2017年「このマンガがすごい!」オンナ編1位に輝いた漫画『金の国 水の国』がアニメ映画化。『時をかける少女』『サマーウォーズ』など数々の名作を世に送りだしてきたマッドハウスが手がけることもあり、今回前から原作ファンから大きな期待をかけられている今作が遂に今月1月27日より劇場公開を迎える。
TV Bros.WEBでは今作公開を記念して、3日連続で今作関係者へのインタビューを公開。
3日目に登場するのは今作の劇伴を手がけたEvan Callと劇中歌を担当している琴音。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』シリーズや大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などこれまで数々の話題作の劇伴を手がけたEvan。今作の劇中歌を担当する複数の候補の中から、その歌声に惚れ込んで新進気鋭のシンガーソングライター・琴音を抜擢したという。物語を彩る音楽を制作するにあたり、どんな想いがあったのか。それぞれの視点から語ってもらった。
取材・文/編集部
撮影/倉持アユミ
Evan Call(エバン・コール)
●1988年6月29日生まれ、アメリカ・カリフォルニア州出身。バークリー音楽大学映画音楽作曲科卒業後、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』シリーズをはじめ、アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』、TVアニメ『天晴爛漫』、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』、『シュヴァルツェスマーケン』など、数多くのアニメ作品で音楽を担当してきた。
琴音(ことね)
●2002年1月7日生まれ、新潟県出身。2018年、テレビ朝日「今夜、誕生!音楽チャンプ」グランドチャンプを獲得し、2019年3月6日、E.P.「明日へ」でメジャーデビュー。同年、テレビ東京系ドラマBiz『ハル 〜総合商社の女〜』オープニングテーマに「白く塗りつぶせ」、2021年にはフジテレビ系月9ドラマ『ナイト・ドクター』オリジナルナンバーに「君は生きてますか」が起用された。
【映画『金の国 水の国』3日連続インタビュー】
DAY1 浜辺美波
DAY2 渡邉こと乃監督
DAY3 Evan Call& 琴音
自分で歌うときに「どうしたらいいんだろう?」と迷うことは、ほとんどありませんでした。
──今作『金の国 水の国』を彩る劇伴を制作するにあたり、どの部分からアプローチされたのでしょうか?
Evan:まず打ち合わせの際に、制作スタッフの方々から音楽を入れるシーンをリストアップしていただいて。その提示されたシーンからイメージしつつ、物語の設定にある「金の国・水の国」という二つの国を表現することをメインポイントに据えて、曲を作ることを試みました。ドラマやテレビアニメの劇伴の場合は、音響監督が作った曲をシーンに当てはめてくれますが、今回のような映画の劇伴は映像に合わせて曲を作らなければなりません。もちろん音楽を作り始める時点で、絵の全てが完成しているわけではないのですが、ストーリーや設定は分かっているので、イメージしやすかったです。
シーンと音楽がシンクロするポイント──音楽の専門用語で「Sync Point」というのですが──など自分に任せていただいた点もありますが、自分で好き勝手に作っても自分の好きなようにしかならないので、制作スタッフの方々との意見を擦り合わせながら仕上げていきました。自分が良いと思っているものと制作スタッフの意見が異なる部分が出てきたら曲のテンションを上げたり、下げたり。割と細かくコミュニケーションを取りながら作っていきましたね。
──映画音楽ということもあり、よりスタッフとのコミュニケーションに重きを置いたんですね。
Evan:そうですね。テレビアニメの場合は、作られた曲は別の場面でいくらでも使用できるのでキープできます。一方で映画音楽の場合、作られた曲はそのシーンのためにしか使わない。曲がシーンにフィットしなければ、もちろん微調整することもありますが、それはもう使えない曲になってしまう。だからこそ、なるべくお互いの意見を理解し合うためのプロセスを大切にしました。
──そしてEvanさんが作曲された劇中歌「優しい予感」「Brand New World」「Love Birds」の三曲を琴音さんが歌います。エバンさんが作曲された三曲にはどんな印象をお持ちになりましたか?
琴音:「優しい予感」と「Love Birds」は子守唄のような優しい印象を受けました。「Brand New World」も曲を聞くだけで、勇猛なイメージが湧いてくるほどに力強い歌。3曲とも聴くだけで頭の中で世界観が広がるようにイメージできたので、自分で歌うときに「どうしたらいいんだろう?」と迷うことは、ほとんどありませんでした。
──歌入れ前でも曲として説得力があったんですね。
そうですね。Evanさんは私の歌声を聴いて、曲を制作していただいたらしいのですが、声を聞いただけでシンガーが輝ける曲を作ることができるということが本当に凄いと思います。
初対面は「気難しい方だったらどうしよう…」
──次にレコーディングのエピソードについて教えてください。まずお互いの初対面時の印象はいかがでしたか?
Evan:琴音さんの曲を通して歌声は聴いていましたがそれ以外の事前情報は特になかったので「どんな人なんだろう?」と思っていました。初対面時は静かな方だなと思ったんです。後で聞いたのですが、琴音さんはレコーディングの直前は、なるだけ声を使わないようにキープされているらしく、その時も歌を入れるために集中されていて。その様子を見て、ものすごく真面目な印象を持ちました。
琴音:レコーディングは、その時限りなので集中力を高めていた部分もあると思います。それに、私もEvanさんと初めてお会いする時は緊張していて(笑)。事前にEvanさんがどんな方なのか知るためにインターネットで事前に経歴などを拝見していたのですが、検索して出てきたEvanさんのお顔が、すごく厳格な感じだったんです。その時に見た写真がたまたまそうだったのかもしれないんですけど、その画像を拝見して「すごく怖い人なのかな?」と思って。「気難しい方だったらどうしよう…」と思っていました(笑)。
Evan:あはは(笑)。
琴音:私も割と自分のことを気難しい性格だと思っているので…。「えらいことになってしまわないかな…?」なんて思っていたのですが、実際にお会いしたEvanさんは、周りにお花がほわほわ〜と舞っているような、とても朗らかな方でした(笑)。一目で分かるほどに温かい方だったので、安心してレコーディングに臨むことができました。
Evan:よかったです。その初対面の時には、メイキング映像としてカメラで撮影されていたこともあり、二人とも余計に緊張していたんだと思います(笑)。
──メイキング映像でその気まずい様子が見ることができるかもしれませんね。
Evan:気まずくはないです(笑)。ぎこちない感じかな(笑)。
──Evanさんは琴音さんの歌声を聴いて抜擢されたとのことですが、レコーディングで琴音さんの歌声を実際に聴いて、どのように感じましたか?
Evan:歌声を聴いた瞬間、「おお〜!」という感じでした(笑)。おそらく琴音さんの声とマッチするだろうなとは思っていたのですが、実際にレコーディングで琴音さんの歌声を聴いた瞬間は「素晴らしいな!」と思いました。普段なかなか感じないレベルの「おお〜!」でしたね(笑)。
琴音:(笑)。
Evan:「優しい予感」や「Love Birds」のような優しい歌い方でも心揺さぶるものがあり、「Brand New World」のようなパワフルな曲でも、ものすごく情熱的な歌い方ができる。雰囲気が全然違う曲でも、最高にマッチングしてるんです。レコーディングでも微調整があっただけで、メジャーな修正はなかったですね。本当に素敵でした!
──今回のプロジェクトはお二人にとってイレギュラーだったのかと。琴音さんは普段はアーティストとして自分の世界観を音楽で表現されていますが、今回は劇中歌として物語の世界観を表現する役割を担いました。またEvanさんも普段は劇伴を手がける中で、今作でアーティストとタッグを組んで劇中歌を手掛けました。今回のプロジェクトにおいて、どのような発見がありましたか?
琴音:私の普段の活動では、自分の歌声と音楽で作品を完成させますが、今回はあくまで物語がメイン。もちろん自分の意見やこだわりを持つことも大事だと思いますが、スタンスとしては物語に「寄り添う」という意識が強くあったと思います。その意識を持って制作に臨んでいたことは普段とは違う感覚があり、とても新鮮でした。
これまで自分のアルバムを作るとなると、最初にウィスパーな歌い方から入ってサビで歌いあげる、というように1曲に様々なテイストを詰め込んだ構成の曲は多くありましたが、今作は1曲を通してウィスパーな歌い方の「優しい予感」「Love Birds」があり、1曲まるまる力強く歌いあげる「Brand New World」がありました。今作のように1曲ごとにテイストが異なる曲を歌うことで、1曲ごとにどこまで差がつけられるのか。そのことは自分にとって挑戦でもあり、自分のレベルを再確認できる機会にもなりました。出来上がったものを聴いても異なるテイストをそれぞれに持たせられていて、新たな自信になりました。
Evan:僕にとっても、今回のように映画の劇中歌を新曲として制作する経験は初めてだったので、大きなチャレンジでした。メロディがセリフと邪魔にならないように意識する必要があり、それはとてもハードルが高い内容でしたね(笑)。
実は当初は、歌のない劇伴だけで作っていたんです。それが打ち合わせで様々な意見が交わされて「この場面は歌ものにしましょう」と決まりました。それもいいアイディアだなと思っていましたが、実際に琴音さんの歌声が入った曲が映画で流れているのを観て、作品がよりハートウォーミングになっている。前に作った曲があり、それを経て、新しく琴音さんと共に作った曲を聴いてみて改めて「やってよかったな」と思いました。琴音さんの劇中歌があることで、全体的に映画の印象がよりハートウォーミングになったと思います。
──最後に、作品全体の見どころを教えてください。
Evan:ふとしたきっかけで出会ったサーラとナランバヤルの関係性がどんどん深くなり、それに伴い、二つの国が変わっていく。それこそ今作の一番の見どころではないかなと思います。その二人の関係性も、ラブラブというより二人で笑い合うような楽しい関係性。観ていながら凄く気持ちがいい関係性だなと感じられたので、是非二人のキャラクターを楽しんでいただきたいです。
琴音:私は「愛情」について考えました。今作の物語の節々で様々な「偏見」が描かれています。例えば隣国について根も葉もない噂が流れていて、国民同士が悪い印象を持っていること。サーヤのふくよかな体型を他人から揶揄されるシーンがあり、サーラもそのことに引け目を感じている。そういった偏見をしっかり描いているなかで、「愛情」がそれに打ち勝とうとしている瞬間も描かれている。改めて愛情の強さを見つめ直していける作品なのかなと思います。
【作品情報】
映画『金の国 水の国』
公開日:2023年1月27日(金)
原作:岩本ナオ「金の国 水の国」(小学館フラワーコミックスαスペシャル刊)
声の出演:賀来賢人、浜辺美波、戸田恵子、神谷浩史、茶風林、てらそままさき、銀河万丈、木村昴、丸山壮史、沢城みゆき
監督:渡邉こと乃
脚本:坪田文
音楽:Evan Call
テーマ曲(劇中歌):「優しい予感」「Brand New World」「Love Birds」
Vocal:琴音(ビクターエンタテインメント)
アニメーションプロデューサー:服部優太
キャラクターデザイン:高橋瑞香
美術設定:矢内京子
美術監督:清水友幸
色彩設計:田中花奈実
撮影監督:尾形拓哉
3DCG監督:田中康隆、板井義隆
特殊効果ディレクター:谷口久美子
編集:木村佳史子
音楽プロデューサー:千陽崇之、鈴木優花
音響監督:清水洋史
アニメーションスーパーバイザー:増原光幸
プロデューサー:谷生俊美
アソシエイトプロデューサー:小布施顕介
アニメーション制作:マッドハウス
配給:ワーナー・ブラザース映画©岩本ナオ/小学館
©2023「金の国 水の国」製作委員会
<ストーリー>
敵国同士の2人が偽りの夫婦に!?2人だけの“小さな嘘”は、国の未来を変えるのか――。
100年断絶している2つの国。“金の国”の誰からも相手にされないおっとり王女サーラと“水の国”の家族思いの貧しい建築士ナランバヤル。 敵国同士の身でありながら、 国の思惑に巻き込まれ“偽りの夫婦”を演じることに。深刻な水不足によるサーラの未来を案じたナランバヤルは、戦争寸前の2つの国に国交を開かせようと決意する。お互いの想いを胸に秘めながら、真実を言い出せない不器用な2人の<やさしい嘘>は、国の未来を変えるのか――。
【予告動画】
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