映画が描く「オリンピック選手村の噂の真相」&『孤狼の血 LEVEL2』映画星取り【2021年8月号映画コラム】

 

TV Bros.WEBで毎月恒例の映画の星取りコーナー。今回はこの夏の邦画注目作『孤狼の血 LEVEL2』を取り上げます。
星取り作品以外も言いたいことがたくさんある評者たちによる映画関連コラム「ブロス映画自論」も新設しておりますので、映画情報はこちらで仕入れのほど、よろしくお願いいたします。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>
柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:ワクチン接種一回目済ませました。

ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。ぶった斬り最新映画情報番組「CINEMA NOON」最新回はYouTubeチャンネルでご覧ください。

地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:近隣の店舗が相次ぎ閉店でTSUTAYA難民に。ヘビーユーザーではないですが、近くにないとホント不便です…。

 

『孤狼の血 LEVEL2』

原作/柚月裕子 監督/白石和彌 脚本/池上純哉 出演/松坂桃李 鈴木亮平 村上虹郎 西野七瀬 ・ 中村梅雀 ・ 斎藤 工 滝藤賢一 中村獅童 吉田鋼太郎ほか
(2021年/日本/139分)

●前作『孤狼の血』の3年後を描く続編。広島の架空都市・呉原では、暴力組織の抗争により落命した伝説のマル暴刑事・大上の後を継いで、その部下だった日岡が呉原の裏社会を治めていた。だが、上林組組長・上林によって、その秩序は崩壊していく。

8/20(金) 全国公開
©2021「孤狼の血LEVEL2」製作委員会
配給/東映

柳下毅一郎
きっちりほどよく頑張りました
丁寧に撮影されたかっちりした映画だが、『仁義なき戦い』の――あるいは『県警対組織暴力』の――オマージュをこんな折り目正しくやられてもなあ。残酷描写を頑張れば頑張るほど心なさばかりが目立つ結果に。
★★★☆☆

ミルクマン斉藤
「Part2とはこうあるべき」にして「痛さ凶悪さはLEVEL2」。
『仁義なき戦い』に例えれば、まさに番外編的第二作『広島死闘篇』。白石和彌もそこんとこ目論んだであろうことは明白だ。主人公そっちのけで仁義もへったくれもなく暴れまくる鈴木亮平の最凶最悪さにアヴァンタイトルから当てられっぱなし。★★★★★

地畑寧子
減った熱量をグロさで補完
大上を継いだ日岡の受難の章。日岡が築いた秩序をサイコな上林が崩す過程は引き込まれるが、上林のトラウマはありがちで不要な気も。加えて警察組織の闇と少々詰め込み過ぎの感。いい作品出まくりの村上虹郎がいい味出してます。
★★★半☆

気になる映画ニュースの、気になるその先を!
ブロス映画自論

柳下毅一郎
シネラマドームの復活
コロナ禍でいちばん酷い目にあったのは映画館かもしれない。日本以上に大変だったアメリカでは、何カ月ものあいだ閉鎖を強いられた映画館が受けたダメージは大きい。今年4月、アークライト・シネマとパシフィック・シアターのチェーンが、コロナ禍が終わっても映画館を再開しないと発表したのはカリフォルニア、とりわけロサンジェルスの映画ファンにとっては考えられないショックだった。というのもこのチェーンには「シネラマドーム」として知られるハリウッドのランドマーク、アークライト・ハリウッド劇場が含まれていたからだ。
「シネラマドーム」は一九六三年に建築された巨大ジオデシック・ドーム(バックミンスター・フラー考案の未来建築)である。一度だけ中で映画を見たことがある。『スモール・ソルジャーズ』の封切りで、それはそれはガラガラの劇場が広く感じられたものだ。だがその素晴らしい空間と、映画の素晴らしさは今でも忘れられない。
ハリウッドの歴史的建造物でもある「シネラマドーム」、最近になってどうやらアークライトが年内再開に向けて動き出したというニュースが入ってきた。コロナ禍でひさびさに聞けたいいニュースである。

L.A.のアイコンに迫る:シネラマ・ドーム
by Discover Los Angeles

ミルクマン斉藤
五輪コンドーム伝説の真実がここにある。
案の定、選手村を抜け出して参加資格を剥奪された選手とかマスコミ陣が続出してる東京五輪だが、ずっと前から気になって仕方ないのが彼らの下半身事情である。選手村ではコンドーム取り放題、というのは伝説でもなんでもなく事実に他ならないが、それもむべなるかな、と納得させられたのが、今年の大阪アジアン映画祭で観たカナダ映画『ナディア・バタフライ』(2020年)だ。何の疑いもなく2020年に東京で五輪が開かれることを前提に、それらしいセットも作り東京ロケもした作品だが、あえなくコロナでまったくの虚構と化した可哀想な映画だけど、主人公の競泳選手ナディアはリレーで銅メダルを獲ったあと、仲間と「たけのこの里」をアテに酒を呑み、その勢いで選手が集まる六本木の外国人ディスコへ。ナンパしてきたレバノン人選手とイタリア組の乱交パーティに紛れ込みヤっちゃう、って話。これがまんざらフィクションでないのは、主人公が実際にリオの銅メダリストでもあり、監督も元競泳選手だってこと。カンヌのオフィシャル・セレクションにも選ばれてるんで、配信とかで観られるといいのだが。

地畑寧子
題名もいい『私たちの生涯最高の瞬間』
連日の東京五輪のニュースの中で、日本が韓国に惜敗、でわずかに報じられたのが女子ハンドボール。その実、韓国女子ハンドボール代表は、今回は準々決勝で敗退したものの、欧州強豪国に対抗できるアジア一の実力の持ち主で、『私たちの生涯最高の瞬間』(2007年)は、2004年のアテネ五輪で銀メダルに輝いた同代表の感動秘話を描いている。韓国女子ハンドボール代表は、1988年のソウル五輪と1992年のバルセロナ五輪で金メダル、1996年のアトランタ五輪で銀メダルを獲得したものの、アテネ五輪では出場がやっとのところまでに落ち込んでいた。その復活に一役買ったのが、バルセロナ、アトランタ五輪で活躍した“おばさん”4人。物語は演技派のムン・ソリ扮するピカ一の実力を持ちながらも不運の連続で代表を退いたミスク、人気女優のキム・ジョンウン扮する日本チームの監督になり代表を退いたヘギョンを中心に進んでいくが、抜群のエンタメ演出力を持つ女性監督イム・スルレは、結婚、出産、育児といった女性選手の立場や若手とベテランの軋轢と結束までの道のりを巧く織り込み、爽快なスポ根ドラマにまとめている。本格トレーニングを経て吹き替えなしで決勝戦までを演じた女優陣の本気度も心地よく、脇を固める男優陣も温か。あのハ・ジョンウも役名なしでチョイ出してます。

 

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