「このマンガがすごい!」で史上初となる2作連続オンナ編1位に輝いた岩本ナオの同名人気マンガをアニメ映画化した『金の国 水の国』。本作の監督を務めたのが、数々の傑作アニメを世に送り出しているアニメ制作会社マッドハウスの渡邉こと乃監督だ。
TV Bros.WEBでは今作公開を記念して、3日連続で今作関係者へのインタビューを公開。2021年10月に実施した原作者・岩本ナオ先生へのインタビューでは本作が誕生した経緯を語ってもらったが、本企画では主演声優の浜辺美波、監督を務める渡邊こと乃、劇伴と主題歌を手がけたEvan Call& 琴音の3組にそれぞれの立場から今作の制作裏話を語ってもらった。
渡邊こと乃監督は「もともと岩本ナオ先生のファンだった」と言うように、作品への愛情は並々ならぬものがあったという。 これまで『魔法少女まどか☆マギカ』や『ちはやふる』、『ノーゲーム・ノーライフ』などの名作アニメの演出を務めていた渡邊監督が満を持して挑んだ長編アニメーション映画――自身のマンガ愛や、作品に込めた熱い思い、さらには声優を務めた賀来賢人や浜辺美波への印象などを語った。
取材・文:磯部正和
渡邉こと乃(わたなべ・ことの)
●1983年6月21日生まれ。岐阜県出身。愛知県立芸術大学デザイン学科卒。マッドハウス入社後、制作進行を経て様々な作品に演出、絵コンテで参加。参加作品に「ちはやふる」(11)、「ちはやふる 2」(13)、「俺物語!!」(15)、「ちはやふる 3」(19)、「ノーゲーム・ノーライフ」(14)、「ハナヤマタ」(14)、「プリンスオブストライド」(16)、映画『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』(17)に参加。
【映画『金の国 水の国』3日連続インタビュー】
DAY1 浜辺美波
DAY2 渡邉こと乃監督
DAY3 Evan Call& 琴音
■アニメ業界に足を踏み入れた理由
――これまで『魔法少女まどか☆マギカ』や『ちはやふる』等、数々の話題作品に参加されていますが、アニメーション業界に入ろうと思ったきっかけをお聞かせください。
私は美術系の大学に行っていたのですが、ちょうどそのころ自分でMACを使って一人でアニメを作れちゃうブームが来ていまして(笑)。もともとマンガが好きで、アニメも好きな陰キャのオタクみたいなポジションだったので、自分で作れちゃうってすごいなと思って、何本か作っていたんです。
いざ就活する段階になって、アニメ業界以外のいろいろなエンタメ系の会社を受けた際、ポートフォリオを見せるとだいたい「君はアニメを作る方に進んだ方がいいだろうね」と言われまして……。そのときちょうど募集していた会社の一つであるマッドハウスを受けたというのが経緯です。
――実際にアニメ業界の一員として働いてみて、いかがでしたか?
衛星第二放送が全盛期だったころ、結構マッドハウスの作品を観ていたんです。暗黒の高校時代に『カードキャプターさくら』に心を救われたような人間だったので、入社すると憧れていたすごい人たちがたくさんいまして……。その人たちと一緒に仕事ができるんだというだけで、とても楽しかった記憶があります。決して楽ではない業界なんだと言われることに関して思うところがないわけではないのですが、自分としてはマッドハウスで楽しく仕事をさせてもらっているので、ありがたいなという気持ちです。
――影響を受けた作品や人物はいますか?
社内だといしづかあつこ監督とか、浅香守生監督の作品に携わることが多くて、二人にはとても影響を受けています。
■人気マンガをアニメ映画に!
こだわりは「多幸感」
――今回は劇場版アニメ映画の監督を務めましたが、映画とテレビアニメとの違いは感じましたか?
もともとマンガが好きというのもありますが、テレビアニメだと原作マンガ通りにアニメへ反映させやすいのかなと思うのですが、映画だと120分という時間軸のなか、インターバルがあるわけでもなく、反芻する時間もないので、観ている人への情報をどれくらいの解像度で、どのタイミングで出すかとか、計算しながらやらないといけないなというのが違いかなと思っています。
――原作ファンがとても多い作品のアニメ化でしたが意識されたことは?
もともと岩本先生のファンで、『町でうわさの天狗の子』なども読んでいたのですが、『金の国 水の国』はより多幸感に溢れていて、読後感がとてもいいなと感じていました。映画化した際、その多幸感というものを、しっかりと伝えられたらというのが意識した点です。
――具体的に“多幸感”を出すためにどんな演出を?
ハッピーエンドだから多幸感が持続しているのかというと、それだけではないと思ったんです。結構細かい伏線が散りばめられていて、それが最後に収束していくのですが、シーンごとに細かく分析して、丁寧に温かさみたいなものを積み重ねていくことで、自然と多幸感というものにつなげていく作業をしました。
――今作で大変だなと感じた部分はありますか?
今回は自分がいままで携わってきたほかの監督たちにも演出をしてもらったり、コンテを書いてもらったりと、いろいろ助けてもらったので、精神的にはそこまで追い詰められることはなかったです。まあ全体的にずっと大変ではあったのですが、作画スタートしたとき、コロナが流行り始めたのが一番大変でした。私を含めて子持ちの人が多く、保育園や学校が完全に停止してしまったときとかは、苦労しましたね。でも皆さんで助け合ってワンチームみたいになれたので、逆に言うと結束力が高まり、良いものができたような気がします。
■賀来賢人、浜辺美波の声優としての魅力
――物語の主人公となる<金の国>の姫王女・サーラと<水の国>の建築士・ナランバヤルは俳優の浜辺美波さんと賀来賢人さんが演じました。
『金の国 水の国』という作品のテイストを考えたとき、プロの声優さんだけでなく、俳優さんにも演じてもらった方がいいだろうという話になりました。それだったらと、私の方で賀来さんと浜辺さんの名前を挙げさせていただきました。
――お二人を推奨した決め手はどこに?
ナランバヤルってひょうきんなところもあり、シリアスな部分もある幅のある役だなと思っていたんです。さらに結構長いセリフもあるので、地力のある俳優さんがいいなと。賀来さんはぴったりだと思ってオファーさせていただきました。実際ドハマりしていますし、本当にありがとうございますという感じです。
そしてもう一人の主人公サーラというのは、ややふっくらしたキャラクターなのですが、地声が太い方だと、120分聞いたらちょっとキツいかなと思ったんです。だからと言って声が細いと岩本ナオ作品じゃないのかなと……。いろいろ考えるなかで癒し系の声がハマるのかなと思いました。そんな中いろいろな人の声を聞かせていただくなかで、浜辺さんの声を聞いたとき「アルファ波が出ている!」と思い、お願いしました。実際浜辺さんに演じていただき、包み込むような優しい声質がサーラにぴったりで素敵でしたし、演技も素晴らしかったです。
――先ほど『金の国 水の国』ではプロの声優さんだけではなく、俳優さんにも演じてもらったがいいというお話がありましたが、どういうポイントで、そういう選択をされるのですか?
テレビシリーズなどから繰り上がって劇場版にする場合などは、引き続きプロの声優さんで、もっと一般層にも伝えたいなという作品や、岩本先生の作品のような素朴な空気感だと、俳優さんにも入ってもらった方が良かったりもするのかなと思います。
今回の場合だと、サーラとナランバヤルは庶民というか普通の感覚をもった人物だったので、やや生っぽい感じが欲しかったんですね。それだとプロの声優さんというよりは、俳優さんにもお芝居をしてもらった方がいいのかなと感じました。
アニメの声を俳優さんがやることに「ちょっとどうなの?」みたいな声が上がってしまうこともあると思うのですが、いまって逆に俳優さんの方がハマったりする作品も増えているので、そこまで昔ほどは偏見みたいなものはなくなってきているんじゃないかなと思いますね。
――先ほど賀来さんと浜辺さんが素晴らしかったと話されていましたが、実際お仕事をしてみて感じたお二人の魅力は?
お二人とも映画の吹き替えを何度か経験されているので、スムーズに行えたということはあります。お二人とも長編も経験されていたのもあり、シーンごとでどんな演技を求められているか理解されていて、さすが俳優さんだなと思いました。
――浜辺さんは「何度声優を経験しても難しい」と話されていました。
サーラの気持ちの微妙なニュアンスを出したいのもあって、アフレコの時は結構テイクを重ねたんです。サーラはセリフ量もあったので、劇場版だと割と何度も同じセリフを言っていただくことも多く、もしかしたら不安にさせてしまったのかもしれないのですが、浜辺さんの演技はとても素敵でした。
――作品のアピールポイントを教えてください。
誰もが当たり前に持っている“日常を守りたい”という、ささやかな優しい気持ちが積み重なっていくことで国を動かす、といった大きな話になっていくというのが魅力かなと。とても素敵な話なのですが、そこまで恩着せがましくなく、観ている人に寄り添ってくれる作品だと思うので、ぜひ劇場に癒されに来てほしいですね。
――今後はオリジナル作品で作家性を前面に出したい……みたいな思いはありますか?
渡邊:もちろん新海誠監督のような、作家性で映画界を席巻している方もすごいですし、 憧れもありますので、いつかはやってみたいですね。
でも、私はマンガも好きなので、素敵なマンガにスポットライトが当たったら嬉しいなとも思っています。そういうマンガ原作のアニメーション映画がたくさん作られたらいいですよね。
【作品情報】
映画『金の国 水の国』
公開日:2023年1月27日(金)
原作:岩本ナオ「金の国 水の国」(小学館フラワーコミックスαスペシャル刊)
声の出演:賀来賢人、浜辺美波、戸田恵子、神谷浩史、茶風林、てらそままさき、銀河万丈、木村昴、丸山壮史、沢城みゆき
監督:渡邉こと乃
脚本:坪田文
音楽:Evan Call
テーマ曲(劇中歌):「優しい予感」「Brand New World」「Love Birds」
Vocal:琴音(ビクターエンタテインメント)
アニメーションプロデューサー:服部優太
キャラクターデザイン:高橋瑞香
美術設定:矢内京子
美術監督:清水友幸
色彩設計:田中花奈実
撮影監督:尾形拓哉
3DCG監督:田中康隆、板井義隆
特殊効果ディレクター:谷口久美子
編集:木村佳史子
音楽プロデューサー:千陽崇之、鈴木優花
音響監督:清水洋史
アニメーションスーパーバイザー:増原光幸
プロデューサー:谷生俊美
アソシエイトプロデューサー:小布施顕介
アニメーション制作:マッドハウス
配給:ワーナー・ブラザース映画©岩本ナオ/小学館
©2023「金の国 水の国」製作委員会
<ストーリー>
敵国同士の2人が偽りの夫婦に!?2人だけの“小さな嘘”は、国の未来を変えるのか――。
100年断絶している2つの国。“金の国”の誰からも相手にされないおっとり王女サーラと“水の国”の家族思いの貧しい建築士ナランバヤル。 敵国同士の身でありながら、 国の思惑に巻き込まれ“偽りの夫婦”を演じることに。深刻な水不足によるサーラの未来を案じたナランバヤルは、戦争寸前の2つの国に国交を開かせようと決意する。お互いの想いを胸に秘めながら、真実を言い出せない不器用な2人の<やさしい嘘>は、国の未来を変えるのか――。
【予告動画】
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