『岡崎に捧ぐ』山本さほ先生の場合。【ブロスコミックアワードのその後、どんな感じ?インタビュー】

10月の間、「マンガ」をテーマにお届けするTV Bros.WEBの「マンガ大特集」。本日は漫画家・山本さほ先生のインタビューを公開!


テレビブロスが年に一回、(その年に新刊が出た作品の中から)一番心にきたマンガ作品を選ぶ「ブロスコミックアワード」。2008年から始まったこのマンガ賞の歴代受賞者9名に改めて受賞当時の心境とその後を探るインタビュー企画「ブロスコミックアワードのその後、どんな感じ?」

 

第4回にご登場いただくのは『岡崎に捧ぐ』で2015年に受賞していただいた山本さほ先生! 現在「文春オンライン」で連載中の『今日も厄日です』が度々SNS上で話題になるなど、大活躍の山本先生に受賞時の心境と現在までの6年間のお話を聞かせていただきました!

【プロフィール】
山本さほ(やまもと・さほ)
●1985年生まれ。幼少時代からの親友「岡崎さん」との友情や子供時代の思い出を描いた自伝的作品『岡崎に捧ぐ』をウェブサイト「note」に掲載し、大きな話題になる。その後、2015年より『ビッグコミックスペリオール』(小学館)で『岡崎に捧ぐ』の連載を開始。2018年、同作は単行本5巻で完結した。現在、『今日も厄日です』を「文春オンライン」で連載中。

岡崎に捧ぐ』全5巻発売中!

岡崎に捧ぐ
作者の山本さほ先生とその親友の岡崎さんとの友情を描く自伝マンガ。1990年代のゲームやマンガ、たまっごちやこっくりさんなどの流行りものが多数登場する。「ビッグコミックスペリオール」2015年第3号から2018年第18号にかけて不定期で掲載された。

ブロスコミックアワードとは…2008年からスタートしたマンガ好きのテレビブロス関係者50人が選ぶマンガ賞。
●歴代受賞作
2008年:日本橋ヨヲコ『少女ファイト』
2009年:岩本ナオ『町でうわさの天狗の子』
2010年:とよ田みのる『友達100人できるかな』
2011年:日下直子『大正ガールズエクスプレス』
2012年:押切蓮介『ハイスコアガール』
2013年:びっけ『王国の子』
2014年:小池ノクト『蜜の島』
2015年:山本さほ『岡崎に捧ぐ』
2016年:オジロマコト『猫のお寺の知恩さん』
2017年:大童澄瞳『映像研には手を出すな!』
2018年:鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』
2019年:和山やま『夢中さ、きみに。』
2020年:平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』

        

取材・文/浅井加枝子

                      

声を出して泣くってあまりしたことがなかったので、すごく心に残っています。


──今から6年前の2015年、山本さほ先生に「ブロスコミックアワード」の大賞を贈らせていただいたのですが、いきなりよく分からない賞が届いてびっくりされたと思います。

山本 びっくりしました(笑)。いえ、「よく分からない賞で」ということではなくて、私はマンガ家としてデビューしてから1年目くらいだったので、本当に右も左も分からなかったときだったんですよ。それが「いきなり大賞!?」みたいな驚きですね(笑)。「TV Bros.さんから大賞をいただいたよ」って当時の編集者さんから連絡をもらって、ものすごく驚いたことを覚えています。なんかマンガ家として拍が付いたっていう感じがしてうれしかったですよ。

https://twitter.com/sahoobb/status/661723058072190976

https://twitter.com/tvbros/status/661883526250299392

──「拍が付く」なんておっしゃっていただけるなんて、恐縮でございます。ありがとうございます…!

山本 いえいえ。そのときはただただびっくりしただけだったんですけど、マンガ家を続けていくうちに、これだけたくさんのマンガ作品がある中で『岡崎に捧ぐ』を選んでいただけたことって、ものすごいことなんじゃないかって6年経った今、さらにびっくりしています。

マンガ家としての気持ちが引き締まる受賞でした。そこから今までは、ただがむしゃらに仕事をしていて、とにかく作品を描くことに力を注いでいて、あっという間の6年間でした。

──『岡崎に捧ぐ』は大きな反響があったと思うのですが、山本先生が、読者や周囲の方々からもらった心に残っているコメントはなんでしょうか?

山本 『岡崎に捧ぐ』をまだweb上で描いていた時代のコメントなんですけど、「あなたは絶対にマンガ家になれる!」という言葉が、当時の不安だらけだった私の心に刺さって、それを読んだお風呂場でわあわあ泣きましたね。声を出して泣くってあまりしたことがなかったので、すごく心に残っています。

                                                    

子どもの頃は実生活でも影響されていて、主人公の「あさりちゃん」になりきっていたんですよ。


──6年間で何かご自身のことで変わったことはありますか?

山本 ひたすら描くことに時間を使っていて、外に出なくなりました。その結果、最近太り気味に(笑)。でも、ずっと家の中にだけいるとネタに詰まるというか、アイデアが広がらないんですよ。『きょうも厄日です』(文春オンライン)など、私自身の身近に起きたことをもとに描いている作品もあるので経験値が必要なんですけど、ずっと家にいると経験値が溜まらない…というか、描きたい出来事が集まらないんですよね。

今、これまでに溜めた経験値を使いながら描いているので、そろそろ外に出て新しい出来事を集めないといけない状態です。出稼ぎに行かないと(笑)。

https://www.amazon.co.jp/%E3%81%8D%E3%82%87%E3%81%86%E3%82%82%E5%8E%84%E6%97%A5%E3%81%A7%E3%81%99-1-%E5%B1%B1%E6%9C%AC-%E3%81%95%E3%81%BB/dp/4163912223

──この6年間で印象的な出来事はなんでしょうか?

山本 印象的なことは、尊敬する室山まゆみ先生とお会いできたことです。室山先生は『あさりちゃん』(小学館)の作者なんですけど、私は小学生の頃から『あさりちゃん』の大ファンで、ファンレターを出したのも、室山先生だけだったんです。

画も大好きで、『岡崎に捧ぐ』の中で岡崎さんや私が大の字でジャンプして、下にその影が付いているという画は『あさりちゃん』の影響なんですよ。

──『岡崎に捧ぐ』を初めて読んだとき、エピソードのインパクトとか『あさりちゃん』にちょっと似ているなと思いました。

山本 実は『岡崎に捧ぐ』を描き始めた頃、『ちびまる子ちゃん』っぽい感じと言われていたんです。ゲームやアニメなど、誰もが思い出すようなアイテムがノスタルジックで、その部分が目を引いたんでしょうね。もちろんそこも大切な部分なんですけど、室山先生ファンの私としては「そこは『ちびまる子ちゃん』じゃないよ!『あさりちゃん』なんだよ!」と、声を大にして言いたかった(笑)。

自分の作品で影響を受けているどころか、子どもの頃は実生活でも影響されていて、主人公の「あさりちゃん」になりきっていたんですよ。「あさりちゃん」みたいな破天荒の子がカッコイイと思っていたんですね。それである年、親戚の家にお正月に挨拶に行ってお年玉をもらったんですけど、「あさりちゃん」の真似をしてみんなの前で袋からお金を取り出し、袋をポイって投げ出しながら「チッ、しけてんな」って言ったんですよ。それはもう、親からムチャクチャ怒られました。マンガが面白くても真似をしちゃダメです(笑)。

──影響され過ぎ(笑)。作品の案を考えたりする、お気に入りの場所ってありますか?

山本 神奈川県のちょっと郊外ですけど、長津田という駅の周りが、今は違うかもしれないけど以前は田んぼだらけだったんです。その田んぼに沿った道を歩きながら考えることが好きでしたね。長津田は私も岡崎さんも住んでいた場所で、作品の中にも何度か風景が出てきます。岡崎さんが結婚を報告してくるシーンも、長津田の田んぼ沿いの道になっています。

なんとなく私の心象風景のひとつになっているのかな。ここを思い出すと、今でもリラックスできるし、住んでいた頃はよくその道を歩きながらマンガの案を考えたりしていました。作品の中で岡崎さんと私がダイエットのためにランニングをするシーンも、長津田の田んぼ沿いの道です。なんとなく、「マンガによく出る河川敷」みたいなものなんですかね。『岡崎に捧ぐ』の大切なシーンは、長津田の田んぼ沿いの道で生まれています(笑)。

──今後、『岡崎に捧ぐ』の登場人物によるスピンオフ的な作品の予定はありますか?

山本 今のところ無いです。杉ちゃん(『岡崎に捧ぐ』の登場人物。幼なじみの男子)から連絡があって「『杉ちゃんに捧ぐ』を描いてもいいよ」って言われたんですけど、断りました(笑)。1冊出せる量のエピソードが無い!

──バッサリ(笑)。大賞を受賞していただいた2015年から6年が経ちましたが、また今から6年後の未来はどうなっているか、やりたいことの具体的なイメージなどはありますか?

山本 6年か…。想像もつかないですね。でも、私がデビューしたての頃にマンガ家の先輩が「10年マンガで食っていけたら本物」っておっしゃっていたんですよ。それを聞いてなるほどなあと思ったので、今から4年後がその10年ではあるんですけど、先の6年後までマンガで食っていけていたら、良しとします。

──このインタビュー企画では、受賞時から現在までを象徴するキーアイテムをご紹介いただいておりまして。山本先生にとって、この6年間を象徴するアイテムや存在って何かありますか?

山本 象徴するというか、心の支えになっているものですけど、「猫」です。私は家の中でずっと仕事をしているので、たまに心細くなったりするんですよ。特に深夜とか案に詰まったときとか。そんなとき、振り返るとヤツ(猫)がいる!

今いる「トルコ」という名前の猫とは、もう15、6年間共に過ごしてきているので、立派な相棒です。よくSNSとかで「猫が仕事の邪魔をしてきた」みたいな投稿があるんですけど、それは若い猫だと思うんですよ。うちの猫はもう、寝るかたまに餌を食べるかのおばあちゃん猫なので、全然邪魔にならなくて、いい具合の心の支えになっています。猫って案外気を遣ってくれる生き物なので、ほど良い癒しになるんですよ。

               

   愛猫トルコちゃん(写真提供:山本さほ先生)

──最後の質問になりますが、最近山本先生がお気に入りのエンタメコンテンツを教えてください。

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