ODD Foot Worksの有元キイチがソロEP「Tama,Tokyo」をリリース。深く響くボーカルと「記憶」が入り交じり、たおやかに音楽は睦み紡がれ、誰かの心に雫のように落ち、静かに波紋を広げていく。

取材&文/高木“JET”晋一郎
目次
「この骨があれば、あとはどんな肉体になってもいい」と思えるような作品になったという手応えがあります
――ソロプロジェクトの計画はいつごろから?
本格的に進みだしたのは2020年の初頭ぐらい。「ソロを聴きたい」と色んな人から言われてたのもあるし、同じ頃にコロナ禍が起きて、そこで自分を見つめ直すタイミングが生まれたというのも、大きかったですね。
――ODD Foot Worksの活動に加え、個人としては三浦透子などの外部プロデュースも手掛けられています。
相手の要望を訊いて、それを作品として一緒に突き詰めていくプロデュースワークは、新しい経験にもなるし、すごくやりがいがあります。でも根本的には「自分ではない」。ファッションに例えると、誰かのコーディネートをするみたいな感じだから、ソロでは自分の体型に合った、自分のファッションをしたかった、というか。
――今回のEPは4曲中3曲がノンビートです。ODDはダンスミュージックが根底にあるので、それとの距離を興味深く感じました。
ベースとなるトラックにはビートを組み込んでるんですけど、最終的に楽器を際立たせる為に、ドラムを抜いて完成させました。その上で見える「質感」みたいな部分を表現したかったし、挑戦したかったことで。
――ただビートレスではあるけど、「リズム」はあると思いました。だから、いわゆるアンビエント的な抽象性とは違う、もっと具体的な肉体性はあるなと。
ドラムは鳴ってないんだけど、そこにリズムがあって、ちゃんとノレる……そのラインやバランスに持っていくというチャレンジでもありましたね。元々アンビエントだったり、BPMが遅いものが個人的には好みなんですよね。だから、ODDで早いBPMの曲を作ってるときは、少し頑張ってるのかも知れない(笑)。でも、今回は自分の心臓のペースや自分の生き方にあったBPMになったと思います。ODDと違いがないと、ソロを作る意味もないなと思うし、分かりやすい違いを提示できたんじゃないかな。
――もっと「自分の呼吸リズム」に近いと言うか。
その意味でも「自分の軸」を作れた感じがありますね。周りや社会のことを考えがちなタイプだからこそ、自分の中心線が欲しかったし、今回は自分の骨格みたいな部分を作品に落とし込めた。だから「この骨があれば、あとはどんな肉体になってもいい」と思えるような作品になったという手応えがあります。
――楽器の数も含めて、全体的にミニマムな音像ですが、その意図は?
そういう音を最終地点にしたかったのもあるし、やりすぎるのが駄目になってきちゃってるんですよね。引き算で構築された、要素ひとつでガラッと変わるような世界を作りたかったし、だからこそ、その骨組みを大事にしたくて。
声は自分にとってもすごく重要な要素です
――今回は「声」が重要な要素になっているし、キイチくんはいい声を持ってるんだなと。
AAAMYYYやTENDRE、同業者に声を褒められることが多かったのでそこを活かしてみようかなって。年齢を重ねたのもあるかも知れないですね。知ることが増えて、それが声に現れてる部分もあるのかな……分かんないですけど(笑)。でも声は自分にとってもすごく重要な要素ですね。
――ギタリストであるキイチくんが声を前に出すのも面白い。
今回は「ボーカル」より「声」というイメージですね。普段の喋りと地続きの、「素顔みたいな声」を形にしたかった。口や喉だけじゃなくて、鼻や目、骨格や皮膚みたいな、色んなパーツが作用して、僕はこの声になってるし、だからこそ「この身体から出る音」を再現するのはかなりムズいと思うんです。
――その意味でも、声こそがシグネチャーだし……。
キイチモデル(笑)。だから自分の軸を出すという意味でも、その「声」を大きな要素にするべきだと思ったんですよね。
――ギターやピアノなどの楽器の構成はシンプルだけど、声にはコーラスやレイヤーが重なっているのも、その「軸」の表現を豊かにしています。
メインのメロディを歌ってるはずなのに、ハモってると言われることがよくあって、逆に主メロが分からなくなることもあって(笑)。だから、主メロに対するコーラスやハーモニーのような「音の上下の層」が見えるのが、自分の特性。そういう意味でも、ハモリを作るのが自分の得意分野だろうし、そういう層を重ねていく面白さも作品にしたくて。
――今回の歌詞は「地元」が大きなテーマになっていますね。
ソロという「自分のこと」だから、「地元の自分」をテーマとして大事にしたかった。ラッパーが地元の話をするみたいに、自分はそれをシンガーソングライターとしてパックするような側面があってもいいのかなって。SSWとしてどこまでそれを言えるかみたいな、そういう「縛り」の上で形にしたくて。
「過去から地続きの今や未来を生きてる」という感覚がすごく強い
――「記憶」や「地元」がテーマだけど、歌詞としては「現在」や「未来」を意識していて、あまり「過去」を指定するような言葉はないのも、キイチくんのバランスなのかなって。
「あの頃に戻りたいね」みたいな、振り返ることが過去だと思われがちですけど、それよりも自分としては「過去から地続きの今や未来を生きてる」という感覚がすごく強いし、それが歌詞に表れてるのかな。「過去のある時の感情」は「今でも残ってる」と思うし、だから「本当に(純粋な)過去は存在するのか」……みたいな。
――「多摩ナンバー」での「パルテノン」など、地域や固有名詞も多いですね。
固有名詞に対して思う感情で、歌詞とメロディーを書くことが多いし、よりパーソナルにすることで、逆に抽象度が高くなるみたいな表現が好きなんですよね。「多摩ナンバー」は、「どういう表情をしよう」「こういうトーンで喋ろう」みたいなことを考えなくていい、素顔のままでいいと、人にも自分にも言いたかったというか。それは相手を愛してるからと同時に、自分の事を愛してるからこそ言えるだろうし、その意味でも「ラブソング」ですね。
――「銀座線」はピアノとボーカルで組み立てられていますね。
実家の客間に子どもの頃からずっとあるピアノがあって、それで今回は実家にエンジニアとピアニストに来てもらって、マイクや機材を立てて録ったんですね。昔から自分の近くにあったピアノが、今のサウンドとして録音されていくのは、SFっぽくいえば昔の記憶を吸い出してるというか、「記憶の回収」をしてるみたいで楽しかったですね。良い時間でした。
――「未来」は言葉自体も抽象性が高いですね。
多分、人間は思考するほど「過去」になると思うんですよね。逆に思考しないと「未来」になる気がする。そういう意味で、思考するよりも、全く未知のものとぶち当たるような経験をこの曲でしたかったんですよね。
――バンドとのセッション感の強さという意味でも「未知」な感じがしますね。
本当に寝起きみたいな状態でバッと作ったデモをもとに、ギタリストとベーシストに入って貰って、セッション的に作ったんですよね。だから、ほぼ1テイクで作っていったし、この中でもロック的な感触があると思う。セッションという行為は、「自分」という不変の上に、セッションする相手が変化することで、そこで新しい展開が生まれることだと思うし、それができれば今後も面白いことができると思う。良い意味で、今回のEPに立ち止まる、今後も立ち戻ることはないから、この先に出会うことを、その時々で形にしていきたいですね。
――今後のODDの動きにも興味が湧きます。
ODDはそれぞれのメンバーの「顔」がある、個性の強いグループだと思うし、このメンバーだからこその表現を、無理せずに、でもギリギリまで追求していきたい。やっぱりODDのメンバーが集ったのは運命だと思ってるんで。
有元キイチ●1995年生まれ、東京都多摩市出身。ラッパーのPecori、ベースの榎元駿と共にODD Foot Worksを結成。ギター/サウンドプロデューサーとして、グループの飛躍に大きな役割を果たす重要人物。
infomation
有元キイチ
『Tama,Tokyo』
NOW ON Stream
M1「野猿街道」
M2「多摩ナンバー」
M3「銀座線」
M4「未来」
LIVE info
2024年5月6日(月/祝)
「有元キイチ × Taishi Sato × Zatta × TOKIO TOKYO」
https://tokio.world/
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