なんぼあってもいいですよね! 日常に潜む殺し屋が含まれる本!
人生の豊かさって、「平凡な人間に擬態した殺し屋がチンピラにおちょくられる描写」をどのくらい摂取できるかってところありますよね。
漫画/瀬下猛 原作/濱田轟天『平和の国の島崎へ(1)』(講談社)※モーニングで連載中
『平和の国の島崎へ』はそういう意味で本当に期待大で、「日常が失われるカウントダウン」と「完全に普通の人として生きていけるかも知れないという希望」が同時にスタートされます。気が付いたら殺ってしまってる側の人間が、殺らないようにしようという気持ち、普通に生きてたら共感できるはずのことじゃないのに「わかる~!」ってなるの、現代人の脳の深刻なバグ! ヒトという種の抱える業を完全に手玉に取った手法と言えるでしょう。しらんけど。
大山満千『ミチオ』(少年画報社)※ヤングキングBULL&WEB BULLで連載中
やったことないのに妙に理解できる脳のバグといえば『ミチオ』の「殺しのシーンでの力の抜けたセリフ回し」も本当によくて、毎回「あ~、俺も前の殺しのときに、標的とこう絡んどけばよかった!」と思えるシーン山盛りで、本当に人間の共感力の脆弱性が暴かれるようで最高です。
以下は完全に無の話ですが、日常に潜む殺し屋といえば『孤独のグルメ』のアームロック回のバイトくんも間違いなく殺し屋ですよね。あの「それ以上いけない」は、どう考えても「それ以上やると、私の中に鎖で繋がれている獣性が目を覚ましてしまうからいけない」の略。ゴローちゃんの「気が付いたら殺ってしまってる」技術を目の当たりにしたバイトくんが正体を隠しながら生きていくために絞り出したギリギリの言葉、それが「それ以上いけない」に込められています。
「本編では殺し屋であることが明かされなかったけど、間違いなくコイツはヤバい」というキャラ、皆さんのご意見もお聞かせください。
ところで『ムラサキのおクスリ』読みましたか?
戦場で拷問を受けてキンタマを抜かれて精神の安定を失ったネコのゆるキャラに向精神薬をぶち込んだり、ヤンキーを仮想空間で100万回殺して遊ぶ高性能AIの話が入っています。何度読み返しても自由で素晴らしいので必読です。こういう殺傷力高めの読み切りが異常な密度で詰め込まれている本は、良い。
ということで以下は「ミステリーのネタバレ」を含むので読む方は気を付けてほしいんですが、『最強の弁護士』の4巻が、この1冊だけで完成された「やべー本」なので本当に読んでください。
著/高橋のぼる 脚本/久慈希跡 原案協力・監修/プロジェクトB『最強の弁護士(4)』(集英社)※グランドジャンプで連載中
将棋協会の会長が、「口に将棋の駒を詰め込まれた変死体」として発見された。犯人は誰か!? そして口の中に駒を詰め込んだ犯人の意図は!? からの、「被害者の口の中に将棋の駒が詰め込まれていたのは、犯人がとっさの怒りで将棋の駒を口に詰め込んで殺しただけで、何のメッセージ性もなく、ただの殺害方法だった」というのは何十回読み返しても凄まじい。描いてあることをそのまま説明しても一切伝わってる気がしないけれど、本当にそう描いてあるのでみなさん4巻だけでもいいので読んでください。「主人公が最強の弁護士である」という前提だけ理解していれば、この巻からでも大丈夫です。最高さを、共有したい。
げきが・うるふ●マイナーマンガ紹介ブログ・なめくじ長屋奇考録の管理人&特殊出版レーベル・おおかみ書房編集長。多忙で断り気味でしたが、トークショー関係のオファーが増えてきているので、2023年はちょっとステージに上がる業の量を増やし気味で行きます。
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