『世紀末オカルト学院』や『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』で知られる監督、伊藤智彦さん。これまで『太陽を盗んだ男』『ジュラシック・パーク』を挙げてくださいました。今回は3本目、最後の作品をおうかがいします! 伊藤さんが選んだのは⁉ イラストも気合が入ってます!
取材・文/渡辺麻紀
『ジュラシック・パーク』伊藤智彦 第2回
『太陽を盗んだ男』伊藤智彦 第1回
『桐島、部活やめるってよ』荒木哲郎 第3回
『グッドフェローズ』平尾隆之 第3回
『パルプ・フィクション』足立慎吾 第3回
『ジョジョ・ラビット』梅津泰臣 第3回
<プロフィール>
伊藤智彦(いとう・ともひこ)●1978年愛知県生まれ。アニメーション監督、演出家。手掛けた主な作品に『ソードアート・オンライン』(2012年/監督)、『僕だけがいない街』(2016年/監督)、『HELLO WORLD』(2019年/監督)などがある。
漫画っぽいシーンを漫画っぽくない方法論で撮っているのがキューブリックなのでは
――さてさて伊藤さん、3本目の作品ですが、「原作者に嫌われた、あの作品」と前回はおっしゃってますが、アレなんですよね?
はい、スタンリー・キューブリックの『シャイニング』(1980年)です。もちろん、原作者はスティーヴン・キングですね。
原作は映画を観たあとに読んだんですが、「なるほど、こういう話なんだ」って。おそらくキングは、親子間の愛情、超能力をもってしまった少年の話として書いたつもりだったのに、まったく違う話になっている。そりゃ、怒るよなーと思いましたね。
――お化け屋敷ものの色合いもありましたよね。でも、映画はお父さん(ジャック・ニコルソン)に焦点を当てたサイコサスペンス・ホラーになっている。ジャンルを変えてしまった。
そうなんですよ。それがキューブリックの凄いところで、あの小説から、なぜこんなサイコサスペンスが生まれるんだろうと思っちゃう。
――印象に残っているシーン、たとえばタイプライターで書いた原稿がすべて同じ言葉だったというのは原作にはないんだけど、めちゃくちゃ強烈じゃないですか。
観返すたびに、ワンカットワンカットの力が強いことに驚かされるんですよ。子供が三輪車に乗ってホテルの廊下を走っているシーンだけで記憶に残る。その音が絨毯の上では消えて、フローリングになるとガラガラと鳴る。これが妙に怖い。双子の少女もそうでしょ? 別に何をするでもなく、そこにふたり並んで突っ立っているだけで怖いんですから。観るたびに、なぜこれだけで怖いんだろうって考えちゃうんですよ。
――確かに仕掛けは最小限なのに怖い。
あとは音楽。ボーンというような、効果音なのか音楽なのかよくわかんないのが、また不安を煽る。冒頭からその曲で、しかも空撮でしょ?「神の視線」なんていう人がいるのもわかる。
――そうでした! キューブリックの演出「神の視線」という人、多いですよね。あとは、ファンがいろいろ考察しているのも『シャイニング』の特徴です。
ドキュメンタリーもありましたよね? オーバールック・ホテルの廊下の絨毯の柄について考察してみたり、女性の幽霊が出る部屋はなぜ237号室なのか? とか、あらゆることに対してあらゆることを考える。
ほかのキューブリック作品はそうでもないのに、なぜか『シャイニング』だけはたくさんあるし、それと同じくらいパロディもある。最近ではスピルバーグが『レディ・プレイヤー1』(2018年)でやっていて驚きましたよね。
――ホテルのバーのシーンを完コピしていた。原作にはないので、びっくりしました。
キューブリック作品のなかではわかりやすい上に、いろいろと考察出来る要素が含まれているからなんでしょうね。
――キューブリック作品のなかから『シャイニング』を選んだ理由は何なんですか?
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