星取りレビュー:『ふたりで終わらせる/ IT ENDS WITH US』【2024年11月号映画コラム】

今回、星取りレビューでピックアップするのは全世界で発行部数1000万部を記録するベストセラーとなった恋愛小説をブレイク・ライブリー主演で映画化した『ふたりで終わらせる/ IT ENDS WITH US』です。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

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<今月の評者>

渡辺麻紀
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。ぴあでは『海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔』を連載中。また、押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『サブぃカルチャー70年』等のインタビュー&執筆を担当。最新刊は『押井守のサブぃカルチャー70年 YouTubeの巻』。
近況:『グラディエーター2』が楽しみです。そろそろオスカー頂かないといけませんから、リド様。

折田千鶴子
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」を不定期連載中。
近況:高1息子2人(双子)の食べっぷりに戦々恐々。コメ不足の今、漫画みたいな形の大盛りでおかわり。ネコのご飯代も数年前に比べてメッチャ上がってるし!!

森直人
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:時の流れのはやさに改めて眩暈を覚える秋。『十一人の賊軍』『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』などの劇場パンフレットに寄稿しております。


『ふたりで終わらせる/ IT ENDS WITH US』


監督:ジャスティン・バルドーニ 原作:コリーン・フーヴァー 出演:ブレイク・ライブリー ジャスティン・バルドーニ ジェニー・スレイトほか(130分/2024年アメリカ)

●理想のフラワーショップを開くという夢を実現すべく、ボストンにやってきた若き女性リリーは、脳神経外科医ライルと情熱的な恋に落ちる。だが、リリーを想うライルの愛は、次第に望まぬ形で加速してゆき、それは彼女が封じたかつての記憶を呼び覚ますものだった。自分の信じる未来を手にするため、リリーは過去の自分自身と向き合い、ある決意を胸にする。全世界で1000万部を記録するベストセラーの映画化。

全国公開中


 

渡辺麻紀

早く終わらせてほしかった。
原作が世界的な大ベストセラーというので気になったが、内容はありがち。男女がくっついて離れるだけの映画ではないとはいえ、もうひとつの問題も最近の映画ではあたりまえなので薄っぺらい印象。結局はふたりの成功した男子の間で揺れる女子の話にもかかわらず、上映時間が130分もある。もう少し短ければ★も増えたかもしれない。タイトルの意味が判明するシーンが本作の見せ場だが、邦訳の「ふたり」に違和感。原題通り「私たち」としたほうが重層的な解釈が出来たと思う。役者、とりわけ男優ふたりにまるで魅力がないのも残念。

★★☆☆☆

 

折田千鶴子

まさか社会派映画とは!!
原作未知・未読のため、このタイトルってそういう意味だったのかとビックリ。前情報入れず恋愛映画想定で観ると、感情の流れが雑過ぎて恋愛の機微が描き込まれず、途中で微妙に辟易してしまう。しかも本テーマを際立たせるためにも恋愛部分はさりげなく、且つしっかり描かれる必要があるのに。さらにB・ライブリーとくれば相場は“オシャレ”を期待するものだが、数々の衣装も“これってオシャレなの!?”という微妙なものばかり。ただ、“ここで終わらせる”決意をした彼女が、どういう家族の形を選択するかは、未来を予見させ新鮮で買い!

★★半☆☆

 

森直人

USは誰を指すのかが肝
最初というか前半は、監督も兼任するジャスティン・バルドーニの自信満々なイケメンぶりに爆笑もしくは苦笑い。だが「ムキムキの脳神経外科医なんて昼メロでしか見られないぞ」という台詞あたりから、あ、わかってやってんじゃん、と姿勢を正して鑑賞。バルドーニが自らをある種の道化役に置き、ロマンティックなラブロマンスの安っぽい定型を解体していく試みが良く理解できるようになった。親密な人間関係の中で発生する暴力性とその連鎖を見つめ、トラウマを超克する光を探しながら、有害な男性性をシビアに戒める、とても真面目な映画。

★★★☆☆


<今月の推し>

渡辺麻紀……『白雪姫には死を~BLACK OUT』

夜更かし必至のお見事な面白さ!

原作はドイツのネレ・ノイハウスの『白雪姫には死んでもらう』(創元推理文庫)だが、驚くほど韓国している。冤罪で10年を棒に振った青年が真実を探るなかで浮き彫りになる人間関係、家族関係の濃密さと言ったら! 真犯人を捜す推理ものとしての醍醐味も十分だが、それより何より事件関係者たちの人間ドラマが素晴らしい……というか切なすぎて胸が痛くなった。あまりの面白さに途中下車できず夜更かししまくりました、はい。

©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.

監督:ピョン・ヨンジュ 出演:ピョン・ヨハン コ・ジュンほか(全14話/2024年韓国) 
●平穏な村で2人の少女が失踪する。殺害の痕跡だけが残り遺体が見つからないこの事件の犯人として名前が挙がったのは、この村に住む優等生で少女たちの同級生のジョンウだった。

U-NEXTにて配信中

 

折田千鶴子…『国境ナイトクルージング』

孤独な魂が触れ合う優しい感触

中国と北朝鮮の国境の町で、人生に生き惑う20代前半の男女3人が出会い、何気なく一緒に過ごすことで少しずつ勇気を与え合い、改めて自分に目を向けて歩き出す。なんてことのない話なのに、自分が経験しているようにジワジワ心に染みてきて、いつの間にか気持ちが透き通っていく感覚に。夜の空気、何気ない会話、重ねる肉体、バカみたいに飲み、笑い、踊る。その全てが愛しい。最果ての地の寒々しくも澄んだ空気に息を飲む。絶品!

©2023 CANOPY PICTURES & HUACE PICTURES

監督・脚本:アンソニー・チェン 出演:チョウ・ドンユイ リウ・ハオラン チュー・チューシアオほか(100分/2023年中国・シンガポール)
●中国と朝鮮半島の国境に位置する街・延吉。偶然出会った男女3人はバイクに乗って国境クルージングに出かける。繊細な映像美と叙情的音楽で綴る青春映画。

現在公開中

 

森直人…『太陽の少年 4Kレストア完全版』

眩惑的な夏の恋の記憶

高画質で蘇る伝説の大傑作。1994年の中国映画だ。文化大革命の時代、激動の政治状況を尻目に、思春期の少年の初恋が描かれる。夏の太陽に照らされた凶暴なまでのエネルギー。監督はチアン・ウェン。もともとは俳優で、これは監督としてのあまりに鮮烈なデビュー作。マスカーニのオペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲」の流れる映画といえば『レイジング・ブル』と答えるのが一般的だが、筆者はむしろこちらを想い出すのだ。

監督・脚本・出演:チアン・ウェン 出演:シア・ユイ ニン・チン タオ・ホンほか(140分/1994年中国・香港・ドイツ
●70年代、文化大革命下の北京を舞台に、少年のひと夏の恋をノスタルジック
に描いた青春ドラマ。『鬼が来た!』などで知られるチアン・ウェン監督が94年に発表したデビュー作。

現在公開中

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