4人組ガールズユニット・フィロソフィーのダンス連載「フィロソフィーのダンス 偏愛記」。メンバーの尊敬する偏愛ジャンルのエキスパートにお話を伺いにいきます! K-POPを愛するフィロソフィーのダンスの佐藤まりあがディープなトークをしたいお相手は、日本人K-POPシンガーとして活動していた過去を持つNICE73(ナイスななさん)前回、NICE73の韓国歌手デビュー時の驚愕エピソードや、波瀾万丈な体験の数々をたっぷり伺いました。今回は、佐藤まりあがアイドルデビュー前にハマっていたアイドルや、NICE73に現在の韓国アイドル事情についても教えてもらいました。
取材&文/吉田可奈 撮影/飯田エリカ
NICE73 まりあさんは、なぜK-POPにハマったんですか?
佐藤まりあ(以下佐藤) 最初は東方神起さんが日本で活躍しているところを見て、カッコいいなと思っていたんです。その後、深い深い沼に入ったきっかけはU-KISSさんです。当時『Neverland』というアルバムで活動していたんですが、筋肉ムキムキの逞しい姿で踊っているアイドルというのがすごく新鮮で。当時は2PMなども肉体美を強調していましたし、私が一番大好きだった100%というグループも、2曲目からはコンセプトを変えてムキムキになっていたので、その需要が多かったのかなと思っていました。
NICE73 ムキムキの人が好きだったんですか(笑)?
佐藤 そんなこともなかったんですよ。ただ、純粋にカッコいいなって思いました。さらに、女性アイドルもすごくセクシーで、日本とは違うスタイルが新鮮だったんです。
NICE73 もともと、韓国では、90年代後半から2000年のはじめにユ・スンジュンさんという方がものすごい肉体美で大人気だったんです。当時は“ウェルビン”という、“よく食べてよく生きよう”という言葉が流行していて。彼のようにササミを食べて、良い筋肉を作ることがモテると言われていたんです。その後、Rain(ピ)さんが出てきて、マッチョの男性が定番化したんです。さらに言えば、1999年にデビューしたg.o.dというグループがいて、そこにアメリカ系韓国人メンバーがいて当時から肉体美を強調していました。ちなみに彼は、現在はYouTuberとしても大人気なんですよ。
佐藤 そうなんですね!
NICE73 100%にはどういうきっかけでハマったんですか?
佐藤 まだ私がアイドルとしてデビューする前なのですが、最初はTEEN TOPと一緒に出ていたバラエティ番組で偶然100%を見たんです。まずはビジュアルに惹かれて、次第に彼らのおもしろさにハマりました。NICE73さんが100%のイベントでMCをされていたと聞いてビックリしました!
NICE73 2018年くらいのことですね。メンバーのみなさんが本当に腰が低くて、衝撃を受けたのを覚えています。韓国って、見栄を張る“顔文化”というのがあって。芸能人は、つねに顔を張らなくちゃいけないと言われることがあるんですよね。謙虚であるべきだけど、萎縮するなってことですね。
佐藤 芸能人らしく振舞うということですか?
NICE73 そうですね。そういった態度で振舞うことを教えられるんです。ある意味、威厳があるように見せるとか、ナメられないようにってことですよね。でも、100%のみんなは、本当にいい子たちで、そういう部分が本当になくてビックリしたんですよ。
佐藤 うふふ(うれしそう)。
NICE73 韓国の芸能界って、記者や、台本を書いてくれる作家さんに対してどれだけよく見てもらえるかが大事なんです。本当に一番大事で。これは日本の芸能界でも同じかもしれませんが。
佐藤 そうなんですね。
NICE73 やっぱり、一度ご一緒した方に、またお仕事をしたいと思ってもらうことが大事じゃないですか。スタッフも、自分に接してくれる様子や人柄が素晴らしいなと思ったら、何かあったときにまたキャスティングをしますよね。だからこそ、グループに1人、子犬みたいにキャンキャンとスタッフさんに話しかける愛嬌担当の子がいると、成功すると言われているんです。
佐藤 100%はどうだったんですか?
NICE73 みんながすごくいい子だからこそ、相手の気持ちを察しすぎてしまうところがあったんだと思います。本当に性格のいい子って、「いまは忙しそうだから話しかけないでおこう」って一歩引いちゃうんですよね。でも、屈託なく愛嬌のある子は、そんなことは関係なく「〇〇オッパorヌナ〜【韓国で目上の人に使う敬称】! お元気でしたか!?」って後先考えずに行けちゃうんですよ。そうすると、後者の方が印象深くなってしまいません?
佐藤 たしかに…! 控えめだと、そういうところが損してしまいますよね。
NICE73 そうなんですよね。もっともっと人気が出てもおかしくない実力もルックスも持っていましたよね。
佐藤 そうなんですよ! 悪意のある記事だと、“100%はあまり人気が出なかった”と書かれることがあるんです。でも、私たちのことを本当に楽しませてくれましたし、そんな風に書かれちゃうと本当に悔しくて。彼らがいなかったら、韓国に遊びに行こうと思わなかったし、言葉が分からないけどサイン会へ行ったり、韓国へ音楽番組の観覧に行ったりしなかったので、本当にありがたいなと思っています。
NICE73 オタク活動をしている時間ってすごく楽しそうですよね。
佐藤 本当に楽しいんです! 彼らが韓国でCDをリリースしたときは、読めないハングルを一生懸命勉強して、“ペンカフェ(芸能人のファンたちが集まるHP)”に書き込んで、必死にゲットしたりもしました。
ーー韓国の音楽番組を現地で実際に見てみていかがでしたか?
佐藤 すごく素晴らしかったです。言葉は全然わからなかったんですけど、必死に前の人に付いて行ったりしながらテレビ局へ行って、観覧してきました! 若さゆえのパワーっていう感じですが(笑)。韓国の歌番組のセットってめちゃくちゃゴージャスだと思ったのですが、音楽番組側が制作費を出してくれるんですか?
NICE73 アイドルの事務所側が制作費を出していることもあるみたいですよ。それで、どうしてもアイドル同士での格差が出てしまうこともあるんです。
佐藤 すごい力が入っていますよね。それだけ、韓国のエンタメ界って、音楽に投資をしているなって思うんです。
NICE73 そうですね。エンタメが国の産業になってから、オタ活もしやすくなったと思うんです。以前、『KINGDOM:LEGENDARY WAR』でStray KidsがBLACKPINKの『DDU-DU DDU-DU』と自身の楽曲『God’s Menu』をマッシュアップしたパフォーマンスを、映画『デッドプール』にオマージュを捧げた演出で披露していたんです。そしたら、『デッドプール』の主演俳優であるライアン・レイノルズがTwitterで反応したんですよ。さらに「バンチャン、サイン送るので、サインをくれますか?」と言っていて!
――しかもそのやり取りに、ヒュー・ジャックマンも反応していて、リアルタイムで見ていたときは、かなりびっくりしましたし、K-POPのパワーを感じました。
佐藤 世界中からコメントがすぐに出来るSNS文化になったのはすごいことですよね。ちなみに、パフォーマンス面で、K-POPはどのように変化してきていると思いますか?
NICE73 私は中学生のときにBaby V.O.Xという女性グループのパフォーマンスを生で観る機会があったんです。そのときのファンの熱量も本当にすごくて、この国のエンタメってすごい、この国で挑戦したいって思ったんです。当時はレンジの広さを争うような、キーが高い曲が多くて練習するのは大変でした。今のようにダンスグループも多かったけど、ロックバラードを歌うシンガーも人気で、よくよく考えると、みなさんX JAPANに影響されていたんですよね。
佐藤 たしかに、韓国ですごく流行っていたと聞いたことがあります。
NICE73 そうなんです。TUBE、安全地帯、玉置浩二、X JAPANはテッパンでした! その後、BIG BANGが出て来て、ガラッと流れが変わったんです。その後にBTSが出て来ていまに至る、という流れは前回もお話しさせていただきましたが。特にSHINeeとf(x)は本当に革新的で。彼らの所属しているSMエンターテイメントって、どちらかと言うと率先して新しい音楽やカルチャーを取り入れていますね。
佐藤 私も中学生の頃、SHINeeを夢中で見ていました。こんなに歌って踊れる人がいるんだって驚いたんです。
NICE73 10代の多感な時期からSHINeeの音楽が聴ける環境だったのはすごくうらやましい! いま10代で活躍している韓国のHIPHOPアーティストは、BIG BANGのフォロワーが多いと言われてます。だからこそ、K-HIP HOPが熱いんですよね。ゴリゴリではなくて、その影響を受けてポップな側面があり、そんなところが2021年っぽいなーと感じています。
佐藤 たしかに。新しいアーティストや音楽がつねに量産されていて、応援している分にはすごく楽しいです。ただ、K-POPを追っていると、悲しい出来事も多いですよね。追い詰められてしまう人も多いような印象を受けて、あんなにキラキラしているのに、どうしてなんだろうなって。
NICE73 やっぱり、出口がないことが大きいと思います。先ほど話した、“顔文化”っていうものがあるせいで、芸能人になるとどうしても友達を作りづらいというか。さらに芸能人同士で弱みを見せることもできないし、普通の友だちには言えないこともたくさんあるんですよ。
佐藤 グループ内でも難しいんですかね?
NICE73 グループ内だと、弱いところを見せたらメンバーに迷惑をかけちゃうとか、自分の状態を乱してしまうとグループの活動に支障が出るんじゃないかと、気にすることも多いと思うんですよね。そんなときに、マネージャーに相談して、やる気がないと思われてしまったら嫌だと考えてしまうアイドルもいるんじゃないかと思いますし…。さらに芸能人としての活動があまり出来なくなってしまったあとは、活動するための道がほぼないんです。もちろん俳優やタレントになったり、お店を開いたり、VJやYouTuberをしている人たちはいますが、それで成功するのもなかなか難しいとなると、不安になっちゃうんだと思うんです。これは日本でも問題になっていますが、誹謗中傷も目に入りやすいですからね。
――ネット文化が発展していることの良くない点ですよね。
NICE73 アイドル練習生になるのは、本当に幼少期なんです。そういう未来が見えていない状態で練習生となり、とにかくデビューに向けて前だけを見てきて、いざデビュー出来ても成功するのは一握りで。結果的に売れませんでした、となったときに、塞ぎこんでしまいますよね。しかも、国民性として、辛いところや、弱い部分を見せるのが苦手な人が多いと言われている韓国なので、そういう意味でもアイドルたちを守るメンタルケアの場所や、セカンドキャリアを支援するような制度が本当に必要だと思うんです。
佐藤 すごく難しい問題ですよね。でもだからこそ、もっと応援したくなりました。YouTubeでもたくさん公式動画がみられますし、K-POP好きな人もますます増えてきて、こういう話ができる機会が増えているのはうれしいです。
NICE73 最近推しているグループはいるんですか?
佐藤 一周回ってTWICEが好きです!
NICE73 100%のオタクは、卒業しちゃったんですか?
佐藤 もちろん、いまも応援する気持ちはありますが、自分がアイドルとしてデビューするときに、区切りだと思ってすっぱりオタクは辞めたんです。だから特定の“推し”は作らず、K-POP全体を楽しんでいるような感じです。でも、彼らを応援していた過去は本当に宝物ですし、あのころに出会えたオタクの友だちとは、いまでも当時の話をして懐かしい気持ちになったりもします! そういえば、ひとつ聞きたかったんですが、韓国のアイドルにとって、日本デビューってどんな意味があるんですか?
NICE73 以前は、ゴールが日本デビューだったと思うんですよ。韓国から見て、音楽の市場が一番大きい、一番近い国が日本なので。さらに、日本のマンガやアニメに触れて子供時代を過ごしているからこそ、親近感のある日本でデビューするのはすごく大きなことだったと思うんですよね。でもいまはそのゴールがビルボード、アメリカデビューになっているのかもしれないですね。
佐藤 そうだったんですね。私が応援していた当時は韓国アイドルが口を揃えて「日本デビューしたいです」と言っていたのが、すごく不思議だったんです。長年の謎が解けました。
NICE73 あとは、どのアイドルに聞いても、“日本のファンは長く愛してくれる”って言うんですよ。韓国人は1年後には違うアイドルを推す人が多いけど、日本人は10年後も好きでいてくれる人が多いらしくて。
――たしかに、日本では40代になってもアイドルとして第一線で活動している方はたくさんいますね。
佐藤 たしかに…。私たちもそんな風に長く愛していただけるように頑張りたいです(笑)。そういえば、NICE73さんは、韓国アイドルの日本デビュー向けのボーカルディレクションなどもしているんですよね。
NICE73 はい。韓国と日本のディレクションって全然違っていて、日本に比べて韓国はディレクターの言うことが絶対なことも多いんです。なので、ディレクターが言ったことをどれだけ表現できるかが主軸になってくるので、みんな各自で驚くほど練習をしてきて、言う通りに歌ってくれるんですよ。日本人にディレクションをしたときに、その手法でやったら、「言いすぎです!」って注意されちゃったこともあります(笑)。
佐藤 たしかに、SEVENTEENのレコーディング風景をYouYubeで見たときに、すごく細かくディレクションされている風景があって、こんなふうに作っているんだと驚いたんですが、そういうことだったんですね。
NICE73 そうそう。みんなすごく耳がいいんですよ。そして基礎練習をたくさんしているので、言われたこともパッと出来るんです。
――まだまだ伺いたいことは尽きないと思いますがお時間になってしまいました!
佐藤 今日は本当にいろんなことを聞けて大満足です! でもまだまだお話しを伺いたいので、またお会いできたらうれしいです!
NICE73 こちらこそ! また100%のお話しましょう~!
佐藤 ありがとうございます(笑)!
NICE73●ナイスななさん。中学2年から学び始めた韓国語を生かし、2002年日韓共催W杯の自主応援歌の歌手活動を始め、2005年には韓国でソロ歌手としてデビュー。帰国後、作詞活動をスタートさせ、現在は作詞、日本語詞、RAP詞、作曲、ボーカルディレクションを行う。また、「三々五々に、問う」のバンドボーカルや、韓国語を自由に操り、イベント等のMCとしても活躍する。http://73note.com/ https://www.youtube.com/channel/UCfn1h4jzRUZE3V7tmsyPnAQ
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