10月の間、「マンガ」をテーマにお届けするTV Bros.WEBの「マンガ大特集」。本日は漫画家・小池ノクト先生のインタビューを公開!
テレビブロスが年に一回、(その年に新刊が出た作品の中から)一番心にきたマンガ作品を選ぶ「ブロスコミックアワード」。2008年から始まったこのマンガ賞で、歴代受賞者の9名に改めて受賞当時の心境とその後を探るインタビュー企画「ブロスコミックアワードのその後、どんな感じ?」。
第二回にご登場いただくのは『蜜の島』で2014年に受賞していただいた小池ノクト先生!「6000―ロクセン―」「黒街」など数々のホラー作品で知られる小池先生は、二人組兄妹コンビの漫画家。今回は小池ノクト(兄)先生に、お話を聞かせていただきました!
【プロフィール】
小池ノクト(こいけ・のくと)
●北海道出身。兄と妹によるユニット。2007年にマンガ家デビュー。代表作に『6000-ロクセン-』『黒街』など。
『蜜の島』…混乱の終戦直後の日本。復員兵の南雲佳哉は、戦友の妻の生まれ故郷である石津島に戦友の遺児・ミツを、送り届けることになった。だがその島は地図にも載っていない幻の孤島だった。島の調査に向かう内務省の役人・瀬里沢と行動を共にする南雲だったが、先に島入りしていた瀬里沢の同僚・今村は村人たちと打ち解けており、島は一見のどかに見えた。だが村人たちの封建時代のような暮らしぶりや死の概念の不在、ミイラと共生するミツの生家、400年前の出来事を昨日のことのように話す老人など、南雲たちは行く先々で不気味な違和感を覚え始める。やがて今村が惨殺されたのを機に、次々と奇怪な殺人事件が起こり始める。果たしてこの因習蠢く島の正体は?
講談社「月刊モーニングtwo」で連載された。全4巻。
ブロスコミックアワードとは…2008年からスタートしたマンガ好きのテレビブロス関係者50人が選ぶマンガ賞。
●歴代受賞作
2008年:日本橋ヨヲコ『少女ファイト』
2009年:岩本ナオ『町でうわさの天狗の子』
2010年:とよ田みのる『友達100人できるかな』
2011年:日下直子『大正ガールズエクスプレス』
2012年:押切蓮介『ハイスコアガール』
2013年:びっけ『王国の子』
2014年:小池ノクト『蜜の島』
2015年:山本さほ『岡崎に捧ぐ』
2016年:オジロマコト『猫のお寺の知恩さん』
2017年:大童澄瞳『映像研には手を出すな!』
2018年:鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』
2019年:和山やま『夢中さ、きみに。』
2020年:平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』
取材・文/TV Bros.編集部
賞を頂いた経歴は、そんな時の精神安定剤として時折使わせていただきました(笑)
──小池先生に「ブロスコミックアワード」を受賞していただいた2014年当時の心境を教えていただきたいのですが、いきなり変な雑誌のマンガ賞を勝手に贈ってしまったので困惑させてしまった部分もあるかと思います。7年経った今、改めて受賞当時の心境や当時の状況を振り返ってみて、いかがでしたか?
小池 担当編集の方から池袋の喫茶店で知らされて、かなり驚いたのを憶えています。担当さんも最初、ジャンル別の賞だと思われたそうで、それが実際は大賞だという事で、しかも歴代受賞者の方には押切蓮介先生もいらっしゃるのを資料で知って「そんな賞をいただいていいのかな」と嬉しく思いました。それでも、当時は仕事方面も年中バタバタしながら過ごしていたので、ありがたみの様なものをじっくり感じる様になったのは随分後になってからです。
他の仕事と同じ様に、漫画家にも当然良い時と悪い時があるんですが、漫画家の悪い時というのはこれが結構キツいので…。賞を頂いた経歴は、そんな時の精神安定剤として時折使わせていただきました(笑)。
※TV Bros.2014年11月8日号の発売告知ツイート
──受賞作の『蜜の島』は、ホラー作品として恐ろしいだけでなく、「心の存在」「死生観」という人々が当たり前だと考えていることについて改めて考えさせられる作品です。小池先生は、この作品の舞台である島を描くために、連載前にロケハンで青ヶ島村を訪れたんですよね。
小池 そうですね。当初、担当編集者の方と一緒に行く予定だったんですが、急遽用事が入って行けなくなったんです。島の前情報で、温泉があるという事を知っていたので「温泉入りてぇ~」という担当さんの悲痛な叫びを後にヘリに乗りました(笑)
提供:小池ノクト先生
──『蜜の島』を読んだ読者は、モデルの青ヶ島村に怖いイメージを持ってしまうと思うのですが、実際の青ヶ島村はどんな島でしたか?
小池 風景も綺麗で、素敵な島でしたよ。ただやはり本土とは離れているせいか、独特な文化・空気が流れているのを感じました。これは北海道新聞にも掲載していただいたエピソードなんですけど、ロケハン中に、山の中を歩いていると雨が降り始めたので、近くにあった無人のお寺に雨宿りさせてもらおうと入ったんです。
しばらくそこにいるうちに、何だか変わった匂いがすることに気づいたので中をキョロキョロ見回して調べてみたら、そこは島の中でお亡くなりになられた方の安置所だったんです。青ヶ島と八丈島を結ぶ船便は数が少ない上に、時化るとすぐに欠航になるので、往来がままならないんですね。たぶん、葬儀に際して親戚縁者が集まるのを待つ間、設備もない場所に安置していて、そういう匂いが染みついてしまってたんだと思います。
──1巻の南雲たちがミイラに出会うシーンは、小池先生の実体験がヒントになっているんですね。連載終了後、青ヶ島村には行きましたか?
小池 行けてないんですよね。連載終了後、世界的メディアに絶景スポットとして青ヶ島村が紹介されたので世界中から観光客がきているみたいで、今は予約も取るのも困難みたいです。ロケハンした当時も、帰りの便までに時間がなくて一枚でも多く写真を撮るために島中を駆け巡っていて、ゆっくりできなかったので、また行きたいですね。
──4巻で完結を迎えた『蜜の島』ですが、受賞していただいた当時は3巻までしか出ていませんでしたが、その次の最終巻で衝撃の結末を迎えますね。元々3〜4巻で完結する予定で連載はスタートしたとのことでしたが、やはり最終巻の反響は凄かったのではないでしょうか。
小池 そうですね。ネットの反応もちゃんと読んで下さってる感じのものが多く、とても嬉しかったですし、実際にハガキで感想を下さる方もいて、励みになりました。ラストにちゃんと驚いてもらって、ほっとしました。また、キャラクターの中では内務省の役人・瀬里沢が人気で、最終4巻に瀬里沢が主人公のスピンオフを掲載することができました。
──受賞から現在までの7年間、印象的な出来事を教えてください。
小池 打合せと原稿を繰り返していたら7年経った感じです。この10月でデビュー14年で、15年目に突入します。この7年間で、最大の出来事は途中で作画がデジタルになった事です。アナログの最後の辺りは腱鞘炎になりかけていたので、今続けられてるのは液晶タブレットのおかげかも知れないです。
──受賞していただいた2014年から現在までの7年間を象徴するキーアイテムはありますか?
小池 今のデジタル作画に移行した話にも繋がるんですけど、左手デバイスのClip StudioのTABMATEですね。これのおかげで描く作業が格段に早くなりましたし、空いた時間はストーリーを考える時間に充てることができるので、すごく助かっていますね。
──最近の小池先生のお気に入りのエンタメ作品を教えてください。
小池 漫画だと『チ。-地球の運動について-』(小学館)です。単行本を買う作品は沢山ありますが、これは待ちきれずに連載を追いかけてしまってます。他のエンタメだと、ドラマで『クイーンズ・ギャンビット』とか『ファーゴ』、ゲームはOculus Quest2で「Lies Beneath」に夢中です。とにかく時間が足りないです(笑)
──受賞していただいたのが7年前です。さらに今から7年後は、どんなイメージを想定されていますか?
小池 7年…。生きていたら(笑)どこかの版元で描かせてもらってると思いたいですが、そうじゃなくても、何かは描いてると思います。
とにかく描きたい事がまだまだあるので、その時にどういう媒体があるのか分かりませんが、SNS的な何かか、YouTube的な何かか、発表の場所があればそこで頑張っていたいです。僕は映画が好きなので、これまでは描いてきた作品は短い話数のものが多かったんですけど、キャラクターが活きる長編を描くことも考えています。
【小池ノクト先生からのお知らせ】
現在、秋田書店さんのマンガクロスで『シリアルキラーランド』という連載をしています。企画をもらってから、すごく長い間試行錯誤してシリアルキラーに関する面白い角度を見つけたと思ってます。あとはそれをうまく表現出来たら…と頑張っています。
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