久しぶりの星5!『オフィサー・アンド・スパイ』映画星取り【2022年6月号映画コラム】

TV Bros.WEBで毎月恒例の映画の星取りコーナー。今回はかのドレフュス事件を描いた『オフィサー・アンド・スパイ』を取り上げます。久しぶりの星5が飛び出しました。
星取り作品以外も言いたいことがたくさんある評者たちによる映画関連コラム「ブロス映画自論」も常設しておりますので、映画情報はこちらで仕入れのほど、よろしくお願いいたします。

(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

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<今回の評者>

柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:6/24-25で大阪ツアー行きます。

ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。ぶった斬り最新映画情報番組「CINEMA NOON」最新回は6月8日(水)、大阪・NOON + CAFE にてライヴ開催! その後YouTubeチャンネルでも配信します。ちなみに6月26日(日)、同じ場所で開店するレアビデオ屋、「VIDEO NOON」のライヴもやります!

地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:毎年恒例の「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」に寄稿。やはりダントツは『キングダム』シリーズ。

 

『オフィサー・アンド・スパイ』

監督/ロマン・ポランスキー 脚本/ロバート・ハリス ロマン・ポランスキー 原作/ロバート・ハリス 出演/ジャン・デュジャルダン ルイ・ガレル エマニュエル・セニエ グレゴリー・ガドゥボワ メルヴィル・プポー マチュー・アマルリックほか

(2019年/フランス・イタリア/131分)

  • 19世紀にフランスで起きた冤罪事件「ドレフュス事件」を映画化。2019年・第76回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞。ユダヤ系フランス陸軍大尉ドレフュスがドイツへの軍事情報漏洩によるスパイ容疑で終身刑を言い渡される。対敵情報活動を担うピカール中佐はドレフュスの無実を示す証拠を上官に提示するが、隠蔽を図ろうとする上層部から左遷を通告される。

6月3日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
©2019-LÉGENDAIRE-R.P.PRODUCTIONS-GAUMONT-FRANCE2CINÉMA-FRANCE3CINÉMA-ELISEO CINÉMA-RAICINÉMA
© Guy Ferrandis-Tous droits réservés
配給/ロングライド

 

柳下毅一郎

映画とは悪である
ケネス・アンガーは「映画とは悪である」と言ったが、それを本当の意味で体現しているのはポランスキーなのかもしれない。ポランスキーほど映画と人生(個人)が切り離せない存在はないだろう。その彼がこんな傑作を作ってしまうのだから……。
★★★★★

ミルクマン斉藤

実情を知っていても引き付けるチカラはあるんだが。
何かと問題が尽きない(って、正直言って#MeTooの尻馬乗った奴らに引き延ばされてるだけだと思うが)ポランスキー映画なのを承知で、これだけの豪華人材が集まるってやっぱフランスって違うな、とは思うし、謎解き要素が盛り込まれているにしろドレフュス事件の至極まっとうな映画化だというのは否めない。ピカールを主人公にした作品もすでにケン・ラッセルが『逆転無罪』として作ってるしね(演じるリチャード・ドレイファスはフランス読みにするとドレフュスだ)。でも終盤の展開と最後の感動もクソもない苦みはアメリカおよび世間への恨み言のようにも感じるが。
★★★☆☆

地畑寧子

出自に忠実
気がつけば90歳手前になっていた名匠が、風格たっぷりに描いた冤罪史劇。組織の中での正義、告発の難しさはさることながら、当時の反ユダヤ主義の風潮を前面に押しだしているのはさすが。安直なカタルシスをさけたラストもいい。
★★★★☆

 

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ブロス映画自論

柳下毅一郎

「夢」とヤクルト1000
最近とみにファンタジー作家色が強くなってきたニール・ゲイマンだが、最大の代表作が幻想コミック〈サンドマン〉シリーズであることにかわりはない。人類が生まれるはるか前からおり、星々が消えるそのあとまでも存在しつづける「終わりなきもの」の「夢」、我らが見る夢の擬人化である「夢の王」を主人公にした大河ファンタジーは、この春からAmazon Audibleで朗読劇として放送され、さらにNETFLIXでドラマ化もされるということで何度目かの盛り上がりを見せている(NETFLIXドラマ、死神デスのキャスティングに思わず一言言いたくなってしまう人が多いようで)。そのおかげもあって、30周年記念版を読みなおしていた。それにしても『サンドマン』も30年か! 思わず遠くを見る目になってしまうのだが、改めて読んでも面白いし怖いところはしっかり怖い。ゲイマン、さすがである。

ちょうどこれを読んでいる最中、噂のヤクルト1000を飲みはじめた。飲んでいると悪夢が見られると評判で、あちこちで争奪戦が繰り広げられているというヤバいブツである。飲みはじめたその晩に見たのは、なんだかうまいこと夢を見られない、と苦しむ夢だった。なんだこれは……と思って目を覚ましたら、隣で寝ていた人は「ぼくが原作を書いた夢」を見ていたという。つまりぼくが見るはずだった夢はそっちに行っていたのか! だけどじゃあ、最初にあった夢はどこへ行ったのやら。今度夢に白い顔のゴス野郎が出てきたら訊ねてみよう。

『サンドマン』初公開映像

 

ミルクマン斉藤

この地球に、もはやついていけない身体が情けない。
なんだ、この最近の不安定極まる天候は。ある映画の試写に昼間行ってはみたのだが、そもそも立ち眩みと自律神経失調の症状が明らかであって、それが少女が火の玉吐き出す系の原作の再映画化で、かなり酷かった前作にも増してなんじゃそりゃな出来。脱力しかないオチにも限界感じて、観てるうちに発汗著しく、最後まできっちり観たもののフラフラで帰るとその夜、38度近い熱。体内に熱が溜まりに溜まってるような感じで眠るに眠れないところをみると、こりゃどうやら熱中症だ。思えば前日、僕の住む大阪の女学校で体育会中に30数人が倒れてたのを思い出したが、僕はそんなの自分の部屋で起こしてるんだし情けない。まあ、もうとっくにアラ60だしな。しかも同じ日、関東では雹が降って道路が真っ白になる映像を観て、いったいどうなってるんだか。と、そこで無理やり山のようにあり得ない異物が空から降り注ぐ映画というとポール・トーマス・アンダースンの『マグノリア』を安易にも思い出したんだが、そこから頭がじゅうぶんに回らなくてギヴ・アップ (『2012』みたいな終末論ものは別よ)。熱に浮かされた状態のたわごとだとしてここは勘弁してください。

マグノリア | 映画 | GYAO!ストア

 

地畑寧子

追悼 カン・スヨン
パク・チャヌク監督とソン・ガンホが、カンヌ国際映画祭で受賞と、韓国映画人の国際舞台での評価がさらに高まり喜ばしい。そんな韓国映画人の世界的評価の先駆けが、東洋人で初めてベネチア国際映画祭で主演女優賞を受賞した、カン・スヨンだった。作品は『シバジ』(86年)。子役から青春スターへと歩んだ演技力は、巨匠イム・グォンテクの眼鏡にかない、若干20歳とは思えない堂々の主演を果たした。そのカン・スヨンが、10年ぶりの主演映画『ジョンイ』(Netflix)の配信を目前に、5月初旬急逝した。まだ55歳だった。ヨン・サンホ監督のもと(『新感染 ファイナル・エクスプレス』)ついにSFにも、と期待を膨らませていただけに、悲しい。韓流ブームが起きてからは出演作が少なくなったが、彼女の演技力はイム・グォンテクだけでなく、イム・サンス、カン・ウソクなどの名匠に愛された。個人的には、『韓半島』(日本未公開)での明成皇后を含め、瓜実顔が一層映える時代劇群が思い出深い。なかでもドラマ出演が少なかった彼女が、主人公チョ・ナンジョン(韓国三大悪女の一人)を妙演した『女人天下』は圧巻だった。継妃の腹心になり政争を陰で操る策士ぶり、権力の亡者の悲哀は彼女の演技力があってこその吸引力。結果最高視聴率50%超と一大ブームに。惜しまれる大女優である。

女人天下 DVD-BOX1

 

 

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