自分の中の新しい扉が開いたりするのが楽しい。そういう光を目指す感じをEPでも出したかった【Daoko&Yohji Igarashiインタビュー】

Daokoと、HIYADAMなど数々のアーティストの楽曲を手がけるトラックメイカーでTV Bros.WEBでは「レイジ、ヨージ、ケイタのチング会(仮)」連載のメンバーとしても活躍中のYohji Igarashiがコラボ作品『MAD EP』を発表した。今回は2人が共に楽曲制作をするきっかけとなった「TOKA Songwriting Camp」や、クラブカルチャーへの思いも語ってもらった。
 
 
取材&文/宮崎敬太 撮影/玉井美世子

 

 

出会いは小袋成彬&Yaffle主催のソングライティングキャンプ

 

ーー2人の出会いを教えてください。

Yohji Igarashi:去年(2021年)の5月の「TOKA Songwriting Camp」です。

ーーTOKA(元Tokyo Recordings)というと、小袋成彬さんとYaffleさんが関わっているんですか?

Daoko:はい。「TOKA Songwriting Camp」は2人が主催したソングライティングキャンプで。私は小袋さんと友達で、彼が日本にいたときに「御伽の街」(アルバム『anima』収録曲)を作っていた経緯もあって声をかけてもらいました。ソングライティングキャンプ自体参加するのがはじめてだったのですが、海外では割とよくあるみたいです。

ーーソングライティングキャンプはK-POPで積極的に取り入れられてますよね。

Daoko:そうですね。プロデューサー、トラックメイカー、ラッパー、シンガーとかいろんな人たちがチームに分かれて各々スタジオに入って曲を作るんです。そこで同じチームだったのがヨージさん。

Yohji:僕、小袋君、Daokoさんの3人がチームだったんです。

Daoko:コライト自体が初めての経験だったんですよ。その時に「escape」を作って意気投合しました。

ーーへーっ! 「escape」も「TOKA Songwriting Camp」がきっかけだったんですね。

Yohji:そうなんですよ。僕はあらかじめ作ってあったデモトラックを持って行って、みんなで聴きながらブラッシュアップさせていく、みたいな。Daokoさんはその場でリリックを書いて。小袋君が全体のディレクションをする。

Daoko:各チームが7時間くらいスタジオに入って、終わったあとみんなで聴くんですよ。フル尺じゃなくてもいいんですけど、他のチームに聴いていただくので、追い立てられるほどではないけど、程よい緊張感があって。すごく良い経験になりました。

ーー初対面はどんな印象でしたか?

Daoko:スタジオでは「初めまして。じゃあやりましょう!」みたいな(笑)。だから終わった後にご飯を食べに行ったんですよ。そこで結構仲良くなりましたよね。

Yohji:Daokoさんが僕と小袋君をご飯に誘ってくれたんです。そういうタイプの人じゃないと思ってから意外でしたね(笑)。小袋君が共通の友達で、ロンドンから日本に帰ってきたタイミングだったから募る話もあって自然と仲良くなれました。基本的にはほとんど音楽の話だったけど。

Daoko:もともとヨージさんの音楽がすごく好きだったので直接聞きたいことがたくさんあったんですよ。それにソングライティングキャンプでただ一緒に音楽を作るだけじゃなくて、ミュージシャン同士の繋がりを作ることも大事だと思ったから。

ーーちなみに「escape」はソングライティングキャンプで完成したんですか?

Daoko:大枠はあの日にできましたね。でもミックスには時間をかけました。

ーーミックスとは具体的にどんな作業をするんですか? 「escape」がどのように変わったのか教えてください。

Yohji:ミックスは曲のディティールの全てをいじる作業です。

Daoko:うん。だいぶ音の印象を変えられます。「escape」はかなり変わりました。

Yohji:最初はもうちょっと普通っぽいダンストラックだったんですよ。でももっとエッジのきいた曲にしたかったから、この曲だけはGiorgio Blaise Givvnという信頼してる先輩にミックスをお願いしました。ベースの鳴りや出音のバランス等色々調整をしてもらって、良い感じの鳴りになりました。

ーーちなみに「escape」はジャンル的にはハウスですか?

Yohji:サウンドはスラップハウスに近いけど、構成はヴァースとフックがあるヒップホップですね。

ーーリリックは散文詩のように感じました。

Daoko:確かに普段の私のリリックとはちょっと違いますね。そこはソングライティングキャンプの限られた時間の中で作った影響だと思います。2ヴァース目は後日家で書き直しました。でもこういう作り方はしたことがないので自分的にも新しい試みでしたね。そもそも「初めまして」でその場でトラック聴いて、リリック書いて、録音することはなかなかないから(笑)。私は基本的に家である程度完成させたデモを作ってレコーディングに臨むパターンが多いので、気恥ずかしさもありつつ、時間制限もあるし、クリエイターの方たちが集まってる場でもあるから、背筋も伸びるというか。楽しかったです。それにソングライティングキャンプがEPを作るにきっかけにもなったのでありがたい機会だったと思いますね。

Yohji:そうだね。しかも最初は「escape」だけを出す予定だったもんね。

 

みんながもう一度クラブに行きたいと思える作品を作りたかった

 

ーーそうだったんですね。

Daoko:はい。「escape」の作業が終わった後、「もう一回ヨージさんと一緒に作りたいな」と思ってたところでショッピングサイトのWeb CMの音楽制作の依頼をいただいたんですよ。そのとき、私の中にやってみたい音楽像があって、もしかしたらヨージさんならできるかも、と思ってお声がけしました。

Yohji:ビッグビートっぽい曲をやりたいって言ってたよね。

Daoko:そうなんです。すごく好きなんです。で、返ってきたアンサーが「cha cha」のトラックでした。

ーーこの曲はかなりトリッキーな展開の曲ですよね。イントロはMajor Lazer「Pon De Floor」みたいで、ヴァースは初期のProdigyみたいで、ブレイクはBPMが半分になる。

Yohji:「cha cha」はかなり展開を工夫しました。ビッグビートのリバイバルっぽくもあるけど今っぽく聴かせたい気持ちもあって。それでブレイクをトラップっぽくしたらハマりました。他にもドラムの鳴りにはこだわってますね。

Daoko:実はトラップでラップしたことがあまりなくて。だからヨージさんが一緒にやられてる方々の曲を聴いて勉強して見よう見まねでやってみました(笑)。

ーーリリックはどのように書いたんですか?

Daoko:ヨージさんのミニマルなトラックに言葉遊びで絡みにいくようなイメージ。リズムに合わせて韻の引き出しを開けていくというか。あと自分の中にストックした言葉からピックアップするのではなく、トラックを聴いて連想した風景やイメージをリリックに落とし込んでいきました。だから今回のEPは全体的に夜の雰囲気があるんです。

ーーリリックにはヨージさんもレギュラー出演してるパーティ「YAGI」も出てきますね。

Daoko:そうそう。「cha cha」はちょうど私が「YAGI」に出させてもらうくらいのタイミングに作ってたんですよ。ヨージさんをきっかけにオカモトレイジさんやジュンイナガワさんとも友達になれたので、その時の楽しさがリリックに出ちゃったんだと思います(笑)。あと「cha cha」のクラブ初披露が「YAGI」だったから盛り上げたい気持ちもあったんです。

Yohji:「YAGIGAL」っていうリリックがすごい新鮮だった。2017年から「YAGI」はやってるけど、お客さんの属性がこういう風に見えているんだなって。

Daoko:初めて行ったとき「こんなおしゃれな人たちが集うクラブイベントがあるのか!」ってびっくりしましたもん(笑)。

Yohji:えー、そうなの?

Daoko:もちろん良い意味ですけどね。若い子が真剣に音楽を楽しみに来てるけど、同時にファッションカルチャーとも密接に繋がってると。少なくとも私が行ってたどのイベントとも違うと思った。だって「どんな服着ていったらいいかな」とか久しぶりに考えちゃいましたもん(笑)。その過程も含めて楽しかった。

ーーそれ素敵ですね。クラブカルチャーのあるべき姿。

Daoko:ですよね! と、当時に私が大好きだったNEOという箱が閉店してしまったんですよ。私自身も仕事が忙しかったり、コロナ禍の影響もあって、ちょっとクラブから離れてて。ずっと遊びに行くきっかけを逸してたというか。でもヨージさんと知り合って「YAGI」に行ったりすると「やっぱりクラブで踊るの最高だな」と思って。クラウドファウンディングしているところには寄付もしてたけど、そうじゃない私なりのやりかたでみんながクラブに行きたくなることをしたいと考えたんです。「escape」をきっかけにヨージさんともっと作ってみたいと思ったのはそんな私自身の気持ちも背景にあると思います。

ーークラブに限りませんが、現実の世界にはネットでは起こりえない出会いや気づきがありますもんね。

Daoko:うん。それこそ「YAGI」で出会ったジュンイナガワさんは初めてできた歳下のお友達なんですよ。音楽活動を始めて今年で10年なんですが、昔からどの現場でもずっと私が一番歳下で。ジュンイナガワさんと話すと私の世代ともちょっと違う風が吹いていて。めちゃ刺激を受けました。あとみんなフラットだし。すごく勉強になるし、単純に楽しい。「新しい扉、開いた!」みたいな(笑)。そういう光を目指す感じをEPでも出したかったんです。

Yohji:そんなふうに思ってもらえてたなら嬉しいな。

 

ストレスフリーで健康的にクリエイティブしたから『MAD』になった

 

ーーEPの表題曲「MAD」はどのタイミングでできたんですか?

Yohji:まさに「cha cha」の後です。この頃にはDaokoさんとも割と仲良くなってて、もう「EPを出そう」という話になってたんです。それで僕はそのEPの顔になる曲を作りたかったんです。

Daoko:この曲、めっちゃキャッチーですよね。

Yohji:あ、ほんと? たぶん世の中的にキャッチーな曲ってサビがめっちゃ乗れるとか、歌ありきだと思うんですよ。でもこの曲のサビはビートだけ。クラブミュージックっぽいミニマリズムを大切にしつつキャッチーに聴こえるようにしたかったんです。

Daoko:トラックが送られてきてすぐに連絡があって。聴きながら「ここはこうやってほしい」と通話でイメージを共有してくれたので結構すぐできました。すぐにラップを入れて、プラスアルファの声を素材的に送りました。かなりダンスミュージックに特化した作り方だと思います。

Yohji:こういうやり方でDaokoさんが楽しくなくなるのは嫌だったんです。でもそんなのは杞憂でしたね。メジャーでの活動を経験してるからなのかもしれないけど、Daokoさんは制約がある中での表現も楽しめる人で。私服でおしゃれもできるけど、制服でもおしゃれを楽しめるというか。僕もそういうタイプなので、すごくやりやすかったんですよね。

Daoko:それはあるかも。放牧されすぎると逆に悩んじゃうから。お互いに話し合って、一緒に見えるものとか、自分の中の新しい扉が開いたりするのが楽しい。(仕上がりのイメージが)見えてる人の音楽的な言葉って制約にならないんですよね。むしろスッと入ってくる。すごくクリエイティブなやりとりでした。

Yohji:トラックに対してDaokoさんから修正があったり、逆にリリックについて僕が何か言ったりすることはほぼなかったですね。

ーー「spoopy」はEPの中で一番ぶっ飛んだ曲ですね。

Yohji:この曲を作り始めたのはもうEPとしての全体像が見えた段階だったので「もう1曲入れるとしたらどんなのがいいかな」というところから作っています。Daokoさんの声は存在感が素晴らしい。僕が結構変わったことをしてもDaokoさんの曲になる。これは最初に作った「escape」のときにも思ったけど、特にエフェクトをかけなくても「あ、Daokoだ」ってわかるんです。当初は僕がしゃしゃってDaokoさんの良さを消してまうことだけは避けたいと思ってたけど、制作していくうちに絶対そんなことにはならないなって気づいて。

Daoko:えー、嬉しい。でも関係値が深まっていくにつれてお互いに余裕が出てきて、遊びの要素が出てきた気がするなあ。

Yohji:うん。トラックは基本的には歌を支えるものだけど、DAOKOさんがしっかりと真ん中で軸になってくれるから、こちらの振り幅も広く色々なことを考えられる。だから「spoopy」では遊びを多くして、やりたかったアイデアを色々と詰め込みました。

ーーやってみたかったこととは?

Yohji:まず生音を使いたくて、ギターをODD FOOT WORKSの有元キイチ君にお願いしました。ハウスっぽいBPMでギターは生で、ベースも生っぽい音色を使っているけど、ディスコな雰囲気じゃなくてもっとエキゾチックな雰囲気を作りたかった。あとは展開もプログレッシヴに激しく変わる曲にしたくて、このEPの中でも一番時間はかかったんですけど、仕上がりには満足してます。

Daoko:もらったとき「異色なやつきたー」って思いました(笑)。ジャンルもよくわからないですよね。ファニーだけどドープ。クラブで鳴ると低音もすごいんですよ。そういうのも面白くて。だからこっちも遊び心を利かせたリリックにしました。言葉遊びとちょけてる雰囲気というか。

ーー今回のEP『MAD』は完全にクラブ仕様だけど同時にポップスとして成立してるところがすごいと思いました。

Yohji:そこは僕よりも広いフィールドで活動してきたDaokoさんと一緒にやるにあたって強く意識したことです。クラブミュージックの世界にはアングラ志向が強いシーンもあって、それももちろん素敵なんですけど、僕の音楽が刺さらない人ももちろんたくさんいると思う。でもこういう機会だからこそ、僕は純度の高いクラブミュージックであると同時にポップスとしても成立させたくて。そうじゃないと裾野が広がらないから。『MAD』は結構きわどいラインを攻めてるつもりです。

Daoko:「これが今かっこいいよね」くらいのノリですよね。

ーー個人的には「spoopy」の「開拓すべきは同人オンリー」というラインが最高でした。オタク文化は日本人がもっと誇っていくべきカルチャーだと思っていたので。

Daoko:ですよね! サンダーキャットとかも日本のアニメやマンガがめちゃ大好きだし。でもあのラインはおっしゃられたようなニュアンスではなく、私が純粋に思ってることだから自然と出てきました。好きなものを好きってストレートに伝えたかった。

ーー今作はDaokoさんヨージさん双方から、お互いの個性を尊重し合ってるバイブスを強く感じました。

Yohji:たぶんDaoko名義のEPで僕がプロデューサーとして参加してるならこういう作品にはならなかったと思います。Daoko & Yohji Igarashi名義だから自由に遊んでいいんだとも思ったし。

Daoko:そうありたいから連名したのはありますね。お互いに作りたいものを同じくらい出し合った作品にしたいんです。海外だと連名表記って最近増えてきてるじゃないですか。すごい良いことだと思う。Daoko名義で出して「この曲いいな」と思ってもらえても、作ってる人まで掘らない人も普通にいると思いますし。私は一緒に曲作りする人をリスペクトしてるので、私の名前だけじゃなく同じくらい目立ってほしい。そのほうが健康的。

ーーちなみに今後お二人での制作は続けるんですか?

Daoko:「To be continued…」って感じですね! ヨージさんとは人としてフィーリングがかなり合うから作りやすかったです。気を使うポイントが似てるからこそ思ったことを言い合ってストレスフリーなクリエイティブができた。お互いそれぞれ旅に出てどこかでまた然るべきタイミングで出会うと思います。近いところにいますしね!

Yohji:そのテンションも良かったかもしれないです。リゾバみたいな。

Daoko:リゾバ?

Yohji:リゾートバイト。

Daoko:(笑)。

Daoko(だをこ)●1997 年⽣まれ、東京都出⾝。アーティスト。2015 年『DAOKO』でメジャーデビュー。その後も⽶津⽞師との「打上花⽕」、岡村靖幸との「ステップアップLOVE」など、実⼒派アーティストとの共作や、ソロ活動でも多彩な才能を発揮。多様なクリエイティヴ表現を続け、国内外で注⽬を集めている。2019 年には個⼈事務所”てふてふ”を設⽴し、昨年には4th アルバム『anima』を発表。
2021年6⽉30⽇に⾃主レーベル「てふてふ」を立ち上げた。
■Twitter
twitter.com/Daok0
■Instagram
www.instagram.com/daoko_official/
■YouTube
youtube.com/c/Daoko_official

Yohji Igarashi●トラックメイカー、DJ、プロデューサー。主なプロデュース作にHIYADAMなど。DaokoやAAAMYYY、ODD Foot Works、 Ryohuのライブサポートなどにも参加。

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