『トップガン マーヴェリック』に思う映画の実存性&『炎のデス・ポリス』映画星取り【2022年7月号映画コラム】

TV Bros.WEBで毎月恒例の映画の星取りコーナー。今回は、密室サバイバルアクション『炎のデス・ポリス』を取り上げます。
星取り作品以外も言いたいことがたくさんある評者たちによる映画関連コラム「ブロス映画自論」も。映画情報はこちらで仕入れのほど、よろしくお願いいたします。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

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<今回の評者>
渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:最近、ワケあって日本のTVドラマを観ているのですが、周囲の人が意外と詳しくてびっくり。知らないのは私だけだった……。

折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:今夏はホラー/スリラーが豊作。「X エックス」「ブラック・フォン」もコワ面白くて。次「NOPEノープ」「LAMB/ラム」が楽しみ!

森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:7月公開作では『マーベラス』『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』の劇場パンフレットに寄稿しております。

『炎のデス・ポリス』

監督/ジョー・カーナハン 脚本/クルト・マクラウド ジョー・カーナハン 出演/ジェラルド・バトラー フランク・グリロ アレクシス・ラウダー トビー・ハスほか
(2021年/アメリカ/107分)

●砂漠地帯にある小さな警察署に、暴力沙汰を起こして逮捕された詐欺師テディが連行される。テディは、マフィアの追っ手から逃れるためにわざと警察署に連行されたが、マフィアは次々と刺客が送り込み、小さな警察署では次々と署員が殺されていく。そんな中、新人警官ヴァレリーが刺客との闘争に巻き込まれていく。

7/15(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他にて全国公開
©2021 CS Movie II LLC. All Rights Reserve
配給/キノフィルムズ

渡辺麻紀
意外とクレバー&オタクなアクション
なんだか振り切っちゃったような邦題になっているが、作品自体はコンパクトにまとまった密室系アクション。お気に入りなのはイーストウッド映画へのオマージュがさりげに詰まっているところ。まあ、さりげといってもテーマ曲まで使っているので大胆でもあるんですけどね。後半の伏線回収にもドラマがあって、脚本としてちゃんと練られている。
★★★半☆

折田千鶴子
一番のクズは誰だ!?決定戦
さすがカーナハン監督。暑苦しい男どもがわんさか沸き出てくる。しかも冒頭、連行された男(ジェラルド・バトラー!)の“臭い”を筆頭に、野性や原始的感覚に訴えるゴリゴリ感がヤだけど楽しい。砂漠地帯の警察署や留置所という“密室+α”使いやアイディアも効いている。真ん中に立つのが黒人女性警官というのも、別段わざわざ感もなくすんなり成立。血祭りわっしょい、久々B級系佳作の勢いを堪能!
★★★半☆

森直人
もっと活劇の肺活量が欲しい
「監督:ジョー・カーナハン」のクレジットを見ると、いつも悪くないけど突き抜けない人なんだよな……と思ってしまうのだが、今回も基本的には同じ。コロナ禍での撮影のせいか密室メインの設定なこともあり、アクションの快楽が充分に伸びる前に途切れてしまう。カーティス・メイフィールドの「フレディーズ・デッド」といった選曲など、良質の要素は数々埋め込まれているだけに全体に惜しい感じ。
★★★☆☆

気になる映画ニュースの、気になるその先を!
ブロス映画自論

渡辺麻紀
前回、このコラムでジャック・ペランの死を取り上げたと思っていたら、今度はジャン・ルイ・トランティニャンが亡くなってしまった。ふたりの共通点はコスタ=ガブラスのポリティカルサスペンス『Z』。筆者はこの映画で予審判事(名前はない)に扮していたトランティニャンを初めて観て、すっかり惚れ込んでしまったのだ。背も低い上に大してルックスもいいわけではないし、表情もクール。にもかかわらず、うちに秘めた情熱や正義感がじわじわと伝わってきて、本当にかっこよかった。その後、出世作の『男と女』を観て、『激しい季節』の青年も彼だったのかと知って、ずっと追いかけるようになった。印象的だったのは『暗殺の森』や『狼は天使の匂い』、『離愁』や『刑事キャレラ/10+1の追撃』……こうやって並べてみると(というか、昔はヨーロッパ映画もよく観ていたなあと感慨深い)、やはりいい作品が多いのだが、それでもやはり『Z』の予審判事がベストだと思う。おそらくこの映画自体、いま観ても絶対に遜色ないはず。未見の人はぜひと言っておきたい。

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折田千鶴子
全米で「中絶禁止」州が続々って…
まさか今、約50年前に認められた権利が覆されるなんて、アメリカって一体どうなってるの!? かなりの衝撃だが、そもそも女性たちが自分の体を傷つける行為を、軽々しく選択するハズもないのに。その選択をするだけの理由や逡巡、大きな決断があるハズなのに。しかもレイプや近親相姦による妊娠も含めて禁止だなんて、それこそ基本的人権は何処にある!?って話ではないか?
中絶をめぐる映画は、07年のルーマニア映画『4ヶ月、3週と2日』というカンヌでパルムドールを受賞した秀作が思い浮かぶが、昨年公開された『17歳の瞳に映る世界』も、負けず劣らずの素晴らしい作品だ。ちなみに、こちらはベルリンで銀熊賞を受賞。舞台は、現代の米ペンシルベニア州。妊娠に気付いた17歳のヒロインが、親の承諾なく未成年でも中絶できるNY州へと従姉妹の付きそいで向かい、数々の困難を乗り越えてどうにか中絶するまでの出来事と道程を、淡々と映し出す。妊娠した理由も含め、誰が彼女を責められよう!? まだ色んな知恵もお金もなく、親にさえ相談できない状況にある若い女性たちが、なぜこんな思いをしなければならないのか、と胸が塞がれる。ところが映画自体は瑞々しさもあり、サバイバル的な面白さもあり。是非おススメしたい。が、この映画を観たからといって、中絶禁止支持者は考えを変えたりはしないだろうが……。

『17歳の瞳に映る世界』公式サイト

森直人
トム・クルーズは「映画の最後の砦」か?
2022年、早くも上半期が終了しました。半年間の国内劇場興行ランキングも発表されましたが、第1位はダントツの成績で『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』(90.2億円)となっています。ただ最注目の目玉と言えるのは、第2位の『トップガン マーヴェリック』(67.4億円)でしょう。最新ランキング(7月4日発表)でも公開6週目にして、まだ週間第1位を維持。おそらく年間通じてなら総合トップになる可能性が高いのではないでしょうか。
周知の通り、本作は1986年の大ヒット映画『トップガン』の36年後の続編です。監督は亡きトニー・スコットに替わり、現在48歳のジョゼフ・コシンスキーが登板。主演は前作と同じく今年60歳になったトム・クルーズ。
一見若い頃と変わらず、時を止めたようにも映る主人公マーヴェリック(「はぐれ者」の意)の姿は、まるでラストカウボーイです。伝説の人と呼ばれながら、いまだキャプテン(大佐)として現場にとどまり、無人飛行機やドローンが主流の時代に、危険に身をさらして空を飛ぶ。もはやパイロットは消えゆく種族だ――本作ではそんなことも言及されます。それでもコックピットに乗り続ける男の宿業が語られていきます。
この物語の主人公像は「トム・クルーズそのもの」と言えるでしょう。唯一無二のアイコン性に加え、デジタル処理を嫌い、自ら決死のスタントをこなして驚異のアクション撮影に挑戦するという、彼固有の生きざまがマーヴェリックに重なるから。
コロナ禍は配信プラットフォームの流れを一気に進め、「何が映画か」の定義が大きく揺らいでいます。1895年、リュミエール兄弟が『工場の出口』や『列車の到着』を発表してから、映画というジャンルにとって最大の「実存の危機」の到来と言えるでしょう。そんな中、『トップガン マーヴェリック』のトム・クルーズには、もし自分が倒れたら、己が信じている世界(=映画)も終わる、といったほどの孤高の覚悟が感じられるのです。

映画『トップガン マーヴェリック』ファイナル予告

 

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