『情熱大陸×和牛』はB’z愛によって作られた!?山内健太郎ディレクター、ロングインタビュー後編

 漫才師・和牛に密着した『情熱大陸』(2021年3月放送)。お笑い芸人を取り上げることの少ないこの番組で、漫才師としての矜持を語った二人の様子は注目を集め、9月にはDVD化された。密着したのは、普段はバラエティ制作の現場で活動しているMBSディレクターの山内健太郎さん。二人との絶妙な距離をとり続け、素顔の“芸人”の姿を切り取った山内氏に、制作の裏側やテレビマンとしてのこだわりをインタビュー。後編では、笑いに率直に向き合う真摯な姿勢や、アーティストへの熱い愛を語って頂きました。

「情熱大陸」 ●毎週日曜日よる11時00分~ MBS/TBS系列にて放送中 公式HP

<プロフィール>
山内健太郎(やまうちけんたろう)●2004年、毎日放送入社。これまで「日曜日の初耳学」「サタデープラス」「ちちんぷいぷい」「堂本剛のやからね」「オールザッツ漫才」「ソガのプワジ」などを担当。現在は「プレバト!!」のディレクターを務めている。ラジオアプリのRadiotalkで「芸人リモートーク〜会わずにラジオ〜」を配信中。
Twitter: @magutaro0815

『情熱大陸×和牛』の”ウラ側” 山内健太郎ディレクター、ロングインタビュー前編 はコチラ!

取材・文/井上佳子
構成/TV Bros.編集部

ネットラジオで芸人のリアルがより身近になった

――山内さんは、『芸人リモートーク〜会わずにラジオ〜』というネットラジオ番組を、音声配信アプリRadiotalk上でも配信されていますが、そのことも今の仕事に生かされていますか。

 『芸人リモートーク〜会わずにラジオ〜』を始めたのはコロナ禍に突入した2020年春からなんですが、当時は売れっ子の方でも時間が余っているから出てくれるかもしれないという思いだけで、何かに繋げようとか、あまり露出がない芸人さんにもスポットを当てたいとか、崇高な思いがあったわけじゃありません(笑)。単純に興味がある人、喋ってみたい人と喋りたかっただけ。でも、その中で水田さんに出て頂いて、思いがけないほど喋ってもらえたことが『情熱大陸』の企画書を書くきっかけになったのは事実です。

――後の仕事に繋がったんですね。

 はい。普段から芸人さんと仕事をご一緒していても、向き合って話すことなんて、ロケに行く時の移動時間か、レギュラー番組なら総合演出として向き合って、飲みに行ったりするか…そのくらい。それでも「どうやってネタを書いているんですか?」なんて質問は出来ない。だけど、Radiotalkだとそういうことも恥ずかしげもなく聞けるんですよね。

アインシュタインの河井さんが出てくれたときは「M-1は出てもあと2~3回と思ってる」と漏らしてくれたり、3時のヒロインの福田さんが、テレビに出る際に芸人とタレントの狭間でもがいていることだとかを曝け出してくれたり…。芸人さんが模索していることを、リアリティを持って感じることが出来ました。もちろんそれまでも「皆それぞれテレビとの付き合い方を考えているんだろうな」とは思っていましたが、想像以上に考えているんだという事実に改めてハッとさせられたというか。

――そういう思いを聞いた以上、誠意ある覚悟で自分も接しなければと。

 思いましたね。最初の話に戻りますが、出て下さった以上「出て良かった」と思って帰ってくれる番組にしなくちゃな、と。

だから、Radiotalkはいい経験になっていますね。後輩からも「楽しそうだ」と羨ましがられましたから(笑)。僕のやり方を見習ってくれとは全く思わないですけど、若いテレビ制作者って、1本のVTRを作ることに全力を注ぐ日々に忙殺されがちなので、40歳過ぎた先輩が楽しくやっているのを「こういう働き方もアリなんだ」と思ってくれたなら、それだけでもやった価値があったと思います。

TV Bros.が選ぶ、絶対に聞いて欲しいRadiotalk「芸人リモートーク〜会わずにラジオ〜」3選!

山内健太郎さんが今、話してみたい芸人さんと顔を合わせずトークを行うRadiotalkでのネットラジオ番組「芸人リモートーク〜会わずにラジオ〜」。和牛の水田さん川西さんをはじめ、ブラックマヨネーズ・小杉さん空気階段・水川かたまりさんなど豪華ゲスト出演のこの番組、TV Bros的にピックアップしたい番組を3つご紹介! 
山内さんご本人が全番組についてコメントいただいているnoteはコチラ!

どきどきキャンプ佐藤満春さん編(全3回)芸人兼、構成作家のサトミツさんこと、佐藤満春さん登場のこの回。日向坂46に学ぶアイドルは地上波バラエティでどう振る舞えばいいのか?という全アイドル必見のテーマや、佐藤さんと親交の深いオードリーの若林さんの何がすごいか?そして、ダメだけど可能性を感じてしまうお笑い企画をどう救うか?についての即興企画会議など、聴きどころ盛り沢山の回!

おいでやす小田さん編(全2回)Mー1グランプリ2020の決勝に出場しブレイクする直前のおいでやす小田さんの平和すぎるフリートークに山内ディレクターがツッコむという珍しい回。それに返す小田さんのコメントも流石!

銀シャリ橋本さん編(全4回) Mー1グランプリ2016を制覇した銀シャリ橋本さんが今の漫才をどう思うかをじっくり聴ける回。漫才そのものがどう広がっていくかを観ている視野の広さに感銘。社会人漫才って最高ですね!

実名SNSからほとばしるB’z

――山内さんは、ラジオだけでなく、noteでもTwitterでも赤裸々な思いを綴っているのが、いまどきの制作者らしい印象を受けます。

 今ちょうど、総合演出としてレギュラー番組を担当していないタイミングだからこそ、自分だけのジャッジで好きなことを発信できる立場だというのもありますが、単純に何かを「表現したい」「吐き出したい」性格なんです。ナレーターの方が、収録前にめちゃくちゃ喋るということに似ているのかな? ナレーターの方って、お喋り好きな人が多いんです。30分くらい気が済むまで喋ってから「よし、ナレーション録ろう」という人もいるくらい。

――そうなんですか! 意外です。声帯を大事にするため無駄な発声はしないのかと思っていました。

 いやいや、やはり決められた台本だけを喋るお仕事だから、すべて吐き出してから収録する方もよくいらっしゃるんです。僕もそれと同じ…なんですかね? 自分を発信、表現する場所が足りていないんでしょう。だからSNSなどで発信することで、思いを昇華しているのかもしれないです。それがたまたま『情熱大陸』に繋がりましたが、決して狙ってやっていたことではないです。

――なんだか、いい話です。川西さんが今回のDVDの発売イベントで、「芸人は笑いの作り方の裏側を語るものじゃないという不文律のようなものがあるけれど、今の視聴者はそういう作り手のからくりも知っているんだから、あえて曝け出しても構わない、そのうえで受け入れてもらいたい」というようなことをおっしゃっていて、まさにその通りだと思いました。同じ意味で山内さんも、作り手としての透明性が作品の誠実さに現れると考えているのかなと。

 確かに、作り手の顔が見えたほうがいいという人は増えていると思います。でも、すべてを実名でやっている以上、責任感は伴うし、生半可なものは作れないという腹は座りますよね。今回のことで言うなら、和牛の芸人人生を壊してはいけないとか、自分の制作人生をマイナスにしてはいけないとか、そういうプレッシャーはありました。

――その誠実さが、良い方向に向かった。

 結果的にそうだったらいいですね。

――山内さんのSNSでは、仕事の宣伝よりも、B’zに対する個人的な愛情をひたすら語っているのも印象的です。

 あはは、そればっかり書いてますね(笑)。

――何かに対する本気の愛情を持っている人が、また別の何かの魅力を掘り下げようとする姿勢も、視聴者の信頼感を獲得している気もします。いまどきの人は、ネットを通じてそのくらいのことは見抜くというか。

 なるほど確かに。B’zの話で思い出しましたが、例えばこのDVDを買ってくれる人は、和牛に対して特別な愛情を持ってくれている人ですよね。熱狂的なファンの方が商品を手にするときのことを、自分がB’zの何らかの作品を買うときの気持ちと置き換えて想像はしてみましたね。作品もブックレットもあまり制作にお金はかけられないけれど「買って良かった」と思ってくれるかどうか。

ファンとしては、自分が大好きな人の作品を手にしたときの喜びとガッカリの両方を知っているぶん、「喜び」をできるだけ詰め込みたいと思うじゃないですか。それには、ディスクは2枚組にして、ボリューム感が伝わるように収録時間は出来る限り120分に近づけて。自分自身が熱狂的に好きになったものがあるという体験が役に立っているといいですね。

DVDに秘められた隠しコマンド

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