直木賞作家・辻村深月の小説を、『君の名は。』のCGクリエイターであり、中村倫也が7役に扮した『水曜日が消えた』で長編監督デビューを飾った吉野耕平監督が実写映画化した『ハケンアニメ!』が、2022年5月20日より全国ロードショー。本作は、土曜の夕方枠で放送されるオリジナルアニメ作品2本の作り手たちを軸に、アニメ業界で働く人々の奮闘を描く“ものづくりエンターテインメント”だ。
TV Bros.WEBでは、本作の公開を記念してキャスト陣&吉野監督への連続インタビューを実施。第1弾は、主人公の新人監督・斎藤瞳(演:吉岡里帆)の前に立ちはだかるカリスマ監督・王子千晴を軽やかかつ豊かな人間味を織り交ぜて演じた中村倫也が登場。
“吉野組”の経験者であり、書き手としても非凡な才能を持つ中村に話を伺うせっかくの機会、思い切ってスタンダードな質問はスキップ。深い洞察力をたたえた「作り手の目」を、少しだけ見せてもらった。 (インタビューの最後には直筆サイン入りポラの抽選プレゼント企画も実施中。詳しくは【プレゼント情報】欄をご覧ください。)
取材・文/SYO
撮影/倉持アユミ
【Profile】
中村倫也(なかむら・ともや)
●1986年12月24日生まれ、東京都出身。主な出演作に、ドラマ「珈琲いかがでしょう」(2021年/テレビ東京)、映画「ウェディング・ハイ」(2022年3月12日公開)など。待機作に配信作品「仮面ライダー BLACK SUN」(2022年秋配信)、主演MUSICAL「ルードヴィヒ ~Beethoven The Piano~」(2022年10月・11月開幕予定)などがある。
【映画『ハケンアニメ!』公開記念 4日連続特集】
DAY 1.中村倫也 インタビュー
DAY 2.高野麻里佳 インタビュー
DAY 3.吉野耕平監督 インタビュー
DAY 4. 映画ライター・SYO コラム「中村倫也の沼落ちライターが2020年の『水曜日が消えた』から2022年の『ハケンアニメ!』までを語る」
「吉野監督はアニメーションも実写もやっているからアイデアも豊富だし、成立させるためのやり方をわかっている」
――中村さんは著書『THE やんごとなき雑談』の中でも「楽しませたい」という気持ちを重視していると書かれていましたが、楽曲「サンキュー神様」に絵本「つきのくらしは」、そして映画『ウェディング・ハイ』『ハケンアニメ!』と、その傾向がより強くなってきた印象です。
中村倫也(以下、中村):コロナ禍に入って、世の中に閉塞感や先の見えない不安が増したように感じています。いまの世界の情勢もそうですし。その中でどういった作品に関わるか──お話をいただいて「やります」とお受けする際、世に出す意義はより考えます。
同時期に何でもかんでもやれればいいんですが、残念ながら自分の体は1個しかないからそうはいかない。有限の時間の中で、いま何を選んで胸を張って届けられるかは、時代もそうだし自分の生理的にも、或いは誠意としても感じるようになってきているかもしれません。面倒くさい性格だなとは思いますが(笑)。
――いえいえ(笑)。その中で、『ハケンアニメ!』の吉野耕平監督とは『水曜日が消えた』に続くタッグです。中村さんは吉野監督の特長を「発想力」と評していらっしゃいましたね。
中村:吉野さんがどういう工程を経て「これを撮りたい」に辿り着いているかはわからないのですが、ご本人の中で滅茶苦茶明確にイメージができているな、と感じます。台本のト書きがすごく細かいんですよ。プラス、吉野さんはご自身の頭の中を伝えるのに絵コンテを描かれるのですが、台本を読んでから絵コンテを見ると「あ、こんなことになるの?」と驚くような絵がたくさんある。それは『水曜日が消えた』のときにも感じたことです。
『水曜日が消えた』との共通項だと「紙を降らす」といった表現があって、それはアナログなやり方で現場で実際に行うのですが、編集を経て出来上がったものは世界観の中ですごくマッチしている。アニメーションと実写の絡みなんてまさにそうですよね。仕上がりの段階で、さらに整えていることがわかる。ただ、それができるのはスタートラインの発想時点でゴールが見えているからなんだと思います。
たとえば漠然と「こういうことがやりたい」で進めていくと、実際にはできなかったとかそもそものアイデアが現実的じゃなかったといった理由で「やりたいことはわかるけどかみ合ってないね」という状態に陥ってしまう。その点、吉野さんはアニメーションも実写もやっているからアイデアも豊富だし、成立させるためのやり方をわかっている。吉野さんならではの発想力とオリジナリティは「完成形まで見えている」ところにつながっていますし、そういった監督が希少だからこそ、彼はいま引く手あまたなんでしょうね。
台本には「窓の外に文字が浮かぶ」や「東京の街にふたつのアニメーションが争ってヒットを競う」と書いてありますが、撮影時には当然ありませんから詳細はわかっていないし、出来上がったアニメを観るシーンも、実際は真っ黒な画面に向かって芝居をしています。ただそれでも「こういうことをやりたいんだろうな」と感じ取れるのは、『水曜日が消えた』を経ているのも大きいかもしれません。
©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
――その『水曜日が消えた』にも通じますが、王子監督も衣装が印象的でした。人前に出るときと部屋にこもって作業するときで、明確に服装が変わりますよね。
中村:引きこもって作業する際のタイダイ柄のようなシャツは、吉野さんが決めていましたね。アニメフェスに登場するときや過去の宣材写真のような王子っぽい雰囲気をどう作っていくかについては、吉野さんが「人前に出るときはこれを着ておく、みたいなブランドがあってもいいですね」と話していました。そのうえで、傍若無人感を出すためにサンダルでイベントに登壇しちゃいますか、という経緯であのスタイルになった記憶があります。
――ちなみに、中村さんにおける衣装合わせのスタンスやこだわりなどはあるのでしょうか。
中村:最近は割と何でも決めて、という感じで臨んでいますね。あまりにもイメージと違う場合や、「僕実はこれを着るとこう見えますよ」というのは誤差があるといけないので早めに伝えますが、基本的には委ねています。
王子千晴は「自分にとって近しい奴なのかも」
――中村さんは王子について「意図的に傍若無人みたいなのをやっている」と分析されていました。となると、演じる際は王子の本質があって「こう振舞う」が入るため、ある意味で二重に演じることにもなるかと感じました。そのニュアンスをどう見せていったのでしょうか。
中村:なるほど。作劇上そうなっていること──たとえば劇中劇のような形で二重・三重で芝居をしていたり、それが布石になっていたり、もしくはリアルタイムでお客さんがわかる必要がある場合はそういった意識が入ってきますが、今回は「そういう性格の人を演じる」というだけだから、そんなにアピールはしていないんです。
結果として、映画を観る人や原作を読んだ人がそう感じたら感じたでいいんじゃないかぐらいの気持ちでしたね。わからなくてもそれはあくまで“おかず”だし、考えてもいなかったかも(笑)。それくらい、自分にとって近しい奴なのかもしれませんね。僕は彼みたいに天才でもないし、フィーチャーされない時代が長かった人間ですが、こねくり回すよりも自分自身のノリでいけば求めているものになるはずだ、という感覚が前提としてありました。
もちろん共演者との掛け合いの中で渡す感情や、そういった部分は考えていましたが、僕の仕事も家で一人でいたり台本を読んで頭かいてるときと人前に出るときは状態が違う。その辺のスイッチの切り替えも割と僕のリアルなのかもしれません。王子の人前の振舞い方はサービス精神の表れもあると思うんです。瞳(演:吉岡里帆)はメディアに出ることに抵抗していましたが、王子はそういうものも利用してやろうというタイプ。経験もあるし、色々わかったうえでやっているという意味ではそれをあえて装っている感も出る必要がなかったんですよね。
――ご自身と共鳴する部分が多いぶん、フラットに臨めたのですね。
中村:オリジナルアニメを作る王子は0から1を生み出す人で、僕たち役者はもう脚本や企画があるところに役者セクションとして入るので、クリエイティブの種類の違いはある。ただ、アニメ業界には隣の教室ぐらいの近さを感じていますし、クリエイティブな作業をすることに関しては似たような感覚を抱いています。
ただ、僕と王子が違う部分としては人前でばっと喋るときにカリスマ性が出ないといけないところ。そんな、ねぇ? 俺にカリスマ性出せる?って思っていました(笑)。
――出せる!としか思えない……(笑)。
中村:いやいや(笑)。あんだけセックスだオナニーだってイベント会場の雰囲気を悪くしてるのに「よく言ってくれた!」とならないといけないのは大変でしたよ(笑)。
虐げられてきたこともあるオタクたちの代弁者であり、引っ張る旗手でもありながら、作るもので圧倒的な才能を見せてくれるという期待感も漂わせる存在でいなければならないけど、僕は人生でその立ち位置をやったことがないから「知らない」んです。原作だとそのシーンに至るまでに助走がありますが、映画だと限られたシーンで成立させる必要がある。そこはちゃんと整理しなければならないと思っていました。
だから、先ほどお話しした「考える」ということであれば「傍若無人っぽく振舞う」よりも「いかにカリスマになるか」のほうが悩みましたね。
【映画情報】
『ハケンアニメ!』
2022年5月20日(金)全国ロードショー
■出演:吉岡里帆 中村倫也 工藤阿須加 小野花梨
高野麻里佳 六角精児 柄本 佑 尾野真千子
■原作:辻村深月「ハケンアニメ!」(マガジンハウス刊)
■監督:吉野耕平
■脚本:政池洋佑
■音楽:池頼広
■主題歌:ジェニーハイ 「エクレール」(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN)
■制作プロダクション:東映東京撮影所
■配給:東映
■公式サイト:haken-anime.jp
【プレゼント情報】
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