ファスト動画に見る映画の未来&『ライトハウス』映画星取り【2021年7月号映画コラム】
TV Bros.WEBでも、映画の星取り記事は永久に不滅です!
ということで、映画の星取りはもちろんですが、星取り作品以外も言いたいことがたくさんある評者たちによる映画関連コラム「ブロス映画自論」も新設しました。
まっとうに映画にまつわるニュースから、映画に全然関係ないけど結果的に映画の話に落ち着く小ネタまで、「今」を「映画」という視点で読み解いていきます。
TV Bros.WEBの映画記事を映画情報の源泉としていただくためにも、今このページをブックマークしていただくためにも、さらに今後は、大型映画の主演に監督に、B級映画の端役まで、そこに面白さがあれば何でも切り込む所存です。末永くよろしくお願いいたします。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)
<今回の評者>
渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:今年の夏はワクチン接種を完了して1年半ぶりに帰省したいと考えております。
折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:数々の面白ドラマを生んだ前クールの中、何気に「生きるとか死ぬとか父親とか」に、しみじみ癒されました。
森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:石井裕也監督の『アジアの天使』の劇場パンフレットでインタビュー関連を担当しております。
『ライトハウス』
https://transformer.co.jp/m/thelighthouse/
監督/ロバート・エガース 脚本/ロバート・エガース マックス・エガース 出演/ウィレム・デフォー ロバート・パティンソンほか
(2019年/アメリカ/109分)
1890年代のニューイングランドの孤島に、島と灯台の管理を4週間行うため、2人の灯台守がやってくる。ベテランと未経験の若手の2人は初日からそりが合わずに衝突するが、島を嵐が襲い、2人は島に閉じ込められてしまう。実話をベースにしたスリラーで、登場人物はほぼ2人というモノクローム作品。
7/9(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
©2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.
配給/トランスフォーマー
渡辺麻紀
灯台守は仕事どころではい
実際の事件に神話&ホラー&サイコな味付けをして作られた幻想的な一篇。いろんな要素が詰め込まれているのでまとまりのない印象。そのまとまりのなさが魅力という人もいるだろうが、個人的には収拾がついていないと思った。役者ふたりは大熱演です。
★★★☆☆
折田千鶴子
男たちの狂いっぷりに戦々恐々
一見タル・ベーラ的な世界観に大いに惹かれ、映像やその構図に魅せられる一方で、所々暗喩や匂わせがトゥーマッチ。狂気に陥っていく男たちの姿に対し、嫌悪が勝ってしまった。デフォーはいわずもがな、パティンソンの熱演にものけぞったが。
★★★半☆
森直人
蘇る「初期映画」の迫力
秀逸な古典的ゴシックホラー『ウィッチ』でデビューしたロバート・エガース監督の傑作。時に『シャッターアイランド』、あるいは『異端の鳥』なども連想しつつ、サイレント時代の海洋映画にラヴクラフト的な怪奇幻想が取り憑いた趣。樹木の下ならぬ孤島の灯台で展開される『ゴドーを待ちながら』のような二人芝居の“狂演”も申し分なし!
★★★★☆
気になる映画ニュースの、気になるその先を!
ブロス映画自論
渡辺麻紀
立花隆の『宇宙からの帰還』
ノンフィクション作家の立花隆が亡くなった。そのニュースを聞いて最初に思い出したのは、彼のノンフィクション『宇宙からの帰還』だった。30年ほどまえ、どういうきっかけで読んだのか憶えてないが、この本のおかげで宇宙開発や宇宙旅行に対する概念がひっくり返った。数字で割り切るようなものではなく、もっと哲学的で神秘的な感覚だったからだ。それはそういう映画を観る目も変えてしまうという意味で、評判の悪かった『レッドプラネット』(2000年)が傑作に思えたし、近年の作品で言えば『ファースト・マン』(2018年)もそのいい例だろう。アームストロングがなぜ宇宙に行きたかったのか、その理由として描かれているのが、『宇宙からの帰還』と重なるからだ。もちろん、本書はそういうアストロノーツへの丁寧な取材の上で書かれたルポルタージュなので当然だとはいえ、それでもその類似性には嬉しくなった。もっと言うなら、もしかしてデミアン・チャゼルもライアン・ゴズリングもこの本を読んだことあるのかしらん? なんて思ったりしたのだ。
私にとっては『宇宙からの帰還』の立花隆だったのだが、一般的には“知の巨人”と呼ばれ、田中角栄の取材で有名だったそうな。そっちのことはまるで知りませんでした、はい。
折田千鶴子
裁判官の名前を覚えとこう
LGBT法案棚上げ、夫婦別姓禁止合憲判断、入管法改正廃案……。一体、この国はいつまで、困っている人側の事情や心情に目もくれず、上から目線で“俺たちの純潔な国を守る”妄想にしがみつくつもりなのか。もはや駄々っ子にしか見えない。男性2人の愛と運命の決着の付け方を見つめるイギリス映画『スーパーノヴァ』が本当に“大人な映画だなぁ”と感じられるのは、主人公の2人のみならず、登場人物の誰もが“相手の事情と心情”を慮る、想像力を持ち合わせているからだろう。
実際に長年の友人関係にあるスタンリー・トゥッチがコリン・ファースに声を掛けて実現したという『スーパーノヴァ』は、20年来のパートナーである作家とピアニストが、思い出の地を巡る旅路を映す。不治の病に侵された作家と、彼を最期まで見守ろうとするピアニスト。でも作家は別の終わり方を望んでいて――と尊厳死にも関わる話だが、愛ゆえに望みが真逆になる2人の姿に、胸が張り裂けそうに! ピアニストの姉の家に立ち寄った際、そこに集った多数の懐かしい友人知人の中には、もちろん空気読めない系の人もいる。でもそんな奴でさえ、多少ズレていても、2人の痛みを分かろうとする姿は好ましい。――そんなことも出来ない議員、裁判官の名前を私たちはしっかり覚え、次の選挙に生かさなければ。
森直人
映画のファスト化が止まらない
オリンピックを目前にして、映画業界関連もいろいろ動きがありました。配信批判派の急先鋒だったスピルバーグ御大がNetflixとあっさり手を組んだのも驚愕しましたが、最大のトピックは「ファスト動画」が摘発されたことでしょう(2021年6月23日)。1本の映画を無断で10分サイズにダイジェストして、YouTube配信していた男女3人チーム。これが著作権侵害の違法動画ということで逮捕に至ったわけですが(推定被害総額は約956億円に上ると算出されています)、しかし映画の送り手側が深刻な営業妨害として問題視するほど、このチャンネルめっちゃ再生されてたんですよ。目が飛び出るような視聴回数を記録していました。つまり「10分でストーリーが把握できるなら、映画なんて別に2時間かけて全部観なくていいや~」って人が、映画に一定以上関心のある層の中にも相当数いるってことでしょう? 「ファスト動画」に関しては違法ってこと以上に、あれだけ需要(ニーズ)がある、ある種の必然があるっていうこと自体が脅威なんですよね。もしこれから映画会社が公式に「ファスト動画」をやり始めたら、これはまたひとつラインを超えるってこと。個人的には、これからどれだけ「スロー主義」で踏ん張れるかが勝負だと思っています。
投稿者プロフィール
- テレビ雑誌「TV Bros.」の豪華連載陣によるコラムや様々な特集、過去配信記事のアーカイブ(※一部記事はアーカイブされない可能性があります)などが月額800円でお楽しみいただけるデジタル定期購読サービスです。