『進撃の巨人』や『甲鉄城のカバネリ』等で人気の高いアニメーション監督の荒木哲郎さんが選ぶ「オレの3本」の3本目。『エクソシスト』、『キック・アス』ときて、最後を飾るのは!? イラストも必見です!
取材・文/渡辺麻紀
『エクソシスト』荒木哲郎 第1回
『キック・アス』荒木哲郎 第2回
『グッドフェローズ』平尾隆之 第3回
『パルプ・フィクション』足立慎吾 第3回
『ジョジョ・ラビット』梅津泰臣 第3回
<プロフィール>
荒木哲郎(あらき・てつろう)●1976年埼玉県生まれ。アニメーション監督、演出家。手掛けた主な作品に『DEATH NOTE』(2006~2007年/監督)、『甲鉄城のカバネリ』(2016年/監督)、『進撃の巨人』シリーズ(2013~2019年/監督・総監督)などがある。
死んでもいいくらいの自分の作品を作らなきゃいけないっていつも思っています
――荒木さん、今回は3本目の作品をお願いします。
3本目は『桐島、部活やめるってよ』(2012年)です。こういう映画を撮れたなら、クリエーター人生が終わってもいいというくらいです。
――(笑)。それくらいに素晴らしい青春ドラマだったということですね?
そうです。これもまた「ぼんくらがヒーローになる瞬間」が描かれていて、僕の心に迫りまくるわけです。
――「ぼんくら」というのは、神木(隆之介)くんたち映研の連中ですか?
そうです。学校カーストでは最下層に属する彼らが学校の屋上でゾンビ映画を撮影しているとき、「桐島が屋上にいる」という情報を得てカースト上層にいるイケメンたちが集まって来る。そうやって撮影を邪魔された映研の連中が、「全員、食い尽くせ!」という監督の神木くんの掛け声で立ち上がるわけですよ。ゾンビメイクをした冴えない連中がイケメンたちに襲い掛かる! 平尾くんの言葉を借りれば、まさに「ぼんくらどもが一矢報いる瞬間」。ぼんくらたちの輝きがハンパない!
――あのシーンはまさに本作のハイライトですね!
しかもそこに、吹奏楽部が演奏している音楽が被さる。青春映画のクライマックスに吹奏楽部の演奏や合唱部のコーラス等、ホーリーな音楽が重なってくるところに僕はヨワい。何というか、ホーリーなものによって、みんなの罪が洗い流される感じ。そのふたつの要素が完璧にシンクロすることで、クライマックスがより輝く。
『リリイ・シュシュのすべて』(2001年/監督:岩井俊二)にも同じような合唱シーンがあって、同じように大好きでしたね。
――私は、その前の野球部のキャプテンのエピソード。あそこはいつも泣ける。
「ドラフトが終わるまでは野球を続ける」でしょ? あれも最高。あのキャプテンのひと言には、どんな人も泣けますよ、絶対。
あと、僕がもうひとつ泣けるのが、神木くん扮する前田と菊池(東出昌大)の会話。「監督になるの?」みたいなことを尋ねられた前田が「そうはならないと思うけど、映画を撮影していると、自分が好きだった映画たちと繋がっている感じがすることがある。ときどき、ときどきだけどね」云々って。まさに僕もそう。だから「前田、それはもう、僕が作品を作っている動機とまるでおんなじだよ」って。
――なるほど!
「僕は本当は、もっと先まで行きたいのに、この程度のアニメしか作れていない。まだまだダメだと思っているんだけど、ときどき、本当にときどき、憧れのあの作品に一瞬、手が届いたように感じる瞬間があるんだよ」ってことなんです。そして「その瞬間があるから、この仕事を辞められない。その瞬間があったから、もっと先に行けるかもしれない。だってあのとき、本当に一瞬だったけど行けたじゃん!」って思える。
もう一度、その瞬間を感じたくて、映像の仕事を続けていると思っている僕と、あのとき重なってしまった。だから、前田が言っている言葉は、完璧に僕の想いなんです。
――前田が代弁してくれたんですね。
そうそう。これで熱くならないはずがない(笑)。僕は前田に気持ちを重ねてしまったんですが、渡辺さんは誰でした? この作品、登場人物がたくさんいる群像劇だから、観る人によって重ねる人が違うんですよね。
――私も前田ですね。映画好きなところが、自分の高校時代と重なるから。私はこの映画、好きなものを持っている人は強いというメッセージもあるのかなって思いましたね。自分の高校時代がそうだったから(笑)。前田たち映研の連中もそうだし、吹奏楽部の女子生徒もそうですよね。好きな映画を作り、より上手に演奏するとか、彼らには目標みたいなものがある。菊池たちには、そういう意味でのゴールがないように思えましたね。だから、前田たちが眩しかったのかもしれない。
自分たちはうだつのあがらないぼんくらかもしれないけど、ゾンビ映画作って少しでも振り向かせるぞ、って感じですよね。この前田の思考は僕と同じだけど、菊池の視点となると、これまでなかったと思いません? つまり、イケメンでカースト上層部の彼が、そういう目的をもっている、ぼんくらの連中が羨ましい。涙が出るほど羨ましいと思う――。僕は、菊池を通してそういう視点を描いてくれたのが新鮮でしたね。ほかの価値観で青春を送っている人と、僕らのようなぼんくらの価値観がクロスすることであぶり出されるものがある。それが菊池の涙だったのかなって。
――確かに、さまざまな青春が出て来ますからね。
クライマックスに至るまでのプロセスも丁寧じゃないですか。みんなの日常の些細な出来事をとても丁寧に切り取っている。「今、笑った?」というセリフからも伝わる、ほんの小さな嘲りでさえも見逃さない繊細さ。周囲を気遣い、みんなの言葉や表情を気にしながら窮屈に生きているあの感じ。すっかり忘れていたけど、確かに自分の高校時代もそうだったって思いましたから。
――そういう意味ではリアルでしたね。
とにかく「世界」を描いていると思ったんですよ。「学校」という箱庭を細かく描写することで世界を創り出している。桐島が部活を辞めるというニュースだけで、まさか世界までもがすくいあげられるなんて思いもしませんよね?
――数日間の出来事が、高校時代の縮図になっているわけですね。
そうです。そういうことが出来るのって、やっぱり映画しかない。だから、「これぞ映画だ」って、僕は思っちゃうんです。
――『桐島』は『TV Bros.』でもとても人気の高かった作品だったと記憶してます。確かあの年のベスト3に、3人の★とりメンバー全員が入れていたんじゃないですかね。そういう作品はあと『ゼロ・グラビディ』(2013年/監督:アルフォンソ・キュアロン)だけだった。こちらは全員がナンバーワンだったと思います。
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