推し問答!【8人目:2.5次元好きな臨床心理士 笹倉尚子さん後編】「オタクなカウンセラーに推し活をまじめに語ってもらってみた」

様々な人に「推し」や「推し活」について語ってもらう「推し問答!~あなたにとって推し活ってなんですか?」、第8回のゲストは臨床心理士の笹倉尚子さんです。なお、この記事は後編になります。

 

取材&文/藤谷千明 題字イラスト/えるたま

 

笹倉さんが代表をつとめる「サブカルチャー臨床研究会(さぶりんけん)」による『サブカルチャーのこころ オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』という書籍があります。今や世間話で推しの話をすることも当たり前になりましたが(社交のために架空の推しを作る人もいるそうです)、カウンセリングの現場でも、推しの話が問題解決の糸口になることも少なくないそうです。そこでこの本では、人気ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルチャー(この言葉も定義が難しいですが)がなぜここまで人の心をつかむのか、専門家たちが紐解こうと試みています。人の心と推し活、どんな関係が理想なのでしょう?

 

前編はこちらから

 

【1人目:ジャニーズオタク松本美香さん】「あの頃の未来にオタクは立っているのかな」

【2人目:仮面推し活経験者 野田春香さん】「時にオタクは推しを隠してた Because I love you」

【3人目:メンズ地下アイドルオタク Kさん】「推しとオタクとドラマと部活」

【4人目:芸人オタク 手条萌さん】「Chu! ワーキャーでごめん」

【5人目:Vtuberオタク Wさん】「健康的なオタ活ですわ皆様方〜!」

【6人目:ホスト好き 佐々木チワワさん】「消費社会とぴえんの報道」

【7回目:推し活今昔物語〜「推し活!展」に行ってみた〜】

 

アニメや漫画の話をしているうちに「オタクとしてのアイデンティティ」が出てくることも

 

藤谷千明 笹倉さんは現在、埼玉の大学で教員として勤務されてますが、以前は大学でカウンセラーのお仕事のご経験もあるとのことで。そのあたりのお話も聞かせてください。ご自身のオタク的な知見がカウンセリングの現場で生かされたことはあるのでしょうか?

 

笹倉尚子 大学でカウンセラーをやっていたのは、今ほど「推し活」が盛り上がっていない時期でしたが、相談に来る学生と好きなアニメや漫画の話をしているうちに自分の「オタクとしてのアイデンティティ」が出てくることで、不確かだったものが、どんどん確かになっていって、自己理解が深まっていったと感じるようなケースはありました。

 

藤谷 好きなものがきっかけで、心を開かれることがあるのですね。ちなみに、これは私の先入観かもしれませんが、自分のことを話すのは男性のほうが苦手そうな気がしていて、そこに差はあるのでしょうか。

 

笹倉 たしかに、男性のほうが自己開示が苦手な傾向はあるかもしれません。「家で何をしているんですか?」と聞いても「とくに何もしてません」と返ってくることも少なくないんですね。そこから、「起きたら何をしているんですか?」「ゲーム動画を見ています」「どんなゲーム?」と繰り返していくうちに、(カウンセリングが)3回目くらいになって「実はこのゲームのこのキャラが好きで」と話してくれて、自分のことと並行して作品のことを深掘りしていくうちに、話が盛り上がって、ゲーム以外の話もしてくれるようになって、徐々に悩みの解消につながることもあります。

 

藤谷 何もしてないことはないでしょう。大人でも男性のほうが「なにもしてない」って言う気がするんですけど(※個人の観測範囲の話です)。なぜなんでしょうね。

 

笹倉 それは難しい質問ですね。いわゆる不登校や引きこもりの子の場合は、「社会の役に立っていないと駄目」みたいな後ろめたさがあるように感じます。

 

藤谷 たしかにそういうプレッシャーは男性のほうが強いのかもしれません。

 

笹倉 でも、性別や年代に関わらず、好きなものの話になると、口数が増える人も多いんです。そこから自分の話にもつなげることができる。

 

藤谷 笹倉さんは『サブカルチャーのこころ: オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』という共著を今年出版されましたよね。サブカルチャー臨床研究会を主宰されているのは、そういったご経験も影響しているのでしょうか?

 

笹倉 サブカルチャー臨床研究会は私が作った研究会ではないのですが、サブカルチャーを知ることは大事なことだと思っています。本当にこの数年、「(子供のカウンセリングをするには)『鬼滅の刃』を知らないと仕事にならない」という声があちこちであがるくらいなんです(笑)。

 

藤谷 さすが大ヒット作、社会現象ですね。もちろん、学生さんやお子さんと対峙するカウンセラーの方が、全員が全員サブカルチャーやポップカルチャー、あるいは人気マンガやアニメを知らなくてもいいとは思いますけど、知っていたほうが話のとっかかりになりそうなのは、私のような素人でもなんとなく察しがつきます。

 

笹倉 推しを原動力にして変わっていく人は少なからずいるのですが、引きこもりだった子がゲームやアニメを好きになる、そしてネット上で仲間を見つけてコミュニケーションをとるようになる、さらにオフ会したり、イベントに出たりするようになることもあります。そういう体験について「近くのリアルな人間」とコミュニケーションすることが大事な気がしているんです。

 

藤谷 なるほど。

 

笹倉 たとえば「(ゲームの)『フォートナイト』でこんなことがあった、あんなことがあった」ということを、家族や私たちカウンセラーのような周囲の人間に話すことで、新しいコミュニケーションが生まれて、外に出て人と関わるきっかけになることもあるかもしれない。

 

藤谷 ああ、そこで「私は最近のゲームはサッパリで」と遮断するよりは、「どんなゲームなの?」と教えてもらったり、あるいは「それ、知ってるよ!」と盛り上がったほうが嬉しいですよね、きっと。

 

笹倉 年配のカウンセラーの方だと、おっしゃるように「わからないので」と言ってしまうこともあるんですね。もちろん、それぞれのカウンセラーのスタンスなので、それは尊重されるべきなのですが。

 

藤谷 ああ……。ちなみに私もここだけの話(※インターネット全公開の記事ですね!)、色々あって何度かカウンセリングを受けたことがあるのですが、自分の職業がちょっと特殊だからか「わからないので」と言われて、スーンとなった経験があります。「わからない」ことをちゃんと表明するのも、それはそれで誠実な態度だとは思うのですが……。大人でもスーンとなってしまうので、子供だったらもっとショックかもしれない。

 

笹倉 色々なカウンセラーがいらっしゃいますからね。ゲームの場合は検索したらどんなゲームなのかは出てきますし、そこで歩み寄ってもいいのではないかと感じることはあります。そこから生まれる信頼関係もあると思うんですよね。この本を書いたのは、そういう背景もあります。

 

「推し活カウンセラー」の登場も近いのでは?!

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