「ありがとう!」と言うしかない、夢を叶えてくれた映画『キック・アス』荒木哲郎 第2回【連載 アニメ人、オレの映画3本】

『DEATH NOTE』(2006~2007年)、『進撃の巨人』シリーズ(2013~2019年)等を手掛けた監督&アニメーター、荒木哲郎さんのこだわり映画第二弾。前回は「大好きなジャンル」だというホラーから、オカルト映画の金字塔、ウィリアム・フリードキンの『エクソシスト』をチョイスしてくださいましたが、果たして2作目は!? 荒木さんの興奮度は、直筆イラストにもしっかり反映されています。
取材・文/渡辺麻紀

『エクソシスト』荒木哲郎 第1回
『グッドフェローズ』平尾隆之 第3回
『パルプ・フィクション』足立慎吾 第3回
『ジョジョ・ラビット』梅津泰臣 第3回

<プロフィール>
荒木哲郎(あらき・てつろう)●1976年埼玉県生まれ。アニメーション監督、演出家。手掛けた主な作品に『DEATH NOTE』(2006~2007年/監督)、『甲鉄城のカバネリ』(2016年/監督)、『進撃の巨人』シリーズ(2013~2019年/監督・総監督)などがある。

 

僕は戦う女子、女の子のアクションが大好きなんです。その僕の欲望を100%叶えてくれたのがヒット・ガール

――1回目となる前回は、自ら“エクソシスト演出”と呼んでいらっしゃるほど監督としても影響を受けた『エクソシスト』(1973年)について語っていただきました。2作目はどんな作品ですか?

いろいろ考えたんですが、やっぱりオレの大好きなモノが詰まった作品にしようと思って……『キック・アス』(2010年)です。

――マシュー・ヴォーンのヒーローものですね。もしかして、ミンディというかヒット・ガールですか?

おっしゃる通りです(笑)。僕は戦う女子、女の子のアクションが大好きなんです。その僕の欲望を100%叶えてくれたのがヒット・ガール。もうめちゃくちゃかっこいい!

――演じたクロエ・モレッツ・グレースもこの映画で大ブレイクしましたからね。紫色の髪も、あのミニスカートのコスチュームもかわいかった。

そうそう。しかもですよ。僕のもうひとつの大好きな系統が「ぼんくらがヒーローになる」。何とこの映画はそれも満たしている!

――ヒーローに憧れて、自ら「キック・アス」を名乗るダサい高校生デイヴくん(アーロン・テイラー=ジョンソン)ですね。

しかもしかも、デイヴは眼鏡もかけているんです。僕の思うところの「ぼんくら」は眼鏡をかけてなきゃダメなんです。眼鏡をかけているうだつの上がらない男が、肝心要のときに一発逆転する。その瞬間に僕は燃える。
『キック・アス』では、ぼんくら君が通販で買ったキック・アスのコスチュームを着けて街に繰り出し、不良を懲らしめようとしたら反対にボコられる。でも、どうにか反撃して倒すシーンがある。そのとき「オレはキック・アスだ」と初めて名乗るんですが、その映像がネットで流されるんですよ。僕、燃えましたから(笑)。最初にヒーローになるシーンは、僕にとって大変重要なので。
つまり『キック・アス』は、ヒーローもヒロインも僕の好みを見事に満たしている。本当に素晴らしい。まさに僕のための映画!

――荒木さん、熱いですよ(笑)。

いやあ、だってあまり人におすすめしたことないんですよ、『キック・アス』。結構、残酷なシーンがあるから、他の人にすすめるのはどうなんだろう。人を選ぶエグみがあるかなって。
美少女アクションで言うと『あずみ』(2003年)も実はお気に入りなんですけどね。上戸彩扮する美少女剣士あずみがアクションする。

――『あずみ』の公開当時、上戸彩の太ももに萌える男子が多かったのは憶えています。

そうなんです。でも、こちらもあまり共感されないんで、挙げたことがない(笑)。
僕的には、美少女戦士がバッサバサと敵を倒す。そのアクションがスタイリッシュに撮られているときに「あー、生きててよかった!」という満足感がある。それで言うと、やっぱり『キック・アス』かなって。
そういう僕の性癖を満たし、ぼんくらがヒーローになり、さらに映画としてのストーリーラインもしっかりしていて、最後はちゃんと感動できる。
ミンディとお父さんとの別れで泣いて、そこから最後にかけてが一番の御馳走、ヒット・ガールの大アクションですよ。キック・アスがいい感じでアシストして、僕的には夢を叶えてくれた映画。「ありがとう!」と言うしかない(笑)。

――なるほど!

実のところ、僕はこの手の映画が好きで、自分では“タクシードライバー系”と呼んでいる。『キック・アス』と『タクシー・ドライバー』(1976年)は僕のなかでは同系列の映画なんです。

――ということは、ロバート・デ・ニーロ演じるトラビスは「ぼんくら」?

そうです。眼鏡かけてないけど。
だから僕は『甲鉄城のカバネリ』(2016~2019年)のドラマ部分では『タクシー・ドライバー』のログラインを使っている。うだつのあがらない主人公が、世の中に一石を投じようとあがいているときに美少女と出会い、彼女を囲っているご主人様を世の悪と勝手に定め、そいつを殺すために命をかけようとする。

――そのアウトラインを聞くと、確かに『タクシー・ドライバー』と重なりますね。

でしょ? ストーリーを簡潔にまとめると、まったく同じになるはずです。実際、この企画を練っているときは「僕が『キック・アス』をアニメで作るとしたら、どういうかたちになるのか?」と考えるところから始めたんです。アニメーション的な攻め要素となる時代劇×ガンアクションを投入し、殺す相手が人間だとアニメ的には難しいので、そこはゾンビにする――そうやって生まれたのが『甲鉄城のカバネリ』なんです。『カバネリ』と『進撃の巨人』の類似点を語る人はいるけど、『キック・アス』で語った人はあまり見かけません。僕としてはそっち始まりなんですけどね。

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