映像作品における「子供」&『チェルノブイリ1986』映画星取り【2022年5月号映画コラム】

TV Bros.WEBで毎月恒例の映画の星取りコーナー。今回は、緊迫した状況のウクライナに関連して『チェルノブイリ1986』を取り上げます。
星取り作品以外も言いたいことがたくさんある評者たちによる映画関連コラム「ブロス映画自論」も。映画情報はこちらで仕入れのほど、よろしくお願いいたします。

(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

 

<今回の評者>

渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:TV Bros.WEBの連載をまとめた押井守監督の『サブぃカルチャー70年」が発売されました。ぜひ手に取ってみてください。梅津泰臣さんの表紙&挿絵も素敵ですよ。

折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:直前まで白紙だったGW。いきなり思い立って色々行動。中でも久々の京都旅行は混んでたけど最高でした!

森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:5月13日公開『夜を走る』の劇場パンフレットに、佐向大監督論を7000字のボリュームで書いております。

 

『チェルノブイリ1986』

 

製作・監督・主演/ダニーラ・コズロフスキー 製作/アレクサンドル・ロドニャンスキー 出演/オクサナ・アキンシナ フィリップ・アヴデエフほか
(2020年/ロシア/135分)

  • 若き消防隊士アレクセイの地元のチェルノブイリ原発で爆発事故が起こる。溶けだした核燃料が貯水タンクに達した場合、ヨーロッパ全土が汚染されるほどの放射線物質がまき散らされることを知った彼は、手動で排水弁をこじ開ける決死隊に志願する。1986年に発生したチェルノブイリ原発事故で、命を懸けて終息に挑んだ消防士の姿を描く。

5月6日(金)新宿ピカデリーほか全国公開

(C)«Non-stop Production» LLC, (C)«Central Partnership» LLC, (C)«GPM KIT» LLC, 2020. All Rights Reserved.

配給:ツイン

渡辺麻紀
ついHBOのドラマと比べちゃって。
消防に携わった個人の人生にスポットを当てた構成なのでラブストーリー&家族ドラマ色が強く、いわば大惨事を舞台にしたメロドラマ。そういうドラマに共感できる人はいいだろうが、ロシアの映画人による客観的な視線を含んだチェルノブイリの真実を知りたい人は不向き。やっぱりロシアではそういう映画、作れないってことなんでしょうか。
★★半☆☆

折田千鶴子
プーチンもコレ観て欲しい

最初こそ、この視点(これから幸せになるカップル)から描く!? と違和感を覚えたが、プチ予想外の展開で人間ドラマに厚みが増し、食い入るように一気見必至。世紀の大惨事の“悲惨さ”の描写は思ったよりソフトなタッチだが、核に対する危険性の認識や人々の無防備さは、むしろリアル。核の恐怖が十二分に伝わる上、タイムリーでもある必見作。
★★★半☆

森直人
「エンタメ」にできる主題なのか
いわゆるハリウッド風のディザスター大作で、「登場人物とその運命は創作である」との但し書き(テロップ)が冒頭に出る。米HBOのテレビシリーズ『チェルノブイリ』の迫真性に比べるまでもなく、英雄譚や美談寄りの「ヒューマン・スペクタクル」に加工している点を、どう受け止めるか。原発事故の当事国が映画化することの難しさが露骨に出た例。フィクションとして「ネタ」化することの是非においても、『Fukushima50』と同種の問題を抱えていると言える。
★★☆☆☆

 

気になる映画ニュースの、気になるその先を!

ブロス映画自論

渡辺麻紀

最近の映画界のニュースは何だろうと、このコラムのために検索していたら、ジャック・ペランが80歳で亡くなったニュースを見つけ、思わず「うっそー!」と声を挙げてしまった。というのも、筆者が映画に夢中になった中学生のころ、大好きだったスターのひとりがジャック・ペランだったからだ。当時は「ぺランくん」と呼んでいて、TVで彼の出演作が放送されれば観ていたし、もちろん劇場にも駆け付けていた。その頃の彼の印象はフランスの好青年。イタリア映画にもよく出演していて『鞄を持った女』(1961年)をTVで観てすっかりファンになったのだ。
そんな彼の印象が180度変わったのがコスタ=ガブラスの『Z』(1969年)だった。ペランくんが報道カメラマンを演じ、製作もしているというこの作品をいそいそと観に行ったら、その硬派なポリティカルサスペンスっぷりにびっくり! そうか、実はこんな作品を作りたい人でもあったのかと、彼を見直したのだ。
その後は、同じガブラスの『戒厳令』(1972年)や、『鞄を持った女』の監督ヴァレリオ・ズルリーニの遺作『タタール人の砂漠』(1976年)を製作・出演。近年は『WATARIDORI』(2001年)等のネイチャー系ドキュメンタリーを製作と、実は甘い二枚目なんかじゃちっともなかったのだ。
『WATARIDORI』のプロモーションで来日したときインタビューをするチャンスに恵まれ、色紙にサインをもらったのはいい思い出だ。そのサインにフランス語で詩を書いてくれたので、知人に翻訳を頼んだのだが、まだ読めてないのを思い出した。なんて書いてくれたんだろう。誰かにまたお願いしてみよう。

WATARIDORI スタンダード・エディション [DVD]

 

折田千鶴子
日本はやはり平和か、ボケてるだけか!?
個人的にも一時期ハマったことのあるTV番組「はじめてのおつかい」が、「Old Enough」としてNetflixで配信され、海外で大ヒットしているという。30年以上も人気を博す同番組は、ハラハラと笑いが全篇に溢れ、最後は無事に帰って来た我が幼子を抱きしめて母親が涙するのが定番(最近のはよく知らない)。共感し、テレビの前で一緒によくウルウルしたっけ。だが海外では予想どおり、“幼児虐待”と批判もされているらしい。なるほど欧米では(国や州によって)12~14歳の子供だけの街歩きや留守番は「幼児虐待」。番組の万全な作りは観れば分かりそうなものだが、刷り込まれた常識から許せないのだろう。そんなことから、中国映画『最愛の子』(2014年)を思い起こす。ヴィッキー・チャオが誘拐犯の妻に扮しているのだが、彼女は夫がよそで産ませた子供だと信じ、貧しい農村の苦しい生活の中でも可愛がって育てている(確か夫は労働力目当てで少年を誘拐したハズ)。少年の方も本当の母親と慕い、本物の両親が現れても、離れたくないと泣きながら縋りつく。どうにも胸を掻きむしられる良作であった。つまり「誘拐」そのものがテーマではないが、あまりに容易く幼子が連れ去られる序盤のシーンは、思い返しても肝をヒヤッとさせる。貧困や格差、一人っ子政策等々が、子供を巻き込む犯罪を生む背景にゾゾッと背筋が凍る。

Old Enough

 

森直人
「表現(者)」の新しい在り方
白石和彌監督の新作『死刑にいたる病』(5月6日公開)の劇場パンフレットでインタビュー関係を担当しました。服役中のシリアルキラーと、彼から冤罪証明の依頼を受けた大学生の異様な交流を描く上出来のサイコスリラーなのですが、実は映画を初めて観た時、少々引っ掛かった箇所がありました。回想パートで、若き日の殺人鬼が子供たちをコントロールして傷つけるシーンが出てくるのです。

そこでパンフ用の取材の際、白石監督に「内容的にハードな映画ですが、撮影時に問題はありませんでしたか?」とお聞きしました。もちろん撮影は万全のケアのもと行われ、カッターや血などはCG処理。白石監督は「子役の皆さんには負担のないように、撮影現場では細心の注意を払いました。本当に子供って、大人が思っている以上に心のダメージを受けたりしますからね」とお話しされております。「作品としての攻め」を目指すからこそ、撮影現場ではデリケートな配慮、仕事環境としての健全さが不可欠になる。過剰でフェティッシュな残酷描写も炸裂するこの映画は、自由なフィクションの創造に際した、白石監督なりのバランスがうかがえる一本ということになるでしょう。

昨今、どんどん強化の意識が高まるコンプライアンス遵守に関しては様々な意見があるでしょうが、筆者は良し悪しというより、「表現(者)」の在り方が新たなフェーズに入ることに向けた猛烈な浄化期だという気がしています。「古い時代」は確かに終わろうとしている。もしかするとこれからは「他者を我欲や怒りで抑圧しないこと」……ある種の性格・人柄の良さみたいなものが、クリエイターの必須条件になってくるのかもしれません。

映画『死刑にいたる病』オフィシャルサイト

 

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