推し問答!【1人目:ジャニーズオタク松本美香さん前編】「あの頃の未来にオタクは立っているのかな」

様々な人に「推し」や「推し活」について語ってもらう「推し問答!〜あなたにとって推し活ってなんですか?」、第一回のゲストはお笑い芸人・ラジオパーソナリティの松本美香さんです。なお、この記事は前編になります。

私が松本さんのことを知ったのは、『ジャニヲタ 女のケモノ道』(双葉社)というエッセイ本でした。「女性オタク」の存在が今よりもずっと世間から見えてなかった時代、いってしまえば「いつかはアイドルへの疑似恋愛を卒業して〈本物の〉恋愛をすること」という圧すら感じられた時代に、あっけらかんとオタクとしての自分や仲間との日常を、そしてアイドルへの愛情をユーモラスに語るさまに、すっかりファンになってしまったのでした。ちなみに、私が「推し」という言葉を知ったのも、この本に収録されていたハロー!プロジェクトのオタク男性との合コンエピソードからです。

さて、あれから十数年、メディアはすっかり「推し活」で盛り上がっています。朝の情報番組ですら「推しがいると人生が楽しい!」なんて、推し活を推奨しているくらいですわよ。いつのまにやら!(まあ、その恩恵を私も仕事という形で受けているわけで……、この企画も「推し活ブーム」じゃなければ成立しなかったわけですが……)

そんなわけで、かつては「女のケモノ道」だったオタクという道も、随分ときれいに舗装されてきたように感じます。そしてきれいになったからこそ、良くも悪くも見えやすくなったものも増えたかもしれません。SMAPの名曲『夜空ノムコウ』じゃないけれど、あのころの未来に私たちは立っているのでしょうか? オタクの先輩(と、私が勝手に思っている)松本さんに、じっくりお話を聞いてみたいのです。

 

取材&文/藤谷千明  題字イラスト/えるたま  写真提供/松本美香

 

あなたにとって推しってなんですか?

 

藤谷 本連載、この記事が第1回になります。そして恒例の質問を考えておりまして。サブタイトルにちなんで「あなたにとって〈推し〉ってなんですか?」です。

 

松本 う〜ん、「空気」や「酸素」のようなものかもしれませんね。

 

藤谷 SNSを見ていても、「推しは酸素」とおっしゃる方は多いですね。どうしてそう思われるのか、お伺いしてもいいですか? ちなみに本連載は、基本的にジャンルは公表、現在の「推し」の名前は非公表でいく予定です。

 

松本 私は「ジャニオタ」なので「自担」という言葉を使わせてもらいます。かれこれ10年以上ファンをやっていた自担が、昨年長期休養を発表したんです。幸い、すでに復帰もしているのですけど。

 

藤谷 それはご本人も、ファンの方も大変だったでしょう。

 

松本 長年応援していると、最初の頃の新鮮さを失いつつあったというか……。レギュラーのテレビ番組やラジオ番組も、録画・録音はするものの、ながら見や、ながら聴きしちゃうこともあって、「毎週自担のレギュラーがある」ということって、本当はすごくありがたいことのはずなのに。ちょっと「サボっていた」じゃないですけど、なんとなく片手間というかルーティンワーク化してしまっていたんですね。

 

藤谷 片手間だったとしても毎週チェックしているだけで、ものすごい愛ですよ。そもそも「サボっている」という感覚が、推し活が日常になっているという証というか。

 

松本 それがある日、友達とLINEしながら聴いていた生放送のラジオで、真面目な声で「あの……、実はお休みします」という声が耳に入ってきてからは、LINEどころではなくなってしまって……。

 

藤谷 ああ……。

 

松本 そこから、体調が悪くなりまして(苦笑)。左足に湿疹ができたり、何を食べてもご飯の味がしなくなったり、息苦しくなったりして「コロナか?」と疑うくらいに。

 

藤谷 身体の健康にまで響いてしまった!

 

松本 まさか、こんなにしんどくなるとは思わなかった(笑)。なので自担には本当に、元気でいてくれるだけで、もう生きてるだけで嬉しいです。なので、「推しとは?」と言われますと、マジで空気や酸素の域なのかなと。

 

藤谷 その「空気や酸素」レベルの、推しの魅力はどこにあるのでしょう? 『ジャニヲタけものみち』でジャニーズの魅力は顔だけではないと書いていらっしゃいました。コンサートやメディアなど、表舞台から見えるかぎりの人柄も含めてファンになっているということですよね。

 

松本 そうなんです。私がファンになったきっかけが、別ユニットのコンサートにゲストで出てきた自担が、場を盛り上げるためにダジャレを言ったんですね。それで見事に滑ってしまって(笑)。それでもずっとニコニコしていて、「なんてハートが強い人なんだろう」と気になり始めたんです。

 

藤谷 ちょっとした言葉や振る舞いから好きになってしまうこと、ありますよね。もちろんパフォーマンス技術や磨き抜かれた容姿を観ていないわけではないのですが。

 

松本 長いことジャニオタをやっていると、もちろんジャニーズショップで写真を買ったりするのですが、家に帰ってまじまじと眺めるというよりは、揃えることで満足してしまうというか、快感を覚えるというか。だから「空気や酸素」じゃないけど、「(写真が)揃ってないとなんだか気持ち悪い」みたいな。いろんなグループやジャニーズJr.が出てきても、10年以上、ずっと一番の推しはその人なので。

 

一番最初にファンになった男性芸能人がシブがき隊のモッくん

 

藤谷 今の推しの方以前、松本さんの推し活遍歴もお伺いしたいです。ご著書『ジャニヲタ 女のケモノ道』ではシブがき隊のモッくん(本木雅弘)からとんねるず、光GENJI、バンドブームや渋谷系などにハマったあと、再びアイドルへ……といった流れが紹介されていました。

 

松本 一番最初にファンになった芸能人は、原田知世さんなんです。当時は角川映画全盛期でミーハーなんですけど(笑)、最初に買ったシングルは『時をかける少女』です。たしか600円くらいのEPレコードで、お小遣いを貯めて買ったのを覚えています。初めて握手会に行ったのは菊池桃子さんですね。デビュー初期から好きで、握手会も3回くらい足を運んだと思います。

 

藤谷 子供の頃から、すでに握手会にも参加されていらしたと。ファンの鑑ですね。

 

松本 そして、男性の芸能人で最初に好きになったのがシブがき隊のモッくん(本木雅弘)ですね。このあたりのグッズはまだ実家にありました。(様々なグッズを手元に並べてくださる松本さん)

藤谷 84年の『シブがき隊 スクールダイアリー』というノートを見せていただいております。

松本 この頃、デビュー3年目を記念してシブがき隊が全国をヘリコプターで回るイベントを開催したんです。朝から広島、福岡、神戸など日本列島を縦断するイベントで。それに参加したことをよく覚えています。ヘリコプターでやってきて、数曲歌ってファンに見送られながら、また次の場所へ飛んでいくという(笑)。

藤谷 それは景気がいいというか、すごい時代ですね。

 

松本 その後『夕やけニャンニャン』(85年・フジテレビほか)が始まった頃にとんねるずにハマるんです。それこそタカさん(石橋貴明)がブランドショップを出して1日店長をやると聞けば、長蛇の列に並んで見に行きました(笑)。

 

藤谷 80年代はタレントショップブームですもんね。東京・原宿にタレントショップが乱立していたと聞きますが、東京に行ったのですか?

 

松本 私は関西在住なので、心斎橋ビブレですね。お店でお買い物して、タカさんと握手をしてもらった記憶があります。でも、あんなに「タカさん、タカさん」なんて言ってたのに、突如現れた光GENJIのセンセーショナルさにやられてしまい……。アッくん(佐藤アツヒロ/当時の芸名は佐藤敦啓)です。もう、ブームに乗りまくってて恥ずかしいんですけど、その後に今度はバンドブームがくるじゃないですか……(笑)。

 

藤谷 大変気持ちのいいミーハーぶりで、お話を伺っていて楽しいです。きっかけはどのバンドだったんでしょうか。

 

バンドブーム→渋谷系→そしてSMAP、ジャニーズアイドルに出戻る

 

松本 筋肉少女帯ですね。大槻ケンヂさんが『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)のパーソナリティをやっていて。先程も話したように関西人なので、当時は『ブンブンリクエスト(OBCブンブンリクエスト・ラジオ大阪)』や『ヤンタン(MBSヤングタウン・MBSラジオ)』を聴いて、ちょっと夜ふかしして『オールナイトニッポン』に移動する……みたいな。

 

藤谷 深夜ラジオがカルチャーの情報源だった時代ですね。

 

松本 ラジオから「大槻さんって面白いな」と興味を持って筋肉少女帯を聴き始めた頃、クラスの友達にTHE BLUE HEARTSのCDを貸してもらったりして。大学入った段階ぐらいで言ったらJUN SKY WALKER(S)、ユニコーン、レピッシュとか、まさにバンドブーム。そこからわーっといろんなバンドに夢中になって、アイドルから離れるというか、ちょっとバカにするようになるという(苦笑)。

 

藤谷 一応、ご存じない読者の方に説明をしますと、そういう風潮は少なくとも90年代くらいまではあったんです。恥ずかしながら、私も高校生の頃、アイドルのことを「自分で曲作ってない」「事務所のいいなり(※個人のイメージです)」みたいな理由で「下に」見ていたことがあります。

 

松本 いうてバンドかてね、一年のうちに何枚CD出さなあかんとか決まっているはずなのに(笑)。

 

藤谷 謎の選民思想、ありましたよね(笑)。こういう感覚は今でもあるのでしょうか。そして、著書によると、そこから渋谷系を経て、そしてSMAP、ジャニーズアイドルに出戻るという。

 

松本 あんなにバカにしていたアイドルに……。SMAPは「登場の仕方」が違ったんですよ。

 

藤谷 登場の仕方?

 

松本 今まで自分が思っていたジャニーズアイドルのそれとは違っていたんです。出戻ったのも、稲垣吾郎さんが『Olive』(マガジンハウス)に載っていたんですね。当時フリッパーズギターのファン。いわゆる「パーフリスト」だった私としては、「Oliveに載っている=オシャレ=SMAPはオシャレ」とすり込まれるというか。

 

藤谷 アイドル誌か、ファッション誌かの違いは大きかったと。これはですね、アイドル誌がダメというわけではまったくないのですが、当時はそういうところの「違い」は今より強かったのは私も覚えています。

 

松本 そういう意味ではハードルは低かったですね。「あ、私前からここにいましたよ〜」みたいにスッと戻れたというか(笑)。

 

藤谷 ファッション誌にも出ているし、バラエティもできるしみたいな、いろんなアプローチをするSMAPという存在はアイドルの中でも大きな転換点だったと思います。

 

松本 かなり変わったと感じました。SMAPのコンサートに行くと、いわゆる「親衛隊!」ではないタイプの人も多くて。私も、今思うとすごく恥ずかしい話なんですけど、そういう幅広い活動を入り口にしてSMAPのコンサートに来るお客さんもいると思って、当時私はコム・デ・ギャルソンを着て全身真っ黒でコンサートに行っていたんです。「ちょっと私は他のジャニーズファンと違うのよ」みたいな(笑)。

 

藤谷 そこでも選民意識が! でも気持ちはわかります。光GENJIのブームが終わったあと「アイドル冬の時代」と呼ばれていた時期もあるじゃないですか。その頃は今でいう「オワコン」みたいな空気があったというか……。

 

松本 その頃のファンの人は本当に大変だったんじゃないかと思います。そうそう、光GENJIのファンを辞めるときに、持っていた大量のグッズや切り抜きを手放してしまったことがあるんです。譲ったんですけど。

 

藤谷 著書でも「またハマるんだから、とっておけばよかった!」と後悔するエピソードになっていましたね。いわゆる「お譲り」に出したのですね。

 

松本 地元のタウン誌の募集欄みたいなところを見ていたら「光GENJIのものならなんでも欲しいです」という募集があったので、「グッズ全部あげます」と連絡をしたんです。その後、最寄り駅で待ち合わせをすることになって、「どんな人が来るんだろう? 年下かな?」とか思っていたら、やってきたのが女子大生のお姉さんだったんです。子供心に「女子大生にもなってジャニーズ好きなんだ!」と驚いたことをよく覚えています。

 

藤谷 バブルの頃ですよね、「大学生になったら現実の彼氏を作ってデート……」みたいな時代だったのではないでしょうか。トレンディドラマの世界のような。

 

松本 まさにそうでした。そのお姉さんも「大学では絶対に(ジャニーズが好きなことを)言えない」と話してくれました。

 

藤谷 むしろ今は大学の食堂に行くと、みんな推しの話題ばかりという学生さんの話も聞いたことがあります。「バブルの頃は(景気が良くて)よかった」という方も多いですが、何かのファンをやるには息苦しい時代だったのかもしれません。そういった空気もSMAPあたりから徐々に払拭されたのでしょうか。

 

松本 そうですね、それに大人になってもアイドルを好きと言いやすくなったのは、テレビドラマの影響もあるかもしれませんね。タッキー(滝沢秀明さん)と松嶋菜々子さんの『魔女の条件』(99年・TBSほか)や『きみはペット』(03年・TBSほか)など、「年下の男性を素敵だと言っていい」みたいな風潮も生まれたというか。

 

藤谷 ほかには『anego-アネゴ-』(05年・日本テレビほか)もありましたね。なるほど、ジャニーズアイドルのドラマが時代を変えていったといえるかもしれません。その後、松本さんはずっとジャニーズのオタクをされているのでしょうか。

 

松本 そうなんです。恥ずかしながらSMAP→KinKi→ジャニーズJr.と、「ついバックで踊っている子にも目がいってしまう」というジャニオタあるあるでサクサク降りまして(笑)。完全に余談ですが当時関西Jr.だった渋谷すばるさんのファンになりJr.ファンとして念願の『自担のデビュー』を経験、「無事に巣立つのを見送った親気取り」でゆるオタになりつつあった頃に今の自担を発見!という流れです

 

藤谷 松本さんのオタク遍歴を伺うだけで、なんというか時代の移り変わりを体感できた気がします。

 

松本 しかし、ここからどうなっていくのでしょうね。先程、SMAPが出てきたおかげでオタクとして生きやすくなったという話をさせてもらいましたけど、ネットやSNSができてから「私一人じゃないんだ!」とオタクを公言しやすくなったじゃないですか。さらに「推し活」ブーム的なこともあって、さらに公言しやすくなったし、今や、300円均一のお店で「うちわケース」みたいな推し活グッズを手軽に買うことができるという、すごい時代ですよ。

 

藤谷 外資系CDショップも推し活グッズを売っているのを見たときは驚きました。90年代では考えられないなと。

 

松本 そう! 思い出したんですけど、昔心斎橋の外資系CDショップでジャニーズのCDを予約しに行ったんですけど、店員さんに「あの……、ウチは外資系CDショップなんで(ジャニーズは取り扱っておりません)」という態度をとられたんですよ(笑)。それが今になって「推し活応援してます〜」だなんて「何じゃこら、こっちは根に持ってんねん」なんて(笑)。

 

藤谷 あんなにスカしていたはずなのに! と、いいつつ、私は外資系CDショップの推し活グッズ買いましたけど。便利ですよね(笑)。

 

【後半につづく】

松本美香(まつもと・みか)●1970年、兵庫県生まれ。お笑い芸人、ラジオパーソナリティー。
著書に『ジャニヲタ 女のケモノ道』(2007年・双葉社)がある。他テレビや雑誌コラム、DAIHATSU心斎橋角座を中心に舞台でも活躍中。レギュラーラジオ→「JAM×JAM」(ラジオ関西)毎週日曜22:00~24:00、「hanashikaの時間。」(ラジオ大阪)毎週月曜18:00~19:45

 

藤谷千明(ふじたに・ちあき)●1981年、山口県生まれ。フリーランスのライター。
高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後多くの職を転々とし、フリーランスのライターに。ヴィジュアル系バンドを始めとした、国内のポップ・カルチャーに造詣が深い。さまざまなサイトやメディアで、数多くの記事を執筆している。近年はYoutubeやTV番組出演など、活動は多岐にわたる。著書に 『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)。共著に 『アーバンギャルド・クロニクル「水玉自伝」』(ロフトブックス)、 『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミュージック)などがある。 Twitter→@fjtn_c

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