第16回 作中のゲームのルールも、人生の勝ち方も分からない。

連邦軍はジオン軍に勝ち、ネオジオン軍に負ける。
ジオン軍はネオジオン軍に勝ち、連邦軍に負ける。
ネオジオン軍は連邦軍に勝ち、ジオン軍に負ける。

ガンダムシリーズにはSDガンダムのカードダスから入ったという世代はみんな「初代ガンダムの敵はジオン軍でZとZZの敵はネオジオン軍」くらいの雑な認識で勢力を認識してたと思うし自分もそうだったんですが、あれ当時の大人はどう思ってたんでしょうね。その当時、身の周りで唯一Z以降のストーリーと勢力図を理解していた2歳上のOくんが「正しく書き替えてやる!」と、我々下級生グループのカードダスを徴収して、ティターンズ製モビルスーツのカードのネオジオンマークを油性マジックで全部連邦軍に書き替えられたことがありました。

そのOくんには過去にビックリマンシールを強奪された苦い経験があったため、Oくんを先生にボコボコにしてもらおうと被害者全員で職員室に行って事情を説明したんですが、下された決断は「カードダスを買うことの禁止と、全カード没収」というめちゃくちゃなものでした。Oくんは「俺はこいつらにルールをちゃんと教えようとしただけ」と弁解をしていましたが、そもそもお前のカードじゃないし、結局何が言いたいのかというと「みんな大好き三すくみのカードゲーム!」という話です(余談が長い)。


田中一行『ジャンケットバンク(4)』(集英社)※週刊ヤングジャンプで連載中

皆さん読みましたか?『ジャンケットバンク』4巻。
前巻から始まった、「黄金」「盗賊」「魔人」の3種類のカードを使ったバトルの結末が、もう誰の予想もつかなさ過ぎて最高なので必読です。
「どちらが勝つのか結末が分からない」ではなく「このルールに沿って勝つことが本当の勝ちなのか自体が分からない」という最高のギャンブルマンガなので、新刊が出るたびに言ってますが、未読の方は何卒。


的野アンジ『僕が死ぬだけの百物語(1)』(小学館)※サンデーうぇぶりで連載中。

今年の夏はホラーマンガが少なめで寂しいなーと思っていましたが、『僕が死ぬだけの百物語』が出たので、もうこれだけで今年の夏は豊作だったと言えます。ギリギリのところで寸止めするバランスが絶妙で、一作一作のパンチ力はすごいのに、お腹一杯にならずにどんどん対が読みたくなる。「百物語」を名乗っていることに100点の説得力がある良作。


意志強ナツ子『るなしい』(1)(講談社)※小説現代で連載中

さて、8月発売の新刊の中での最凶は、もちろん『るなしい』です。
描くものすべてが「元々持ってない者に厳しすぎる」ことで有名な意志強ナツ子作品ですが、今回も一切の容赦なしの宗教ビジネスストーリー。
登場人物の価値基準が狂気なので、一切の悪意ない感じで地獄が練り込まれていく感覚がすごい。意志強ナツ子が今回も「最終的に全部ボロボロにすること前提のお人形遊び」をやっているので本当に読んでください。どうやって人生に勝っていくのか、もう分からない。こんな悪いものは中々ない。

あとめちゃくちゃどうでもいいですが、カードダス全没収をという最悪の判決が下ったあと、Oくんが「卑怯だ! 漁夫の利だ!」と先生に食ってかかってたんですが、漁夫の利はそういう場面で使う言葉ではないし、そもそもお前のカードじゃない。

げきが・うるふ●マイナーマンガ紹介ブログ・なめくじ長屋奇考録の管理人&特殊出版レーベル・おおかみ書房編集長。やまだ紫『ねこのふしぎ話』、電子書籍版も発売になりました。結構好評なようです。感謝。

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