第23回 君は知る! マンガによって快楽物質が分泌される条件を!

子供の頃から大好きなベテラン漫画家が! 何周もまわった末にめちゃくちゃしょうもないことをしてるのを見たときにしか分泌されない快楽物質の存在を劇画狼は知る!

君は見たか! 諸星大二郎先生の新刊『夢のあもくん』に収録される短編シリーズ「回談」を!

諸星大二郎 『夢のあもくん』(KADOKAWA)

第1話のオチで「あっ、しょうもないやつ!」と思わせ、続く第2話で「あっ、またやったな! ひょっとして味を占めたな!?」と思わせ、ラストの3話目で本当に本物の、心からのしょうもない力技で畳む。
「同じギャグで1万回笑う子供」メンタルのまま大人になったことを誇りたくなるこの14ページのためだけにでも、『夢のあもくん』を買う価値があることを劇画狼は知るし、蹴り込んだ水月を踏み台にして肩へ駆け上っての蹴りという離れ業が、自己を発狂寸前まで追い込む荒業を条件に実在することを、板垣恵介先生は知る!!

はい、ということで今月も機嫌よく無を書き散らしておりますけれども、同じく「おっ、急にどうした!?」というアクセルの踏み間違いを見たときにしか分泌されない快楽物質の存在も、劇画狼は知る!
これはもう完全に『サイコの世界』2巻の話。

作/井龍一 画/大羽隆廣『サイコの世界(2)』(講談社)※マガポケで連載中

1巻の時点では「異能バトル×サスペンス」としていい意味でクセがなく楽しめそうだなと思って期待していたら、この巻で何の説明もなく全裸アクション開始!
君も知る! 『サイコの世界』2巻で、何の説明もなく唐突に現れる「ふんどしを脱いで振り回し、投石機のように使いこなす全裸の戦士」の活躍を!
急に「こっちサイドのマンガ」になってきたけど大丈夫か!? 全力で応援するぞ!

そんなこんなでいろんな脳内快楽物質の存在を知る私ですが、もちろん「倫理的に問題があると分かって作られたものを、倫理的に問題があると分かった上で楽しむ」場合にも極上のものが出ることを知っている!
『星を作る兵器と満天の星』は最高のSF連作短編集。

中村朝『星をつくる兵器と満天の星 ~中村朝 連作集』(マッグガーデン)

最も汚い欲望と(悪い意味で)真っ直ぐに向き合う少年、人間の都合のためだけに作られた人工生命、一方的に希望を与えるという絶望、意識すらされない尊厳、読む人間によって悲劇か喜劇か自由に決めていい最悪の要素を全部入れながら、バラバラだった物語がラストの表題作に収束していく構成は読み応え抜群。

本文の前書きでも作者あとがきでも入念に「倫理的に問題があることを分かった上で進め(意訳)」に込められた、この作品を商業出版することに対しての関係者の苦労と作者の誠実さを知るし、人間の刺し心地に一番近いものはリンゴだということも、君は知る!

げきが・うるふ●マイナーマンガ紹介ブログ・なめくじ長屋奇考録の管理人&特殊出版レーベル・おおかみ書房編集長。モクモク れん『光が死んだ夏』(KADOKAWA)もいいホラーだったので大オススメです!

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