『ジョジョ・ラビット』梅津泰臣 第3回【連載 アニメ人、オレの映画3本】

『アニメ人、オレの映画3本』の連載も今回で3回目。トップバッターの梅津泰臣さんの3本目、最終回をお届けします。監督&アニメーターとしてマルチに活躍する梅津さんが選んだのは、20年の映画賞レースで大きな注目を浴びた『ジョジョ・ラビット』(2019年)。監督・脚色を務めたニュージーランド出身のタイカ・ワイティティはアカデミー脚色賞を受賞し、ハリウッドで注目の才人になった。
果たして梅津さんは本作をどう観たのか、語っていただきましょう! 毎回のお手製イラストも必見です!

取材・文/渡辺麻紀

『レミーのおいしいレストラン』梅津泰臣 第2回【連載 アニメ人、オレの映画3本】

梅津泰臣編第1回はこちらに掲載されています。

<プロフィール>
梅津泰臣(うめつ・やすおみ)●1960年福島県生まれ。数多くのアニメ作品で原画・脚本、演出などを務める。主な監督作品に『A KITE』(1998年)、『MEZZO FORTE』(2000年)、『ウィザード・バリスターズ 弁魔士セシル』(2014年)など。

 

少なくとも『ジョジョ・ラビット』のような奥ゆかしさは昨今のアニメにはあまりない

 

――梅津さんは、『母なる証明』(2009年)、『レミーのおいしいレストラン』(2007年)に続く3本目として『ジョジョ・ラビット』を選ばれました。

タイカ・ワイティティという監督の作品は『~ラビット』が初めてだったんです。『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)を撮っているそうだけど、観てなかったので。

ほかの映画を観に行ったとき、もう1本はしごしようと思い、ポスターに惹かれた本作を選んだ。大正解でした。とても面白いだけでなく、昨今の日本のアニメ業界に対する僕の想いを代弁してくれているような作品だったんです。

――それは聞き捨てならない言葉ですね。

この映画は“ジョジョ”とあだ名される10歳のドイツ人少年が主人公で、彼の眼を通して世界を見つめている。その世界というのは第二次世界大戦中のドイツ。つまり、ナチスの支配下に置かれた世界が舞台になる。

子供が主人公だとはいえ、彼らにおもねるところもないし、もちろん子供っぽさもない。子供の視点を活かした映画を、ちゃんと知的かつ大人向けに作っていた。

ジョジョのイマジナリーフレンドが、彼の憧れるヒトラーというファンタジーな部分、笑える部分はあるとはいえ、あくまで現実を見つめた映画。そういう少年の成長ドラマとして、大変素晴らしいと思ったんです。

――子供が主人公であり、ファンタジー的な部分もあるにもかかわらず、とても大人っぽくクレバー。しかもちゃんと現実を直視している、ということですね。

僕としてはそこがひとつのツボだった。というのも、アニメーションでも子供を主人公にした作品はたくさんあるんだけど、現実を臨場感たっぷりに切実に見つめた作品はとても少ない。こういう映画を観ると、実写には出来て、アニメにはなぜ出来ないんだろうと思ってしまうわけですよ。

――なるほど。

それに抑制が効いているでしょ? ジョジョのお母さんが反ナチだったので絞首刑にされて街で遺体が晒されるわけだけれど、その死をお母さんの揺れる足先だけで表現している。あのシーンは上手いなーと思いましたね。

――絞首刑にされたお母さんの垂れてぶらぶらしている足にジョジョがしがみつく。母親の死の表現が間接的だけど、とても印象的でしたね。

ああいう死別の表現がアニメではあまり見られない。

その足を印象付けるための演出もしているし、靴に関しては、ジョジョがまだ靴紐が結べないという前振りがあり、母親がいなくなり、悲しみを乗り越えた最後に、やっとひとりで結べるようになる。成長を靴紐でも表しているんです。

一方、某劇場アニメの親子の死別シーンは残された親が泣いて泣いて泣きまくりカメラも回り込んで、これでもかの悲しみ演出をしている。演出過多なんです。僕は親子の心情に寄り添いたいのに演出が邪魔をしている。そういうのって引いちゃいません?

――そこまでやるって、ちょっとしたジョークのつもりなのでは?

いや、真面目にやっていると思いますよ。

――そうなんだ……そういうのって、演出家が観客を信用してないからなんですかね。つまり、それぐらいしつこく表現しないと観客は分からないと思っている。

あるいは、伝わらないのではという不安が制作側にあるのか? 僕にも理由は分かんないですけどね。少なくとも『~ラビット』のような奥ゆかしさは昨今のアニメにはあまりない。

――あの大ヒットした『鬼滅の刃 無限列車』(2019年)も、キャラクターが考えていること等、すべてセリフにして伝えていると聞きましたが、そうやって説明過多なのが最近のアニメ界の風潮なんですか?

そんなこと僕に言わせないでくださいよ(笑)。

――(笑)。ですね、失礼しました! というか、アニメの演出問題ではなく原作がそうだからだと思います。

あとは、お母さんを演じたスカーレット・ヨハンソンもとてもよかった。不在の父親に代わり、口ひげを付けたジョジョとスカーレットが躍るシーンなんて、とてもすてきでしたよ。

彼女の映画はそれなりに観ているんだけど、きれいな人だなあと思ったのは今回が初めて。

――スカーレットのいいところは、主演であることにこだわらなくて、脇でも出演する。さらに脱ぎっぷりもいい。私は脱ぎっぷりのいい女優さん、大好きなので。

脱いでるの? 

――『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2013年)のときは惜しみなく全裸ですから。もうハリウッドの人気スターなのに、こういうインディペンデントの映画でも要求されればちゃんと応える。素晴らしいですよ。

その映画、知らないけどいいの? 

――とてもよかったですよ。彼女がエイリアン役なんですけど、映像と音楽のコラボレーションが素晴らしく、その映像のセンスがソリッドで美しいんです。

音楽と言えば、この映画のビートルズの使い方も最高じゃないですか? 冒頭のタイトルバックで、ナチに狂喜する若者たちのニュース映像に、ビートルズがドイツ語で唄った『抱きしめたい』がかかる。このセンスは凄いと思いました。いろんな映画でビートルズの曲は聴いてきたけど、今回の使い方がベストのひとつですよ、絶対。思わずサントラ買っちゃった(笑)。

――まさに意表を突いたオープニングでしたね。

ビートルズもひとつのアイコンで、ヒトラーもアイコン。アイコンという共通点を活かしたんでしょうね。アイコンは人を熱狂させ狂わせるという意味では同じだから。

それに、最後にはデビッド・ボウイの『ヒーローズ』も流れるでしょ? 調べてみたらボウイやビートルズもドイツとのつながりがあったようなので、もしかしたらそんなことも考慮した上で使用したのかもしれない。

音楽ではもうひとつ、トム・ウェイツの『大人になんかなるものか』が、ジョジョがヒトラーユーゲントのキャンプに参加しているシーンで使われている。まさに「本当はそんな大人にはなりたくない」というジョジョの気持ちを伝えているんです、おそらく。このセンスも凄い。

タイカ・ワイティティってセンスの塊じゃね? って思いましたから。演出の思慮深さ、音楽のチョイス、キャスティングの妙、めちゃくちゃクレバーですよ。

――そう言われれば、確かにそうかもですね。

これからワイティティには注目したいなと思っています。

――8月13日に公開される『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021年)には役者で出演していますよ。なかなか印象的な役で(笑)。

本作でもジョジョのイマジナリーフレンドのヒトラー役で出演しているから、演技もお得意ってことですね。それもチェックしますよ!

イラスト/梅津泰臣

 

<解説>

第二次世界大戦下のドイツ。10歳の少年ジョジョの友だちは、空想のなかに登場するアドルフ・ヒトラー。ジョジョの夢は立派なヒトラーユーゲントになることで日々、その訓練に余念がない。ところがある日、訓練中にウサギを殺す課題が出来なかったため、みんなに「ジョジョ・ラビット」と言ってからかわれてしまう。そんな彼を包み込んでくれるのは、優しく美しい母親ロージーだった。

アカデミー賞では作品・助演女優賞(スカーレット・ヨハンソン)・脚色・編集・美術・衣装デザインの6部門でノミネートされ、ワイティティの脚色賞が受賞した。

タイカ・ワイティティは1975年ニュージーランド生まれ。『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』(2014年)が注目を集め、MCU映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)の監督に大抜擢された。これを成功に導いたあとに撮った『~ラビット』でアカデミー賞受賞と、ハリウッドでもっともホットな映画人のひとりになった。一時期は大友克洋の『AKIRA』の実写映画化の監督をする予定だったが、なぜか頓挫。が、『マイティ・ソー』シリーズの第4弾『Thor : Love & Thunder』(2022年公開予定)、『スター・ウォーズ』最新作(2025年公開予定)等、大作が目白押し。監督はもちろん、脚本&演技も出来るマルチな才能を誇っている。

また、本作のサウンドトラックはグラミー賞で最優秀編集サウンドトラック・アルバム賞映画を受賞。なお、最後に流れるボウイの『ヒーローズ』は、彼がドイツに滞在していたときに生まれた曲で、こちらもドイツ語版が使用されている。

 

目下、様々なアニメーターに取材中。リレー形式でお送りしますので、ご期待ください!

 

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