TV Bros.WEBで毎月恒例の映画の星取りコーナー。今回は本誌「英国男子」特集で大フィーチャーしてきたベネディクト・カンバーバッチの主演作『クーリエ:最高機密の運び屋』を取り上げます。
星取り作品以外も言いたいことがたくさんある評者たちによる映画関連コラム「ブロス映画自論」も新設しておりますので、映画情報はこちらで仕入れのほど、よろしくお願いいたします。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)
<今回の評者>
渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:インタビュー&執筆を担当した押井守さんの『誰も知らなかったジブリを語ろう 増補版』が出ました! <オマケ>が充実してるのでぜひ手にとってみてください。 折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:遂にワクチン2回接種終了。普通に取材仕事していた生活に大した変化はないけれど。森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:完全な下戸なのに『アナザーラウンド』にベタ惚れし、いろんなところで大プッシュさせていただきました。
『クーリエ:最高機密の運び屋』
監督/ドミニク・クック 出演/ベネディクト・カンバーバッチ メラーブ・ニニッゼ レイチェル・ブロズナハン ジェシー・バックリーほか
(2021年/イギリス・アメリカ/112分)
- 第2次大戦終結後、米ソの対立が続く1962年、キューバにソ連のミサイル基地建設が進められたことでキューバ危機が勃発。イギリスのセールスマン・グレヴィル・ウィンはスパイ経験がないにもかかわらず、CIAとMI6の依頼でモスクワへ行き、ソ連高官と接触して西側に機密情報を与えるが…。
9/23(木・祝)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
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配給/キノフィルムズ
渡辺麻紀
カンバッチくん、がんばる。
実話の映画化ということもあるだろうが、冷戦時代のスパイものって、アクションなしでもちゃんと成立していたことがよーく分かる作品。あくまでふたりのやり取りや駆け引きを中心に、地味目なタッチで追って行く。面白いのは後半になってから。“事態”が動き出して、よりスリル&サスペンスが加速する。カンバーバッチは、自身がプロデュースもしているせいか、小さな作品にもかかわらず全力投球の役作り。ファンは彼のヤル気をぜひとも堪能してほしいと思います。彼の熱演に★半分おまけです!
★★★半☆
折田千鶴子
セールスマンがスパイに!!
普通のセールスマンがキューバ危機を救った、まさかの実話に驚愕! 心臓バクバクとまではいかない、抑えた演出がリアルで誠実で好印象。ロシア側協力者との友情も“さもありなん”ながら胸に迫る。役者勢もみな手堅く安心感アリ!
★★★半☆
森直人
うちのお父さん版『007』
これはもうジョン・ル・カレの応用形として抜群の面白さ。「普通の男」を主人公にしたスパイ物という点ではスピルバーグ監督の『ブリッジ・オブ・スパイ』とも重なるが、英国式冷戦ミステリーならではの醍醐味を堪能。カンバーバッチのさすがの役作りにも感動した。キューバ危機に向かう1960年代前半が時代背景となるが、フルシチョフの描き方はなかなか悪意があるなあ!
★★★★☆
気になる映画ニュースの、気になるその先を!
ブロス映画自論
渡辺麻紀
総裁選のまえに是非ともチェック。これが理想の政治家だ!
コロナの収束なんて随分先だろうと思っていたら、日本の政治家の間では早くも「収束」なんて見解が出てきたりして、この人たちって世間や世論をちゃんと見据えているんだろうかと不安になったりする。そんなときに行われる総裁選挙。私たちは口をはさむことができないが、理想を語ることは出来る。そこで今回は、映画に登場した理想の政治家を探してみたいと思います!
王道と呼ばれるものから攻めると、やはり『スミス都へ行く』(1939年)になるでしょう。汚職を画策するベテラン政治家が、自分の担ぎ出した素人の青年スミスの正義感に翻弄されてしまうというお話。後半の見せ場は、ベテラン政治家の陰謀に気づいたスミスが、それを叩き潰そうと議会で大熱演を24時間、へとへとぼろぼろになるまで奮うところ(米の議会のルールはひとりが喋り出すと、それが終わるまで誰も口をはさめない)。世論もこれに熱くなり、観ているほうも熱くなる。フランク・キャプラ×ジェームズ・スチュアートによる、眩しすぎる理想の政治家像だ。
もっと身近な政治家なら『デーヴ』(1993年)の大統領の影武者を挙げたくなる。職業斡旋所で働く男デーヴが、脳卒中で倒れた大統領に瓜二つだったため、しばし影武者としてホワイトハウスに。デーヴは持ち前の真面目さと明るさで手腕を発揮。事情を知るファーストレディをも魅了してしまう。使途不明金だらけの予算案を、友だちの会計士を呼んで一緒に修正して行くくだりは痛快だ。「大統領は国民に雇われている」という当たり前のセリフも、いまどきの政治家さんたちにぜひとも聞いてもらいたい。デーヴを演じたケヴィン・クラインもハマり役だ。
もちろん、こちらも理想で、キャプラ映画の現代版的色合いも強いのだが、今見るときっと、こういう政治家がいてくれたら、こんな日本にはなってなかったのにと感じることしかり、なのだと思う。いや、むしろ政治家さんたちに観てもらったほうがいいのかもしれない。
ちなみにこの2本の理想の政治家たちは、正義感は強いけど政治には素人さん。そういう人のほうが派閥もしがらみもなくていいのかしら?
折田千鶴子
喉渇いても水も汲めない
ミャンマー、土砂崩れ、タリバン政権復活。もう、今年は「え、嘘で(しょ)!?」と「しょ」の前に信じ難いことが突如、襲い掛かってくる感じ。今、どうなるか分からない、いや、暗い予感しか覚えないアフガン情勢から目が離せない。即座に脳裏に浮かぶのは、『ブレッドウィナー』(2017年)。2001年、米同時多発テロ後のタリバン政権下のアフガニスタンを舞台に、“生き抜こう”とする少女パヴァーナと家族たちの物語は、目を見開いたまま一気見必至だ! いきなり父親が捕らえられ、母、姉、パヴァーナと幼い弟は、あろうことか食糧調達にも、それこそ水を汲みにも出られない。なぜなら、女性は男性と一緒じゃないと外出することすら禁じられているから。どうしようもない状況下、大きな瞳の11歳のパヴァーナは、髪を切り少年になり切って、一家の稼ぎ手として街へ出る――。そんな信じ難い現実が今、かの国に押し寄せている。しかも各国(もちろん日本関連も、800人以上とも!)の政府機関で働いたアフガン人スタッフやその家族が、命の危険にさらされた状態で、そこに取り残されたまま。せめて“見捨てるな”という世論が盛り下がらないよう、できるだけ多くの人に今この傑作アニメーション映画を観てほしい。
森直人
コロナと、コロナ以外のR.I.P.
本年8月19日、偉大な俳優の千葉真一さんが、新型コロナウイルス感染症による肺炎のために亡くなったのは本当に衝撃でした。享年82歳。思えば志村けんさんが2020年3月29日、コロナで急逝されてからもう1年半になります(享年70歳)。あの悲報以来、映画人のみならず、有名人の訃報が伝えられるたびに「死因がコロナか否か」を真っ先に確認するようになりました。やはりコロナには、本来あるべき時間の流れを「切断」あるいは「早送り」するような暴力性を特別に感じているからでしょう。
もっとも「コロナ以外」の訃報も哀しいことに変わりはありません。
8月24日、ローリング・ストーンズのチャーリー・ワッツさんが逝去。享年80歳。筆者が人生で最初に聴いたストーンズのアルバムは1986年発売の『ダーティ・ワーク』でした。
9月3日、澤井信一郎監督が逝去。享年83歳。代表作として『Wの悲劇』(1984年)が有名ですが、筆者の偏愛は『福沢諭吉』(1991年)や『わが愛の譜 滝廉太郎物語』(1993年)あたりです。
9月6日、ジャン=ポール・ベルモンドさんが逝去。享年88歳。主演作のベスト3を勝手に選ぶなら、当然にも『勝手にしやがれ』(1959年)と『気狂いピエロ』(1965年)……あともう一本は『ラ・スクムーン』(1972年)かな。
自分の心にもぽっかり穴が空いております。ご冥福を心よりお祈りいたします。
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