これはずっと昔から延々と言い続けてきたことなんだけれども、『FLIP-FLAP』でのピンボールとか、『CATCH&THROW』のフリスビーとか、とよ田みのる先生が描く「誰もが一度は遊びで触れたことはあるけど、本気でルールを理解してスポーツとして戦ったことはないジャンルのマンガ」が大好きで、こういう「とよ田式ホビー紹介マンガをもっと読みたい!」と思い続けて生きてきたところ、まさかの「マンガ」でそれが来ました。
とよ田みのる『これ描いて死ね(1)』(小学館)※ゲッサンで連載中
新連載の『これ描いて死ね』が異常に良くて、前作『金剛寺さんは面倒臭い』が「紙をめくったら絵が出てくるという概念を使って、できる遊びは全部やり尽くす!」みたいな実験要素全部盛りだったけど、今回は「そのマンガというものが、ゼロからどうやって出来ていくのか」が掘り下げて描かれていて、取っつきやすさに隠された切っ先の鋭さがえげつないことになっている。
その上で、読んでて嫌なことが絶対に起こらない安心感、きっと乗り越えられるであろう試練、努力を努力と気付かない前向きな試行錯誤の積み重ねの先、みたいな王道要素も全部あって、すさまじくキャッチーな仕上がり。
『三日月のドラゴン』(著:長尾謙一郎)とかもそうなんだけど、表現の限界に挑戦し続けてきた作家が描く超王道、世の中は最高の部活マンガに溢れているな。
さて、真っ当な文章の量が一回の記事に込めていい上限値を越えると、額のemeth(真理)という護符の一字を削り取ったらmeth(死)となって腐った土塊になって崩れ去るゴーレムと同じシステムでコラムを書いているため、最高の部活マンガの話から一転して最凶の部活マンガの話ですが、
みなさん『劇光仮面』読んでどう思いました?
山口貴由『劇光仮面(1)』(小学館)※ビッグコミックスペリオールで連載中
個人的には得体の知れない緊張感だけを腹いっぱい食わされた……という感じで、なぜこの意味不明なものを楽しく一気に読み切ってしまったのか、自分で自分に理が通った説明ができない。
「どういうすごいものなのか」分かりきらないまま今に至る。
居合の名人が刀を抜くまでの所作だけで金を取ってるというか、「このままではいつか殺される。この人はいつでも俺を殺せるんだ」という感覚の結晶体。
赤井英和がボクシングの試合後に脳出血して開頭手術をした後に、頭蓋骨をはめこむ前に目覚めてしまい、自分で自分の脳を触って吐き散らかし、その後も何度もどう気持ち悪いのか確認しようとしての脳を触り続けた話あるじゃないですか、多分それです(例えが悪い)。
気を取り直しまして、冒頭で「読んでて嫌なことが絶対に起こらない安心感」の話をしましたが、人間というのは不思議な生き物で、むき出しの脳には「読んでて嫌なことが絶対に起こる快感」を司る部位も存在します。
最近の新刊だと『影霧街』の話。
大瀬戸陸『影霧街(1)』(講談社)※ヤンマガWebで連載中
これはもう明確に、読んでて嫌なことしか発生しなくて、我々の最も大切にしている「四肢を切断された恋人がスポーツドリンク漬けで郵送されてくる」みたいなものばかりで構成されている作品といって過言ではないでしょう。
ランニングシャツの坊主が淡々と人間を破壊する描写があるマンガはいいマンガ! (勢いで言ってみたけど、『寄生獣』以外に脳内ストックなし)
『スマイリー』も、広義では最高の部活マンガであり、読んでいて嫌なことが絶対に起こる安心感がある。別れた妻に会うために狂気の笑顔カルト教団・心笑会に潜入! という時点でもうワクワクが止まらない。人間が……笑いながら……アレを……。
服部未定 『スマイリー(1)』(日本文芸社)※週刊漫画ゴラクで連載中
やはり人間、笑顔が一番だ。
大変な時代だけど、一緒にマンガを読みながら、上を向いて一緒に歩いていこう!
そう言い残して劇画狼は崩壊し、腐った土塊と化した。
げきが・うるふ●マイナーマンガ紹介ブログ・なめくじ長屋奇考録の管理人&特殊出版レーベル・おおかみ書房編集長。COMIC Huにて連載中の、カレー沢薫先生の『カレー沢薫、漢を語る』に、ネタ出し協力として参加し始めました。
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