監督の美意識と世界観の重要さを教えてもらった映画『ガタカ』川元利浩 第2回【連載 アニメ人、オレの映画3本】

『カウボーイ・ビバップ』や、Netflixのオリジナルアニメ『エデン』等で人気の高いアニメーター、川元利浩さん。1回目ではオールスターキャストの醍醐味とパニックものの面白さが詰まった『タワーリング・インフェルノ』を選んでくださいました。では、2度目となる今回の作品は? 聞いてみましょう!

『タワーリング・インフェルノ』川元利浩 第1回
錚々たるアニメ関係者のアツい映画評【アニメ人、オレの映画3本 記事一覧】

<プロフィール>
川元利浩(かわもと・としひろ)●1963年三重県生まれ。アニメーター、キャラクターデザイナー。株式会社ボンズ取締役。キャラクターデザインを手掛けた主な作品に『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』(1991年/作画監督)、『カウボーイ・ビバップ』(1998年)、『エデン』(2021年)ほか多数。

いつかこういう映像を作りたい…いろいろ趣味とシンクロする部分が多かった作品

 

――今回は2本目をお願いします!

アンドリュー・ニコル監督の『ガタカ』にしました。25歳くらいのころ、もう今の仕事に就いてから観たSF映画です。

すでにアニメーターになっていたせいか、映画ファンとして作品を純粋に楽しむというより、“映画の作り方”を考えながら観るようになったと思います。

そういう面で言うと、ビジュアルというか世界観が印象的だったし、それを捉えるカメラのアングルやレイアウトがかっこよかった。いわゆるレトロフューチャーというコンセプトの世界観ですが、こういう表現があったんだと驚いたり、いつかこういう映像を作りたいと思ったりと、いろいろ趣味とシンクロする部分が多かった作品でもあるんです。

――『ブレードランナー』(1982年)の登場以来、SF映画は雨が降っていたり汚れていたりするのがスタンダードになっていたんですが、この映画は真逆ですよね。チリひとつない世界観。それが返って新鮮だったというか、この映画には見事にハマっていましたよね。

DNAを操作して生まれた「適合者」と、操作なしに生まれた「不適合者」。そういうDNAにまつわる話というのは当時もさほど新しいわけではなかったと思うんですが、スタイルのある世界観とひとりひとりのキャラクターが魅力的で、自分的にはとても腑に落ちる映画だったんです。

――イーサン・ホーク演じる主人公ヴィンセントは不適合者なんだけれど、宇宙に行くという夢を持っている。なので、不適合者であることを隠して、適合者しか入れない宇宙局“ガタカ”に入局する。そのからくりは、ジュード・ロウ扮する車椅子で生きることになった適合者のジェロームと一緒に暮らし、彼の髪の毛や爪、血液をもらってジェロームになりすまし、毎朝行われるDNAチェックをパスするという設定になっていましたね。

冒頭は、発光した青い映像で、そこに白い雪のような何かがふわふわと降って来る。マイケル・ナイマンの音楽がフェードインして、とても幻想的な画なんだけど、しばらくするとそれがヴィンセントの皮膚の欠片や体毛だということがわかる。すぐに映画の世界に入っていける見事なオープニングですよね。

――彼はいつもそうやって自分のDNAを残さないようにし、代わりにジェロームの血液や髪の毛、皮膚の欠片を隠し持ってガタカに通う。

宇宙局のガタカとして登場する建物はサンフランシスコのマリン群のシビックセンターですし、レトロっぽい車も実際のものを使い、そのエンジン音をモーター音に変えることで未来の車っぽくしている。舞台は近未来ですが、そういうセットを組むのではなく、実際の建築物を使って近未来感を出している。アイデアが詰め込まれている感じでした。

実は僕、舞台となったシビックセンターに連れて行ってもらったことがあるんですよ。

――それは凄いですね。『ガタカ』の舞台を見たかったんですか?

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