伝説のアニラジ復活~アニラジリスナーとスタッフが抱える“贅沢すぎる悩み”【2021年10月号ラジオコラム】

ラジオでは芸人、ミュージシャン、俳優、アイドルなど様々なジャンルから選ばれた人物がパーソナリティとなって今日も番組は放送されている。そんな多ジャンルのラジオにあって、確固としたカテゴリーの1つとして、主に声優が出演するアニメ・ゲーム関連の番組がある。

今回のラジオコラムは、声優の番組を数多く手掛ける構成作家の大村綾人が、今年9月に放送された『A&G 超RADIO SHOW~アニスパ!~』(文化放送)の業界内外へのインパクトの大きさを取り上げつつ、SNS時代におけるアニラジの存在感、アニラジ界隈に存在する“贅沢すぎる悩み”について語る。

<プロフィール>
大村綾人(おおむら・あやと)●構成作家。声優番組のみならず、『大竹まこと ゴールデンラジオ!』(文化放送)など、ジャンルと場所を問わず数多くの番組に携わる。また、パーソナリティとしても『9の音粋』(bayfm 毎週月曜午後9・00~10・54)に出演。
ツイッター:@mirakki_mirakki

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伝説のアニラジ復活~アニラジリスナーとスタッフが抱える“贅沢すぎる悩み”

文/大村綾人(構成作家)

2004年4月から2015年3月まで文化放送で放送されていた番組『A&G 超RADIO SHOW~アニスパ!~』が、今年9月、文化放送開局70周年記念企画として一夜限りの復活を果たしたレギュラー放送の際にはなかったYouTubeLiveでの配信があり、スタジオ内の様子を動画で見ることができ、チャットも沸き上がった。文化放送はこの20年強、土曜日・日曜日の夜に声優やアニメ・ゲーム関連の番組を集中させる編成を組んでいる。この時間帯は「A&Gゾーン(A=アニメ、G=ゲーム)」と呼ばれ、多くのアニメファン、声優ファンに親しまれている。「A&Gゾーン」がはじまった当初は「アニメ好きやゲーム好きにはたまらない」「知る人ぞ知る」といったテイストの番組で人気を得ることに成功したが、新たな流れを生んだ番組が「アニスパ!」だ。いわゆるアニラジ(アニメ関連のラジオ番組)と一線を画した「パーソナリティの浅野真澄による暴言・放言・珍言を、卓越した比喩表現とツッコミでからめとる鷲崎健のトーク」が、アニメ・ゲームに強くない層にも受け、高い聴取率を誇った。また、声優やアニソンアーティストが来訪した際、浅野と鷲崎が「いろんな意味で“ここでしか聴けない”トーク」を引き出し、かつ「ゲストに“またアニスパに行きたい!“と思わせるトーク」を展開していたことも、11年という長きにわたって続いた理由のひとつだろう。

アニスパは、箱根駅伝“二代目山の神”こと柏原竜二をはじめ、さまざまな有名人・著名人がリスナーだったことが明らかになっている。そのリスナーのひとりだった声優・佐倉綾音がこの特番にゲスト出演。佐倉は、アニスパ終了の翌年にはじまった「セブン-イレブン presents 佐倉としたい大西」をはじめ、今のアニラジ界をけん引しているパーソナリティのひとり。その佐倉を追い、今回はじめてアニスパを聴いた10代、20代前半のリスナーは「このノリをリスペクトしているからこその佐倉綾音か」と合点がいったことと思われる。ラジオスターが新たなラジオスターを育み、邂逅する瞬間を楽しむことができるのは、特別番組ならではの出来事だ。

アニラジ界隈のスタッフや出演者と、アニスパ特番について話す機会があった。印象に残っている声はふたつ。ひとつは「アニスパは、あの頃(2004年スタート)だからできたことが多いのでは」という声だ。この声が意味しているのは「ツイッターがなかった頃に盛り上がりを見せた」ということ。日本におけるツイッターの歴史を振り返ると、日本版サービスがはじまったのは2008年の4月。「リツイート」ができるようになったのは2010年。「ツイッターで炎上」がたびたび発生するようになったのが2012年。つまり、この10年は「ラジオを聴いていない層にまで、ラジオの内容が幅広く届く」と言える。アニスパの放送開始年である2004年は「ブログのユーザーが急激に増えた」という年。アニラジ内でどんな暴言・放言・失言があったとしても、ツイッターを使った大拡散時代を迎える前だったため「局所的な盛り上がり・炎上」で済んでいたという見立てだ。もちろん、SNS以前の時代においてもラジオでの失言が大きくメディアで報じられることもあった。ただしそれはあくまでテレビで活躍する芸人やスタータレント、歌手がターゲット。当時、声優・アニラジは今ほど注目を浴びていなかったため、「当時だからできた=今はできない」という見立てはあながち間違ってはいないと思う。

アニスパ特番を聴いた人の声で印象的だったもうひとつの声は「もし、リアルタイムでレギュラー放送のアニスパを聴いていたなら、“ラジオの仕事、やる?”と言われた時に、“はい!”と言えなかったかもしれない」というもの。これは、今回の特番でアニスパにはじめて触れた人の声だ。これには「“ラジオ番組に出る“というのは、ここまで全力で表現し、身を削らなければいけないんだ」「もし、それを知っていたなら“ラジオの仕事ですか? やります!“と簡単にこたえることはできなかっただろう」という思いが含まれている。1回の特番でここまで思わせるすさまじさは、アップしたチャンネルの登録者数の何倍もの数字になっている「YouTubeの再生回数」にも表れている。

今、「アニラジ」に属する番組の数は、とんでもないことになっている。その昔、ラジオと言えば新聞のラジオ欄に載っている「地上波」のラジオ番組しか存在しなかった。その後、ネットラジオが普及し、アニメがはじまるたびに「作品に紐づいたラジオ番組」がうまれるようになった。また、声優の人気がより高まったことや個人で歌手デビューする声優が増えたことで、声優個人のラジオ番組も増えた。アニメに紐づく方は「作品ラジオ」と呼ばれ、1クールで終わるものが多く、個人のラジオと区別されることがある。さらに、ニコニコ動画や文化放送の「超!A&G+」のような「動画」が配信出来る媒体でも番組が作られるようになった。動画ということで姿はうつるものの簡易的で、喋りが中心の番組が多いということもあり「動画ラジオ」という不思議な名称で呼ばれることもある。ここ数年ではさらにここへポッドキャスト番組も加わってくる。また、「地上波ラジオ」の話に戻れば、radikoのタイムフリー・エリアフリーがはじまったことで、聴き逃したものが聴けて、聴ける番組の本数も増えた。あまりにも「聴こうと思えば聴ける番組」がありすぎるのだ。

先日、私が構成を担当しているラジオ関西の番組『小野坂・秦の8年つづくラジオ』の生配信が行われた。これはレギュラー放送ではなく、不定期に行われているもので夜の8時から9時30分までZAIKOでの生配信。そんな中で私が構成を担当している『高田憂希・千本木彩花のしゃかりきちゃん』という番組が9時からニコニコ動画の声優グランプリチャンネルで配信スタート。これらの真裏では、一緒に仕事をしているパーソナリティや声優が出演していた『鷲崎健のアコギFUN!クラブ』のニコ生が配信されていた。そして9時半からは私がいちリスナーとして楽しんでいるニッポン放送のポッドキャスト番組『青山吉能・前田佳織里 金曜日のしじみ』の配信がスタート。このように、1つの曜日のとある1~2時間だけで「聴きたい番組」がかぶることが大いにあるというのが、今のアニラジ、声優コンテンツの特徴だ。これは、作り手としてもリスナーとしても悩ましい。アニラジが大好きなリスナーが「1週間の聴取番組表」を作成し、SNSにアップしていることがある。それを見ると「分刻み」どころか「右耳と左耳で同時に2つの番組を聴かないといけないのでは?」というレベルのものもある。そこにYouTubeのコンテンツも入ってくるのだから、この戦いはしばらく終わりそうにない。あまりにも贅沢すぎる悩みが、アニラジ界隈には存在している。

 

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