推し問答!【2人目:仮面推し活経験者 野田春香さん前編】「時にオタクは推しを隠してた Because I love you」

様々な人に「推し」や「推し活」について語ってもらう「推し問答!~あなたにとって推し活ってなんですか?」、第2回のゲストは編集・ライターの野田春香さんです。なお、この記事は前編になります。

 

取材&文/藤谷千明  題字イラスト/えるたま

 

野田春香さんは、『CLASSY.』(光文社)や『ESSEonline』(扶桑社)など、女性ファッション雑誌やWEBメディアの記事を手掛けているフリー編集・ライターです。彼女の手掛ける企画はユニークなものが多く、SNSで「この着回し記事おもしろい!」とバズっているものは、私の知る限り結構な確率で野田さんの手によるものだったりします。(みんな〜そういうのはスクショだけじゃなくてURLも貼ると嬉しいで〜す! ライター・編集者からのお願いで〜す!)単純なモテだけじゃない、恋だけじゃない、ファッションと女性の人生は多様である、そんな暖かな視線を感じました。

気がつけば、ファッション誌でも「推し活」がフィーチャーされる時代になり、私のツイッターでとある雑誌の推し活特集のコピー「推しのために可愛くなる」を紹介したところ、めちゃめちゃバズってしまい「推しのために可愛くなりたい、わかる!」から、「推しのためじゃない、自分のためだよ」「この取り上げ方はズレている」的な賛否両論に。

 

 

ファッション誌の編集・ライターである野田さんも「誰かを推すことをオシャレ文脈に介入させることは昔は考えられなかった」と言及してくださいました。その一方で「推しのいない人は苦しくなるのだろうか」とも。

 

 

そして、ツイートをみていると、野田さんはGLAYのファンであるいうことを知りました。また「まわりの目を気にして、GLAYのファンだと言えなかった」時期もあったそうです。第1回の松本美香さんの取材でも感じましたが、「推し活ブーム」以前は「なにかのファンであること、オタクであることを人に言えない」なんて空気があったはず。今もあるのでしょうか? ちなみに私は隠したところですぐバレるタイプなので、早々にあきらめて孤独な青春を送っていました(オタクであることと関係ない、生来の性格の問題も大きいのですがね!)。

そんな、私と正反対(?)な、「隠れオタク」だった野田さんの話を聞いてみたい。そう思って、オファーをしました。

 

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「時にオタクは推しを隠してた Because I love you」

 

藤谷 最初の質問は毎回同じなんです。あなたにとって「推し」とはなんですか?

野田 「ご飯と味噌汁」ですね。

藤谷 その心は?

野田 私は中学生の頃からGLAYが大好きなんです。普段は意識して「ご飯と味噌汁を食べに行こう!」とは思わないけど、海外旅行から帰ってきたときなんかに「やっぱりご飯と味噌汁が一番美味しいな」みたいな感覚、ありませんか?

藤谷 わかります。私は黒夢やLUNA SEAが好きなので、やっぱりなにかあると10代の頃から好きな黒夢やLUNA SEAを聴くことがあります。

野田 そんな風に、仕事でくたびれているときだったり、ふとしたときにGLAYの曲を聴くと、「あ〜やっぱりコレだな!」と染み込むような感覚があるんです。

藤谷 もはや魂の故郷のような安心感があるわけですよね。

野田 「そばにあるもの」ですね。

藤谷 しかもGLAYは解散やメンバーチェンジもせずに、ずっとGLAYであり続けてくれる。安心感が半端ない気がします。中学生の頃からGLAYのファンということは、「推し」歴はずっとGLAYですか? (ちなみに、第1回でわたくし「現役の推しは伏せる」と言ってたはずなのですが、今回は公開します。言わなきゃよかった!)

野田 「ずっと好き」という意味ではGLAYくらいなんですけど……。

藤谷 「なんですけど」?

野田 「クラスの皆と話を合わせるための“推し”」がいたこともあったんです。

藤谷 なるほど、学生時代「クラスの好きな男子」の話をしないと女子の輪に入れない、みたいなことがありました。それの「推し」版ということですね。

野田 中学生になると、皆がアイドルやバンドのことを好きになるじゃないですか。皆その話で盛り上がってる。それを横目に「どうやら“誰かを好き”って言えないと、話についていけない」と気づいたんです。今考えると本当にダサいんですけどね(苦笑)。

藤谷 ダサいというか、中学生ってそういうものじゃないですか。

野田 で、「何かを好きにならないと」と、当時流行っていた映画『タイタニック』(1997年公開)のレオナルド・ディカプリオを選んだんです。それが初めての「推し」ですね。

藤谷 レオ様(当時のメディア上でのレオナルド・ディカプリオの愛称)大人気でしたもんね。他にはブラッド・ピットかブラッド・レンフロか、みたいな。映画がお好きだったんですか?

野田 もちろん、好きは好きだったんですけど、他にも理由があって。当時のファッション雑誌の読者コーナーを見ていると、ファッションが好きなのは当たり前、じゃあ次は? と、第2言語のように好きなアイドルや俳優の名前が書いてあったんです。そこでレオナルド・ディカプリオの名前をあげている人がたくさんいたんですよ。

藤谷 つまり……「ファッション雑誌を読んでいるようなオシャレな人が好きな俳優なら、クラスの皆に言っても大丈夫」という保険があったという理解でよろしいでしょうか。その気持ち、すごくわかります。ちなみにどのあたりの雑誌を愛読されていたのでしょうか?

野田 『CUTiE』(宝島社)と『プチセブン』(集英社)です。

藤谷 個性を大事にしたいけど、尖りすぎていないチョイスですね。そこからGLAYに出会って夢中になるというのは、こういってはなんですが、すごく自然な流れですね。

 

大好きなGLAYとの出会い、そして仮面推し活へ

 

野田 GLAYと出会ったのは、『GLAY EXPO ’99 SURVIVAL』の頃ですね。テレビでGLAYの「グ」の字を聞かない日はないくらい、毎日のようにGLAYがテレビに出ていたんです。

藤谷 私もそのライブ、行きたかったのですが、当時は地方在住で悔し涙を流していました。

野田 私も子供だったので、現地には行けませんでした。

編集・K(notオタク) 私、行きました。

藤谷 えっ? GLAYのファンだったんですか?

編集・K いや、たしか友達に誘われてグループで……。こうディズニーランドに行くような感覚で行きました。

藤谷 レジャー感覚! さすが「エキスポ」という名前だけある。まさに、社会現象ですね。

野田 そんな時代でしたよね。そこから22年。途中で「ファン」って言えなかった時期もあるんですけども。

藤谷 なにかあったんですか? 楽曲が自分の好みと合わなくなったとか?

野田 いや、それがですね……。高校2年になって、こないだまではクラスの皆はラルクやGLAYの話をしていたはずなのに、今度はHi-STANDARDや浜崎あゆみの話ばかりして、誰もGLAYの話をしなくなっていたんですよ。

藤谷 気がつけば、メロコアバンドとエイベックス歌姫の時代に!

野田 ちょうどその頃、初めての彼氏ができたんです。それで「私、GLAYが好きなんだ」っていうと、「え…そうなんだ…」みたいな冷めた返しが来たんですよ。それがショックで。彼はアユ(浜崎あゆみ)が好きだったんです。その彼氏とは別れて、夏にまた新しい彼氏ができたときも、「GLAY“なんか”好きなの?」と言われてしまって。

藤谷 「GLAY“なんか”」はいただけないですけど、高校生だと配慮がないのも仕方ないところはありますよね。でも、野田さんが傷つくのもわかります。というか、1年で彼氏が2人もできるなんて、いいなぁ(素直な感想)。絵に描いたような青春を送られて……。

野田 私、中学時代はモブキャラだったので、「高校に入ったら変わらなきゃ!」とクラス上位のギャルグループに入れるように頑張ったんです。

藤谷 いわゆる「高校デビュー」に成功したんですね。

野田 せっかく中学時代のしがらみから解放されて、皆とうまくやれているのに、その場所に居続けるためには「GLAYが好き」って言っちゃいけない気がして、皆と同じようにアユを聴くようになったんです。そこから社会人になるまでずっと、あんなに好きだったGLAYのことは一旦手放して、アユのファンをやってました。上辺のファンかもしれないけど、曲を全部覚えて、当時カラオケではアユしか歌わなかったですし。

藤谷 それはそれで「上辺」なんかじゃないですよ。普通に「好き」じゃないとできないことですよ! そこは自信を持ってほしいです。では、その後「GLAYが好き」と素直に言えるようになったのはなぜでしょう?

 

『小悪魔ageha』編集部で出会ったラルク好きギャルに勇気をもらった

 

 

野田 社会人になって、『小悪魔ageha』(※野田さん在籍時はインフォレスト刊)というギャル雑誌の編集部で働くことになりました。

藤谷 私はギャルではないのですが、『小悪魔ageha』は大好きです。既存の概念にとらわれず、メイク盛り盛りな一方で、『セーラームーン』のコスプレ記事が載っているだとか、「好きなものは好き」というスタンスですよね。

野田 そこで出会った同僚が、すごくギャルかつ、L’Arc~en~Cielが大好きだったんです。しかもそれを一切隠してない。「大好きなものを大好きといって何が悪いの?」って感じで、その強さをかっこいいと思ったんです。彼女が「私はラルクが好きなことを誇りに思っているし、GLAYもいいよね」と言ってくれて、その瞬間とても救われた気持ちになったんです。それ以降ですね、好きなものを好きだと言えるようになったのは。安心してGLAYを好きと言える環境が用意されたとわかると、手放した気持ちは簡単に戻ってきて、あぁやっぱGLAY好きだなって思いました。

藤谷 いい話ですね〜。そして、その数年を経てもGLAYがしっかり活動してくれているありがたさ……。

野田 まさにご飯と味噌汁ですね。

藤谷 ちなみに、あゆとGLAY以外にハマったものはありますか?

野田 これもまた、周りを意識した理由から生まれた「推し」かもしれませんが、『小悪魔ageha』の編集部を経て、フリーランスになったんですけど、フリーになってから、さらに自分自身の個性というか、「野田春香という編集者は何者なのか」ということを問われるようになったと感じたんですよ。「ファッション好き、ギャル誌育ちです」以外に、自分自身を紹介できるカードを何も持ち合わせていなかったことに気がついたんです。そこから「なにか自分自身を紹介できるものを」と、推しや趣味を探していた時期があったんです。

藤谷 なるほど。野田さん、仕事熱心ですよね。

野田 そこで、羽生結弦選手の大体的なブームが起こる少し前くらいかな? まだ羽生選手が出演するアイスショーのチケットも取れたんです。それで友達と観に行ったらすごく面白くって、フィギュアスケートを追い始めました。フィギュアスケートはクラシック音楽と切っても切れないくらい深い関係がありますよね。子供の頃にピアノを習っていたこともあって、クラシックも再び聴くようになり、コンサートに行くうちに好きなピアニスト(反田恭平さん)にも出会って……。そうしているうちに、「ファッションが好き」「ギャル雑誌育ち」「GLAYが好き」「アユが好き」「フィギュアスケートが好き」「クラシックが好き」といった「自分自身を説明する言葉」が増えていったんです。

藤谷 「好きなもの」同士を掛け合わせることもできますし、本当に「人生を豊かにする推し活」ですね。

野田 もちろん、好きは好きですけど、もしかしたら「編集者・ライターとしての野田春香」を形成するために作った推しかもしれないです。

藤谷 いや、でも人間や人生を作るものって、そういうきっかけも多いと思いますよ。

野田 「どう生きたいか」みたいな。

藤谷 そうです。自分を貫くことも大事ですけど、そうやって周りと関わることや、空気を読むことで生まれる「好きなもの」ってあると思うんですよね。そこから形成される自己もあるはず。ちなみに私は、初めてできた彼氏の車で、空気を読まずに本人がまったく興味のないヴィジュアル系を流した結果、軽くケンカになったことがあります(笑)。貫きすぎても良くないです、後悔はしてませんけど!

 

【後半につづく】

 

野田春香(のだ・はるか)● エディター、ライター。大学時代からフリーでビジネスムック等のライター経験を積み出版社に就職。女性ファッション雑誌の編集部員を経て現在はフリーランスの編集・ライター、脚本家として活動中。『CLASSY.』(光文社)、『MORE』(集英社)、『姉ageha』(medias)、『ESSEonline(扶桑社)』のファッション企画や読み物企画を担当しているほか、映像作品の脚本、CMの台本執筆も行う。Twitter(@harukanoda0329)。note(noda0329)でエッセイ「GLAYが好きって言えなかった」連載中。

藤谷千明(ふじたに・ちあき)●1981年、山口県生まれ。フリーランスのライター。
高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後多くの職を転々とし、フリーランスのライターに。ヴィジュアル系バンドを始めとした、国内のポップ・カルチャーに造詣が深い。さまざまなサイトやメディアで、数多くの記事を執筆している。近年はYoutubeやTV番組出演など、活動は多岐にわたる。著書に 『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)。共著に 『アーバンギャルド・クロニクル「水玉自伝」』(ロフトブックス)、 『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミュージック)などがある。 Twitter→@fjtn_c

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