「月刊アフタヌーン」で連載中の人気漫画『青野くんに触りたいから死にたい』(著:椎名うみ)が、WOWOWオリジナルドラマとして実写ドラマ化。5月20日に最終話である第10話が放送される。
文/SYO
【執筆者プロフィール】
SYO(Twitter: @SyoCinema ↗︎)
●映画を主戦場とする物書き。1987年生まれ。東京学芸大学を卒業後、映画雑誌編集プロダクションや映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー、レビュー、コラム、イベント出演、推薦コメント寄稿など映画にまつわる執筆を幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「BRUTUS」「シネマカフェ」「装苑」「CREA」等に寄稿。
【番組情報】
『WOWOWオリジナルドラマ
青野くんに触りたいから死にたい』
WOWOWプライム 午後11:30〜深夜0:00
3月18日(金)より毎週金曜放送・配信中(全10話)
※WOWOWオンデマンドでは、
5/6(金) 第8話放送終了後から8~10話を配信
公式サイト 公式インスタグラム
多くの実写ドラマとは一線を画す
「一味違う“攻めた”演出」
本作は、一言で言えばホラーラブストーリー。引っ込み思案な同級生・刈谷優里(演:髙橋ひかる)から告白された青野龍平(演:佐藤勝利)。交際をスタートした二人だったが、付き合って2週間後に青野は交通事故でこの世を去ってしまう。絶望に打ちひしがれ、後追い自殺を図ろうとする優里の前に現れたのは、幽霊となった青野だった――。
佐藤勝利(Sexy Zone)、髙橋ひかる、神尾楓珠、里々佳といったフレッシュなキャストが集ったとなれば、生者と死者の切なくも爽やかなラブストーリーを想起する方もいるかと思う。ただこの『青野くんに触りたいから死にたい』、原作漫画の読者にはお分かりかと思うが、結構なトラウマ作品。タイトル時点でほんのりと闇深さを感じた方、その予感は完璧に当たっている。ひょっとしたら、それを優に超えてくるかもしれない……。(この部分の詳細は「TV Bros.」2022年5月号に書き下ろしたため、ご興味がある方はご高覧下さい。)
もともと原作漫画は、一見すればラフでピュアなタッチだが、読者の先入観をあざ笑うかのように「怖い」展開へと引きずり込んでいく点が大いに話題を集めた。実写化もそのストロングポイントをしっかりと継承し、ともすればぬるい描写に終始しがちな実写ドラマとは一味違う“攻めた”演出を全編にきかせている。
たとえば画面の色調を大胆にスイッチさせ、“異界”に迷い込んだ状態を創出。現実世界にいたはずが急にセピア調に変わったり、ダークトーンになったりと映像ならではのアプローチを駆使している。最終話(第10話)では優里が廊下を歩くシーンがループ再生され、ざらついた“銀残し”的質感や、『リング』のようなVHS風に切り替わったり、優里が増殖したりと不穏な演出のオンパレード。ドラマ『ぼくは麻理のなか』やフジファブリックのMVで知られるスミス監督ほか演出陣のセンスが光る。
このように、創作物における“怖さ”を引き起こす方法論(恐怖演出)にも色々あるが、『青野くんに触りたいから死にたい』においては大前提として“ギャップ”が大きい。
幽霊になっても生前と変わらぬ爽やか彼氏とオクテ彼女の恋愛物語ときたら、基本はベタなラブコメ展開で、時々切ないドラマが挿入される流れにいくらでもできるだろう。だが、本作はそう見せかけてから、淡い幻想をひっくり返す。青野は幽霊になったことで、時々得体のしれない“何か”に豹変するのだ。
声はやおら低くなり、頬はジュクジュクとただれ、執拗に優里に「中に入れて」と要求する青野(もはや命令に近い威圧感)。優里自身も闇属性がなかなかに強く、ふたりの関係性は健全どころかアブノーマルな方向へとエスカレートしていく。そして我々は気づくのだ。これはホラー作品なのだと。
つまり、『青野くんに触りたいから死にたい』はラブストーリー一色ではなく、「恋人が怨霊・悪霊化する」ホラーであり、その理由を解明しようとするミステリー要素も含み、さらには「愛する人の死からどう立ち直るか」というテーマもはらんでいるのだ。このような地盤があるからこそ、先に述べたような映像的な“遊び”が効果を発揮するという構図でもあろう。
また、“得体のしれない”怖さを説明不能なものにするのではなく、「何かしらの理由がある」と匂わせ、視聴者を引っ張っていく構成も上手い(脚本は、劇作家・演出家であり、映画『僕の好きな女の子』では脚本・監督も務めた玉田真也)。青野が霊体となりこの世にとどまり続けている(成仏できない)理由は何なのか? 本人の事情によるものなのか、それとも優里の強い思念が影響しているのか……。
「愛ほど歪んだ呪いはないよ」とは現在大ヒット中の『劇場版 呪術廻戦 0』ないし原作漫画の名ゼリフだが、『青野くんに触りたいから死にたい』にも非常に近しい「愛という依存」というテーマが流れている。また、霊が狂暴化するという設定は、『BLEACH』の虚(ホロウ)にも通ずる。
加えて、古今東西のホラー作品の要素も多く含まれており、例えば青野が「優里の中に入りたがる」=「彼女に憑依し、支配したがる(受肉を狙う)」部分の「許可が必要」の描写は『ぼくのエリ 200歳の少女』などにも見られるルール(本作の原題は『Låt den rätte komma in(正しき者を招き入れよ)』。劇中にも「招かれなければ入れない」描写がある)。『青野くんに触りたいから死にたい』では、それが性的なメタファーにもなっており、キスもできないまま初カレの青野と死別した優里が“初めて”を捧げることで呪われていくという設定が秀逸でありつつもおぞましい。
相手を中に入れる=一つになる行為は、優里にとって愛の表明だが、青野(のような何か)にとっては支配であり搾取。そもそも恋人の姿をしている相手は、本当に恋人なのかわからないのだ。「悪しき者の甘言に耳を貸すな」とは『マクベス』しかり『死霊館』しかり、数多くの作品で描かれてきた内容。このクラシックな主題を、高校生の恋愛物語に落とし込んでいる点が印象深い。そして本作はクライマックスにいくにしたがって、献身と搾取に対する“決着”の意味合いが強くなっていく。
身体を明け渡し、身体の一部を奪われ、大切なキスさえも搾取された優里。最初こそ青野(のような何か)に合わせていた彼女が、藤本雅芳(演:神尾楓珠)や堀江美桜(演:里々佳)という友人を得て独りぼっちではなくなり、利用される人生を己の手で「取り戻す」ために動く終盤、本作は大きな転機を迎える。そしてまた、自らの「優里といたい」という願いから解脱し、彼女から離れることで守ろうとする青野の自己犠牲もまた、ふたりの関係の成熟を感じさせる。
日本でもブレイクした『ミッドサマー』は、恋人に依存する女子大生の心の解放をホラー仕立てで描いた異端のラブストーリー。ある種、恋人間の愛の限界を示すシニカルな作品であったが、『青野くんに触りたいから死にたい』は同じようにホラーの形式をとったラブストーリーでありつつも、未熟な恋人たちが対等な関係を構築していく物語。本当の意味で青野と悠里が“始まる”のは、ここからであろう。青春物語にふさわしい未来への希望が、確かにそこに在った。
<了>
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