推し問答!【3人目:メンチカオタク Kさん前編】「推しとオタクとドラマと部活」

様々な人に「推し」や「推し活」について語ってもらう「推し問答!~あなたにとって推し活ってなんですか?」、第3回のゲストはとある成人女性のKさんです。なお、この記事は前編になります。

 

取材&文/藤谷千明 題字イラスト/えるたま

 

……誰? はい、こう思った読者の方も多いと思います。Kさんは友人です、私の。うん、本当に誰だよ。

この連載を始める前から、「名前を出して活動している人だけに取材をするのはやめよう」と考えていました。「様々な人」に語ってもらうというコンセプトなので、様々な事情で名前を出すことができなかったり、一般の人にも話を聞きたいな、と。まあ「オタク」はそうでない人のことを「一般人」と呼びがちなので、ここでいう「一般」とは「メディアに出ることをお仕事にしてない人」くらいのニュアンスです。

Kさんはエンタメ系のマネジメント仕事をしており、オタクとしてはインディペンデントなフィールドで活動しているダンス&ボーカルグループ(いわゆるメンズ地下アイドル)をかなりの勢いで応援している女性です。

メンズ地下アイドル、略して「メンチカ」、最近よく耳にしますよね。とくによくない意味で。とある警察署が名指しで「(メンチカ推し活きっかけで犯罪に巻き込まれないように)気をつけて」とアナウンスしたという報道もあり、他のジャンルを推すオタクからも「アレはよくない」「アレと一緒にされなくない」といった空気を感じます。そして、今一番元気を感じるのも、(広義の)「メンチカ」オタクのように感じます。「推し」という言葉の意味が広がったように、「メンチカ」もピンからキリまでありそうです。それでは、現在「メンチカ」を元気いっぱいに推している人の声(※あくまで一例)を、お届けしたいと思います。

 

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推しは光。「光ってるな〜」と思ったら、すぐいっちゃう

 

 

藤谷 あなたにとって「推し」とはなんですか?

 

Kさん 光です(即答)!

 

藤谷 随分と早かったですね。

 

Kさん もうね、寄っちゃうんですよ。輝いているから。「あ〜! 光ってる!」って……。

 

藤谷 待ってください。「光」というのは、「人生を照らしてくれる光」だとかそういう意味ではなく?

 

Kさん 虫の方です…「光ってるな〜」と思ったら、すぐいっちゃう。

 

藤谷 誘蛾灯的な。

 

Kさん ですね…。人生という夜道にある街灯みたいな。ひとつの存在を一生推せるわけではないし、次の光を見つけたら次に行く。

(Kさん私物のチェキ)

 

藤谷 すごく腑に落ちました。そういう「光」だと。そしてKさんは現在、メンズ地下アイドルグループを推しているとのことですが……。

 

Kさん 男性ダンス&ボーカルユニットです(即答)!

 

藤谷 大変失礼いたしました。そういう「呼び方」へのこだわりってありますよね。「ヴィジュアル系と呼ばないでほしい」的な。ちなみにメンチ……男性ダンス&ボーカルユニットにハマったきっかけは?

 

Kさん 2.5次元舞台です。近年、男性ダンス&ボーカルユニットのメンバーが2.5次元ジャンルの舞台やミュージカルに出演することが増えているんです。私自身、仕事でそっちのジャンルにも少し関わっています。ファンとしても仕事として関わっていても若手俳優の平均年齢が上がってきていて、上〜中堅が詰まっている状態だと実感しています。

 

藤谷 「若手」俳優とは、ということですね。上がひしめいていて若手がなかなか出てこれない、音楽やお笑いのジャンルでも言われることですね。

 

コロナ禍で一番伸びたのは、演者もお客さんもフットワークが軽いメンチカなのでは

 

Kさん じゃあ、元気なオタクがいるのはどこかというと、メンチ……男性ダンス&ボーカルユニットになるんですよ。

 

藤谷 もうメンチカでよくないですか。

 

Kさん はい(笑)。コロナ禍で一番伸びたのは、メンチカなのかなとおもいます。演者もお客さんもフットワークが軽いというか。舞台やバンドが公演を控えていたなか、良くも悪くもメン地下って普通にライブをやっていた。「現場」が好きなオタクはそっちに流れた実感がありますね。

 

藤谷 賛否はあると思いますが、他のジャンルがライブを控える中、男女問わず地下アイドルがライブをやっていたことで延命できたライブハウスも少なくないと、私も聞いたことがあります。

 

Kさん それに敷居が低いんですよね。最初は無料だったりしますし。好きな2.5次元舞台の推しキャラを演じるということで「どんな子なんだろ」とSNSを見たら「ライブがあります」と。ライブハウスじゃなくてステージのあるフードコートで、入場も無料だったこともあり、「仕事先の近くだな」と足を運んでみました。それにメンチカって若いお客さんが多いイメージがあったけど、そこは舞台からのファンも多かったので、大人の自分でも気後れしなかったというか。

 

藤谷 たしかに、「いくつになっても推し活してもいい」とはいいつつも、そういった会場の年齢層や空気感を私も重要視してしまうかもしれません。そういった意味では今のメンチカは色々な間口があると。

 

Kさん 2.5次元キャストもメンチカの子が多いし、大手の事務所からメンチカに降りてきたり、YouTuberもメンチカプロデュースしていたり……、オタクが元気なジャンルは通ってて楽しいんですよ。でもね……。

 

藤谷 ?

 

Kさん 実は今、推しに対するモチベーションがクッソ落ちてるんですよ…。

 

藤谷 なぜですか?

 

Kさん いっぱいあるんですけど、なかでも推しの仕事に対する意識の低さですね…。めちゃめちゃ積んだリリースや大きなライブが終わったのに、SNSを更新しないんですよ。

 

藤谷 ???

 

Kさん リリースもツアーも特典つけまくって新規のお客さんがたくさん来てたツアーだったんです。つまり今は新規に対してアピールするチャンスなのになんでそんなにやる気がないの? と、めちゃめちゃショックを受けました。だって、オリコンデイリーチャート1位もとったのに。

 

藤谷 ●●●(Kさんの推しグループ)、1位をとったんですか?

 

Kさん 知りませんよね…とりました…。

 

藤谷 不勉強なもので……。でも、近年というか、AKB48を筆頭にCDに握手券をつけてチャートを「ハック」することが常態化して以降、どこもかしこも特典をつけてCDを積み上げることで飽和してしまい、徐々に「オリコン1位!」のインパクトは薄くなっていったというか、もうデイリー1位のバリューも……。

 

Kさん あっ、私は元AKB48のオタクです…。

 

藤谷 その話も、おいおい伺わせてください。

 

男の子ってたぶん、芸能やるまで「ジャッジされる」経験が少ないからこじらせがち?

 

Kさん そう、今のオリコンチャートって上手にやったら、8000枚ぐらいで入れますもん。だからアイドル運営側も渋谷のヴィレヴァンとタワレコとHMV……、私は「地獄のトライアングルゾーン」と呼んでいるんですけど、そこでずっとリリイベ(リリースイベント)をやっています。私たちがそこをぐるぐると回ることで、売上を積み上げてチャートに押し上げるわけです。なので、今のオリコンデイリーチャートはメンチカが常連です。 ……今、「それで何が得られるのか?」って顔してますよね。

 

藤谷 すみません。しかしながら、正直そう思っています。

 

Kさん 「オリコン1位」になったことで得られるものは「オリコン1位になったという事実」のみです。だけれど、そこから何か広げることができるはずなんです。その事実からメンバーに自信が生まれるかもしれない、ファンもそれを観ると嬉しい。これまで興味を持っていなかった人たちに情報が届いて「ここは今勢いのあるグループなんだな」と思ってくれるかもしれない。私だって仕事でキャスティングするときに「この役者は■■■というグループに所属。シングルがオリコンチャート1位取得」みたいに書きますよ。業界の人だって見ている。
でも ここの運営は この「事実」を何にも生かせていなかった! 
本当にグランドデザインを描いてなかったんですよね。

 

藤谷 それはお仕事でも舞台の世界に関わるKさんならではのフラストレーションもあるのかもしれないですね。

 

Kさん そもそも私は「売れる人」しか好きじゃないんですよ。売れそうだから好きになったし、売れてほしいんですよ。

 

藤谷 「売れそう」とは?

 

Kさん 「人に愛される形をしている」って言うのかな…、もっとすごい景色を見ることができる場所に連れてってくれる期待が持てる。でも、気がつけば地獄のトライアングルをぐるぐるぐるぐる回って、オリコンに入っても運営は何もしない…。メンバーもなんでSNS更新しないの? 日々の努力についての報告もないから何をしてるのか不明だし、週に2回はオフでしたとか言ってるし…。ここで一生を終えていいの?

 

藤谷 自分たちの努力の結果が報われないということでしょうか?

 

Kさん それもあるかもしれない。でも慢心が感じられてしまってイヤだというか。「自分たちは特別だから見つけてもらえる」って思ってるのかもって感じてしまって。今って「知ってもらう」ことが一番むずかしい時代じゃないですか。SNSは無料でできる。なのに……。沢山の人に知ってもらって、今みたいに1人が100枚買うのではなく、10000人が1枚買う存在になってほしかったんです。でもメンチカって多分「売れたら儲からない」から、ここの事務所は現状維持のままなのかなって気もしてて…そうなると、「私、来年も再来年も同じようなキャパの会場にいて、同じようなことしてるのかな……」と。

 

藤谷 推し活って「未来が期待できない」とモチベーション下がるのはわかります。

 

Kさん なのに「俺たちはオタクのオモチャじゃねえ、メンチカじゃねえ」と態度に出てる時もあって……、もう! バカ、誰がどう見てもメンチカだよ! そんなの、本当に売れてたくさんの人のオモチャに値する存在になってからいいなよ! 今の段階で集まった人間をファンにできない人たちがなにを言ってるのっていう。……でも、その一方で「男の子を搾取すること」が簡単になってしまった時代だなと感じることもあって。

 

藤谷 情緒がいったりきたりしすぎている。大丈夫ですか。そして、「男の子を搾取すること」が簡単になってしまった時代かぁ……。

 

Kさん 男の子ってたぶん、芸能やるまで「ジャッジされる」経験が少ないから、そこでものすごく擦れてしまうんじゃないかと。だからそういう「オタクのオモチャじゃない・アイドルじゃない」みたいな感情を表に出してしまうのではないかと。

 

藤谷 これは悲しいことでもあるのですが、女の子……女性は、舞台に立つ前から、物心つく頃からジャッジの視線にさらされることが男性より圧倒的に多いから、耐性があるのかもしれないですね。

 

Kさん 仕事で女の子のアイドルと関わることもあるけれど、女の子のほうがドライですね。まあ、本当に色々ありますよ……。(※以下、愛ゆえの推し活フラストレーショントークが15分ほど続いたので割愛)

 

藤谷 お疲れさまでした。それでは、話を戻します。チャートの存在感が薄くなる一方で「団体戦」のように頑張るオタクの姿はSNSで目立つようになった気がします。まるで部活のように。

 

Kさん そう、部活なんです!

 

藤谷 やはりそう感じますよね。部活として推し活、この話、長くなりそうなので後編にいきましょう。

 

藤谷千明(ふじたに・ちあき)●1981年、山口県生まれ。フリーランスのライター。
高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後多くの職を転々とし、フリーランスのライターに。ヴィジュアル系バンドを始めとした、国内のポップ・カルチャーに造詣が深い。さまざまなサイトやメディアで、数多くの記事を執筆している。近年はYoutubeやTV番組出演など、活動は多岐にわたる。著書に 『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)。共著に 『アーバンギャルド・クロニクル「水玉自伝」』(ロフトブックス)、 『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミュージック)などがある。 Twitter→@fjtn_c

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TV Bros.編集部
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