皆さんが大好きなあの競技で、スカッと派手に人死が出る! この世で最も人間を興奮させるものの一つ、それが殺人スポーツ! スポーツの一番すばらしいところといえば、「ルールに反していなければ人を殺しても罪に問われない」という一点に集約されるわけですが、我々は『アストロ球団』(原作/遠崎史朗 作画/中島徳博)を人生哲学の最上位概念に置いたまま、時代に合わせた価値観の修正を「アストロ球団に描いてあることはすべて正しいので多少は物理や法に反していても良しとし、それ以外の部分をアップデートすればよい」と考える派閥の人間。
テレビブロス誌で新刊マンガ紹介のコラムを5年やらせてもらっておりますが、地下スポーツ・裏スポーツが登場する人死マンガは絶対に取りこぼさないルールで(勝手に)やらせてもらっておりますので今月もご紹介です。
『東京決闘環状戦』11巻での地下野球、それは野球とは名ばかりの死亡球技! 地下野球のルールは簡単!1対1で向かい合った対戦者、六角形の球場(六角形の球場!?)にある、6つの発射口からランダムに発射された球を攻撃側が守備側に打ち返し、何打席で破壊(破壊!?)できるかを賭けるだけ! もちろんそれだけじゃフェアじゃないので、守備側も逃げる以外に「キャッチする」「打ち返す(守備側が打ち返す!?)」「投げ返す」ことが出来るが、その球が攻撃側にヒットした場合のみ「乱闘タイム」に入り、お互いの体への直接攻撃が許される! 使用する道具も一般の野球とはちょっと違う。後楽園駅代表の巨田は丸太のような巨大バット、対する上野駅代表のパンダマンが準備したのは、なんとヌンチャク型バット! ヌンチャク型!? いくら地下ルールだからって野球でしょ。そんなものが許されるの? 地下スポーツの醍醐味は「ルールの範囲内であれば殺人も許される」という点。いくらマンガといえど、さすがにその前提を無視してはいけないところですが……。
なんとOKです! ヌンチャク型バットは『アストロ球団』ビクトリー球団戦での試合前審査にて、審判長より「バットの長さは1・067メートルを越えず、太いところで直径7センチ以下の円形であればOK」「ヌンチャクの紐も、バットの反発力や性能を変えるものでなければ、握りから45・7センチまで許されているのでOK」「バットは1本しか使ってはいけないとはどこにも書いていないから、ヌンチャク型のように2本同時使いもOK」「これらはりっぱにつかえるよ」とのお墨付きを得ているので一切問題なし! もし現在、この規定が変わってしまっているとしても、それは『アストロ球団』に描いてあることはすべて正しいという最上位概念を優先し、勝手に規定を変えた平成と令和が悪いということにします!
山田俊明『東京決闘環状戦(11)』(コアミックス)※ゼノン編集部で連載中
野球はすばらしい。そしてサッカーもすばらしい。
諸説あるようですが、サッカーの起源って戦争で刈った敵将の首を蹴って遊んでいたとか、キリスト教の祭りで街自体をフィールドとし、「人を殺さない」「教会・墓地には入らない」以外はノールールで点を取り合ったとか、元々が「こっち側」のスポーツでしょ。野球だけでなく、もちろん地下サッカーにも目を光らせているのですが、ありました!
謎が謎を呼ぶ分裂同化パニックホラー、『シバタリアン』1巻にて、巨大ハサミで元サッカー部の吉田君の首を切断してすばらしいシュートをキメる展開! そのまま元野球部を吊し上げて「デッドボールって本当に死ぬのかな?」を試す描写もあるので、地下野球要素も100点。一節では「欧米人は敗者に容赦しない文化だから、暴力の抑制のためにスポーツマンシップが尊ばれる」みたいな話もありますが、そういう意味ではやはり殺人スポーツというものは人間の本質といえるでしょう。
イワムロ カツヤ『シバタリアン(1)』(集英社)※少年ジャンプ+で連載中
そして人間の本質といえば「数ある選択肢の中から最悪のものをわざわざ選んで転落していく人生」ですが、『絶叫』2巻では「ゼロから分かるリボ払い地獄」が楽しく描かれているので是非お読みください。リボ払い、2023年の今では皆が「危険なもの」「避けるべきもの」と認識していると思いますが、作品の舞台を2007年ごろに設定することで、保険営業の仕事に苦しむ主人公の陽子が契約を取るために知人友人になりふり構わず声を掛けて信用を引き換えに収入を得、自分へのご褒美に高級品を買い、支払いが回らなくなり始めるが毎月固定額の支払いだからセーフ! このリボ払いっていう新サービス便利! という転落人生が「リボに助けられた」という思い込み混じりに描かれるので絶対に読みましょう。
原作/葉真中顕 作画/轟ツキコ『絶叫(2)』(少年画報社)※ヤングキングで連載中
ヌンチャク型バットの是非についてはビクトリー球団戦の審判長だけでなく、実況解説を務めた金田正一氏もOKを出しています。ヌンチャク型バットは規定内。そこを疑って、俺たちのカネやんに恥をかかせるな。
げきが・うるふ●マイナーマンガ紹介ブログ・なめくじ長屋奇考録の管理人&特殊出版レーベル・おおかみ書房編集長。11/25(土)~12/25(月)に画廊モモモグラでの劇画狼プレゼンツ企画が最高になるという説が有力です。
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