推し問答!【4人目:芸人オタク 手条萌さん後編】「Chu! ワーキャーでごめん」

様々な人に「推し」や「推し活」について語ってもらう「推し問答!~あなたにとって推し活ってなんですか?」、第4回のゲストは評論作家の手条萌さんです。なお、この記事は後編になります。

 

取材&文/藤谷千明  題字イラスト/えるたま

 

さて、お笑いとファンをとりまく状況も、「推し(活)」ブームと無縁ではありません。あれは一昨年くらいのことだったか、なんとなく見ていた「M-1グランプリ」の視聴者投票について「推しコンビに投票しましょう」的なテロップが出ていたので「そこは〈面白いヤツ〉ちゃうんかい!」と思わずエセ関西弁になってしまいました。まあ、でも「面白いヤツ」=「推し」という考え方もある……のか?

芸よりも芸人さんの「物語」を重要視して、「エモく」、彼らを「消費」するな(カギカッコ多いな…)という向きもありますよね。とはいえ、賞レースには「エモい」ポスターや「エモい」オープニング映像、「エモい」舞台裏番組が作られます。

その一方で、お笑い賞レース番組のたびに、視聴者それぞれがSNSで芸人さんを評価する昨今ですね。私もたまにやります。楽しい! そのさまをみてさらに「自称評論家だらけ」と揶揄される。とはいえ、そういった番組の審査員はたいていベテラン芸人のみです。評論家はいません。「お笑いを論じる」ことも、「ワーキャー」と同じくらい煙たがれることもあります。応援すること、分析すること、語ること。どれも受け手の自由のはずなのに。まぁ批判するのも自由ですけどね。では後半戦、はりきって行きましょう。

 

※「ワーキャー」:「ワーワーキャーキャー」の略。対象を「ワーワーキャーキャー」と応援する存在、あるいはそのムーブのこと。特に男性お笑い芸人ファンにおいて、ネタのおもしろさや実力を考慮せず、本人たちをタレント、あるいはアイドルとして消費する存在(手条萌 著『お笑い芸人のワーキャーファンだからって何も考えてないと思った?』より)

 

【1人目:ジャニーズオタク松本美香さん】「あの頃の未来にオタクは立っているのかな」

【2人目:仮面推し活経験者 野田春香さん】「時にオタクは推しを隠してた Because I love you」

【3人目:メンズ地下アイドルオタク Kさん】「推しとオタクとドラマと部活」

 

 

前編はこちらから

 

NMB48のさやみるきーをダウンタウンに重ねていた

 

藤谷千明 この連載の第3回に出てくださったアイドルオタクのKさんも、AKB48のドラマに魅力を感じていたという話をされていたんです。手条さんはお笑い好きということもあってか、大阪のNMB48に向かったのでしょうか。

 

手条萌 当時、私は若手芸人たちの「拠点を持った上で夢を追いかける」というスタンスが好きだったんです。NMB48にもそれを感じていました。山本彩さんが好きだったんですけど、あの関西弁の溌剌な感じ、かっこいいですよね。相方のみるきー(渡辺美優紀さん)とは対照的で、あの二人をなんだかダウンタウンと重ねてしまって……!

(見取り図ディスカバリー展にて/手条さん提供)

 

藤谷 「さやみるはダウンタウン」! そういう視点、好きです。ジャンルは変わっても、推す対象の性別が変わっても、やはり「コンビ」に魅力を感じていたと。

手条 そうですね。NMB48を好きになる前は、男性のお笑い芸人ばかり好きになることに、ややうしろめたさのようなものがあって……。なんていうんでしょうか……。

藤谷 「擬似恋愛の対象として芸人さんを見ているだけなのでは」みたいな?

手条 はい、それが男女関係ないんだと自分自身で気づけたことは、大きな転換点でした。そこから、なにか自分でも評論を書いてみようと思いました。当時はAKBを中心にアイドル評論が盛り上がっていました。あの熱気の正体はなんなんだろう? この人たちは何を考えているんだろう? ということが気になって。AKB関連の評論を読むようになりました。

藤谷 「AKB論壇」なんて呼ばれていましたね。あの頃は、今の女性が目立つ「推し活ブーム」とは反対に男性ばかりが語っている印象がありました。もちろん、中には女性もいたと思うのですが、目立つのは、という。

手条 はい。だからこそ男性たちが熱狂しているものの正体を知りたいと思っていました。けれど、お笑いよりはアイドル評論は女性でもやりやすいのでは、みたいな気持ちも少なからずありました。他にも色々なカルチャー評論、たとえばカレーの評論もやっていて『カレーの愛し方、殺し方』(彩流社)という本も出しています。

藤谷 すごいタイトルですね。色々やった上で、お笑いという手条さんにとっての本丸に手を伸ばさなかった理由は?

手条 色々やっててもお笑いだけは触れられなくて……。やっぱり「お笑いをやったことないヤツが……」みたいな空気があるような気がしていて。

藤谷 前編では性別の話になりましたが、音楽や映画よりも「経験者以外が語らないでほしい」という空気があったと。それこそ映画や音楽の賞の審査員は評論家もいると思うんですけど、「M-1」のような賞レースの審査員は全員大御所の芸人さん、という印象があります。

 

「やったことないくせに」の声が怖くてお笑い評論に踏み出せなかった

 

手条 「やったことないくせに」は本当に胸に刺さるんですけど、だって、やったことないから(笑)。そう言われるのは、映画や音楽よりも技術が見えにくいからかもしれないですね。

藤谷 とはいえ「小説のことは小説家しかわからない」みたいな議論もありますし、批評や評論の世界ではずっとついてまわるのかもしれません。

手条 だから、お笑い評論だけはやりたくなくて、アイドルだったりカレーだったり、アニメだったりをやってて、お笑いではなく千原ジュニアさんの出演した映画の評論をやったりして、徐々に外堀から攻めていって、ようやく決心してお笑い評論同人誌『ゼロ年代お笑いクロニクル』を2019年に出したんです。

藤谷 ついに本丸に。そのきっかけは?

手条 もう2010年代も終わるし、復活した「M-1」も盛り上がっていたので、「そろそろ振り返らないといけない」という使命感のようなものです。自分がなにかお笑いについて語ると、「お前なんかが語るな」と言われそうで怖かった。でも、言葉を持たずに語らないままだと、自分の想いまで流れて消えてしまいそうな気がしていて。バッシングされるより、そっちのほうが怖かった。

藤谷 言葉で、文字にして残さないといけないみたいな危機感ってありますよね。私も、現在色々な人が考えていることを残しておきたいです。それはこの連載をやっている理由のひとつです。

手条 だからバッシング覚悟で発表してみたけれど、思ったよりも私の話に賛同してくれる人もいて、最近はそれがだんだん増えてくれて。そうやって徐々に流れがかわってきたんです。

藤谷 芸人当事者ではない人が語ること、論じることは未だに批判的な視線がある一方で、今はSNSを中心としたファンの人たちの声も大きな影響力を持っている。「評論」や「批評」と呼ばれるものって、そのどちらに属すものでもないですよね。……というか、私はそう思っています。その中で、手条さんにとって「評論」することは、「推すこと」でも、あるのでしょうか。

手条 そのあたりは、自分の中でも結構分裂してる感はありますね。たとえば評論作家の「手条 萌」とは別の人格でワーキャーのアカウントを運用していて、そっちはそっちでめちゃくちゃ盛り上がっていて……。関連があるようでない、ないようである、非常に絶妙な状況です。

藤谷 たとえば「応援している自分」と、「分析している自分」の間で揺れている? はたから見てると、それは本当に大変そうなのですが……。

手条 だから、言葉を持たずに消費していくのではなくて、意味を持たせたいというか。評論作家とワーキャーのどちらのポジションでも、言葉を尽くせば尽くすほど盛り上がるので。

藤谷 「消費」という言葉も難しいですよね(頭を抱える)。自分もよく使っちゃうんですけど! 「お笑い」の世界には権威的な男性社会の空気が充満しているように見えて、テレビを観ているとそれが透けて見えて「ウッ」ってなることがある一方で、そういった関係性に「ボーイズラブ」とまではいかなくても「男同士の絆」みたいなものを見出して萌えることも少なくないわけで……。いや、一般論にしてはよくないですね。私はわりと「そういう目」で見ておりました。

手条 そう、「関係性消費」みたいなものに関わってくるんですよね。少し前にYouTubeで、芸人さんがホワイトボードに人間関係相関図を描いて説明する動画が流行っていました。

藤谷 あ〜、一時期YouTubeのサムネイルで、よく見かけました。結構再生数も高いものが多いですし、需要があるのでしょうか。

手条 芸人自身は誰が先輩で誰が養成所の同期でって、意外と知らない人が多いから、やっぱりそこに「関係性」を過剰に見出しているのかもしれない。

藤谷 お笑い芸人やアイドルも(養成所やオーディションの)●●期というカテゴリもありますし、関係性を見出しやすいのかもしれないですね。

編集・Kさん 「お笑い第●世代」みたいな……。

藤谷 そして、芸人さんに対して、そういう関係性推しだったり、キャラクター単体推しだったりのメディアや雑誌も増えたような気がします。とはいえ、たとえば、「芸を売ってんだから、こんなイケメン風のグラビアを撮るべきではない」という意見もあるのでは。

手条 昔はよく言われてました(笑)。

藤谷 ですよね(笑)。でもですよ、You Tubeで「エモい」関係性の動画を出しているのは芸人さんたちですし、物語性を過剰演出するポスターや映像を出しているのは賞レース番組。そしてそれがSNS上で話題になることが多い。卵が先が鶏が先かの話ですが。あとやっぱり「競争」コンテンツ、たとえば、AKB総選挙や「M-1」、アイドルオーディション番組(サバ番)などなど、例を上げればキリがないのですが、ああいうのって夢中になっていると、脳から変な汁が出るといいますか。

手条 もう尋常じゃないですよね。私、見取り図が大阪から最後にエントリーした2021年、どうしても勝ちに行かなきゃいけないのに、準決勝で敗退したので、だいぶ頭が真っ白になりました。

藤谷 死ぬほど気持ちはわかるのですが、それは正直「託しすぎ」では。やっぱり何かを応援していると、過度に「託しちゃう」こともあるじゃないですか。じゃあ推しが期待はずれだったら? あるいはもっと大問題を起こしてしまったら? という気持ちがありますね……。

 

書き手として推しと運命を共にするくらいの気持ちでやっています

 

手条 私は書き手としては、本当に推しと運命を共にするくらいの気持ちでやっています。

藤谷 「託しすぎ」です! とはいえ……、大なり小なりこうやって自分の意見を公で発信できるライターや作家、評論家などは、なにかあったときに「いちファン」とは違う何かしらの責任があるのではないか……? と最近はよく考えます。

手条 それは藤谷さんのようなライターさんと私の違うところですね。やっぱり私は本業があって、副業的にやっている。これも少しずるいのかもしれません。

藤谷 ずるくはないですよ、これはインタビュー取材をするタイプの「ライター」と、対象と距離をとっていることが前提の「評論」ではまた軸足が異なるところでもあります。専業か兼業かは関係ないかもしれません。そして手条さんはむしろ、自分のメディア、同人誌を持っていることが強みだと思います。

手条 そうですね、それに、会社の仕事ではなく自分の好きなことを書くためにやっているので、ここで嘘をついてしまっていたら、推しのいう「自分の人生頑張ってくれ」に反してしまうし。

(見取り図ディスカバリー展のチケット半券&グッズ/手条さん私物)

 

わたし、ワーキャーの星になります…!

 

藤谷 執筆が人生。たしかに。ところで、見取り図には最終的にどうなってほしいですか。

手条 見取り図は、劇場を主軸にテレビを頑張っているとのことなので、ゆくゆくはNGKの看板、今、中川家が担当されてるような、劇場の看板になってくれたらといいな。ずっと漫才をやっていてほしいですよね。私は漫才が大好きなので。

藤谷 では、手条さんご自身はこの先どうなりたいのでしょう。なにか目標はありますか?

手条 「ワーキャーの星」になりたいです! それが、具体的にどんな状況なのかは、まだ……。

藤谷 例えば……、「ワーキャーの星」として、「M-1」決勝の審査員に並びたい! とか?

手条 あっ、むしろ予選の審査に入りたいです。とくに、予選は作家さんも審査員に入っていますし、女性もいらっしゃいます。そういう場所に「ワーキャー」枠があってもいいじゃないですか。

藤谷 ちなみに、「ワーキャー」枠の審査員は、どのような基準で票を入れるのでしょうか。

手条 上手で面白いのに「イケメンだから」という先入観から、点数が下がっている人も少なくないと感じています。それは違うんじゃないかと異を唱えていきたいですね。それが「ワーキャーの星」活動の一環かもしれません。

藤谷 いいですね。「ワーキャー」の椅子、とりに行きましょう。まずは深夜帯の番組から狙って……。すみません、勝手に計画を立ててしまいました。

手条 他にもやりたいことはたくさんあります! 過去の歴史、それこそ平安時代頃から「漫才」(萬歳)と呼ばれる演芸は存在しているといわれているので、当時から現代に至るまでの、女性ファンのカルチャーやマインドを研究する……みたいな構想もあります。

藤谷 それ、すごく読みたいです。今日は面白い話が聞けました。ありがとうございました。

 

手条萌(てじょう・もえ)●評論作家。広島県尾道市生まれ。『カレーの愛し方、殺し方』(彩流社、2016年)で商業デビュー。『平成男子論』(彩流社、2019年)のほか、『ゼロ年代お笑いクロニクル おもしろさの価値、その後。』『2020年代お笑いプロローグ 優しい笑いと傷つけるものの正体』『漫才論争 不寛容な社会と思想なき言及』『お笑いオタクが行く! 大阪異常遠征記』『上京前夜、漫才を溺愛する』など多くの同人誌を発行している。集英社新書プラスにて「なぜM-1は国民的行事になったのか」を連載中。Twitter→@tejoumoe

藤谷千明(ふじたに・ちあき)●1981年、山口県生まれ。フリーランスのライター。
高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後多くの職を転々とし、フリーランスのライターに。ヴィジュアル系バンドを始めとした、国内のポップ・カルチャーに造詣が深い。さまざまなサイトやメディアで、数多くの記事を執筆している。近年はYoutubeやTV番組出演など、活動は多岐にわたる。著書に 『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)。共著に 『アーバンギャルド・クロニクル「水玉自伝」』(ロフトブックス)、 『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミュージック)などがある。 Twitter→@fjtn_c

投稿者プロフィール

TV Bros.編集部
TV Bros.編集部
テレビ雑誌「TV Bros.」の豪華連載陣によるコラムや様々な特集、過去配信記事のアーカイブ(※一部記事はアーカイブされない可能性があります)などが月額800円でお楽しみいただけるデジタル定期購読サービスです。
0
Spread the love