推し問答!【4人目:芸人オタク 手条萌さん前編】「Chu! ワーキャーでごめん」

様々な人に「推し」や「推し活」について語ってもらう「推し問答!~あなたにとって推し活ってなんですか?」、第4回のゲストは評論作家の手条萌さんです。なお、この記事は前編になります。

 

取材&文/藤谷千明 題字イラスト/えるたま

 

広島県出身の手条さんは、幼少期に千原ジュニアさんをきっかけにお笑い、それもテレビ番組よりもライブに夢中になり、「東京(あるいは大阪)の劇場に行きたい」という一心で大学受験に邁進し無事合格、そして上京。ベテラン芸人さんから駆け出しの芸人さんの舞台、ときには東京から大阪の公演を観に行くなど、全力で「大好きなお笑い」を楽しむ日々を送っていたそうです。現在も都内で会社員をする傍ら、東西の劇場にも頻繁に足を運び、年に何度かお笑い芸人に関する評論やエッセイ同人誌を発行していたり、最近は「M-1」評論連載も始まりました。

そんな手条さんは「ワーキャー」を自称しています。「ワーキャー」とは、ざっくり説明すると、お笑い芸人の芸ではなくアイドル性を目的にするファンで、お笑いファンからやや煙たがれてたり、軽蔑されていたりする存在……でいいのかしら? この言葉も外野からすると、なかなか定義が難しいです。どのジャンルにもそういう言葉ってありますよね。ですが、待ってください。手条さんの活動は正直「ワーキャー」ではないように思えます。これはツッコミ待ちかもしれない(漫才だけに)。「ワーキャー」を名乗る、その意図とは?

ちなみにペンネームの由来は「手錠をかけている千原ジュニアさんの写真が格好良かったから」だそうです。……えっ、手錠萌え!?

 

※「ワーキャー」:「ワーワーキャーキャー」の略。対象を「ワーワーキャーキャー」と応援する存在、あるいはそのムーブのこと。特に男性お笑い芸人ファンにおいて、ネタのおもしろさや実力を考慮せず、本人たちをタレント、あるいはアイドルとして消費する存在(手条萌 著『お笑い芸人のワーキャーファンだからって何も考えてないと思った?』より)

 

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「推し」は、推しが頑張っているからこそ、私も自分の人生を頑張ろうと思える存在

 

 

藤谷千明 あなたにとって「推し」とはなんですか?

 

手条萌 「人生の縮図」ですね。今現在の推しと呼べる存在は、見取り図なんですけど、彼らは(ファンに対して)「みんなも自分の人生を自分で頑張ってくれ」とおっしゃるんです。推しが頑張っているからこそ、私も自分の人生を頑張ろうと思える存在。憧れですね。

(これまでに通ったお笑いライブチケットの半券の一部/手条さん私物)

 

藤谷 以前から気になっているのですが、手条さんは「ワーキャー」を自称されていますよね。これは「あえて」でしょうか?

手条 言われる前に自称してしまおうと……。自分からそう名乗ることで、攻撃を防ぐというか、下から目線というか、ちょっとずるい作戦なんですけど。

藤谷 先制攻撃ならぬ、「先制防御」というか。まだそこを「防御」しなきゃいけないというのが、世間の厳しいところですよね。例えばですけど、劇場でネタを聞かずに歓声をあげるようなことをしないだとか、そういった観客のマナーを守りさえすれば「ミーハーでいい、ワーキャーでいい」という考え方もあると思うんですけど。これは私が外野だからこその意見かもしれませんが。

編集・Kさん お笑いの世界だから厳しいというのはありませんか? これは先入観かもしれませんが、男性ファンはもちろんですが、お笑い好きな女性から「私はそのミーハーな女性ファンと違う」という意識を感じるというか。ミーハーな人が語ってはいけないことはないはずなのに、他の界隈よりもハードルが高いように感じます。

藤谷 「名誉男性気質」というか、これはロックバンドのファンでも少なからずありますね。正直過去の自分の振る舞いを振り返っても身に覚えがあります。わたしはヴィジュアル系バンドが好きなのですが、女性ファンがメインのシーンの中で「男性ウケするバンド」=評価が高いみたいな風潮も……。

手条 私、いわゆる「ワーキャー」扱いされているタイプの友達も多いんです。彼女たちと話していたり、あるいは、Twitterで知り合った関西の学生とDMのやりとりをしていたりする中で感じるのは、当たり前ですけど彼女たちが何も考えてないわけではない。自分の言葉でネタを語ったり、評論をしてみたいのかな、と思うことはあります。ただ、やっぱり「女が語ると……」みたいな空気はSNSにもある。だから、自分が「ワーキャー」として活動することで、そういう空気を少しでも払拭して、間口を広げることができたら……という希望を持っています。本当に、それだけなんです。若い人がおじさんたちにクドクド言われている姿は見たくないですからね。

藤谷 そんな背景が……。ちなみに、お笑いを好きになったのは、いつ頃ですか?

手条 約20年前なので、小学生の頃ですね。最初に好きになったのは千原兄弟の千原ジュニアさんで、今でも大好きです。つい先日も主演している『新・ミナミの帝王』シリーズをずっと見返していました(笑)。

藤谷 筋金入りですね(笑)。小学生で千原ジュニアさんというのは、渋いかもしれない。

手条 その前から、存在は知っていたし「大阪でカリスマ的人気を誇る芸人さん」という認識だったのですが、2001年に千原ジュニアさんがバイク事故に遭われた時、報道を見て再認知したというか。それで気になって、レンタルビデオ店で千原兄弟の単独ライブのVHSを借りたんです。それがすごく面白くてかっこよくて……好きになりました。

藤谷 現在はどうなのかわかりませんが、かつてレンタルビデオ店には人気お笑い芸人の単独公演のVHSが並んでいましたよね。私はラーメンズのVHSとDVDを死ぬほど借りていた記憶があります。

手条 これは大きな声では言いにくいかもしれませんが、レンタル落ちの中古VHSならお小遣いでも買える価格なので、ライブには行けないけれど映像で舞台を観ることはできました。

藤谷 テレビの中にいる人ではなく、舞台に立っている芸人さんのことを好きになったと。それはクラスで話の合う人はいたのでしょうか。

手条 そうですね(苦笑)。クラスの皆も「お笑い好き」なんですけど、当時は「ウッチャンナンチャンのウリナリ!!」(日本テレビ系)、「HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP」(フジテレビ系)、その後に「爆笑オンエアバトル」(NHK)や「エンタの神様」(日本テレビ系)が流行っていたのかな。クラス内で話題になっている「お笑い」は バラエティ番組中心で明るくて柔らかいイメージだったんですけど、ジュニアさんはそうではなかった。硬派で格好良くて、それが私にとって新鮮だったんです

藤谷 硬派で格好良い……、少し遡りますが、主演映画『ポルノスター』(千原浩史名義での主演/豊田利晃監督・98年)もそういう意味で印象的でした。

手条 そう! その映画のVHSも持っていました。役者としての存在感も好きでした。その一方でたまに「さんまのまんま」(フジテレビ系)みたいなトーク番組に出て、気さくな一面も観ることができました。それで「もっとこの人のことを知りたいな」と、ジュニアさんの情報を追うようになりました。ライブも見に行きたかったんですけど、定期的にやっていた「チハラトーク」(千原兄弟が定期的に開催してるトークライブ)は、基本的に平日夜のみでした。その頃はもう大阪ではなく東京に進出されていました。広島在住の学生の身で平日に大阪や東京に行くなんて到底無理なので、雑誌のレポート記事を読んで憧れだけが募っていく感じでした。

藤谷 私も広島県のお隣の山口県出身なので、気持ちはわかります。これはお笑いに詳しくない者の先入観かもですが、基本的にお笑い……吉本の芸人さんのライブって関西圏と首都圏でやっている印象があります。

手条 実は広島にも吉本の劇場はあるんです。そこにたまに大阪や東京の芸人さんが来てくれるし、広島所属の芸人さんが中学の先輩だったりして、そこにはよく足を運んでいました。DEODEO内にあったので。

藤谷 DEODEO、現エディオンに!? ……ご存じない方に説明すると、主に中国地方に展開している家電量販店チェーンです(思わず施設のサイトを検索する)。それは学生でも足を運びやすい環境ですね。結局、地元で暮らしていた学生時代は千原さんの舞台を生で観ることはできたのでしょうか?

手条 千原ジュニアさんのライブは基本的に平日なので難しかったんですけど、休日は大阪や東京に行って、チュートリアルさんを観たりしていました。でも絶対、いつかジュニアさんをこの目で観たい、でもどうしたらいんだろう。と考えて。で、「東京の大学に行けばいいんじゃないか!」と思いついたんですよ。

 

地方のオタクが一度は考える大発明、それは東京の大学への進学

 

藤谷 それは大発明ですね! 地方のオタクが全員一度は考える大発明です(笑)。

手条 大発明です(笑)。親も納得してくれますし。

藤谷 首都圏の、とくに国立の大学に行けば、たいていの親御さんは納得してくれるはず!

手条 はい、首都圏の国立に合格しました。

藤谷 (拍手)素晴らしい。

手条 そこからの人生がもう今に繋がるヤバい道なんですけど、って感じですね(笑)。

藤谷 それはもう仕方ないですよ(笑)。

手条 それで、上京して、もうこれは「チハラトーク」に行くしかない! と(笑)。ただ若手も見ておきたいなと思ったので、渋谷の∞ホールにも通っていました。駆け出しの頃のマヂラブ(マヂカルラブリー)や、先日解散してしまったゆったり感がいた時代です。雑誌を隅から隅まで目を通して、そういう人たちの名前も頭に入れていました。東京と、大阪の大学に受かったときのために大阪のそれも(笑)。

藤谷 努力に余念がない(笑)。劇場に対して本当に憧れがあったんですね。

手条 お笑いファンの地方民からすると、やっぱり劇場に行くことは、すごく都会的なことだと思っていたんです。そんな「都会にある劇場に行けるような日常」を過ごしたいとずっと願っていたので、それが叶ったのに行かないのは自我が保てない……みたいな思考回路でした大学生の時は。

藤谷 これは主語が大きいかもですが、ジャンル問わず、地方在住の学生にとって「憧れの人が立っているステージ」を観るのはきっと一大イベントですよね。電車で何時間もかけて……みたいな。でも東京に来たら電車で30分くらいで「それ」があるんだから、日常にしないとダメ的な?

手条 そうですね。で、あと大学生だったので、やっぱ大学は勉強する場所で、当たり前ですけど、堅いことを学ぶじゃないですか。そこに息苦しさとかもあって、だからこそ別の居場所を求めていたのかもしれない。そうだ、大学の頃は周囲にバンギャルがたくさんいましたよ。

藤谷 バンギャルさんを含めて、これまで色々なジャンルのファン・オタクの人の話を聞いてきた実感なんですけど、推し活が一番加速するのは大学進学で都会に出てきた時期なのではという仮説を持っています。「受験勉強から解放された! 時間の自由が多少ある! バイトできる! 一人暮らしだ! 都会だ! イベントがいっぱいある〜!」みたいな。手条さんも例にもれず、夢のハッピーハッピー推し活ライフを送っていたと。

手条 はい(笑)。千原ジュニアさんはずっと絶対的存在でありつつ、その頃は大阪のピン芸人の中山功太さんがすごい好きで、東京だと「AGE AGE LIVE」(07年〜10年に渋谷のヨシモト∞ホールで開催されていたイベント)に出てた芸人さんたちを「箱推し」、みたいな感じでしたね。そんなハッピーハッピーライフを4年ぐらいやってましたね。

藤谷 最高じゃないですか。そこから、今のようなお笑い評論を含めた執筆活動をするようになった理由も聞かせてください。

手条 きっかけは……AKB48というかNMB48と、東日本大震災でした。

藤谷 つまり、2011年前後。

手条 私は2011年卒なんです。当時、都内でのライブも中止になってしまって、メンタル的にだいぶキツかったんです。それに前後して、通うほど好きだった大阪のbaseよしもとは、2010年になくなってしまったし。そこで入れ替わりのように入ったのがNMB48劇場でした。

藤谷 時代の節目を感じる話ですね。

手条 そうなんですよ。「とられた!」みたいな(笑)。最初はそうやって文句を言ってたんですけど、関西ローカルの番組では芸人さんとNMBの子たちが共演する機会も増えてきて、それを観ているうちに「そんなに悪い子たちじゃないのかも」とか思い始めたんです。

藤谷 いやいや、もともと彼女たちは別に悪いことはしてませんからね(笑)。

手条 そうなんですけど(笑)。その中でも山本彩さんのことが気になってきたんです。彼女はかわいいし、お笑いも好きだったんです。当時まだ若手だったかまいたちを観に行ってたそうで。「baseよしもとに通ってた」とも話してて。絶対いい子ですよね。

藤谷 だから元から悪くないですからね(笑)。では、ここから執筆活動に至る道は後編で!

(見取り図ディスカバリー展グッズ/手条さん私物)

 

手条萌(てじょう・もえ)●評論作家。広島県尾道市生まれ。『カレーの愛し方、殺し方』(彩流社、2016年)で商業誌デビュー。『平成男子論』(彩流社、2019年)のほか、『ゼロ年代お笑いクロニクル おもしろさの価値、その後。』『2020年代お笑いプロローグ 優しい笑いと傷つけるものの正体』『漫才論争 不寛容な社会と思想なき言及』『お笑いオタクが行く! 大阪異常遠征記』『上京前夜、漫才を溺愛する』など多くの同人誌を発行している。集英社新書プラスにて「なぜM-1は国民的行事になったのか」を連載中。Twitter→@tejoumoe

藤谷千明(ふじたに・ちあき)●1981年、山口県生まれ。フリーランスのライター。
高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後多くの職を転々とし、フリーランスのライターに。ヴィジュアル系バンドを始めとした、国内のポップ・カルチャーに造詣が深い。さまざまなサイトやメディアで、数多くの記事を執筆している。近年はYoutubeやTV番組出演など、活動は多岐にわたる。著書に 『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)。共著に 『アーバンギャルド・クロニクル「水玉自伝」』(ロフトブックス)、 『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミュージック)などがある。 Twitter→@fjtn_c

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