第参回 劇画狼が選ぶ、2020上半期に発売された暴力と死のマンガ10作

努力・友情・勝利! 今も昔も変わらず、マンガにとって大切な3要素!
少年ジャンプ作品だけでなく、ヒットする作品には少なくともこの要素が1つ以上含まれているといいます。
だが我々は……それ以外に最も「マンガを輝かせる要素」を知っている!

そう、暴力と死!! 
ということで本日は今年上半期に発売されたマンガ作品の中から、劇画狼が個人的に楽しんだ暴力と死のマンガを10作紹介! なるべく「始まったばかりのもの」中心!

藤異秀明『武狂争覇』(ジーオーティー)

まず命が抜群に軽いといえば『武狂争覇』!『デビチル』でボンボン読み小学生を地獄の底に叩き込んだ藤異先生の新作は、もちろん期待通りの圧倒的暴力! 「最も軽いもの、それは命!」って作中で完全に言い切ってるし、そもそもこんなに楽しそうな漢字が4つ並んでるタイトルある? もう読む前から「うわ! 暴力と死のやつ!」ってなるに決まっているもんね。必読です。

天野雀『亜童』(講談社)

『亜童』も最高。我々の共通の記憶の中にある理想のSFを全て刺激するいいマンガ。もちろん人もばっちり死にます。大友(克洋)作品ファンには「今もこういうど真ん中あるんですよ」と伝えたい。

暦『娑婆王(3)』(秋田書店)

絵面の「暴力と死」感といえばやっぱり『娑婆王』! この作品に関しては、何度も言うけど作者の「誰がなんと言おうと描きたいものしか描かない気持ち」と「よく令和にコレ少年漫画誌で通したな」という編集判断など、すべてが奇跡。

オオヒラ航多『運び屋・ラバ』(日本文芸社)

暴力と死のマンガに「主人公の迷い」は不要!『運び屋・ラバ』!
ここ数年の暴力と死のマンガの中でも、トップクラスに主人公が「気が付いたら手を出してる」闇稼業タクシードライバーマンガ。たとえそれが善であれ悪であれ、攻撃開始の判断のラインがぶっ飛んでるやつは見ていて気持ちいいものです。

KENT『カラーレス(3)』(リイド社)

よくぞ紙の本でこれをやってくれた! というのが『カラーレス』。
「色という概念が消失した世界」なのでモノクロのマンガだけどフルカラーの一冊。これを利用してキメるべきところでばっちり狙いにハメるギミックが秀逸。

近藤信輔『忍者と極道(2)』(講談社)

今日紹介する作品の中で最も暴力による死者数が多いのはやっぱり『忍者と極道』。
他の作家・作品を挙げて褒めるのがいいのか分からないけれど、藤田和日郎と山口貴由と平野耕太成分を全投入して『バジリスク』を描いている。その過程で尋常じゃない量の首が飛び、その首がめちゃくちゃ喋る、みたいな令和の大娯楽なのでこちらも必読。いい意味で「長期連載にせずに一気に行くぞ!」感もあって最高。

山口貴由『衛府の七忍(9)』(秋田書店)

そして『衛府の七忍』は全然始まったばかりのものじゃないんだけど、新刊が発売される度に「今までの流れは、すべてこの巻のためにあった!!」と思わされるので実質先月発売された9巻も1巻みたいなもの。命が抜群に軽い架空の江戸時代を舞台に「雑草などという草はない」をやってくれるので相変わらず必読です。これはただ好きだから10作に入れました。

斎藤潤一郎『死都調布 南米紀行』(リイド社)

暴力と死が当たり前にあることの「ざらつき」が紙面を通して最も伝わるアウトローコミック、『死都調布 南米紀行』。この作者の描く四足肉食獣は、人間の心の一番深いところの不安感を刺激する。

山田芳裕『望郷太郎(2)』(講談社)

文明崩壊後に、残った人間たちの間でやっぱりマウンティング合戦とか奴隷制度が発生する仕組みをメチャクチャな説得力で描いている『望郷太郎』もやっぱり最高。

福田ますみ/田近康平『でっちあげ』(新潮社)

『でっちあげ』は、2巻以降で絶対話が完全にひっくり返ることが予想できてヒヤヒヤするので、いま最も2巻を待っているマンガの一つと言えます。

その他、暴力と死にこだわらなければ、極上百合SF『惑星クローゼット』(著/つばな)完結、底辺生活者の心理描写が異常に鋭い『コーポ・ア・コーポ』(著/岩浪れんじ)、『三日月のドラゴン』(著/長尾謙一郎 )の今一番気持ちのいい主人公。このあたりが今年上半期(7月もちょっと含まれますが)で劇画狼が自信をもってオススメする暴力と死なので、皆さん下半期も殺意をむき出しにしてマンガを読んでいきましょう。

劇画狼(げきが・うるふ)●マイナーマンガ紹介ブログ・なめくじ長屋奇考録の管理人&特殊出版レーベル・おおかみ書房編集長。8/29(土)の昼に相原コージ先生と阿佐ヶ谷ロフトで無観客配信『ムジナ』トークショーやります。

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『劇画狼の獣次元新刊漫画ガイド』

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TV Bros.編集部
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