様々な人に「推し」や「推し活」について語ってもらう「推し問答!~あなたにとって推し活ってなんですか?」、第5回のゲストはWさんです。なお、この記事は前編になります。
取材&文/藤谷千明 題字イラスト/えるたま
第3回のKさんに続いて、「どちらさま? 私の友人です」編になります(一般の人の声をもっと聞きたいのですが、ネットで募集かけるのはちょっと怖いんですよね…トラブルが)。Wさんはエンタメ系の会社で働いている20代の会社員です。彼女とは10年くらいのお付き合いになるのですが、いわゆる「フッ軽(フットワークが軽い、の意)」なオタクで、たとえば、声優だったりジャニーズだったりYouTuberだったりK-POPだったり、現在はVTuberだったり。とにかく新しいものに夢中になると爆速でそのジャンルをガンガン摂取していくタイプです。そして、別の新しいものを見つけたら、またキラキラと目を輝かせてそっちに走っていく…みたいな。彼女から、オタクとしての愚痴をあまり聞いたことがない(私とWさんは、かなり年齢が離れているということも関係してそうですが)。そういう人の話も聞いてみようと思ったので、一席もうけてみました。
【1人目:ジャニーズオタク松本美香さん】「あの頃の未来にオタクは立っているのかな」
【2人目:仮面推し活経験者 野田春香さん】「時にオタクは推しを隠してた Because I love you」
【3人目:メンズ地下アイドルオタク Kさん】「推しとオタクとドラマと部活」
【4人目:芸人オタク 手条萌さん前編】「Chu! ワーキャーでごめん」
過去には推し仲間と数百万円規模の広告を打ったことも
藤谷千明 あなたにとって、「推し」とはなんですか?
Wさん 一番しっくり来る言葉は「新しい世界への扉」でしょうか。それまで知らなかったことを教えてくれる、自分の中になかった価値観を与えてくれる存在……みたいな。
藤谷 新しい世界、たとえば?
Wさん 過去にK-POPにドハマリしたことがあるんですけど、それ以前と以後では、自分の価値観はかなり変わったと思っています。まず国が違うので、文化や言葉、社会も異なっている、当然芸能界の仕組みも違うし、学ぶことは多かったです。その時は数人で資金を出し合って推しアイドルに数百万円規模の広告を打ったり、フードサポートをしたりして、すごく楽しかったし勉強になりました。今の自分の糧になっています。
藤谷 就活の面接のようになってしまった!
編集部(K) Wさん20代なのに、受け答えも雰囲気も落ち着きすぎていて、聡明なビジネスパーソンのお話を伺っている気分になってきました。
藤谷 たしか、Wさんの現在の推しはVTuberでしたっけ。
Wさん はい、ゲーム系の配信をされている男性Vtuberを推してますね! ローレン・イロアスさんとか、葛葉さんとか。
藤谷 その前はジャニーズ、その前は声優などなど…。本当に守備範囲が広いですよね。
Wさん 元々子供の頃からエンターテイメントの世界に興味があったので、「このコンテンツの面白さはなんだろう」と考えるクセがついていて、すぐ色々なことに手を出しがちなんです。そういう気質なので、就職もそっち方面を選んで、新卒からずっとエンターテイメント系の会社で働いています。
藤谷 本当に就職の話に!
Wさん そうだ、守備範囲の話でしたね、私はだいたい2年スパンで推しが増えるんですよ。
藤谷 「推しは変えるものではなくて増やすもの」とはよく言ったものですが。
Wさん だって、普通に生きていたら、好きな食べ物だって増えていくじゃないですか。そういう感じです。その推しやジャンルの雰囲気や流れって、だいたい2年追ってると1年区切りで見た時にシーズンが2周してるので、年を経ても変わらなそうなこととその時々の流行りが見えてくるので、なんとなく自分の中ではやりきったなって思えるんです。そしたら別のコンテンツに興味がうつるというか。
藤谷 飽きたわけでもないけど、「シーズン1・完」みたいな。たくさんあるバイキングの中で、次に行く、みたいな?
Wさん はい、興味を失ったわけではないけれど、知識欲というか「知らないことを知りたい」という気持ちのほうが強いタイプなんですよ。だから熱が落ち着いたら、またまたワクワクする面白いものを探しに出かける…みたいな感じです。だから、友達のハマっている別ジャンルの話を聞くのも大好きなんです。ミーハーというか、イナゴ体質かもしれない。
藤谷 SNSを見ていると、そういうスタンスに批判的な人もいますよね。
推し活は人生を豊かに生きるためのデザート
Wさん そういう指摘は気にしないですね(キッパリ)。私のポリシーとして、推し活って「人生を豊かに生きるためのデザート」なんですよ。だから、かけるお金も時間も、みんな違って当たり前。ずっと人生を共にするわけでも、その義務も責任もあるわけじゃない。ライブがつまらなければ行かなきゃいい、配信がつまらなければ観なきゃいい、グッズがダサかったら買わなければいい。嫌になったら離れたらいいんだから、その瞬間瞬間を最大限に楽しめたらいい。私は、あくまで自分の中では、自分がその瞬間を一番楽しんでいる自信があるので。
藤谷 かっこいい…。Wさんと私は結構長い友人関係で、いまは理路整然とお話をされていますが、なにかにハマってるときに来るLINEの内容はすごいテンション高いんですよ。現場だって地方公演や聖地巡礼もフットワーク軽くガンガン行く人なんです。でも、自分の軸を手放さないというか。あんまり推し活疲れというか、病まないタイプですよね。
Wさん 我を忘れているのが楽しいってあるじゃないですか。でもどこかで「本当に楽しんでいるのか」という自問自答をし続けているかもしれません。何をするにも「推しのため」ではなく「自分のため」。もちろん、推しが喜んでいたら嬉しいけど、その顔が見たいのは自分ですよね? 反対に推しは究極的には他人なんだから、なにもしてあげることはできない。万が一推しの人生に大きな問題が起きたとしても、それは本人や周囲の人に頑張ってもらうしかない。他人だからこそ、ファンとして、オタクとして100%「楽しい」で向きあえるんです。
藤谷 「自分が楽しい」が主軸なんですね。
Wさん たとえば、今推しているVTuberの「総選挙」イベントが開催されたら、たぶん私も一生懸命楽しく頑張るけど、中には全財産はたいて投票する人も出てくるかもしれない。それでも良いんですよ。「楽しい」と思えるのであれば。だって、今後の人生で「VTuberの総選挙で全財産突っ込んだ」ってエピソードトークを話すことができるじゃないですか。それはきっと「楽しい」ですよ。滑らない。だから、その人が納得できるお金の使い方ならいいのでは。
藤谷 Wさん、オタクの人生何回目?
Wさん そんな(笑)。でも、私の母は「推し活」って言葉がない頃から推し活をしている人なんですけど、その母が「一番推しに貢献したとか、一番推しにお金を使ったではなく、一番推しの提示したものを楽しめた人が一番のファン」と話していて、それはすごいしっくり来ましたね。血かもしれない(笑)。
藤谷 あら、お母さまと推し活の話をするんですね。
Wさん 子供の頃からしてますね〜。新しい推しができたら「お母さん、見て見て」「あら、お母さん、この曲は好みじゃないかも」みたいなことも(笑)。
編集部(K) わたしたちの時代の親子関係とはまた違ってるのかもしれませんね。
藤谷 そもそも、たぶん1980年初頭生まれのKさんや私と、Z世代のWさんとでは「オタク」や「推し」自体のイメージが違いますよね。
Wさん あくまでこれは私の実体験の感覚なので、地域にもよると思います。それを踏まえていうと、たしかに小学校くらいまでは「オタクカッコ悪い」みたいな空気がありました。それが、中学生になると、『涼宮ハルヒの憂鬱』とかが流行りだすんです。その後、初音ミクの曲をバスケ部の子も聴いてるみたいな状況になっていくんですね。そして趣味がどうこうよりは、性格が暗いかどうかでクラスのヒエラルキーが決まるようになっていった印象はあります。
藤谷 オタク・リア充じゃなくて、陽キャ・陰キャの時代に…?(雑時代論)
推し疲れの原因は「自分をここまで疲弊させた責任をとって欲しい」という気持ちにあり?
編集部(K) そして、Wさんは話を伺っていると「健全な推し活」をされているように見えます。
Wさん っていうか、我慢ができないだけなんですよ。さっきおっしゃっていたような「推し疲れ」みたいな言葉もありますけど、「嫌なら離れたらいいじゃん」と思ってしまいます。
藤谷 それが出来れば苦労はしないのよ(笑)。まあ、そもそも自分の意志でやってる広義の趣味で「疲れて」、離れることが出来ないことを「苦労」と呼ぶこと自体、おかしいのかもしれませんが…? おっしゃるように、本来は義務も責任もないんですから。「義務感」「責任感」が発生しちゃったりしてね…。
Wさん でもそれって、推しのことを信用してないみたいで、傲慢に思えちゃうんです。私は、私一人の動向でどうにかなってしまうような推しを、推していないので。
藤谷 今、話していて思ったんですけど、「責任感」を推しに対して持っているのではなく、相手に「自分をここまで疲弊させた責任をとって欲しい」みたいに思ってしまうこともあるのかなって…。
Wさん それは軸が自分じゃないからですよね。主語が全部「推し」になっちゃう。だから振り回されたと感じて疲れるのでは。
藤谷 Wさん、やっぱり人生何回目? 後編は、Wさんが今ハマってる推し、つまりVTuberについて伺いたいと思います。私の詳しくないジャンルなので、楽しみです。
【つづきはこちら】
推し問答!【5人目:Vtuberオタク Wさん後編】「健康的なオタ活ですわ皆様方〜!」
藤谷千明(ふじたに・ちあき)●1981年、山口県生まれ。フリーランスのライター。
高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後多くの職を転々とし、フリーランスのライターに。ヴィジュアル系バンドを始めとした、国内のポップ・カルチャーに造詣が深い。さまざまなサイトやメディアで、数多くの記事を執筆している。近年はYoutubeやTV番組出演など、活動は多岐にわたる。著書に 『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)。共著に 『アーバンギャルド・クロニクル「水玉自伝」』(ロフトブックス)、 『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミュージック)などがある。 Twitter→@fjtn_c
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