リミックスのマエストロ砂原良徳が語る東京事変の「噂のミックステープ」(前編)

初のオールタイム・ベストアルバム『総合』を発表した東京事変。その生産限定盤のスペシャル特典に、「噂のミックステープ」と名付けられたカセットテープが封入されているのだが、収録されているリミックス音源を手がけたのが、まりんこと砂原良徳だ。昨年は、自身の記念碑的作品を20年振りに“最適化”した『LOVEBEAT 2021 Optimized Re-Master』を発表、フジロックにはMETAFIVE(砂原良徳×LEO今井)として出演、さらにDJで最終日のクロージング・アクトを務めるなど、精力的に活動を続けている彼にインタビューを実施。前後編に分けてお届けする。前編は、今回手掛けた「噂のミックステープ」について話を聞いた。

インタビュー・文:山口哲生
撮影:笹森健一

リミックスのマエストロ砂原良徳が語る東京事変の「噂のミックステープ」(後編)

東京事変というバンドのアプローチ

砂原良徳

──東京事変のメンバーと以前からお知り合いだったのですか?また、東京事変というバンドにはどんな印象がありますか?

いえ、以前から交流があったわけではなくて、今回が初めてですね。東京事変の印象はバンドのアプローチというか……たとえば、ビデオ、広告、デザイン、タイトルといった、音楽のプレゼンテーションの仕方にかなりいろいろ工夫をしていて。独自のやり方をしている印象は非常に強いですね。

──バンドにしろ、アイテムにしろ、そういった見せ方であり、コンセプトは大事だと。

僕は重要だと思います。たとえば、レコードを買ったら、だいたいはジャケットを見てから曲を聴きますよね。あとはタイトルを見たりとか。そういう前提条件があって、みんなそこである程度のイメージを決めてから曲を聴いているんですよね。聴いている人にしてみたらそこは無意識なので、あまりそういうことを考えないと思うんですけど。以前ね、誰かは忘れてしまったんですが、「ジャケットが変われば音が変わる」と言った人がいたんですよ。

──中身は同じなんだけど、外見が変わると中身の印象も変わってくると。

やっぱり前提条件って、どんなものにおいても常にあるんですよ。それは音楽だけじゃなくて、小説とか映画とか、単なる情報やニュースも、すべて前提があった上で判断していることが多いので。そのロジックを分かっていない人のほうが圧倒的に多いと思いますが、この人たち(東京事変)はよく分かっているんだなという印象ですね。音楽に関しては、この仕事を頼まれてからしっかりと聴いたんですが、何でもできる方たちなんだなと。だから、そういったプレゼンテーションをうまく利用しながら、自由自在に自分たちのやりたいことができているんじゃないかなという印象がありますね。

──今回のリミックスに関してですが、カセットテープに収録されるという前提でお話が来たんですか?

そうです。「噂のミックステープ」というタイトルも最初からあったんですが、最初は、昔のラジオのバラエティショーというか……たとえば30分あったら、その中で曲をブツ切りに繋いだり、ジングルを挟んだり、DJっぽい人にしゃべってもらったりして、休みなく進んでいくような、そういう編集っぽいことをやるのかなと思ったんですよ。

砂原スタッフ:カルチャーによって“ミックステープ”ってそれぞれ違うんですよね。ヒップホップの場合だと、未発表音源とか、ブートっぽいリミックスのことを指すみたいで。

僕らのカルチャーのミックステープだと、それこそDJミックスされたものとか、昔のジェフ・ミルズの海賊放送みたいなものとか。そういうものなのかなと思っていたらそうではなく、リミックスをしてくださいという話だったので、違うタイプの2曲を選びました。

──DJミックス版も聴いてみたいです。

実際にラジオとかでやってみたいけど、30分のものを作るとしても、本気でやったらやっぱり1ヶ月ぐらいはかかっちゃうんですよ。前に、和ラダイスガラージとかをやっている永田一直のレーベルで、ラジオプログラムみたいなことをした海賊CDみたいなものを作ったことがあるんですけど、それも2ヶ月ぐらいかかったので。でも、自分でやって、自分で聴いてもおもしろいなと思いましたね。

リミックスと格闘ミックスルールの関係

──今回のリミックスに関しては、「体 Magnet Mix」であればメロウな感じ、「絶体絶命 Magnet Mix」であればダンサブルな感じという、それぞれの原曲を聴いたときに受ける第一印象をより強調させつつ、元の形とはまた違うものになっているなと思いました。

バンドの人たちなので、その演奏の生音を自分のスタイルに置き換えるだけでも、だいぶ新鮮さはあるんだろうなと思ったんですね。

──リミックスにはいろいろな手法がありますけど、先ずは置き換えることを考えていたと。

90年代にリミックスブームがあったんですが、たとえば、ループさせたり、バラバラに解体して全然違うような形にしたり、なんていうか、テクノのインストのトラックをやっている人が、自分のリングに引き摺り込んで料理するような感じもあって(笑)。でも、僕は昔からわりとボーカルは全部残していたし、曲の形もなんとなく残してましたね。当時はそういう人のほうが少なかったんですよ。

──ボーカルを残したいというこだわりってどんな理由だったんです?

そこは、ボクサーをプロレスのリングに引き摺り込んで、腕挫(十字固)をきめても、向こうからしてみたら「いや、ボクシングを見たいのに!」という話ですよ(笑)。ボーカルをなくすことも、やったことがないわけじゃないけど、基本的には、ボクシングが好きな人もプロレスが好きな人も納得できるような試合をするのがいいのかなって、ずっと思ってます。

──あくまでもそこに観客がいる状態というか、ショーではありたいという感じもあるんですか。

それはもちろん。だって聴いてもらうためにやるわけですから。たとえば、無人島に何を持っていきますか?っていう話がよくありますけど、僕、無人島に行って音楽を作るかと言ったら、作らないです(笑)。聴く人がいないから。あとね、子供の頃に、父親から「人に聴かせるためにやっているんでしょ?」って言われて、口論になったことがあったんですよ。「人が聴かないんじゃ意味ないでしょ?」って。

──それが大前提にあるんですね。

自分が聴くだけのために何かをすることもなくはないですけど、でもまあ、活動としてやっているものに関しては、人に聴いてもらうのが大前提です。

──各曲についてですが、「体 Magnet Mix」には泡のような音が入っていて、同曲が収録されていたアルバム『深夜枠』のジャケットを思い出すところもありました。

曲を聴いたときに水のイメージがあったんですよ。音的にはわりとドライな感じじゃないですか。そこにもうちょっと湿っぽさというか、水の中で動きにくい感じみたいなものを出すと、それが引き立つかなと思って。そこはもう単純に僕のイメージの話ですけどね。

──「絶体絶命 Magnet Mix」は、アウトロを原曲よりも伸ばしていますよね。

オリジナル(アルバム『スポーツ』収録)を聴くと、次の曲にちょっとカットアップでミックスされているような感じになっているんですよね。アルバムで通して聴く分にはあの感じはありだけど、これは一曲で聴くことになりますから、いきなりブチっと切れてしまうと、まだ食べているのに「すみません、閉店です」みたいになっちゃうのもちょっとなと思って(笑)。

──なるほど。ちなみに「Magnet Mix」とタイトルにされたのは?

それはカセットの磁石(磁気テープ)からつけてます。磁気系の音って独特な癖がありますよね。カセットテープは高音域がちょっと落ちたり、ちょっと粘っこい感じになったり。あとはノイズが絶対に付き物で、ずっとスーーーという音が入ったりとか。

──あと、今回のリミックスはカセットテープという媒体が、リミックスするにあたってヒントになったところはありますか?

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