リドリー・スコット監督、『ハウス・オブ・グッチ』のインタビューで半生を語る【2022年1月号映画特集】

世界中の女性が憧れるファッション・ブランド、グッチには、かつて一族の跡取り息子を妻が殺害するという、真実は小説よりも奇なりな大スキャンダルが起きていた!
というわけで、その顛末を描いた映画『ハウス・オブ・グッチ』を手掛けたのはあのリドリー・スコット。昨年公開された映画『最後の決闘裁判』で中世フランスのスキャンダルを描いた監督が、今度は1995年のイタリアで起きたスキャンダルを取り上げたのだ。その悪女を演じたのが世紀の歌姫レディー・ガガということも手伝って、この冬、大注目の作品なのである。
今回は、まさに老いてなお盛んなスコットの声をお届けする。相変わらずトンチンカンなところもあるが、それもまたスコットのインタビューの面白さということでよろしく!
取材・文/渡辺麻紀

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『ハウス・オブ・グッチ』
監督/リドリー・スコット 脚本/ベッキー・ジョンストン ロベルト・ベンティベーニャ 原作/サラ・ゲイ・フォーデン 出演/レディー・ガガ アダム・ドライバー アル・パチーノ ジャレッド・レト ジェレミー・アイアンズ サルマ・ハエックほか

2022年1月14日(金)より全国公開
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配給/東宝東和

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リドリー・スコット
1937年生まれ。『エイリアン』(1979年)の大ヒット以降、現在まで数々の大作を手掛けた。主な監督作に『ブレードランナー』(1982年)、『グラディエーター』(2000年)、『ハンニバル』(2001年)、『ブラックホーク・ダウン』(2001年)、『ゲティ家の身代金』(2017年)など。

ステファーニャ(レディー・ガガ)はクリエイティビティ満載のエンジン

――『ゲティ家の身代金』も、実在する金持ちファミリーのスキャンダルを扱っていました。この組み合わせのどこにあなたは惹かれるんですか?

この作品に限って言えば、コメディだったからだ。そのエピソードの多くがあまりに突飛で、ほとんど滑稽に感じてしまった。風刺と言ってもいいくらいだよ。グッチ一族は、まるでボルジア家やメディチ家を模倣したかのように家族として自滅していった。驚くほど似ている。唯一の違いは、ボルジア家は豪華な馬車で、グッチ家は洒落た車だったということくらい(笑)。面白いよ。私は、そんな実際に起きたことの、より面白味のある側面に興味をもつんだ。とはいえ、本作をコメディ調にしたり、パロディにするつもりはなかったけどね。

――主人公のパトリツィア・グッチについてはどう思いました?

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パトリツィア(レディー・ガガ)は肝っ玉のすわった女性だ。何度も一線を越えるが、あまりに豪胆で、どこか尊敬さえ覚えさせるところがある。男尊女卑だったアルド(アル・パチーノ)が彼女に向かって「これは男の話だ。女の出る幕はない」と言うが、私はこの言葉、どんな男とも張り合えるくらい強いパトリツィアに対してはもっとも言ってはいけない言葉だと思ったくらいだ。

――ということは、パトリツィアは強い女性だと思っているわけですね? 『エイリアン』のリプリーを筆頭に強い女性を描いてきたあなたです。彼女の強さはどんなところにあると思いますか?

いやいや、デミ・ムーアを忘れちゃいけない。『G.I.ジェーン』は忘れられがちだけど、私が描いた女性キャラクターのなかで、デミこそがもっとも強いと思っている。まず、女性がネイビー・シールズに入ろうとするあの設定だ。もちろん、彼女にはその資質があるからね。その上、映画の悪役はアン・バンクロフト扮する女性の上院議員だ。デミの失敗をもくろんで、がんばる彼女を支持するふりをする。そんな彼女とも闘うわけだ。デミは本当に素晴らしかった。それを忘れてほしくないね。

――あのう……パトリツィアなんですが……。

ああ、彼女はとてもとても強いよ。少しだけやり方が違っていたら、グッチ帝国のビジネス面の一部になれたんじゃないのかな。でも、彼女は超えてはいけない一線を越えてしまったし、はっきり言ってしまえば無神経だった。彼女がもう少しだけ繊細な人間だったらグッチの歴史は変わっていたかもしれない。パトリツィアが仕切っていたかもしれないよ。

――彼女を演じたレディー・ガガはいかがでしたか。いろんな候補者がいたなかで、彼女を選んだ理由は?

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ステファーニャ(レディー・ガガの本名ステファニーのイタリア語読み)に対して好奇心がわいてきたのは『アリー スター誕生』を観てからだ。歌なしに演技が出来るシンガーはそうはいないからだ。彼女はシンガーとして、エンタテイナーとして、プロデューサーとして、自身が出演するショーやステージの脚本家として、素晴らしい才能をもっている。まさにクリエイティビティ満載のエンジンという感じだった。そんな彼女が私のオフィスを訪ねてくれたんだが、その初対面のときにすっかり彼女を気に入ってしまったんだよ。
現場でもステファーニャは素晴らしかった。全編を通じてセリフのひとつひとつに対して完璧に準備をしてきた。だからセリフやタイミングでミスることは一度もなかったよ。

実は当時の私はファッションフォトグラファーになりたかった。人生はどう変わるかわからないねえ(笑)

――この映画には、あなたが体験した70年代から90年代の感覚や空気感が活かされているのでしょうか? 活かされているとしたらどんなところに?

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その当時のことをみんな“スウィンギング60s”とか“スウィンギング・ロンドン”とか言っているけど、私は学生でお金がなかったので、まったくスウィンギングしてなかったよ(笑)。憶えているのは大学に残れるようにずっと勉強し仕事をしていたことだけだ。そのおかげで大学から高く評価されて奨学金をもらい、その一環としてアメリカに一年間行き、レキシントンアベニューで広告業界に触れ、新しい発見をたくさんした。相変わらず貧乏だったので、偉大なファッションフォトグラファーたちの仕事っぷりをフェンス越しに見ている感じだったなあ――実は当時の私はファッションフォトグラファーになりたかったんだよ、映画監督ではなくね。スチール写真が我ながら上手だったし興味もあったからだ。バート・スターンというマリリン・モンローの写真で有名なカメラマンに連絡して会ってもらったこともある。そのモンローの写真のネガも見せてもらったよ。とはいえ、今はこうやって監督をしている。人生はどう変わるかわからないねえ(笑)。

――はい……だからその、そういう経験を今回の作品に反映したりしているんでしょうか?

スターンは素晴らしい写真家だったからねえ。同じ時代のカメラマンではウィリアム・クラインもいた。彼は東京、ニューヨーク、ローマ、モスクワをテーマにした素晴らしい写真集を出している。今回、ベースにしたのはスターンじゃなくクラインのほうなんだ。彼がストリートにファッションを持ち込んだと私は考えているのでね。

――あ、そうなんですか。

そうだよ。

――あなたは世界を創ることにかけては業界随一なので、どうやって本作の世界を創ったのか、それをお伺いしたかったんです。当時のヨーロッパ映画とか、参考にしましたか?

イタリア映画やフランス映画には何が起きたんだろう? あの頃の作品は本当に素晴らしいものばかりだったのに。当時の私はフランスやイタリアの映画を観るためにロンドンのナショナル・フィルム・シアターやアートハウス系の映画館に足しげく通っていたよ。とりわけ素晴らしいと思ったのは(フェデリコ・)フェリーニや(ミケランジェロ・)アントニオーニの作品だった。それらはアートだったよ。日本映画だってそうだ。私がどれほど黒澤(明)映画から学んだことか!
そうやってすべてを映画から学んだんだ。映画学校で映画を学んだことは一度もなく、学校ではグラフィックデザインを学んでいて、結構腕のいいグラフィック・デザイナーだったんだ、私は(笑)。しかし、当時はそれで生きていけそうにもなく、弟のトニー(・スコット)と一緒に小さな映画を作った。ふたりして100ドル出資してね。100万ドルじゃないよ、100ドルだ(笑)。そうやって撮った映画はいまブリティッシュ・フィルム・インスティテュート(BFI)で観られる。『Boy and Bicycle』(リドリーが監督、トニーが少年役の27分の短編。ネットでも観られるし、BFIがリリースしたトニーの短編集『Loving Memory』のなかにも収録されている)というタイトルで、不思議なことに映画として成立していたんだ。これをきっかけに、私は映画を作りたいと思うようになった。そこからだよ、私の映画人生が始まったのは。

――な、なるほど! ありがとうございました!

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TV Bros.編集部
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