10月の間、「マンガ」をテーマにお届けするTV Bros.WEBの「マンガ大特集」。本日は漫画家・鶴谷香央理先生のインタビューを公開!
テレビブロスが年に一回、その年に新刊が出た作品の中から一番心にきたマンガに贈る「ブロスコミックアワード」。2008年から始まったこのマンガ賞の歴代受賞者9名に改めて受賞当時の心境とその後を探るインタビュー企画「ブロスコミックアワードのその後、どんな感じ?」。
第6回にご登場いただくのは『メタモルフォーゼの縁側』で2018年に受賞していただいた鶴谷香央理先生。受賞当時の心境や実写映画化される本作のおはなし、これからの展望等について語っていただきました!
ネタバレ注意!
※『メタモルフォーゼの縁側』のラストの展開に触れておりますので、気になる方は注意してお読みください。
【プロフィール】
鶴谷香央理(つるたに・かおり)
●1982年生まれ、富山県出身。2007年『おおきな台所』で第52回ちばてつや賞準大賞を受賞、同作品でデビュー。「コミックNewtype」にて『メタモルフォーゼの縁側』を連載、全5巻。初連載作『don’t like this』(リイド社)も発売中。
Twitter:@tsurutani
『メタモルフォーゼの縁側』
「BL」という共通の好きなものを通して17歳の高校生・うららと75歳の書道教室の先生・雪が友情を育み、それぞれが新しい世界へと踏み出す姿をていねいに描いた『メタモルフォーゼの縁側』。「このマンガがすごい!2019オンナ編」で1位を獲得したほか多くのマンガ賞を受賞、連載中からたくさんの読者の支持を集めた本作は、2021年1月発売の5巻で完結。
コミックNewtype
ブロスコミックアワードとは…2008年からスタートしたマンガ好きのテレビブロス関係者50人が選ぶマンガ賞。
●歴代受賞作
2008年:日本橋ヨヲコ『少女ファイト』
2009年:岩本ナオ『町でうわさの天狗の子』
2010年:とよ田みのる『友達100人できるかな』
2011年:日下直子『大正ガールズエクスプレス』
2012年:押切蓮介『ハイスコアガール』
2013年:びっけ『王国の子』
2014年:小池ノクト『蜜の島』
2015年:山本さほ『岡崎に捧ぐ』
2016年:オジロマコト『猫のお寺の知恩さん』
2017年:大童澄瞳『映像研には手を出すな!』
2018年:鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』
2019年:和山やま『夢中さ、きみに。』
2020年:平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』
「これを読んで同人誌即売会に出ようと思いました」という感想がとにかく嬉しくて
──2019年1月に発売されたTV Bros.でブロスコミックアワードを受賞していただいてから約2年が経ちました。受賞時の心境を今になって振り返ってみて、いかがですか?
鶴谷:まず単行本がまだ2巻しか発売されていないのに賞をいただけるんだ、ということにびっくりしました。受賞時にインタビューしていただいた方から、新しく出てきた人を応援したいという熱がすごく伝わってきて、それが嬉しかったのを覚えています。
2019年3月号にて発表された。
──受賞していただいた2年前のインタビューで『メタモルフォーゼの縁側』について「考えているエピソードをひとつひとつ進めて、それが終わったら作品が終了するかなと思っています。そんなに長い物語にするつもりはないので」とお答えいただいて。宣言されていた通り、全52話で完結されましたが、描きたいと思っていたエピソードは描くことができましたか?
鶴谷:考えていたことは描けたと思います。ただ、本当にこれで読者の方々に満足してもらえるかどうかは自信のない部分もあり、難しかったです。
──全52話で雪さんとの出会いによって、うららさんが同人誌即売会に自分の作品を出すようになるなど、確かな変化がありました。ラストは雪さんが外国で暮らしている娘夫婦のもとへ旅立ち、うららさんはそれを見送る、というものでしたが「──数年後…漫画家デビューしたうららの姿が!」という分かりやすく成長した姿と明るい未来を描く、という締めくくり方も想定できたと思いますが、あのラストにはどんな想いがあったんでしょうか?
鶴谷:自分の中では「結末というのは、必ずしも目に見える成果を達成することではない」と思っていました。また、雪さんとうららさんが離れ離れになることも予め決めていて、「深い関係を築くことができたら距離が離れていてもその事実はなくならない」ということを描きたかったんです。そういった描きたいことがある一方で、やはりエンタメ作品としても読者の方々に満足してもらいたいという想いもあったので、それを両立できたのか、今でも考えることはあります。
──『メタモルフォーゼの縁側』は英語・中国語・韓国語・ドイツ語・ベトナム語・イタリア語など世界各国で翻訳出版されましたね。
鶴谷:驚きましたが、すごく嬉しかったです。私の作品は、ごく身近な狭い範囲のことを描いているという自覚があったので、海外の方々に読んでもらえたり共感してもらえたりしたことは驚きでした。
自分の作品が翻訳されたことを機に、海外のマンガを読むようになったんですけど、文化が違うために分からないことはもちろんありながらも、作品の中で表現されている内容や感情は共通していることに気づきました。映画や小説ではそう考えないのに、漫画だけを狭い世界に閉じこめて考えていたのが、今となっては不思議です。
──他にも『ちはやふる』の末次由紀先生やお笑い芸人の麒麟・川島さんなど著名人の方からも多くの絶賛コメントがありましたよね。特に、どんな感想が印象に残っていますか?
鶴谷:特に印象に残っているのは「これを読んで同人誌即売会に出ようと思いました。」という読者の方からの感想がとにかく嬉しくて! 自分も同人誌即売会で創る喜びを教えてもらったと思っているので、そういう影響をこの作品からも受けてもらえたのはすごく感慨深いですね。そういう感想は何度いただいても嬉しいです。
──受賞から現在まで、どんな2年間でしたか?
鶴谷:やはりコロナ禍のインパクトは大きくて、世の中の見え方がすごく変わりました。それまでは、なぜか世の中はこのまま変わらないという前提の上でどんな作品を描くか考えていたんですけど、これまで確かだと思っていたことがそうじゃなくなったので、何を描いていいのか分からなくなったんです。
ただ、そんな中でも私は普通に仕事をして生活していて…。まずはそれを元に普段あまり描かないエッセイマンガを3本描きました。そのうちの一つは『ランバーロール』といういろんな作家の方々が参加している本に収録されています。その本を読むと、クリエイターの皆さんがコロナ禍の中で、迷いながらも探り探り創作しているのが分かって、そうやってこれからも続けていくんだと思いました。
──この2年間で特に印象的だったことはなんでしょうか?
鶴谷:一つは今お話ししたコロナ禍での暮らしですが、もう一つは『メタモルフォーゼの縁側』が映画化されるということも自分にとって大きなことでした。今まで私にとって映画は観るだけのものだったんですけど、製作側として自分も多少なりとも関わったり撮影現場を見学したりすることで、映画をつくる側の視点を少し分けてもらいました。そういう大勢の人が関わっている創作物の面白さが分かったことは大きな出来事ですね。その影響で、映画をすごく見るようになったんですよ。
──映画で言えば、今年8月に公開された『孤狼の血 LEVEL2』とのコラボでイラストを描かれていましたよね。
鶴谷:前作の『孤狼の血』も好きだったので、あのお仕事はすごく楽しかったです! 映画のイラストを描く面白さを知ったので、もっとやりたい気持ちがありますね。
──このインタビュー企画ではブロスコミックアワード受賞時から現在までの年月を象徴するキーアイテムをご紹介してもらい、そのお写真を掲載させていただいておりまして。鶴谷先生にとって、この2年間を象徴するキーアイテムはありますか?
鶴谷:この2年間を思い返すと、やはり映画館によく通うようになったことが大きいので…。アイテムという意味では…なんだろう? チケットの半券とかになりますね。
(写真提供:鶴谷香央理先生)
──最近ではどんな映画が良かったですか?
鶴谷:面白かった作品はいっぱいありますけど、今年の中で特に印象に残っているのは『アメリカン・ユートピア』ですね。もともと舞台で上演されていた作品が映画化されたもので、舞台の上で行われる音楽とダンスをただ見せる、というシンプルな内容だったんですけど、シンプルだからこそ伝わってくるものがありました。
エンタメ作品って自分一人で考えていると、どんどん複雑化していくことがあるんですけど、単純な喜びを伝えるということも重要なんだとその映画で改めて感じることができました。
──先ほどおすすめの映画を教えていただきましたが、最近好きなエンタメコンテンツはありますか?
この記事の続きは有料会員限定です。有料会員登録いただけますと続きをお読みいただけます。今なら、初回登録1ヶ月無料もしくは、初回登録30日間は無料キャンペーン実施中!会員登録はコチラ