【ラジオ概況】『チュウモリ「#むかいの喋り方」』『パンサー向井の#ふらっと』絶好調のパンサー・向井慧がラジオに愛される理由【2022年5月ラジオコラム】

2022年度の改編期も一段落したラジオ界。その中で特に輝きを見せるのが『チュウモリ「#むかいの喋り方」』(CBCラジオ)、『パンサー向井の#ふらっと』(TBSラジオ)などで絶好調のパンサー・向井慧だ。

向井を中心にして、現下のラジオ界の概況を、ラジオコラムニストのやきそばかおる氏が考察する。

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<プロフィール>
やきそばかおる●山口県生まれ。ラジオコラムニスト、インタビュアー。TV Bros.をはじめ、さまざまな媒体でラジオに関する取材、執筆を行う。
https://twitter.com/yakisoba_kaoru

向井慧がラジオに愛される理由

文/やきそばかおる

「ディズニーランド現象」という言葉がある。簡単に言えば、絶対に面白いと分かっているところ(人・もの)ばかりに人が集まる現象だ。日本人ほどランキングが好きな国民はいないと言われるが、テレビ、ラジオ、漫画・アニメ、配信など面白いもので溢れている時代において、ますますこの現象が顕著になっており、ランキングの上位ばかりに注目が集まる。しかも、配信は1.5倍速で観る、SNSはスクロールするもののリンクは踏まない、気がつけば勝手に流れてくるおすすめの動画ばかり観ている人が多い。まだ広くは知られていないが、これからくるものを広めていくのは至難の業だ。

そんななかにおいて、自分が面白いと思う人(物)を紹介していくことは大事だ。なかでもパンサーの向井慧は『チュウモリ「#むかいの喋り方」』(愛知・CBCラジオ)で面白い芸人、番組共演者、映画、アニメ・漫画、音楽などを積極的に紹介している。その影響力は大きく『それいけ!アンパンマン いのちの星のドーリィ』の奥深さについて15分にわたり語った時は、大人の心にも響き渡る話の構成のうまさもあり、大きな反響を呼んだ。

向井が「面白い」と言い続けてきた人物のひとりに相席スタートの山添寛がいる。

「昔はトークライブをすると客席が満員だったけど、少しずつお客さんが減っていって満席になることのありがたみを痛感していました。今回、ふたりで開いたトークライブにパンパンにお客さんが入っている光景を見てぐっとくるものがありました」

こちらは向井が『#むかいの喋り方』で話した一言だ。向井は5月7日に東京・新宿のルミネ THE よしもとで行われたトークライブ『興味津々トーク~呼んだ人と呼ばれた人~』に出演した。山添が“話を聞きたい人”として向井をゲストとして招いた形で行われた。向井といえば4月に『パンサー向井の#ふらっと』(TBSラジオ)が始まり、ラジオ(配信番組含む)のレギュラーだけで5本、テレビも『有吉の壁』(日本テレビ系)、『王様のブランチ』(TBS系)など多数のレギュラーを抱える自他共に認める“隠れ売れっ子”だ。

一方、山添も4月にラジオ大阪で『サクラバシ919』のレギュラー番組がスタート。火曜の午後11時からの2時間番組でミクチャでも配信している。ルミネで行われたトークライブでは、自身のラジオ番組を始めるにあたり、向井の番組を片っ端から聴いて勉強をしたという山添が、向井にラジオにまつわる疑問を次々にぶつけた。トークライブのお客さんはおよそ7割は20〜30代の女性。ラジオを聴いていないと分からない話でも大きな笑いが起きていたため、日頃から番組を聴いている人が多かったようだ。

『サクラバシ919』は山添にとって待望のラジオの冠番組だが、山添はラジオに関して不遇な時期を経ている。2019年に文化放送で『相席スタートの密会Midnight』がスタート。少し落ち着いた雰囲気の番組で山﨑ケイとのかけあいが面白かったのだが、番組は1年で終了。その後、相席スタートは『ザ・ラジオショー』(ニッポン放送)、『卒業アルバムに1人はいそうな人を探すラジオ』(文化放送)に声がかかるものの、レギュラーとして呼ばれたのは山﨑のみであった。しかし、その間山添は『ラヴィット』(TBS系)でサイコパスなキャラクターが注目を浴びたほか、芸人の間で「クズだが面白い」と度々話題に上がるようになった。

実際に『サクラバシ919』では興味深いエピソードに自虐も挟みつつ面白おかしく話す。ゆったりとした口調はどこか落語を彷彿とさせるものがあるが、借金ネタをはじめ、やや下世話なのがポイントだ。そのうえ「借主」(番組ではリスナーを「借主」と呼ぶ)からのリアクションメールにも芯をとらえたツッコミで返し、ネタ投稿のコーナーも山添の面白さに比例するようにリスナーからの秀逸なネタがたくさん集まっている。なかでも個人的に注目しているのが「絆変換」と「山添寛ジャム」のコーナー。「絆変換」はある言葉を別の言葉で言い換える。「借金」を「絆」と呼んでいることもあり、この名前が付けられている。「山添寛ジャム」はある有名な歌詞を山添流に解釈するのだが、このネタも非常によく練られている。

向井は山添の面白さをかなり前から広めていた。『#むかいの喋り方』では年に一度、山添と向井の大親友、チョコレートプラネットの長田庄平を迎えてその年の若手芸人界を振り返る企画を行ってきた。2019年の時点でも向井は「『山添はホントにブレイクする可能性がある。元々面白いけど、テレビで自分の良さを出す方法をちょっとずつ分かってきて2020年以降の山添くんは驚異だというのは前々から思っていた」と話している。

そんななか、ふたりのトークライブが満席で開催されたのは感慨深いものがあった。ただ、皮肉なことに山添の番組は『#むかいの喋り方』と同じく火曜日の夜の放送で、時間帯も1時間かぶる。さすがの向井もこのことを知った時は番組で苦言を呈していた。4月以降は『#むかいの喋り方』で山添の番組について触れることはラジオ局やスポンサーに配慮してなのか少なくなったものの、山添の番組では向井の番組のリスナー(「スパイ」ともいう)から届く「『#むかいの喋り方』に関するタレコミ情報」も紹介していて微笑ましい。火曜の夜、向井と山添の番組はリスナーを通じて素敵な絆で結ばれている。

ただし、向井のほうは少し悩んでいる。朝の番組『#ふらっと』ではどのような話をすればいいのか、試行錯誤が続く。ラジオはリスナーが定着するのに時間がかかると言われるが、向井は想像以上のプレッシャーを感じている。向井は『#むかいの喋り方』で夜と朝の番組の違いについて「夜の番組は部活でしゃべっている様子をリスナーが盗み聞きする感覚。朝の番組は朝礼で全校生徒の前で話すような感覚」と例えた。テレビでしか向井を知らなかったリスナーにとって、伊集院光が話していた朝の時間帯にいきなり向井が出現することに困惑した人も多かったのは事実だ。『#むかいの喋り方』が名古屋でスタートしたのが2018年。向井にとっては「朝の時間帯に話すのはふりだしに戻った感覚。大阪で活躍した芸人が上京した際にもう一度売れないといけないと言われるが、その感覚」と例えた。

そんな向井を『#むかいの喋り方』のリスナーは『#ふらっと』のスタート時から温かく見守り続けている。ラジオパーソナリティーでいえば3月に『大沢悠里のゆうゆうワイド 土曜日版』(TBSラジオ)に向井が出演した際には大沢悠里が不安げな向井の相談にこたえた挙句「その声なら大丈夫だよ」と背中を押した。しかも『#ふらっと』のメインビジュアル(出演者が芝生の上に敷いたレジャーシートに座っている)のパロディ画像を毒蝮三太夫とふたりで撮影してSNSにアップするほどのサービスぶりだ。伊集院光もエールを送ったことがある。ほかにも『爆笑問題の日曜サンデー』『井上貴博 土曜の「あ」』(ともにTBSラジオ)などにゲスト出演して温かく迎えられたほか、最近では他局のラジオ番組や『有吉の壁』をはじめとしたバラエティー番組でも向井のラジオの話が話題に上がるようになった。各曜日のパートナーもなじんできている。向井の真面目に仕事に取り組む姿勢に対する、各方面からの恩返しは始まったばかりだ。

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