様々な人に「推し」や「推し活」について語ってもらう「推し問答!~あなたにとって推し活ってなんですか?」、第9回のゲストは、「無駄づくり」で知られる発明家の藤原麻里菜さんです。なお、この記事は後編になります。
取材&文/藤谷千明 撮影/佐野円香 題字イラスト/えるたま
「パチコーン」とK-POPの世界に魅了された藤原さん。「推すこと」や「消費」に疑問を持つようになり……。けれど、すぐれたビジュアルや楽曲やパフォーマンス、ステージの上や画面の中のエンターテイメント「だけ」を楽しむことなんて、このSNS時代において不可能だと私は思っています。だって「オーディションを勝ち抜いてきた物語」や「本人のSNSやファンクラブやメッセージで公開される姿」を含めて「推す」ことが推奨されているように見えます。握手会の接触が負担になる推しもいれば、SNSでの勝手な解釈や考察が負担になる推しだっているでしょう。そこをいくら想像したところで、推しの心の中はわかるわけではない(わかると思っているほうが正直怖い)。
そして、誰もが発信できる時代だからこそ、「推す側」が「推される側」になることもあります。藤原さんだだってある意味「推される側」でもありますし、正直、私(藤谷)レベルでもメディアやネット上の発言を拡大解釈され、変に消耗してしまうことがあります(それを「消費」されると呼んでいいかは別の話)。推しも人間ですし、ファンだって人間だもの。推し活によって心身が揺らぐこともある。人間ってむずかしいですね……。
前編はこちらから
【1人目:ジャニーズオタク松本美香さん】「あの頃の未来にオタクは立っているのかな」
【2人目:仮面推し活経験者 野田春香さん】「時にオタクは推しを隠してた Because I love you」
【3人目:メンズ地下アイドルオタク Kさん】「推しとオタクとドラマと部活」
【4人目:芸人オタク 手条萌さん】「Chu! ワーキャーでごめん」
【5人目:Vtuberオタク Wさん】「健康的なオタ活ですわ皆様方〜!」
【6人目:ホスト好き 佐々木チワワさん】「消費社会とぴえんの報道」
【8人目:2.5次元好きの臨床心理士 笹倉尚子さん】「オタクなカウンセラーに推し活をまじめに語ってもらってみた」
私のことを、ミヒャエル・エンデの『モモ』に重ねているファンの方がいたんです
藤谷千明 前編は、どこまで推しを「消費」していいのか? という境界線の話をしていました。
藤原麻里菜 私はお笑い芸人をやっていた時期もあり、その頃に「芸人」という言葉には、「芸」と「人」があると聞かされていたんです。「芸」ではなくて「人」についているファン、「この芸人さんは誰と仲がいい」みたいな感じで見ているファンも多いと。
藤谷 芸を見ずに人ばかりを見ているファンを指す「ワーキャー」という言葉もあるそうですね。(参考記事:第4回・ゲスト手条萌さん)ですが、そもそも「人」がいないと「芸」は生まれないですよね。それに、YouTubeなんかでも芸人さん自ら「人柄」や「関係性」をお出しされているわけで。どこまでが「人」でどこまでが「芸」なのか、線引きが曖昧になっているような。
藤原 漫才やコントの「面白さ」を売っているけれど、そこにある「優しさ」だったりに惹かれる人もいるんじゃないかなと思って。
藤谷 そこは切り分けることは難しい。藤原さんは現在もYouTube登録者数、SNSフォロワーが数十万人を抱える、いってしまえば「推される側」でもありますよね。ファンの方とコミュニケーションをする上で、何か感じることはありますか?
藤原 私のファンだという方に声をかけられたことがあって、その人は「感激です!」と、声や手も震えているくらい緊張していらして……。
藤谷 「好き」が伝わってきますね。
藤原 嬉しいことのほうが多いのですけど、SNS上では「理想の私」を作り上げていて、なにか意にそぐわないことをした途端、「藤原さんはそんな人じゃないはず!」と言ってくるようなファンの方も稀にいて……。
藤谷 あらら、ご本人との「解釈違い」が発生してしまっている。
藤原 私のことを、ミヒャエル・エンデの『モモ』に重ねているファンの方がいたんです。
藤谷 ああ、「無駄」を作るということで、「時間」を取り戻す的な……?
藤原 はい、だから私がその人の考える「時間どろぼう」的なインフルエンサーと共演すると「アナタはモモなのに!」みたいな。
藤谷 思うのは自由ですが、それを直接伝えられても、困ってしまいますね。
藤原 そういった「解釈」が加速してしまわないように、「違い」を埋めるためにさらにコミュニケーションが必要になってしまうんですよね。
藤谷 私ですら「アナタはこうだ」と勝手に決めつけられたリプライを送られて、「は?」と思うことはあるので……。前編で触れた「人となり」の話の延長線上にあるとは思うものの、「ファンが心の内で作り上げた推し像」は、自分や仲間内でとどめておくうちはいいけれど、本人にまでぶつけてしまうと……。
藤原 そこまでのケースはレアですが、ほかにも「藤原さんのラジオを聴いたけど不機嫌だった」だとか、「ダルそうに喋ってる」みたいな感想を見ると、私自身は楽しく喋っていたつもりだったのにな……と。それは推しグループに対しても同じで、「メンバーの◯◯、今日なんか怒ってなかった?」みたいな感想を言ったり、SNSに書き込んだりする人もいる。そういう人ってたいてい嬉しそうじゃないですか。
藤谷 嬉しいと思いますよ。私も昔、好きなバンドのライブを見て「今日は誰々(メンバー)、なんか機嫌悪かったね」なんて、相手のことを分かった風に言ったこと、心当たりあります。「推しの細かな変化に気がつける自分(※あくまで自分の中での話です)」であると言いたくなる気持ちもわかります。当時はSNSがないから本人の目に触れる可能性は少ないとはいえ……。推す側と推される側の「解釈」問題も、むずかしいですね。
寝食を忘れて『ときメモGS』に没頭し続けた結果、推し疲れの状態に
藤原 色々なことが積み重なった結果なのか、しばらくK-POPからも離れて、『ときメモGS』の新作をひたすらやっていたんですよね。
藤谷 『ときめきメモリアル Girl’s Side 4th Heart』を? つまり、二次元に出戻りを?
藤原 去年のGW中、寝食を忘れる勢いで攻略していました。
藤谷 すっかりはばたき市(『ときメモGS』の舞台)の住民に……。
藤原 そしたら、攻略した後は何も興味が湧かなくなって。本も読めなくなって、散歩もできないくらいに。
藤谷 そ、それは大丈夫……、じゃないですよね。
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