原発の危機を映画ではどう描いたか&『アダム&アダム』映画星取り【2022年3月号映画コラム】

TV Bros.WEBで毎月恒例の映画の星取りコーナー。今回は、“デッドプール”役でおなじみのライアン・レイノルズが主演を務める『アダム&アダム』を取り上げます。
星取り作品以外も言いたいことがたくさんある評者たちによる映画関連コラム「ブロス映画自論」も。映画情報はこちらで仕入れのほど、よろしくお願いいたします。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

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<今回の評者>
渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:絶賛連載中の『押井守のサブぃカルチャー70年』が単行本になります! 4月発売予定。加筆&イラスト付きなので、ぜひ手に取ってみてください。

折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:ちょうど公開が始まるお気に入り作品は「林檎とポラロイド」。4月には度肝を抜かれた「TITANE チタン」など秀作が続出です。

森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:3月公開作では『DEATH DAYS』『ストレイ 犬が見た世界』『猫は逃げた』の劇場パンフに寄稿・参加しております。

 

『アダム&アダム』

監督/ショーン・レビ 脚本/ジョナサン・トロッパー T・S・ノーリン ジェニファー・フラケット マーク・レビン 出演/ライアン・レイノルズ マーク・ラファロ ジェニファー・ガーナー ウォーカー・スコーベル ゾーイ・サルダナ キャサリン・キーナー アレックス・マラリ・Jrほか
(2022年/アメリカ/106分)

●科学技術が発達した2050年。戦闘機パイロットのアダム・リードは、あることをきっかけに「タイムトラベル技術の発明を阻止し、未来の世界を救う」というミッションに挑むことに。成功のカギを握る「2018年」に向かったアダムはアクシデントに見舞われ、「2022年」の世界に不時着してしまう。そこで出会ったのは、いじめられっ子ながら生意気盛りな12歳の自分自身だった。

Netflix映画、3月11日(金)より独占配信開始

渡辺麻紀
タイムトラベル×父子映画
最近、ちょっとご贔屓のレイノルズの軽妙さが活かされたタイムトラベル×父子映画。タイムSF的に考えると、かなりご都合主義なタイムパラドックス連発なのだが、それでも楽しめるのはベースに普遍的な父子ドラマがあるから。これにはちょっと胸が熱くなった。レヴィはこういうジャンル、やっぱり上手いなあ。
★★★☆☆

折田千鶴子
お茶の間最適ムービー

タイムトラベルもののタブー“同じ時空に自分が2人存在する”を、最初から踏み越えちゃってるのが面白い。そこから繋がる人間ドラマとしての味わいは今一つだが、スーパーヒーロー(マーベル系率高し)もの出演俳優で固めたのも狙いだろうし、未来ガジェット、ほどよいジョークなど、おやつ食べながらTV画面で観るには程よい楽しさ。
★★★☆☆

森直人
程良い「泣き」が効いてる
地球をバックにした壮大な映像にスペンサー・デイヴィス・グループの「ギミー・サム・ラヴィン」が流れる冒頭で『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の雰囲気を感じつつ、中身は80年代スピルバーグ・プロデュース作や藤子・F・不二雄的なジュブナイル系アドベンチャー。『スター・ウォーズ』の無邪気なオマージュも悪くないし、親子の情愛もホロッとさせる。Netflixでカジュアルに楽しむにはちょうどいい面白さ。
★★★半☆

気になる映画ニュースの、気になるその先を!
ブロス映画自論

渡辺麻紀
原発事故は怖すぎる
ロシアのプーチンがウクライナのザポリージャ原発を自分なりの理由で攻撃しているニュースや映像を見てぞっとしてしまった。そして、「もしその原発が爆発したらチェルノブイリの10倍の影響」という言葉を聞いて、いろんな映画が頭に浮かんでしまったのだ。原発の恐怖を扱った映画としてよく知られているのは『チャイナ・シンドローム』(1979年)だが、もっとも恐ろしかったのはHBOが製作した『チェルノブイリ』(2019年)だろう。ウクライナがまだ独立してなかった1986年のチェルノブイリ原発の爆発事故をドキュメンタルなタッチで追った5話からなるミニシリーズだ。その爆発から調査までを描いた前半は、その辺のホラー映画が裸足で逃げ出す恐ろしさ。筆者は映画やドラマを観て、こんなに怖い思いをしたことがないと言い切れるくらいで、徐々に高まっていくガイガーカウンターの音だけで震え上がってしまった。後半は、旧ソ連政府がどうやって「フィクション」を作っていくかが描かれ、ポリティカルな恐怖を味わうことが出来る。これも、また恐ろしいことは言うまでもない。
このチェルノブイリだけでこれだけ怖いのに、その10倍……いや、もうありえません! 
ちなみに、ロシアサイドが作った同テーマの『チェルノブイリ1986』(5月6日公開)という映画が公開されるが、こちらは世紀の原発事故を市民目線で描いた作品。ポリティカルな要素は皆無というある意味、大胆な構成になっている。見比べてみると面白いかもしれない。

チェルノブイリ(字幕版)

折田千鶴子
おい、プーチン、やめてくれ
多くの人が、テレビやネットや新聞に釘付けになっていることだろう。刻々と戦況は変わるだろうが、脅しなのか本気なのか、プーチンが核攻撃(原子炉攻撃してみたり、おかしな精神状態でまさか核ボタンを押しちゃうのか!?)しかけている今。え、この人マジで言ってるわけ!? とドびっくりさせられながら、出口も見えず、ヤバい空気と不安だけが膨らんでいく。そして奇しくも今、世界はコロナウィルスを制せられたわけでもなく……。
……そう悶々としていると、本当に『12モンキーズ』で描かれてたような地下生活を強いられる未来になるんじゃないか、と暗い気持ちに。謎のウィルスによってほとんどの人間が死滅し、生き残った人々はお日様を拝めない地下生活――ゴホゴホ咳込んでいたブルース・ウィリスの不健康そうな姿と、地下の不衛生な環境が妙に頭にこびりついている。久々に太陽の光の下に現れたウィリスの表情! それはオムニバス映画『十年Ten Years Japan』の中の一篇『その空気は見えない』にも通じる。もっともこちらは“大気汚染”が原因だったが。なんと現実の今は、核の脅威、ウィルス、環境問題と、三つ巴で誰もが望まない未来へと我々を押し流そうとしている。現状、祈ることしかできずに不甲斐ないが、映画は、ひとまず解決されそうな未来を予感させるものになっている。現実も、そう願いたいが……。

十年Ten Years Japan

森直人
岩波ホールのない世界なんて…!
今年7月29日に閉館が決まってしまった東京・神保町の映画館、岩波ホール。ミニシアターの先駆として54年の歴史を持ち、数多くの名作を送り出してきたこの老舗劇場は、ハリウッド中心主義や市場至上主義などに抗するように様々な国の映画を上映――言わば世界のマージナル(周辺的)な映画を積極的に紹介してきました(65ヶ国、271作品!)。すなわち日本に流通する映画作品の多様性を確保してきた重要な砦でもあります。
そんな同劇場で現在上映中なのがジョージア(旧グルジア)映画の傑作『金の糸』です。ジョージアと言えば、ウクライナと同じく、かつては旧ソ連の構成共和国であった国。2008年にプーチン政権のロシアに侵攻された件も記憶に新しいところです。
この映画では首都トビリシを舞台に、年配者三人の関係劇が、激動の歴史を投影する形で語られます。かつて体制に苦しめられた主人公の作家エレネは、ラナ・ゴゴベリゼ監督の分身でもある。彼女は1928年生まれ。ワイズマン、イーストウッド、ゴダールの「花の30年組」よりも2歳上で、本作発表時はなんと91歳!
このエレネとの因縁を抱えたミランダという女性キャラクターは旧ソ連の政府高官。プライドの高い彼女は大国の威光を象徴する人物で、アルツハイマーが始まりながらも西洋文化に染まった今のジョージアを嘆き、ソ連統治時代を懐かしみます。
本作はロシアとその周辺の「個と歴史」を知る上でも最適の一本。画一的な価値観にこり固まることが何より危険なこの時代。岩波ホールが果たしてきた役割を、今後に引き継いでいく動きはちゃんと現われるのでしょうか?

金の糸

 

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