長澤樹 映画『ハウ』インタビュー「福島の被災者である麻衣という役を演じる以上、中途半端に演じてはいけない」

2022年8月19日から公開の映画『ハウ』。ワンと鳴けない保護犬・ハウと、婚約者と暮らすための家まで購入したのに一方的に婚約破棄されてしまったちょっぴり気弱な青年・民夫(演:田中圭)の心温まる絆を描いた物語だ。

     

TV Bros.WEBでは映画『ハウ』を3日連続で特集、3日目に登場するのは長澤 樹

       

今作では民夫が待つ横浜に向かうハウが道中で出会った女性の一人で、転校先の学校で震災による風評被害のいじめをクラスメイトから受けている中学生・麻衣を演じる。いじめへの怒り、震災による悲しみ…複雑な感情を抱える役を演じた上で考えたことや撮影の舞台裏について語ってくれた。(インタビューの最後には直筆サイン入りポラの抽選プレゼント企画も実施中。詳しくは【プレゼント情報】欄をご覧ください。)

     

取材・文/編集部
撮影/倉持アユミ

映画『ハウ』3日連続特集

1日目 犬童 一心監督
2日目 池田 エライザ
3日目 長澤 樹

【Profile】
長澤 樹(ながさわ・いつき)
●2005年10月24日生まれ、静岡県出身。20年公開の豊田利晃監督作『破壊の日』で映画に初出演。同年に短編映画『卵と彩子』やTVドラマ『ノースライト』、『閻魔堂沙羅の推理奇譚』にも出演する。そのほかの出演作は、TVドラマ『青のSP(スクールポリス)-学校内警察・嶋田隆平-』(21年)、『息をひそめて』(21年)など。また、日生劇場で上演された『INSPIRE 陰陽師』(20年12月-21年1月)では初舞台にも挑戦した。「パナソニックホームズ」、「INPEX」などのCMにも多数出演中。

                                               

「ベックが撮影現場に入ると自分の気持ちも撮影現場も一気に明るくなるんです。」


━━『ハウ』では黒髪でしたが、今は髪色を染めていらっしゃるので新鮮に感じます。

長澤 樹(以下、長澤):そうなんです(笑)。今は別の作品に入っていて、そのために金髪に染めています。

━━長澤さんはハウを演じる俳優犬・ベックとはクランクイン前に準備期間で仲良くなることができたとのことですが、それは具体的にどんなことがあったんですか?

長澤:今作でハウと麻衣のダンスシーンがあるのですが、クランクイン前にダンス練習の時間があって。曲にあわせてベックが私の背中の上を跳んだり跨いだりする技を何回も練習しました。その時にどうやってベックの心を掴むのか、すごく考えましたが、ドッグトレーナーの宮(忠臣)さんとお話ししたときに色々と教えていただいて。技が成功したらすごく褒めたり、ちゃんと指示する時は「待て!」と一言で伝わるようにしたりして、メリハリをつけるようにして接しました。

本番もすごく緊張したので、練習期間をいただけたのは、本当によかったです。ベックが運動神経がいいことはすぐに分かりましたが、踊る場所が駅のホームということもあり、勢いでベックが線路に落ちたりしないか心配もあって。なんとか撮影を終えられてよかったです。

━━その練習期間や撮影を通じて、ベックの印象はいかがですか?

長澤:ベックは賢いのはもちろんですが、“邪気がない”という意味で「無邪気だな」と思います。完成した今作を観て、その印象は、より強くなりました。私が撮影中に悩んでいることもあったのですが撮影現場にベックが入ってくると、自分の気持ちや撮影現場の雰囲気が一気に明るくなるんです。その存在感は凄いなと思いますし、私もベックみたいな存在になりたいという憧れがあります。

お芝居で迷っていても、ベックを目の前にしたら自分が自然なままでいられることを感じて。撮影前も色々考えていたことがパッと解決して「よし、これでいこう!」と思えたんです。だから「ベックはすごいな」と改めて思いました。

                                   

怒りと悲しみ、戸惑い…
傷を負った少女を演じる上で感じたこと


━━今作『ハウ』で長澤さんが演じる麻衣は、転校先の学校で震災の風評被害によるいじめを受けている中学生いじめや被災のことによって、複雑に入り混じった想いを抱える人物ですが、台本を読んだ印象はいかがでしたか?

長澤:まず犬童一心監督と初めてお会いしたときに、私が麻衣という人物について感じたことをお伝えしたのですが、その時に私は「麻衣は“怒っている”」と感じていました。その感情をセリフや行動などでわかりやすく外に出すわけではないけど、様々な感情の根底には「怒り」があるということを監督とお話ししました。

ただ、それが固まったとはいえ、撮影しているときも迷いを感じていたので撮影中も、ずっと監督とお話ししていました。

━━麻衣は(避難区域として指定された地域にある自宅には15歳になるまで立ち入ることを禁止されていて)15歳になったことで、震災以来初めて避難区域にある自宅を訪れますが、被災した自宅の惨状を目にして深く傷つきます。いじめへの怒りだけでなく、被災したことへの悲しみと戸惑いも感じているように見えました。

長澤:確かに麻衣は単純な気持ちだけではなく、複雑な感情が入り混じっていて、麻衣も自分が何を思っているのか自分でも分かっていない状態で、頭の中がごちゃごちゃしていて。私も演じる上で、そのザワザワした複雑な感情を感じていました。

━━麻衣は多くを語らないキャラクターでありながら、怒り・悲しみ・戸惑いといった色んな想いが入り混じっているのを目や表情から感じられたのですが、どんなアプローチで麻衣を演じられたのでしょうか?

長澤:私は被災者ではない人間ですが、福島の被災者である麻衣という役を演じる以上、中途半端に演じてはいけないという想いがありました。撮影に入る前に、犬童監督にドキュメンタリーをご紹介していただいて。それは私と同じ年代の、福島の被災者の中学生たちを記録した映像だったのですが、その映像を数えきれないくらい観て、観終わる度に自分が感じたことを綴っていました。観るたびに感じたことや気づいたことがあって、その気持ちを麻衣という役に結びつけていました。

━━ハウは主人公・民夫のもとに向かう道中で、麻衣以外にも2人の傷ついた女性に出会います。ご自身が演じられた麻衣以外のパートを見て、どのように感じましたか?

長澤:完成した作品を観て、私が台本を読んだときとはまた違う解釈があることを知りました。宮本信子さんが演じる夫を亡くした女性を描いたパートでは“優しさ”を感じました。宮本さんの発する一つ一つのセリフの背景に、映像としては映ってないのにそれまでの人生に夫婦として過ごした長い過去があるのを感じられることに驚きました。それも悲しいだけではない、楽しかった思い出や辛かった思い出…。人生が見えた感じがして、本当に凄かったです。

モトーラ世理奈さん演じる、修道院で保護されている女性のパートでは、懺悔のシーンがすごく刺さりました。徐々に寄っていくショットは、目が離せないくらい引き込まれました。お二方ともすばらしい演技で、「芝居に注目して観よう」と思って観ていたわけではないのに自然と引き込まれてました。

━━最後に今作の見どころを教えてください。

長澤:実際に被災された方やペットを飼っている方はこの作品を観て色んなことを感じると思います。もちろん、そうでない方も、ベックの演技が素晴らしいので、その点でも楽しんでいただけると思います。ベックは、どこからが芝居なのか、どこからが素なのか分からないぐらい、本当に素晴らしいお芝居で奇跡を起こしていました。今作は楽しんで観られるし、観終わった後にほっこりするような幸せを感じてもらえたらいいなと思います。


【作品情報】

(C)2022「ハウ」製作委員会 

                    

映画『ハウ』

2022年8月19日(金)全国ロードショー 

原作:『ハウ』斉藤ひろし(朝日文庫) 

出演:田中圭、池田エライザ、野間口徹、渡辺真起子、モトーラ世理奈、深川麻衣、長澤樹、田中要次、利重剛、伊勢志摩、市川実和子、田畑智子、石田ゆり子(ナレーション)、石橋蓮司、宮本信子 

監督:犬童一心 
脚本:斉藤ひろし 犬童一心 
音楽:上野耕路 
主題歌:GReeeeN「味方」(ユニバーサル ミュージック) 
企画・プロデュース:小池賢太郎 
プロデューサー:丸山文成 柳迫成彦 
企画・製作プロダクション:ジョーカーフィルムズ 
製作幹事:ハピネットファントム・スタジオ 東映 
配給:東映 

予告


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