オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、Yohji Igarashi、宮崎敬太 presents「レイジ、ヨージ、ケイタのチング会(仮)」08

オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、トラックメイカー・Yohji Igarashi、音楽ライター・宮崎敬太のチング(友達)同士による、K-POPをサウンド面から深掘りしていく連載。Kカルチャーに造詣の深い2人がサウンドの面からK-POPを分析しつつ、トラックメイカーYohji Igarashiと共に元ネタを探りながら理解を深めていこうという企画。今回はレイジの最推し・スルギ(Red Velvet)のソロ話を中心に、気になるK-POP楽曲についてじっくり掘り下げていきます!

取材&文/宮崎敬太

 

浅田真央とSHINGO★西成とカン・スルギに通底するストイシズム

 

ケイタ:ついにスルギがソロデビューしました! レイジくんはすでにセルフメイドのスルギロゴTシャツを着まくってるね(笑)。ストリートスタイルのヲタ活。

レイジ:だってもう最高としか言いようがないじゃないですか。「28 Reasons」のコンセプトは俺のために作られたんじゃないかと思うくらい。

ヨージ:僕も聴いたよ。

レイジ:お、どうだった?

ヨージ:こんなこと言うとあれかもしれないけど、音楽だけで良し悪しを決める感じじゃないのかもって思った。曲単位ではピンとこないのもあったけど、2人はきっとアイドル本人の物語性ありきで楽しんでるだろうなって。

レイジ:そうだね。だから良い。アイドルの意味がある。音楽だけ聴いて「最高!」ってなりたいならアイドルであるが必要ない。

ケイタ:めちゃ同感。それにヨージさんの感想はすごく的確だと思うよ。

ヨージ:え、意外な反応……。

ケイタ:結局アイドルの魅力を突き詰めるとアイドル本人の魅力に行き着くからさ。

レイジ:ですよね。だからアイドルたちはあんなに精神的な負担を背負ってまで活動してる。

ヨージ:結構昔、好きだったアイドルはいたんですよ。ライブにも行ったりしてて。でも翌週にSHINGO★西成さんのライブに行ったら「こっちでしょ」となって。一気にアイドルへの熱が冷めちゃったんです。

レイジ:アイドルのライブはチケットも高いしね。

ヨージ:そうそう。僕が行ったアイドルのコンサートもわりとチケットが高かったのにめっちゃ遠い席で全然見えなかった。でもSHINGO★西成さんのチケットははるかに安くて、しかも最前列(笑)。誰かに歌わされたわけじゃなく、自分の言葉。同じお金ならSHINGO★西成さんに使いたいと思ったんですよね。そういう経験があるから、僕はイマイチまだアイドルにハマれないのかも。

レイジ:ヨージが一番好きなSHINGO★西成さんの曲は?

ヨージ:えー。超いっぱいあるから1曲だけ選ぶのは難しいけど……。強いて言うなら「頑張ってれば」かな。極論、SHINGO★西成さんのライブってありがたいお説教の後ろでビートが流れてる感じなんですよ。もちろん音楽なんですけど、音楽を超越してるというか。本当に大好き。大好きって言葉で言い表せないほど好きです。

SHINGO★西成 頑張ってれば… 釜ヶ崎越冬闘争LIVE 2011

ケイタ:SHINGO★西成さんの人間力がラップに説得力を産んでるよね。良いラッパーの条件。ちょっとこじつけになっちゃうかもしれないけど、アイドルにもそういうところがあるんだよね。レイジくんが教えてくれたインタビュー動画を見たら、今回のスルギのソロは本人の意見がかなり反映されてるみたい。

‘2+8 Reasons’ of SEULGI I [28 Reasons] Art Work Drawing

レイジ:このインタビューはまじでオススメです。俺、これでスルギが描いてる絵をサンプリングしたTシャツも作りました。さすがに自分でもマニアックすぎると思いましたけど(笑)。

ケイタ:しかもその絵がめちゃセンスいいっていう。ただそういう面はこれまでインスタグラムとかでしか垣間見ることができなくて。アイドルって求められる姿を演じなきゃいけない。それって本来のパーソナリティを封印して活動し続けなきゃいけないということ。だからこのインタビューで「本当の自分ってなんだろう」って話してたのはすごく印象的だった。

レイジ:浅田真央とか羽生結弦をイメージしてくれればわかりやすいと思う。

ヨージ:どゆこと?

ケイタ:あの人たちって、常に国民から超完璧な姿を求められるでしょ? 清廉潔白で品行方正。ストイックな努力家みたいな。スキャンダルなんて考えられないじゃん。彼女/彼に興味あるなしに関わらずさ。アイドルにもそういうところがあって。ただうまく歌ってうまく踊ってればいいってわけじゃない。これもこじつけになるかもしれないけど、もしSHINGO★西成さんがめちゃポーザーで裏では超チャラチャラしてたら「頑張ってれば」は成立しないじゃん。

ヨージ:確かに。SHINGO★西成さんのリアルなライフがあってこその「頑張ってれば」ですよ。

レイジ:アウトプットのベクトルはまったく違うけど、表現の本質にあるストイックさは同じなんだよ。

 

バイオレンス映画『オールド・ボーイ』をサンプリングしたスルギのMV

 

ケイタ:ではここからレイジくんに「28 Reasons」の魅力をプレゼンしてもらいましょう。

レイジ:もうティーザーが公開された時点でぶち上がったんです。俺、アジアン・ホラーが大好きで。こういうアプローチならスルギじゃなくてもぶち上がってたと思う。それくらい好きなテイストなんですね。いわゆるホラーだったらこれまでもいろいろあったと思うんですよ。レドベルの『Psycho』とか、SHINeeの『Married To The Music』とか。ハロウィンとかゾンビっぽい感じをポップにやるのはこれまでもいろんなアイドルがやってきたんだよね。けど今回は気持ち悪い要素がある。爪切ったりとか。

SEULGI 슬기 ’28 Reasons’ MV Teaser

ケイタ:アイドルのビジュアルで爪切りはなかなかないよね。しかもあれ、スルギの生爪なのね(笑)。

レイジ:そうなんすよ! 切られた爪って生理的な嫌悪感があるじゃないですか。それをカン・スルギがやってるっていう。あとSMが結構ちゃんと力を入れてるのも嬉しかったですね。さらっと出して終わり系かなと思ってたから。

ケイタ:K-POPの場合、グループアイドルのソロは作るだけ作って、ほとんど活動しないパターンもあるからね。

レイジ:で、MVですよ。まさかの『オールド・ボーイ』をサンプリングしてて。俺、(映画監督の)パク・チャヌクが大好きなんです。「28 Reasons」の最初の草原で目覚めるシーンとかはもろ『オールド・ボーイ』ですし。

SEULGI 슬기 ’28 Reasons’ MV

ケイタ:え、気づかなかった。『オールド・ボーイ』を観たのがはるか昔だからな……。ラストがハイパー地獄で2回目を見る勇気が出なかった(笑)。

レイジ:他にも『オールド・ボーイ』の重要なシーンもサンプリングしてますよ。こことか。

ケイタ:ほんとだ……。ここは『オールド・ボーイ』の決定的なネタバレになるんで、気になる方は是非映画本編を見てみてください。ちなみにヨージさんは韓国映画は観ないの? 韓国のノワールやバイオレンス映画とか好きそうだけど。

レイジ:この人は映画を観ないから。

ヨージ:そこは否定できない……(笑)。でも2人はスルギのMVのそういうとこまで見てるんだね。そりゃ曲だけ聴いても魅力はわからないはずだ。いちおうミニアルバムの曲は全部聴いたけど、曲によっては「ここは古いなー」みたいのがちょいちょいあってさ。スルギさんはNCT127と同じ事務所でしょ? 「なんでこの音を選ぶんだろ?」って考えちゃったりした。

レイジ:その感覚は正しいよ。スルギのソロは、音に関しては古い新しいじゃなくタイムレスなK-POPだね。「10年前の東方神起をカバーしました」と言われても納得できちゃう。でもヨージが言うようにこのプロジェクトの良し悪しは音だけじゃないんだよね。軸はスルギ本人。だから最高なのよ。だって俺が大好きな韓国カルチャーを俺が大好きな韓国人がサンプリングしてるんだから。しかもこのサンプリングって普通の人は見てもわかんないと思うんですよ。たまたま俺がパク・チャヌクが大好きだからすぐ気づけた。しかもスルギ本人の意見もかなり入ってる。そしたら俺は「サイコーーーーーーーーーーー!(絶叫)」ってなるでしょ(笑)。

ヨージ:声デカすぎんだよ(笑)。音だったらNCT127「2 Baddies」はすごく好きでした。絶妙なラインを突いてる。一歩間違うとダサくなる際どいとこ。でもかっこいい。

NCT 127 엔시티 127 ‘질주 (2 Baddies)’ MV

ケイタ:マジで! ヨージさんにそう言ってもらえるのは嬉しい! 俺もこの曲めちゃ好きと思ったけど、チャートアクション的には同じ時期に活動してたIVEの「After Like」やBLACKPINKの「Shut Down」に結構負けちゃっててさ。どっちのグループにも恨みはないけど、やっぱ俺はNCTzenだから正直悔しくてムカついたんだよね。「なんで『2 Baddies』が1位じゃねえんだよ」って(笑)。

ヨージ:BLACKPINKつながりでいうと、「2 Baddies」を最初に聴いた時、2NE1「내가 제일 잘 나가」のシンセに似てると思ったんですよ。

2NE1 – 내가 제일 잘 나가(I AM THE BEST) M/V

レイジ:あー、確かに。シンセは似てるね。違いはリバーブの掛け方だ。「2 Baddies」はハイパーポップ以降のルームリバーブ感。

ヨージ:そうそう。「내가 제일 잘 나가」のシンセはビッグルーム系のEDM。実際10年くらい前の曲でしょ? あれを今まんま使うのは古い。

ケイタ:ちなみにリバーブはエフェクトのこと。音の響き方です。

ヨージ:ですね。残響は鳴らす場所の大きさで変わるので、ホールリバーブとかルームリバーブとかって言うんです。同じ音を出しても、中野サンプラザみたいなホールと、自分の部屋では全然違いますよね? リバーブは音の響き方を楽器ごとに個別で変えるエフェクトなんです。

レイジ:これを口で説明するのは難しいので今日はLogic(DTMのソフト)の画面を見ながら説明しようかと。簡単にNCTっぽい感じの組んでみますね……。

ケイタ:(レイジ作業中)あ、なんか「Baby Don’t Stop」っぽい! あ、今度は「Simon Says」のシンセみたいだ。

レイジ:でしょ(笑)。NCTっぽいのは簡単に組めるんです。じゃあこのシンセにルームリバーブを掛けます。残響音が少ないペタッとした音になりますよね。逆にホールリバーブを掛けます。音に奥行きが出て広い場所で鳴ってるみたくなる。

ケイタ:ああ、ほんとだ……。たぶん読者のみなさんも「2 Baddies」と「내가 제일 잘 나가」のシンセ音のみを聴いて比べてもらうと響き方の違いがわかると思います。

レイジ:NCTもトラック単体やポイントにフォーカスして聴くと古い曲はあるんですよ。でもいつも狙いがはっきりしてる。意図的にやってるから全然アリなんです。

ケイタ:俺はこの前、『2 Baddies』の感想を「知的で上品」とTwitterに書いたんだけど、「知的」という感想の内訳はまさにそういうところかも。トレンドからちょっと外れてても、しっかりとやりきる姿勢というか。

ヨージ:シンセのフレーズとかじゃなくて、音の響きなんてものすごい細部のように思えるかもしれないけど、こういう微妙な変化が積み重なると、最終的にはまるで違うものになるんです。

ケイタ:2人はいつもこういうことをやってるんだね。すごいなあ。

レイジ:ですです。ちなみにルームリバーブでいうと、この連載の初回でも話したSOPHIEですね。彼女は「BIPP」でスネアにルームリバーブを思い切り掛けて金属を叩いてるかのような音を作った。あれはものすごく新鮮だった。最初は何やってるのかまったくわからなかったし。

ヨージ:そうそう。2010年代は音のトレンドがビビッドだったんです。あといわゆる主流と言われる音があった。でも今は変化の速度が速すぎて、トレンドとして定着する前に新しい動きが出てくる。

レイジ:そうねー。強いて言うならBPMが早くなってるってことくらい。でもこの流れはたぶんK-POPには来ないと思う。振り付けありきだから。(IOIの)「너무 너무 너무」みたいに早い曲はかなりレアだと思います。

ヨージ:逆にJ-POPだとありますよね。

レイジ:電波ソングとかね。振り付けがそんな凝ってないから。そこを逆手にとって、今のトレンドにドンズバなトラックでやる日本のアイドルが出てきたら面白いのに。その意味で、俺はみんなに改めてm-floのすごさを知ってもらいたい。こんな音楽は他にないですよ。J-POPとK-POPの完全なるハイブリッドですから。


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ケイタ:リアルタイムではそんなに聴いてなかったけど、この前BoAの過去曲を一気に聴いてたら「the Love Bug」があまりにもかっこよすぎてびびった。日本と韓国の文化が大好きな俺は、もっと早くからこのすごさに気づくべきだったと反省したもん。

m-flo loves BoA / the Love Bug

レイジ:ほんとケイタさんは反省したほうがいいです(笑)。今日本でこんなにK-POPが流行ってるなら、m-floはその先駆けとしてもっともっと評価されるべきグループですよ。ちなみに☆Taku Takahashiさんは韓国ではめちゃリスペクトされてて。新沙洞の虎も影響を受けたと公言してますし。

ケイタ:K-POP1.5世代のプロデューサーたちは渋谷系やJ-POPにも精通してるもんね。

レイジ:はい。その証として、EXIDの日本盤のプロデュースを☆Takuさんに託してるんです。そこに俺はドラムとして参加させてもらってて。さらにいうとVERBALさんも、BIGBANGや2NE1の日本語盤の歌詞をほとんどやってるんです。韓国語の意味やニュアンスを理解しつつ、完全に日本語で韻踏めてる。これってマジですごいことだと思いません?

ケイタ:当時はみんな先に韓国語のオリジナルを聴いちゃってたから、後出しの日本語バージョンには違和感を感じちゃってたと思うけど、日本におけるK-POP黎明期から韓国語のニュアンスやバイブスをしっかり日本語にラップで落とし込んでたって事実は見逃しちゃいけないね。しかも今は日本語バージョンからK-POPに入る人も少なくないと思うし。だから余計にK-POPというか、韓国の文化に興味ある人がやることには大きな意味がある。

レイジ:そうなんすよ。ちなみにm-floが坂本龍一とやってる曲もめっちゃいいすよ。ケイタさん好きそう。

m-flo loves 坂本龍一 / I WANNA BE DOWN

ケイタ:あー、好き。聴き直します。

レイジ:そういえばホットトピックとしては、俺、今年LAでShintaro Yasudaって人と仲良くなったんですよ。なんかアリアナ・グランデをプロデュースしたとか言ってて。俺は最初何十人もいるコライトしたプロデューサーの1人くらいかなとか思ってたんです。あとで調べてみたら、去年のグラミー賞にノミネートされた「off the table feat. The Weeknd」をプロデュースしてたみたい(笑)。まあそん時は知らないし、そこはどうでもよくて。LAで話した時、お互いK-POPが好きということで結構仲良くなったんですね。しかも好きなラインがかなり似てて。で、この前Shintaroくんが日本に来たんですよ。じゃあ遊ぼうって話しになって。「ユニバーサルで打ち合わせがあるから」って原宿で待ち合わせたんですね。

ケイタ:うん。

レイジ:合流して「なんの打ち合わせだったのー?」って聞いたらLE SSERAFIMの新曲作ったって。

ケイタ:えっ! そういえば「ANTIFRAGILE」のクレジットに日本人の名前があったから気になってたんだ。その人か。マジかよ。

レイジ:ヤバくないすか(笑)。Shintaroくんは日系アメリカ人で俺と同い年なんです。「レイジ、ドラムブレイクいっぱい送ってくれたら使うぜ!」って言ってくれたんで、今後もしかしたら俺のドラムが誰かの曲で使われるかもしれないっす。

ヨージ:レイジの引きの強さは異常(笑)。

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