載”を始めたきっかけは、そもそも文章をほとんど書いたことがないうえに、書きたいこともない(コントの台本も書いたことないし)自分に、お題もなく文章が書けると思えなかったからです。

 なので、当時の担当編集だった中川淳一郎さんから連載の依頼が来た時も、テレビブロスで連載することは“サブカル界の住人として認められた”ことになる! 絶対にやりたい。けど、「書くことでほかの連載陣とセンスを比べられるのは地獄だなー」という恐怖もあって、どうしましょう?と逡巡していたのです。

 スマホもSNSもYouTubeもなかった、2003年当時のテレビブロスは、テレビ情報誌の姿を借りた“サブカル系文化人が、独自の切り口で芸能を切る”的な、最先端のサブカル雑誌でした。
 そんなサブカルの大海原に、サブカル芸人ラーメンズの見た目だけサブカルなほうが、どうやって漕ぎ出せばいいのかしら? そう思っていた自意識爆発な29歳の自分。いま思えばバカみたいだけど……。

 そんな折、太田出版から『ピエール瀧の!屁で空中ウクライナ』という、ピエール瀧さんがブロスで連載していた、いろんな場所に行って変なポーズで写真を撮る連載を見て「コレだ! 僕もこれやらせてください!」と、お願いしたところ、ちょうど瀧さんの連載が終わるタイミングだったので、同じ取材型の連載になったのでした。

 ところが、いざ連載を始めてみると、世の中を斜めに見る人しか買わないテレビブロス読者に刺さる取材先を考えるのが、まー大変でした。で、最初に行ったのが『携帯電話の光るアンテナ工場』です。覚えてます?  ガラケーのアンテナを、先っぽが光るアンテナにカスタムするブームが一瞬来たのよ(その後すぐにアンテナ内蔵型に代わったんだけど)! 埼玉の畑の中にある、小さな町工場でおじいさんが一人で、光るアンテナを作っているという、スゴい光景を見ました……。

「携帯電話の光アンテナ工場」(2003年)

 次に行ったのが、『目玉のスズセイ』という、ぬいぐるみや人形の目玉だけを作っている工場で、ドールアイを社割で60,186円分買いました……。当時、あの記事を読んだ方はどう思ったのでしょう?

 あれから22年……! 200ヶ所を超えるマニアックな工場や工房、変なものを作っている人に会いに行きました。

 たとえば、中学の軟式テニス部の幽霊部員仲間で、学年一の秀才だった三浦くんは、京都で仏師になってドローン仏を飛ばしていたり、テニス部の先輩に追いかけられてそのまま家に帰っちゃった雄三くんは、世界的な炭素繊維強化プラスチックの会社の人になっていたり、数々の出会いがありました(蓄光の会社の社長は今も仲良くさせていただいてます)。

ドローン仏

「ドローン仏」(2019年)

「蓄光」(2024年)

 「人見知りだから、知らない人に会うのイヤなんだよな〜」とか、「取材はいいけど、原稿を書くのが本当に面倒くさい〜」とか言ってたのに、なくなってみて初めて、「『おしり』は自分の人生の一部だったんだ!」と気づきました。

 独身から結婚して、長男が生まれて、次男も生まれて、芸人から俳優になって、演劇で各地へ行くようになって……どんな時でも、おしり(取材し)続けました。思えば、妻やまだ小さい頃の子供たちと一緒に、普通ではなかなか行けないような場所(ねるねるねるねの会社、ハンドスピナー協会、バルーンアート、体験型だと滝行したり、飛行船に乗ったり、などなど)に行けるのって、ここぐらいだったな〜(金沢21世紀美術館にロン・ミュエックをおしりに行くついでに、家族旅行もしたし)!

「太陽の塔」(2006年)

「金沢21世紀美術館」(2008年)

「首都高速道路」(2008年)

「ねるねるねるね」(2011年)

「口笛教室」(2013年)

「断髪式」(2014年)

「ガリガリ君」(2014年)

「ハンドスピナー」(2018年)

「バルーンアート」(2018年)

「ゴム銃」(2021年)

「滝行」(2021年)

「昆虫標本」(2024年)

「電磁楽器」(2024年)

 いまやYouTubeで、いろんな人が紹介される(もしくは自ら紹介する)チャンネルも無数にありますし、そもそもメインカルチャーがどっか行っちゃったせいで、総サブカル時代になってしまった昨今。昔ながらの紙の雑誌連載という形式で続けられたのは、担当編集の小倉が「この仕事が一番楽しい」と言って、いろいろなおしり先(取材先)を楽しんで探してくれたおかげです。

 あまりにも行き先が決まらなくて、小倉の実家の床屋さんにも行きました。ありがとう、小倉。家族ぐるみの付き合いをしてくれた、歴代担当の中川さん、木下くんもありがとう。

「ヘアーサロン オグラ」(2011年)

 この連載を通して思うのが、『スゴい人も、会ってみるとみんな人間』(たまに理解できない人間離れした天才もいるけど)ということでした。

 取材に応じてくださった皆さま、ブロス読者の皆さま、ありがとうございました。まだまだ、楽しそうな場所はありそうですが、ここで22年間の幕を閉じます。本当にありがとうございました!!

 

「フェイクタトゥー」(2018年)

「仮面」(2018年)

「ストーンアート」(2018年)

「忍者教室」(2015年)

「マネキン」(2015年)

「羊毛フェルト」(2015年)

「フィギュア」(2005年)

「きなこ棒」(2003年)

「拷問器具」(2006年)

「手作り招き猫」(2017年)

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